Jpn 海図の色々 MSA



本項は 「海上保安庁パーフェクトガイド」掲載用として整理したものをもとに掲載しており、更新なき場合、2005年3月のデータにもとずいています。
また、掲載出版内容と異なる部分も多々あります。
新規作成日:2005年5月7日以前を最終更新日としているものは、準備資料のまま内容の更新がないことを示しています。


海図の色々

海図は、広義には海の地図全般(海上保安庁刊行の航海用海図・特殊図・海の基本図、国土地理院刊行の沿岸海域地形図・沿岸海域土地条件図、地質調査所刊行の海洋地質図等)を、狭義には海上保安庁刊行の航海用海図をいう。
英語の map も chart もいづれも地図のことをいうが、chart は特に海図や航空図の場合に使われることが多い。

海上保安庁刊行の海の地図
航海用海図 (nautical chart)
船舶の安全航海に必要なさまざまな情報(水深、浅瀬、灯台等の航路標識、タワーなどの陸上物標等)を記載した地図。
近海を航行するときに使用するため、船位が陸地の目標物により、決定できるように示した図で、縮尺は、30万の1〜100万分の1。

海岸図
沿岸域を航行するときに使用するため、海岸付近の地形、水深、目標物など詳しく示した図で、縮尺は、5万分の1〜30万分の1。

港泊図
港湾に入港、出港、停泊するときに使用するため、港湾の水深、地形、施設などの状況を詳しく示した図で、縮尺は、3千分の1〜5万分の1。

特殊図 (miscellaneous chart)
(航海用海図以外の)航海の際に参考にする地図で、潮流図、測地系変換図、大圏図などがありる。

海の基本図 (basic map of the sea)
海洋開発等の基礎となる情報を表示した地図で、海底の地形を等深線で表した海底地形図、海底下の地質構造を表した海底地質構造図のほか、地磁気異常図、重力異常図などがありる。


海上保安庁刊行の海の地図類は、各地の水路図誌販売所で購入することができる。



航海用海図

航海用海図はその名のとおり、船舶が航海をするときに使用する海図で、海岸線、低潮線、水深、底質(泥、砂、岩など)、航路標識(灯台、ブイなど)、陸上の著目標(タワー、煙突、橋など)、コンパス図、領海の基線・限界線等が記載されている。
航海用海図の水深値は、船舶の安全のために、海面がこれ以上下がらない面(基本水準面)からの深さで表示される。 海岸線は、海面がもっとも上った時の陸と海の境界線で、低潮線は、海面がもっとも上った時の陸と海の境界線である。低潮線は領海の幅を測定する際の「通常の基線」にもなる。

航海用海図は、通常、メルカトル図法で作成される。メルカトル図法は正角円筒図法とも呼ばれるとおり、海図上の出発地点から目的地点までを直線で結んだときに読みとれる経線との交角がそのまま船の針路の方位角として使えるため、メルカトル図法は航海者にとって非常に便利な投影法なのである。

海と陸の状況は日時とともに少しずつ変わってゆく。例えば、新しく橋や灯台ができたり、防波堤が沖合まで延長されたり、魚礁が設置されたり様々な変化が生する。このような場合、海図の内容もそのように修正する必要がある。このために、毎週発行される小冊子の水路通報には、海図の記載内容の修正情報が文章または補正図として載せられる。航海用海図の使用者はこれらの情報をもとに海図を常に最新の状態に維持して使用していく。また最近は、インターネットのホームページにおいても水路通報が提供されている。

我が国の航海用海図は、これまで「日本測地系」に基づく経緯度グリッドを使用して作成されていたが、2002年4月から、世界測地系の一つでありGPSの測地系でもあるWGS-84に基づく経緯度グリッドを使用した世界測地系海図になり、海図番号の頭にWが付いている。

航海用海図の中には国際水路機関(IHO)の"国際海図仕様"に則って作製された国際海図(INT chart)もある。国際海図は各担当国が分担刊行しているもので、縮尺1/1000万シリーズと1/350万シリーズの小縮尺海図シリーズと、より大縮尺で沿岸航行・国際貿易港への入出港に適した中・大縮尺シリーズがある。国際海図は発行国で付与した海図番号と世界共通の国際番号(マゼンタ:紫色)が印刷されている。我が国は、日本近海の国際海図の作製を担当している。


