自衛艦の艦内編制

編成と編制

艦内編制を考える場合、まず編制と編成の意味の違いをはっきりさせねばなるまい。
編制とは任務遂行に適応するように部隊の指揮監督関係および任務分担を系統立てること、またはこのようにして系統立てられた部隊の態様であって、部隊編成の基準として定型化されたものを言う。
これに対して編成は、部隊を集団として区分すること、または集団として区分されたものをいい、法令によって定められたものを固有編成という。
この違いを具体的に言えば、護衛艦むらさめは僚艦と共に第一護衛隊に編成され、その内部は艦長、副長、砲雷科、船務科、航海科、飛行科、機関科、補給科、衛生科により編制されているという事である。


科と所掌業務

艦内編制における各科は、それぞれの所掌に応じた業務がある。
従って、艦艇の種類によっては艦内編制も異なる。
例えば潜水艦に飛行科があるわけがなく、逆に敷設科などは機雷戦艦艇にしかないわけだ。
また同じ呼称の科であっても、艦によって所掌業務は違って来る。
例えば船務科は情報や通信などを扱うが、航空機搭載艦では航空管制が加わり、潜水艦では航空管制が無い代わりに水測が加わる。
このように科と所掌業務は対象となる艦船の性格によって、必ずしも同じとは限らない。

個々の艦艇に関する艦内編制については、海上自衛隊の「自衛艦の艦内編制等に関する訓令」により定められている。


各科の業務内容

各科の業務内容の例。(主として護衛艦の場合)

砲雷科
基本的に艦の各種武器を所掌している。
砲熕兵器やミサイル等の運用の他にもサーチライトの照射なども行うという。
また砲雷科というくらいであるから、対潜作戦で重要な水測についても扱う。
さらに艦を動かす上で不可欠な錨や索、短艇、クレーンの操作なども出入港の際の甲板作業も砲雷科である。
各種兵器を所掌する他、甲板作業なども第一分隊の仕事。ソナーの取り扱いもここが行う。
砲雷長の下には砲術長、砲術士、水雷長、水雷士、武器整備長、という士官がいる。
科員の職種は、射撃員、射撃管制員、武器整備員、水測員、魚雷員、ミサイル員、運用員(掌帆)などが配置されている

船務科
情報・電測・船体消磁・通信・暗号・航空管制・電子機器整備等が基本的な業務内容。
船務科はレーダーや無線通信など扱う。ヘリコプターの航空管制士もここである。
所掌業務が多岐に渡るので士官の数も多く、それぞれの士官が担当する業務を行う。
船務長の下には船務士・通信士・航空管制士・電整士の士官がいる。
船務士の担当は情報・電測・船体消磁。
通信士の担当は名前の通り通信・暗号であるが、航海中は艦橋にあって航海長を補佐する。
航空管制士は航空管制を行う。
電整士は艦内の電子機器の整備に関することを行う。ただし、ヘリコプターの電子機器は飛行科の専門の整備士が行う。
科員の職種は、航海管制員、機械通信員、電測員、電信員、電子整備員、などが配置されている。

航海科
名前の通り航海・信号・見張・操舵に関することを扱う。気象観測や信号、見張もここの担当。
航海長の下には航海士・気象士の士官がいる。
科員の職種は、航海員、信号員、気象員、などが配置されている。

機関科
エンジン・補機・電気などの運用管理を担当するのはもちろん、ダメージコントロールもここが中心となり行う。
機関長の下に機関士・応急長・応急士と呼ばれる士官がいる。
ダメージコントロールを担当するのは応急長。応急長の職務は平時・戦闘時を通じて船体のの破損や火災などに対して応急の対処をすることで被害を限局し、艦の運動と安全を確保するところにある。潜水作業や機械工作も応急長の所掌らしい。
主機や電気を扱うのはもちろん、非常時の応急を担当するのもこの部署。
応急長はダメジコントロールを所掌、応急員、工作員を指揮する。
科員の職種は、汽蒸員(ボイラー員)、機械員、補機員、電気員、汽機員、内燃員、ガスタービン員、応急員、工作員(北朝鮮の工作員とは違って物造りの工作)、などが配置されている。

