荒船山(あらふねやま)は、その名の通り、荒波に浮かぶ船に見える山です。 山の形は「台形」で、かなり特異な形をしています。 コースは良く整備されている上に難所もほぼ無い上、ゴールデンウィーク期には雪はほぼ無いため、安心して登れる山でもあります。 何を隠そう、私はこの山は既に二回目です。 一度目が快晴で楽しめたので、二匹目のドジョウを狙ったわけです。

まず、登山計画についてですが、東京から日帰りはまず無理です。 私は一泊二日を前提として、荒船山の上の避難小屋で一泊する計画にしています。 あるいは南牧村側の宿に泊まり、翌日一泊、と言う方はけっこういらっしゃるようです。 避難小屋を使う人は滅多にいませんが、私たちはテントを持っていきました。 今回はそれが大正解だったわけですが、それはあとからお伝えします。

西上州の山はどの山も見た目にごつごつしていて、しかも民家の裏庭から登山道があるようなところが多いそうです。 岩場が多い山としては妙義山(みょうぎさん)が有名ですね。 荒船山は日帰り登山を楽しむ方が多いようで、麓の宿に一泊して、翌日も別の山に日帰り登山をしてから帰宅される方もいらっしゃいました。

東京からのアプローチは高崎線で高崎まで、そこからは上信電鉄で下仁田まで向かいます。 ネギとコンニャクイモの名産地です。 朝七時過ぎに上野に集合しても、下仁田到着は十二時前後になるので気をつけた方がよいでしょう。

私が採ったルートは相沢登山口から二時間で避難小屋に至り、翌日星尾に下るルートです。 三ツ瀬まで町営バスで入り、そこから徒歩40分で相沢登山口に着きます。 三ツ瀬のバス停からすこし入ったところで、珍しい動物に歓迎を受けました。 おそらく、キジの雄と雌だと思います。

テントを背負って炎天下の舗装道路を延々40分。 途中で荒船山の全体像が拝めます。 何度見ても、不思議な形をしています。 いい加減ばててきた頃に相沢の集落に到着。 私は登山道入り口まではサンダルで行くことが多いので、ここで履き替えました。

登りはじめこそかなり緩やかな道ですが、少しするとやや急な坂になり、オーバーペースで登っていた私たちは簡単にばてました(笑)。 登山道は基本的に林の中を通る道で、展望はあまり利きません。 途中に水場がありますが、きれいかどうかよくわからないので、水は下仁田駅当たりで組んでおくべきでしょう。 トモ岩が大きく見えるところまで来ればあとはもう一息、階段道を登れば船の甲板に到着です。

三時頃の到着で、何人か他の登山客の方がいらっしゃいます。 昨年の時は誰もいなくて、自分が山の主になった気分(悪)でしたが。

トモ岩からの眺めはなかなかで、百五十度ほど、何も遮るものが無く、かなり向こうまで見渡せます。 しかし、けっこう疲れていたため、写真を撮るのを忘れてしまうと言う大失態...。 ともかく、夕食の準備をするべく、小屋の方へ戻ります。 すると、中年のおじさんがすでに荷物を広げて、小屋の前のテーブルに陣取っているのです。

ガスコンロなどを持っているので、やけに準備がいいなあ、と思っていたら、おじさんが話しかけてきました。

おじさん
「おい、どっからきたんだ?」
「あ、どうも。相沢の方から登って来ました」
おじさん
「はーん、で、今日はこれからどこ行くんだ?」
「いえ、今日はこの避難小屋に泊まろうと思っているんですけど」
おじさん
「え、ここに泊まんの??」

おじさんがこの小屋の状況を見て私たちを心配してくれているのかと思う、あくまで善人な私。

「ええ、まあ、一応テントもありますけど、ここに泊まれるなら」
おじさん
「あー、なんだなんだ、テント持ってんのか。じゃあ俺はここに泊まるからよ、テントはもうちょっと向こうに張れや

は? 善人モードでここまで来ていたため、どういう意味か即座に判断できない私。

「あ、えーっと、だから、小屋に泊まれるなら泊まりたいと思っているんですけど」
おじさん
「いや、だからよ、今晩俺がここに泊まるから、お前達のテントはもうちょっと向こうに張れって言ってんだよ」

はあ?? 何それ? と言うか、ここって避難小屋でしょ? 避難小屋って誰でも使えるんじゃないの?? 混乱は極まります。 おっさんの横暴はまだ続く。

おっさん
「でも気をつけろよ、ここら、熊が出るからよ」
「えっ、熊が出るんですか!?」
おっさん
「そうだよ、この辺の熊は冬眠しねえしよ。だから俺ゃあこの辺見回ってるんだよ。登山口の所に書いてあったろ?」
「(かなりうろたえながら)え、ええ、確かに書いてありましたけど」

てゆーかおっさん、あんた熊が出るのに、小屋使わせないでテントで寝ろってのか。 鬼かい!!

