中国の武装警察官による瀋陽総領事館侵入事件

5/8在中国瀋陽総領事館で、中国の武装警察官による侵入事件が発生した。
朝鮮民主主義人民共和国と思われる5名の男女が、在中国瀋陽の日本総領事館に駆け込んだ。
これに対し、中国警察当局が、彼らを取り押さえ連行した。

しかし、この際、朝鮮民主主義人民共和国と思われる5名は、日本総領事館内に侵入逃走し、これに中国警察当局が追跡、連行している。

敷地は、日本総領事館であり、国際法(ウイーン条約)により、治外法権である。
中国の法律は適用されないし、我が国の法律の支配下である。
そこへ、例え警備上の事由と言えども、中国警察当局の者が、無断で侵入し、中国の警察権を行使した事は、我が国への侵略にも等しい。

中国外務省の孔泉報道局長は、9日の記者会見で「領事関係に関するウィーン条約の規定に沿ったものだ」と述べ、同条約違反として抗議している日本の見解に真っ向から反論した。
孔局長は「ウィーン条約の規定によれば、大使館や総領事館の受け入れ国はあらゆる適当な手段を使って大使館・領事館が侵入や損害を受けないように保護する特殊な責任を負っている」と指摘した上で「世界的な反テロリズムという情勢下において、中国側の警察官が日本の総領事館に不法侵入した身分不明の人間を連行したことは総領事館の人員の安全を守ろうとする考えによるものだ」と述べ、「ウィーン条約の関連規定に合致する」と強調した。
孔局長はさらに「中国側が勝手に他国の領土に侵入したという言い方は成立しない」と述べ、保護のための総領事館への立ち入りは認められるとの見解を示した。

孔泉報道局長の主張は、一見正しくも聞こえる。
しかし、これは、我が国の主権を尊重した上の事である。
仮にも敷地内に侵入した者を、我が国外交官の要求を無視してまで連行する事は、ウィーン条約の規定を完全に逸脱している。
もし、これを許容すれば、我が国の主権より、中国当局の警察権が優先し、捜査権さえ及ぶと言う事である。
犯人潜入の恐れがあるとして、侵入捜査できるという事は、事前了解無くしてありえまい。

9日の朝刊には、敷地内に残された女の子と、敷地内へ駆け込む男性、門前でもみ合う、女性と警察官等の映像が生々しく報道された。
そしてテレビでは、一連の映像が全世界に報道されている。
真っ先に駆け込む男性2名、警官ともみ合いながら駆け込もうとする女性、敷地内に残された女の子、やがて総領事館員が門前に現れる。
しかし、動きの鈍い女性を後に、我先に駆け込む男性の姿も美しくない。
が、館内で、助けを求めに行ったのかもしれない。
これに対し、門前に現れた職員は、様子を静観しているだけにしか見られない。
もし、我が国の主権を代表する意識があれば、この段階で、厳しく処置すべきであろう。

当時、総領事館員は、前日に発生した飛行機事故に対応していて、手薄だったわけで、本件の対応が鈍かった事は、皮肉というか・・・。
きっと、「なんで(能力のない)うちに来るかなぁ、隣のアメリカ領事館の方が対応良いのになぁ」とぼやいている事だろう。
実際問題、国家権力も、外交手腕も遥かに高度なアメリカの方が、我が国より頼り甲斐がある事は否めない。亡命希望者の最大の失敗は、頼る先を誤ったといえよう。日米隣接していると言うから、更に気の毒である。
だいたい、サポーターも、成功させるなら、日本ルートはこのように最悪なのに・・・。どうして期待するかなぁ。日本国民ですら信頼していないのに。杉浦千畝の伝記でも読んだのかなぁ。
が、我が国の主権の上では、そのような事はテーマではあるまい。

しかし、当初の職員からの報告では、中国警察当局が、総領事館敷地へ立ち入ったという報告はなされていない。
場所は、中国領土のなかに位地している。
が、外交特権として、我が国の主権の及ぶ敷地である。
国内で、隣の猫が紛れ込んだのとは違うのである。
このあたりの認識の薄さが、諸外国をして、我が国の外交能力の無さを露呈する所以ではなかろうか。

外交と言うのは、国と国の信義の問題である。
中国政府が、我が国の総領事館を、在外公館と認めていないような暴挙に出るという事は、とんでもない事である。
外交規程無視の国は、野蛮な二等国に過ぎない。
そしてまた、舐められたままでは、国の威信など存在しない。