・総図(General Chart)
きわめて広大な海域を収めたもので、1/400万よりも小縮尺のものをいう。
本海図は長途の航海に使用され、主として航海計画立案用に用いられる。
・航洋図(Sailing Chart)
長途の航海に用いられ、沖合の水深、主要灯台の位置等が図示してあり、縮尺1/100万〜1/400万分のものをいう。
日本近海は1/120万、1/250万で包含している。
・航海図(General Chart of Coast)
陸地を視界に保って航行する場合に使用され、船位は陸上物標により決定できるように表現されている。
縮尺は1/30万〜1/100万です。日本領土沿岸は、縮尺1/50万の図でカバーされている。
・海岸図(Coast Chart)
沿岸航海に使用するもので、その沿岸の地形が細部にわたって詳しく描かれてあり、縮尺は1/5万〜1/30万の図。
日本沿岸は、ほとんど1/20万または1/25万の図でカバーされている。
・港泊図(Harbour Plan)
縮尺は1/5万より大縮尺で、港湾、泊地、錨地、漁港、水道そして瀬戸のような小区域を詳細に描いた海図。


その他、通常の海図のほかには以下のようなロラン海図及び漁業用海図がある。

1) ロラン海図はロランC受信機で船の位置を測りながら航海する場合につかわれるもので、ロランC信号の到着時間差曲線(位置の線)が加刷された海図。海図番号の頭にLCが付いている。

2) 漁業用海図は、1999年に締結された新しい「日韓漁業協定」及び2000年に締結された「日中漁業協定」の暫定水域の境界線等を加刷したもので、日韓・日中の漁業者に便利な海図。海図番号の頭にFが付いています。

従来の紙の航海用海図に加えて、近年はディスプレイ上にこれらの情報を表示させることのできる電子海図表示装置(ECDIS)も使用されるようになってきた。この電子海図表示装置に航海用電子海図(ENC)とよばれる海図データを読み込ませ、更に、GPSなどの船位測定装置からの位置情報を付け加えることにより、常に自船の位置を中心とした海図情報がディスプレイに表示できます。航海用電子海図の内容を最新の情報に維持するために電子水路通報も刊行されている。


特殊図

特殊図

海図の一種としての特殊図は水路特殊図ともいい、航海の「参考用」に使われる地図。

現在海上保安庁から刊行されている特殊図には、大圏航法図、パイロットチャート、海流図、潮流図、位置記入用図、漁具定置箇所一覧図、磁気図、海図図式、天測位置決定用図、測地系変換図、演習区域一覧図、ろかい船等灯火表示海域一覧図などがある。それぞれの特殊図の概要は次の通り。

大圏航法図(Gnomonic Chart for Facilitating Great Circle Sailing)
大圏航路(地球上の2地点間の最短航路)を求めるための地図。心射図法(大圏図法)で描かれている。
この図上で求めた位置を海図上に転記することにより、2地点間の航路上の針路が求められ、次の3図を刊行している。
第6006号 北太平洋大圏航法図
第6008号 インド洋大圏航法図
第6013号 南太平洋大圏航法図

パイロットチャート
安全な航海に必要な気象・海象情報を網羅した地図で、風・波浪・海流・海氷・等温線・台風の経路・主要港間の大圏航路等が掲載されている。

海流図(Current Chart)
海流の統計的な状況を月別に表示した地図で、海流の流向・速さ・安定度・表面等温線・海氷の限界線等が描かれている。

潮流図(TidalStream Chart)
潮流・潮汐曲線及び潮流の春秋大潮期における平均の流向・流速を時刻別に表示した図集である。
東京湾、大阪湾をはじめ潮流の激しい海峡・瀬戸・水道・灘などの主要海域について13版を刊行している。
潮流の卓越する海域ごとに、その区域の潮流の状況を矢符で表示した地図。転流時または高・低潮時をもとにして1時間ごとの流向・流速が表示されており、潮汐表と併用して使用される。

位置記入用図
緯線および経線とコンパス図を記載した地図。洋上で自船の位置を求めたり・記入するために使用される。

漁具定置箇所一覧図
沿岸に設置された定置網(定置漁業)、養殖場(区画漁業)および「つきいそ」(共同漁業の一種)の漁具の設置許可区域と時期を表示した地図。

磁気図
地磁気の成分を表示した地図で、磁針編差図、伏角図、全磁力図などがある。

海図図式
航海用海図に使用される記号、略語等を網羅したもの。国際水路機関の技術決議の勧告内容に則った形で編集されている。

天測位置決定用図
船舶が大洋において天測(天体観測)によって自船の位置を求めるときに使用される地図。任意の地点におけるメルカトル図法の経緯度線を容易に作図できる。