補給科
旧海軍で主計科と呼ばれていた部署。俸給などの経費・物品の取扱・給食・福利厚生・庶務・文書・人事事務などを扱う。食事を作るのも補給科。
補給長の下に補給士がいる。
科員の職種は、補給員、経理員、給養員(調理等)、庶務員、などが配置されている。

衛生科
乗組員の健康管理や保健衛生・診療ならびに衛生機材の取扱を担当する。
衛生長と言う人が配員されることになっているが、長期航海の場合を除いて、実際には補給長などが兼務し、衛生課員が一人くらいしかいないような事もあるらしい。
衛生員、などが配置されている。

飛行科
ヘリコプターの運用・整備などを担当する。
ただ艦内編制でも飛行科はいささか特殊な存在で、例えば第121航空隊は館山航空基地の部隊だが、横須賀の第1護衛隊群のヘリコプター部隊でもある。
従って、護衛艦に飛来すると第121航空隊として飛行長の下につくことになる。
その為、飛行長は、自分の艦と飛来して来た部隊の面倒も見なければならない。
整備員は場合によってはヘリコプターとともに陸上に派遣され、整備の支援を行うこともあるようだが、同時に艦上で大掛かりな整備を行うような場合は陸上基地からも整備員の支援などを受けることもある。
飛行科には飛行長の下に飛行士、整備長、整備士などの士官がいる。
航空発動機整備員、航空電機計器整備員、航空機体整備員、航空電子整備員、航空武器整備員、航空救命整備員、発着艦員、航空管制員、などが配置されている。


  護衛艦 潜水艦 輸送艦 補給艦 掃海艇 掃海母艦 海洋観測艦 砕氷艦 潜水艦救難艦
第一分隊 砲雷科                
水雷科                
第二分隊 船務科
航海科
第三分隊 機関科
第四分隊 補給科
衛生科  
第五分隊 観測科                
運用科        
掃海科              
潜水科                
飛行科              
第五分隊は調査中


科の編成は、大雑把に言って、戦闘配置を考慮して編成したものと言っていいだろう。


掌××士

階級が准尉の士官を言い、海曹時代から培った術科技量や経験をフルに活かすとともに、士官室とCPO室とのコミュニケイションの増進、昇任、昇給等隊員の魅力化対策でもある。
例えば、掌砲術士は、海曹時代、射撃員又は射管員であり、砲術長、砲術士の下にあって、術科の細部を指導すると共に、分隊長の下、自己の経験を活かして分隊先任海曹や班長にも極めの細かい服務指導のあり方等を教えたりする。
従って、艦によって准尉の職種は異なるが、掌水雷士、掌運用士、掌船務士、掌航海士、掌電整士、掌通信士、掌機関士、掌応急士、掌補給士等と呼称されている。
通常、まず間違いなく、彼らはCPO室勤務を経験しており、艦の重要な位置を占めている。
但し、初めての士官室勤務(窮屈と思っている人にとって)に戸惑っている人も中にはいるようで、人によって異なるが、できるだけ准尉昇任後も同じ艦の勤務になるほうがベターのようである。
もっとも、窮屈な感じのする士官室の雰囲気を解消するのが、艦長の大きな仕事の一つでもある。


部署

部署とは、戦闘および業務の処理を行うための手続きや、人員配置を定めたものを言う。
旧海軍の部署は「軍艦部署標準」などにより詳細に定められていたが、海上自衛隊の部署も同様で、大きく分けて三つに大別される。
つまり戦闘部署、緊急部署、作業部署である。