かつて、東郷平八郎(当時 大佐)が、巡洋艦浪速艦長として、ハワイ沖にいた時、日本人囚人が艦上にあがり、引渡を求める現地当局との間で外交問題が発生した。
巡洋艦と言えば、れっきとした軍艦ではあるが、仮にかの地で戦闘となれば、1隻では如何ともし難い。
しかし、軍艦は、本国を代表するものであり、治外法権が存在する。
結局、日本政府の指示により、東郷平八郎艦長は、日本領事館に引き渡す事になったが、治外法権たる艦上を侵された結果ではない。

今回、飛行機事故とも重なり、外交上の対応は、後手に回った。
我が国の外交は、別に今に始まったトロさではないが、舐められきった状態を払拭すべき良い機会である。
総領事館には戦闘力は備わっていないから、実力を排除するのは困難だというのは、単に脅しに屈するのみである。

仮に、この数名が日本人であれば、どのような対応がされたであろうか。
情けなくも、基本的にかわらないであろう。
日本の外交は、人権を守る事は出来そうにない。

ま、近いうち、大使、領事に、犯罪の嫌疑がかけられ、外国当局から身柄拘束されると楽しいだろう。
外交特権の主張がどのようにまかり通るか、楽しみである。
その意味では、中国は、我が国外交への、強力な実践教育をしてくれているのかもしれない。

冷静に考えると・・・
中国警察の、門周辺での拘束そのものは、正当性があるだろう。
亡命は、そもそも一般法規外の事件である。事前予約しているわけではないし。
この時期、得体の知れない乱入者を阻止するのは、警備上正統であろう。
周囲は、北朝鮮の事情を中心に言っているので、人道的と言う言い方をしているが、背中に負っているのが爆弾でない証拠はない。
敷地に数歩踏み入ったかどうかは、緊急対処でありえる。
日本も以前に、在日中国大使館でやっている。この時はもっと奥まで入っている。
さて、その後、中に入った男性2人をどうやって連行したのであろうか。
入口の映像から、中国警察当局は、敷地外で勝負したいと言う事が見えるだろう。
敷地内が外交特権というのは、門前の警官は十分理解していると考えられる。
その意味で、不当侵入と言えども、このあと2人を館内へ追い掛けるのは、まずいだろう。
従って、何らかの了解は取ったと考えられる。
(ゴミ拾いのおじさんとも見える職員が)帽子を拾った時の、人の位置関係を見れば、この先、警官がどうやって入って行くと考えられようか。
中国政府として、日本の外交官の程度を低く見ているとしても(実際レベルは低いのだが)、一現場警察官にとっては、自国の階級制度の最上位と対等の位置づけの外交館である。
制止という動作があれば、上司と対策を取るのではなかろうか。
もし、こういった事件で国家関係がこじれ、現場警察官の対応が中国政府から承認されない場合、現場職員の左遷、投獄はおろか、処刑など何でもない国家である。
その意味では、現場職員の強行という事は考えづらい。

また、中国政府は、今日に至っても「(本人は北朝鮮と主張しているが)身元の確認は出来ていない」と言う。
鮮やかだ。
一般に、この手の身元確認は、本人の主張と、言語その他より、簡単に確認される。
これを、かように発表する事こそ、中国政府、外交のしたたかさであり、状況を完全に掌握し、的確な対処の現われである。
中国4000年の歴史は、我が紀元2660年など、まだまだ雛だ。
これに対して、我が国は、脚の引っ張り合い、責任の擦り合い、メンツ優先、何にも解決になっていない。

さて、この件に対して、我が国は、何らかの関与を求めている。
その一つに、我が国による、身元確認がある。
しかし、冷静に考えておかなければならない。
我が国に身柄が引き渡されて、身元確認し、亡命と言う事になれば、我が国の主権としてよろしかろう。
しかし、身柄の引渡がないまま、中国が「身元確認できなかった」として、出国させようとしている状況である。
ここで、のーてんきな我が国が、身元確認して「北朝鮮」と言ったらどういう事になるのだろうか。「北朝鮮」と明確になったら、中国の国内法で、北朝鮮へ送還する必要が有る。これを第三国へとすれば、また中国の立場がなくなる。そんな経緯は容認されまい。

