外国艦艇の親善訪問

海軍の任務のひとつとして、諸外国への親善訪問があります。
これは、乗員の訓練及び、海外への見聞を広め、また、国家の代表としての役割もあります。

かつては、ショウ・ザ・フラッグ、砲艦外交といって、ペリーの黒船のように、強大な軍事力(兵器)としての艦艇を見せ付ける事により、威圧する意味合いもありましたが、最近は、友好関係の元での親善訪問が一般的です。

親善訪問は、実施する側としては、諸外国を訪問する事により、乗組員らが、文化の違いを理解し、国際感覚を身に付ける事も、大きな目的です。
逆に、我々の側は、日本国内に居ながらにして、外国文化に触れる、またとない機会となっています。

ここでは、外国艦艇が来日する場合を取り上げ、どのような流れとなっているかを説明します。
海上自衛隊が、親善訪問に行った場合は、この逆のパターンになります。

親善訪問する艦艇は
・練習艦などの候補生の練習艦隊(2001.10チリ、2001.1韓国、1999.2仏)
・訓練を兼ねた遠洋航海。(2000.9英仏)
・観艦式参加の為の親善艦隊(2002.10各国)
・帆船パレード参加の為の親善艦隊(1997各国)
・返礼の為の親善艦隊(2000.6トルコ)
・友好表示の為の親善艦隊(1997.6ロシア)
・共同訓練の為の艦隊(2001.9ロシア)
・文化広報(2001.9イタリア)
・100周年記念などの親善艦隊(1997チリ)
・国連軍としての米軍表敬訪問(2000.6タイ)
などのケースがあります。
また、単艦の場合も有れば、複数の艦隊の場合もあります。

親善訪問は、通常、一方の国が実施した場合、翌年には、返礼として、相手国が実施します。
また、毎年、或いは定期的に実施される場合もあります。
逆に、国際関係の悪化に伴い、中止、見送りされる場合もあります。

親善訪問は、通り掛かりに立ち寄るという事ではなく、あらかじめ本国で立案され、外交ルート(外務省)を通じて、我が国と交渉が行われ、関係各所と調整の上、決定されます。
艦艇の訪問は、「軍艦」として国家を代表して行われる為、両国の最高レベルの外交対応がなされます。
その実施は、海軍艦艇である事から、対応する組織として、海上自衛隊があたります。
また、沿岸警備隊などの場合、海上保安庁があたります。(アメリカ、ロシア、インド)

外国艦艇の訪日に伴い、海上自衛隊は、ホストシップを派遣し、各種支援にあたるとともに、交歓行事を実施します。
ホストシップは、訪問艦艇が寄港中、隣接して碇泊し、各種支援を行うほか、乗組員の交歓など、シーマンシップにもとづく交流が図られます。

ホストシップは、来日する艦にあわせ、同等のものが選ばれます。
また、指揮官も、同様です。
・フリゲイト単艦(艦長:中佐)の場合は、護衛艦1隻(艦長:2等海佐)
・敷設艦(艦長:中佐)の場合は、敷設艦や掃海母艦1隻(艦長:2等海佐)
・練習艦隊(指揮官:少将)の場合は、護衛艦2隻(指揮官:海将補)
などです。

我が国への寄港は、単一の港の場合もあれば、長崎、大阪、東京など、巡航する場合もあり、艦隊を複数に分割し、複数の港に分けて寄港する場合もあります。
東京は、何といっても首都である為、訪問意義として、最高のものがあります。
ただ、核保有国や、紛争を抱える場合、警備上の事情などの問題もあります。
この場合、海上自衛隊の基地(横須賀、呉、佐世保、舞鶴など)に回される場合があります。
また、国交上の理由から、我が国への訪問という形ではなく、国連軍の表敬訪問として、米軍基地(横須賀、佐世保など)へ、寄港する場合もあります。
また、100年前の遭難救助を記念して、慰霊などに、地方の港を訪れる場合もあります。

入港に際して、礼砲交換が行われる場合があります。
入港日、または、前日に行われます。
礼砲は、訪問国(我が国日本)への国旗(日の丸)と元首(天皇陛下)の旗章に対しそれぞれ21発、行われます。
これに対し、海上自衛隊の観音崎の礼砲台から、礼砲が行われます。

国際慣例としては、入港後、艦艇を公式に訪問する高官に対して、定められた数の礼砲を行うのを例としています。しかし、我が国の場合、礼砲を辞退しているようです。
礼砲は専用の砲(練習艦装備または、艦艇に仮装備された砲)から空砲を発射するもので、礼砲の数は国際慣行に基づいています。