おっさん
「俺はこいつ(そばの犬を指さしながら)が用心棒でいるからよ、安心だけどな。ガハハハハ
「・・・・・(あきれてものも言えん)」
おっさん
「そうそう、あっちに水場あるけどな、あまり近づくと熊出るぞ」

と言うかそんなのもはやどうでもいいです。 このオヤジは熊が出るから見回っているのに、観光客をわざわざ危険なところに追いやるのです。 どういう立場でここに来ているのか知りませんが、自分が来た意味が分かっているんでしょうか?

もちろんその日の晩はオヤジのネタで持ちきりです。 最後に極めつけ。 トイレ(小屋の所にあります)に行ったら、オヤジの用心棒のバカ犬、ワンワンわんわんほえやがります。 当然オヤジが飛び出してきて言うには、

オヤジ
「こら、トイレ行くなら犬に挨拶しなきゃダメだろうが!」

さて、翌朝はあまり近寄りたくなかったのですが、トイレは使いたいので仕方ありません。 オヤジに会いますが、すでにこちらのことなど忘れています。 こちらもあまり相手をせず、とっとと出発。

いつも思いますが、晴れた早朝というのは気持ちがいいものです。 雑炊を食べてエネルギーも十分!

歩き始めから、道は真っ平ら。 ここが山頂であることなど、全く忘れてしまいます。 1:25000地形図を見ると笑ってしまうのですが、ほとんど等高線を横断しません。 分岐地点に荷物を下ろして少し行くと、まもなく今回の山行の最高地点、行塚山(塚の字は実際はつくりの部分が「冢」です)に到着です。

最高地点と言っても、あまり広い山頂ではないし、展望もお世辞にも良いとは言えません。 標識をよく見ると、「行塚山(荒船山)」とあります。 昭文社の山と高原地図には、荒船山山頂は先ほどまで歩いていた真っ平らな当たりにあるのですが、どちらが本当なんでしょうか。 まあ、得てして両方とも本当、と言うのが実際の所だったりすることが多いわけですが。

ここからはずっと下り道です。 星尾峠をまもなく通り過ぎ、道は沢沿いに進みます。 道はあまり人が通ってない感じですが、特に危険個所はありません。 威怒牟畿(いぬむき)不動への分岐からはやや平坦な道が続きます。 さらにもう一つ分岐を経て、まもなく威怒牟畿不動に着きます。

威怒牟畿不動は絶壁を流れる滝の裏にあります。 案内板と東屋が滝の下にあるので、私たちはとりあえずそこに大きい荷物をおき、水と雨具を持って立岩へ往復することにしました。 立岩までは高低差もそこそこあります。 登りが一番きついのはまず登りはじめから少ししたジグザグ登りでしょうか。 ここを超えれば、登りはぐっと緩くなります。 ただ、痩せ尾根が続く上に、一部鎖場があるので、ちょっと気をつけた方がいいかもしれません。

立岩の山頂(西立岩)からは今日歩いてきた荒船山からの行程を眺め渡すことができます。 なにやら出っ張りのある辺りが荒船山でしょうか。 フルーツ缶などを食べてエネルギーも補充し、一気に下りに入りました。

再び威怒牟畿不動へ戻り、昼食にしました。 昼食はホットドック! ホットドックは材料も比較的持つものが多いので、山でも楽しめます。 火器を使うのが難点と言えば難点ですが、今回のようなゆっくりの山行にはちょうどよいくらいかもしれません。

ここから先はひたすら下りです。 と言っても、急な下りはほとんどなく、下りやすい、なだらかな下りが続いていきます。 舗装道路が現れれば、もうそこは線の滝です。 落差もなかなかある、雰囲気のよい滝です。 後はひたすら舗装道路を歩いて羽根沢のバス停に着きました。 今回の登山で何が一番つらかったかというと、ここの舗装道路歩きでした(笑)。

帰る前に、駅前の八百屋兼雑貨屋で、ネギの苗を買いました。 それを育てたものが下の写真です。 ネギ坊主がちょうどできています。