戦闘部署はさらにその内容により幾つかに分類される。
海上自衛隊の性格上、これは当然のことであろう。
まず会敵が予想される場合に、臨戦準備などを行う合戦準備部署、狭い意味での戦闘部署、長期の作戦行動において、ふいの敵襲にも対処できる艦内哨戒部署などが基本的なものである。
これ以外にも航空戦当部署や短艇武装部署など幾つかの部署があるらしい。
これら戦闘部署は指揮系統が明確にされており、各員の就く場所など編制については細かく規定されているようである。

緊急部署もまた、幾つかの部署に分類される。
大きなものでは防火部署、防水部署、応急操舵部署、溺者救助部署などがある。

作業部署は、戦闘・緊急両部署に関する作業をはじめ、この他の主要な作業を円滑に行うためのものである。
やはり幾つもの部署があり出入港部署や航海保安部署などが代表的なものである。

尚、同じ人であっても、その時の部署によって決められている配置は異なる。
砲雷科が、砲などを操作するのは戦闘部署のときであって、同じ人でも作業部署のときは錨や索の操作をする。
日常生活の言葉で表現すれば、部署とは「局面毎の担当」となるかもしれない。


分隊

護衛艦の艦内編制は、仕事の編制である科と生活の編制である分隊とに分かれている。
分隊は科を集合した、クラス(組)のようなものである。

第一分隊
砲雷科からなる。
分隊長はその先任士官(通常砲雷長、但し砲雷長が副長兼務の場合は次席士官)が兼務する。
第二分隊
船務科と航海科からなる。
通常、先任である船務長が分隊長を兼務する。

第三分隊
機関科からなる。
分隊長は、機関長が兼務。

第四分隊
補給科と衛生科からなる。
補給長が分隊長を兼務。
通常、士官は補給長1人

第五分隊
航空機を搭載している護衛艦では、第五分隊は飛行科となる。
なお潜水母艦などでは潜水科が第五分隊に相当し、潜水、DSRVに分かれる。
恐らく、第五分隊には、艦種により異なるものと思われる。


大雑把に言って、分隊長、分隊士は分隊員の人事、服務、厚生、健康面や上陸から休暇まで諸々の面倒を見る。
この手助けをするのが分隊先任海曹であり、各分隊に一人配置される。
各分隊は班を以って構成、班長が班員の服務指導等にあたる。
班長クラスは概ね2曹から古手の3曹であるが、勿論、1曹の場合もある。
艦内は約20の班を擁している。

3分隊を例にとれば、
31班(第1機械室勤務員)
32班(第2機械室勤務員) 
33班(第1ボイラー室勤務員)
34班(第2ボイラー室勤務員)
35班(電気員)
36班(応急、工作員)
などとなる。

分隊員をその階級、職種等を勘案して右舷、左舷に2分し、いずれの舷でも同等の能力を持つ態勢を維持しており、各分隊、各科、各班とも半舷上陸時、支障の無いように配慮されている。


艦の乗組員は技術者の集団である。
職人気質を強く持っているが、余りこれが強いと艦内の融和、団結に支障が出る場合もある。
分隊、班の編成は、これらの問題を緩和する一施策でもあるのではないだろうか。
艦は、艦長だけでは何もできず、また、CPOだけでも全てを処理することは不可能で、上下一体となって初めて艦が機能するものである。


CPO室

CPO室の構成は、副長の指導の下に艦内の規律の維持にあたる海曹の先任者6名を警衛海曹に艦長が指定、各分隊先任4名と甲板海曹(通常、親甲板と呼称され、掌帆長が就く事が多い)計11名で構成しおり、各分隊間の問題処理、艦内の規律維持、リクレーションや艦内競技、その他諸行事の実施等を通じての艦の融和、団結の促進、士気の高揚等に尽力する。



先任伍長

2003.4.1より、海上自衛隊では、先任伍長制度を発足させた。
海曹士の規律と風紀を維持し、上級海曹の活動を推進する事を目的としている。
各部隊と艦艇に各1名で、合計340名が任命された。


参考
海上自衛隊の職種




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新規作成日:2003年4月23日/最終更新日:2003年4月25日