サンケイ新聞の社説?欄では、「外務省の失態を追求するよりも、国家としての主権をきちんと主張すべき」と言っている。
一般に、サンケイ新聞は、どっかの某誌よりも正論が多いが、今回の物に付いては、議論を必要とする。
なぜなら、現場や外務省が余りにもお粗末なのである。
子供の不始末は親が責任を取らなければなるまい。親がどんな名士であっても、それに免じて帳消しになる事はあるまい。
現場の不手際をろくに掌握できず、構成された報告のみにより、国家が主権を主張すれば、これはかつての旧日本軍による暴走を、政府が追認するのと同じではなかろうか。

日本の主権を主張するのは大切だ。
しかし、当時の現場で、それが出来ていない以上、後で言っても通用しない部分も有る。

まして、今回、それを通すには、中国の顔を潰さなければなるまい。
中国に、顔を潰してくれるほどの寛大さもなければ、我が国に、それを主張する能力もなかろう。
今回は、貴重な教訓として、臥薪嘗胆、外交機能を抜本的に見直し、カツを入れて襟を正し、次回に備える事こそ肝要かと考える。


波紋

今回の5名の親族の談話として「日本人は自尊心を持って欲しい」と言わしめた。
韓国のメディアも、日本は主権侵害に対して、毅然とした態度で臨めという。
ちと、へんだ。
日本に謝罪外交を求め、主権の制限とも思える問題を醸し出しているのは、朝鮮半島ではなかったろうか。


2002.5.23 外務省に問い合わせてみた。
・敷地内への立ち入り自体、在外公館の長(この場合総領事)の了解が要る。
・警備上の事由の場合としても、本来不可侵である。
・今回の場合、日本政府は、立ち入りを承認していない。
・過去の在日中国大使館での警官立ち入り事件は、中国の事後承認がある。
・例え、相当の危険があっとしても、最終的に当該国が承認しなければ、不可侵権の方が優先する。
などということであった。
まあ、それなりの見解が整理されたということだ。
しかし、これは、当の現場で毅然と処理されていなければ意味が無い。
また、ウイーン条約での在外公館と、当該国の警備との関係も、大きな問題だ。
はっきり言明すべきであろう。
また、副領事は、ヒラだという。
総領事、主席領事、領事、副領事の陣で、外務省内で言うと、課長補佐程度だという。
現場で副領事には、立ち入り許可を出す効力はない。「会社でパートのおばさんが会社を代表していないのと同じだ」という。
ただ、決定的な違いは、副領事は、外交官としての、国家を代表する任務があるといことだ。パートのおばさんと同じではない事だ。
・日本政府として、例え館内で、大使が殺害されようとも、在外公館の長の了解が無ければ、警備当局の進入を許さない。
大使館員の生命よりも、国家主権が優先する。
これを言明できず、ウジウジしているところが、わが国外交の情けない実態ではなかろうか。

緊急避難的な立ち入り、例えば銃を乱射しつつの侵入など、常識的に当然の場合の侵入に付いては、事後承諾もやむなきという。
ここでまた、ぼろが出ているのだが。
「常識的に当然の場合の侵入に付いては、事後承諾もやむなきもの」という所で、危険度の想定は誰がどのように判断するのか。
子供でもプラスチック爆弾程度なら、持ち込めるぞ。
そして、そのあいまいな部分が有れば、今回のように、見解の相違が生れる。

日本政府として、例え館内で、大使が殺害されようとも、在外公館の長の了解が無ければ、警備当局の進入を許さない。
大使館員の生命よりも、国家主権が優先する。
これを言明できず、ウジウジしているところが、わが国外交の情けない実態ではなかろうか。

「現場で強い拒否をしなかったとしても、了解の意思表示をしたわけではないと」言い訳をしているのだが・・・。
結果的に、その態度で我が国の主権が侵されているとすれば、その責任は、侵した相手国より、無能な当該領事館にあるのではなかろうか。
玄関の前に金品を並べておいて、持ち去る人を黙って見送り、3日経って許諾なく持ち去ったのは泥棒だと騒いだとしよう。
確かに人の物を黙って持ち去れば泥棒だろう。
しかし、持ち去る所を何も言わず、黙って見送っていれば、それが子供でなければ、落ち度というより笑い者ではなかろうか。
外交というのは、単に正論を訴えているだけでは能がない。
違う見解の国家同士の駆け引きである。
わざわざ付け込まれる隙を与えて何の外交であろうか。
どうも我が国外交は、国民の血税で私腹を肥やす事しか考えていない様だ。



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新規作成日:2002年5月9日/最終更新日:2002年5月23日