受礼者 礼砲数
国旗、元首(家族)21発
首相、特命全権大使19発
閣僚、陸海空軍大将17発
特命全権公使、陸海空軍中将15発
臨時代理大使、陸海空軍少将13発
臨時代理公使、総領事、陸海空軍准将11発
領事7発

礼砲は、起源としては、太古の昔の砲は、連続射撃ができない事から、入港前に発砲する事により、入港時の攻撃をしない意思表示として行われています。

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入港当日は、ホストシップに先導され、入港します。
場合により、ホストシップは、前日に入港したりします。

東京港入港の場合、前日に観音崎を通過して、礼砲交換(横須賀礼砲台)を行い、東京港外で仮泊。翌朝、抜錨し、入港することもあります。
通常、10:00入港で、朝、港外で、パイロット(水先人)が乗艦し、9:00沖スタート。9:00の入港信号により、入港してきます。
7:00に観音崎を通過して、礼砲交換(横須賀礼砲台)を行い、10:00に入港する事もあります。

入港時、来日艦艇側では、乗員が艦上に整列し、登舷礼をします。
これに対し、ホストシップや、海上自衛隊要員も、可能な限り、整列して応えます。

入港接岸時、岸壁では、歓迎のため、音楽隊の演奏が行われます。
来日艦艇に、音楽隊が乗艦している場合、交互に演奏されたりします。


岸壁での入港作業は、海上自衛隊の隊員が綱取りなど、支援します。

繋留作業が終わり、舷梯がかけられ、入港作業が完了すると、入港歓迎式典が始まります。

来日艦艇の前に乗組員、陸側に歓迎側が、整列します。
また、海上自衛隊の音楽隊も並びます。

来日艦艇側の参列者は、指揮官、艦長、乗組員代表、候補生(練習艦隊の場合)、駐在武官など、数十名となります。
歓迎側は、海上自衛隊(指揮官、隊員、音楽隊、渉外班)、港湾局(役席、花束嬢、他)、大使館(大使、公使、通訳)、支援団体、在日市民(韓国民団など)、など、数十名となります。
進行は、港湾局関係者か、海上自衛隊が行います。

式次第は概ね、以下のようです。
・港湾局(局長、課長、代理など) 歓迎挨拶
・海上自衛隊(指揮官) 歓迎挨拶
最初の挨拶程度は来日艦艇の母国語で、後は通訳が訳します。外国語に覚えのある人の場合は、かなりの部分を外国語で話す方もおられます。
・関係者 挨拶
大使、支援団体代表、在日市民代表、など。
・花束贈呈
東京の場合、以前は、ミス東京、ミス東京ポートなどが行っていましたが、最近は、東京ポートガイド、港湾局職員が行うことが多くなりました。
贈呈先は、指揮官、艦長、乗組員代表、候補生代表 などです。
・記念品交換
港湾局から記念盾、和風人形、酒樽など。
来日艦艇側から、記念盾など。
・来日艦艇側指揮官 答礼挨拶
来日の目的、両国関係、由来、などに付いて、語られます。
「コンニチハ」程度は日本語で初められ、後は英語、母国語で、通訳が日本語で訳します。

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その後、関係者が乗艦します。
大使が乗艦する際、儀丈兵らにより、栄誉礼が行われます。

艦上記者会見
指揮官、艦長らにより、報道陣に対して、艦上記者会見が行われる事があります。
通常、これに続いて、艦内公開があります。

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乗組員が乗艦、下艦する際、舷門において、艦旗(国旗)に対して、敬礼が行われます。
これは、海軍軍人が国家に忠誠を誓う証です。
自衛官が、訪問する場合も、同様にされます。

艦旗(国旗)掲揚
通常、8:00に、艦首旗、艦旗(国旗)が掲揚されます。

艦旗(国旗)降納
通常、日没時に、艦首旗、艦旗(国旗)が降納されます。
この時、銃を持った乗組員による、捧げ銃(ささげつつ)の敬礼が実施される事があります。
当直士官と、銃を持った兵が数名、ラッパ兵などの部隊となる事があります。
捧げ銃(ささげつつ)の敬礼の場合、定時直前に、号令一下、銃剣を装着し、捧げ銃(ささげつつ)の敬礼、その間、国旗降納。号令一下、銃剣を外し整列。解散となります。
簡易な場合は、当直士官と、従兵数名が敬礼する中で、行われます。