測地系変換図
GPS受信機等によって得られる世界測地系に基づいた経緯度値を日本測地系に基づいた経緯度値に変換する量を表示した地図。

演習区域一覧図
自衛隊や米軍による演習区域、時期、演習内容等を表示した地図。

ろかい船等灯火表示海域一覧図
帆船やろかい船が夜間に灯火を表示する義務のある海域を表示したもので、海上交通安全法の適用海域全域(東京湾、伊勢湾および瀬戸内海の一部)である。

海の基本図

海の基本図は、航海以外の海洋における様々な活動(海洋開発、海洋環境保全など)に必要な情報を盛り込んだ地図。
海上保安庁から刊行されているものでは、沿岸の海の基本図、大陸棚の海の基本図、大洋の海の基本図、大洋水深図、その他の海底地形図がある。

沿岸の海の基本図は海底地形図と海底地質構造図とがあって、縮尺は1/5万が中心になっている。(ごく一部に、縮尺1/1万、1/2万の海底地形図もある。)海底地形図は海面がこれ以上下がらない面(基本水準面)からの深さを表す等深線で海底地形を表現している。この点は航海用海図と同だが、国土地理院から刊行されている沿岸海域地形図などの等深線が東京湾平均海面からの深さで表示されているのとは大きく異なる点である。地質構造図は音波探査によって把握された海底下の地質と地質構造を記載している。沿岸の海の基本図はランベルト正角円錐図法によって作られている。

大陸棚の海の基本図は縮尺が1/20万、1/50万及び1/100万のものがある。縮尺 1/20万の大陸棚の海の基本図は海底地形図、海底地質構造図、フリーエア重力異常図、地磁気全磁力図の4種類の図で構成されている。縮尺 1/50万の大陸棚の海の基本図は海底地形図と、海底地質構造・地磁気全磁力・重力異常を一枚の地図上に表現した図の2種類からなっている。これらの1/20万及び1/50万の基本図の投影には、ランベルト正角円錐図法が使われている。1/100万の大陸棚の海の基本図は、海底地形図、海底地質構造図、地磁気異常図、重力異常図の4種類の図で構成されており、地図投影にはメルカトル図法が使われている。

大洋の海の基本図は、日本近海の小縮尺(縮尺1/300万)の海底地形図と地磁気異常図、重力異常図のシリーズですが、現在、刊行されているのは 6図のみである。

大洋水深図は、国際水路機関の加盟国によって編集された大洋水深総図(GEBCO)の原図(縮尺1/100万)を基として刊行されている海底地形図で、現在は、1/100万の大陸棚の海の基本図の整備に伴って、少しずつ廃版されつつある。

その他の海底地形図として、縮尺1/800万の浮き彫り式の海底地形図が刊行されている。

航空図(Aeronautical Chart)

海上保安庁では国際民間航空機関(International Civil Aviation Organization: ICAO)の基準に基づいた「1/100万国際航空図」及びICAO基準に準じた「1/100万国内航空図」、「1/50万国内航空図」も刊行している。
航空図には、設定された航空路、航空施設、航空目標および航法上必要な諸事項が記載されています。

電子海図

従来の航海用海図をコンピュータによって表示するためにデジタル化された海図。
デジタル化のフォーマットは、国際水路機関 (International Hydrographic Organization:IHO)によって標準化され、そのフォーマット基準が定められている。
デジタル化の方法には海図を画像として作成する「ラスター方式」と、海図の座標(緯度、経度)を数値化して作成する「ベクター方式」がある。
ベクター方式は「航海用電子海図(Electronic Navigational Chart:ENC)」と呼ばれ、日本ではベクター方式によって作成しています。
一方ラスター方式の海図は、「ラスター航海用電子海図(Raster Navigational Charts: RNC)」と呼ばれ、英国、米国等から提供されている。

海図の最新維持

海図の内容は船舶の安全確保のために常に最新の状態に維持されています。
海図の最新情報は、毎週発行される水路通報により利用者に提供されています。
水路通報に添付される海図の一部分を補正図といいます。
補正図は利用者が対応する海図に張り込んで海図を最新に維持するためのものです。
また、海上保安庁は、定期的に海図を最新の内容に維持して改版を行っています。





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新規作成日:2005年5月7日/最終更新日:2004年12月6日