在泊中の行事として、
・昼食会
・レセプション
・電燈艦飾、イルミネーション
・交歓行事
などが行われます。

レセプションは、ウェルカムパーティー、返礼パーティー、フェアウェルパーティー、などがあり、開催日には、イルミネーションが行われます。
ウェルカムパーティーは、海上自衛隊主催で、入港当日、または翌日に、ホストシップ艦上で開催されます。
返礼パーティーは、来日艦艇側主催で、ウェルカムパーティー翌日以降に、艦上で開催されます。
フェアウェルパーティーは、返礼パーティーとして実施される場合もあります。
艦上の、格納庫、ヘリ甲板、後部デッキなど、比較的広いスペースを確保できる部分で実施されます。
形式は立食です。
始めに、簡単な挨拶があり、後は、歓談、飲食です。
ドリンクサービスと、立食ビッフェ形式で、適当に飲んで食べて、歓談し、親交を深めます。
参加者は、各国大使、駐在武官、海上自衛隊幹部、両国艦艇乗組員代表、など約100名程度です。
服装は、一般に、インフォーマルで、軍人は制服、その他はスーツ、民族衣装という所です。

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昼食会は、関係者、両国指揮官、大使、友好国関係者などを交えて、寄港中、適宜実施されます。

電燈艦飾(イルミネーション)は、日没後(或いは20:00からなど)実施されます。
海上自衛隊は、レセプション開催を飾る意味合いが多いですが、来日艦艇側は、訪問自体を彩るため、在泊中連日実施される事が多いです。
海上自衛隊では、電燈艦飾と称しています。
諸外国では、海上自衛隊同様の、電燈艦飾(イルミネーション)と、フランスなどの様に、ライトアップする所と、種類があります。
また、来日艦艇側の設備の都合で、実施しないこともあり、この場合、海上自衛隊も、合わせる形で、実施しません。(2001.9ロシア)

交歓行事としては
・艦艇相互訪問
両国艦艇乗組員による相手艦艇の訪問、見学。
・スポーツ交歓行事
両国艦艇乗組員による相互行事
・音楽演奏
一般市民に対して行われる、来日艦艇側乗組員による親善行事
海上自衛隊などとの共同開催の場合もある。
・武道等展示
一般市民に対して行われる、来日艦艇側乗組員による親善行事

その他の来日艦艇側の行事として
・式典
日本国旗掲揚式典(1997、2001チリ海軍)
・参拝、献花
外人(来日艦艇側としては同朋)墓地、神社仏閣、平和記念碑など。
・関係官庁訪問
政府機関(外務省、防衛庁など)、市役所、警察署、消防署、など。
・休養
・訪問
戦艦三笠(1999ロシア)、長崎平和資料館(2001.9ロシア)など、各種施設の見学なども実施されます。
・観光等
観光バスなどにより、近隣施設を巡ります。
また、乗員個人グループにより、上陸、市内見物、買物など

などが実施されます。

艦船ファン向けの行事として
・一般公開
・グッズ販売
があります。

一般公開は、甲板上のみの場合もあれば、艦橋、その他艦内も見学できる場合があります。
パネルや展示物などによる各種展示により、文化を紹介したりする事もあります。
また、兵器産業のセールスを兼ねた、展示が行われている場合もあります。
グッズ販売は、商品の有無、外貨交換の都合、税関等の圧力、などにより、実施されない場合もあります。
まれに、ワインなど輸出産業の広報展示を兼ねたブースがあります。(2000.4ベルギー)

艦艇という兵器である以上、国家機密に類する部分があり、撮影禁止などの措置が取られる事があります。
これは、世界情勢や当事国により色々で、必ずしも、我々の認識と一致しないので、注意が必要です。
親善訪問を汚さない為、即射殺という事はないでしょうが、フィルム没収程度は当然の結果です。
艦上は、あくまで、来日艦艇側の国家そのものであり、治外法権の地域です。


出港は、定時に、離岸、出港します。
ホストシップ先導により、出港します。

岸壁で、見送りの音楽隊の演奏が実施される場合もあります。

出港時刻は、その後の予定(親善訓練など)により、決まります。
10:00の場合が多いですが、05:00の時や、23:00のこともあります。
また、台風避難により、予定を早めて出港する事もあります。
台風避難は、必ずしも寄港地に直撃する場合のみならず、その後の航路の影響も勘案されます。


出港後、両国艦艇により、親善訓練が行われる事があります。

両国艦隊の状況により
・通信
手旗信号、発光信号、無線通信、など
・運動
戦術運動訓練、近接運動訓練、など
・捜索・救難訓練
ヘリを使った捜索救難
消火放水
・クロスデッキ
相互の搭載ヘリにより、相手国艦への離発着

などが、行われます。
実施前に、双方指揮官により、事前の調整、勉強会が実施されています。


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新規作成日:2003年4月22日/最終更新日:2003年4月26日