イージス艦の能力とシビリアンコントロール

テロ対策特別措置法に基づき自衛隊のイージス艦やP3C哨戒機をアラビア海などに派遣する可能性について
2002.11.7サンケイ新聞によると、
石破茂防衛庁長官は5日の衆院安全保障委員会で「イージス艦ははるか遠くから(接近してくる不審船か)いかなる船であるか解析する能力が格段に優れ、乗組員の負担が軽減される」と述べて、イージス艦派遣への期待を表明した。
とある。

今に始まった話ではないが、いい加減な話がなんの問題もなくまかり通っている。

イージス艦は、防空システムイージスを搭載している事がポイントである。
このシステムは、1セット800億円程度と極めて高価であるが、従来の防空システムより、数倍高性能である。
イージス艦は高性能ではあるが、それは防空能力についてである。
少なくとも、掃海能力は「0」であるし、LSTのような車両揚陸能力は持ちあわせていない。ミサイル艇のような高速でもなければ、飛行機や宇宙戦艦大和のように空を飛べるわけでもない。
あまっさえ、東大入試に合格できる程度の「能力」があるわけではない。
「そんな事当たり前だ、分野が違う」と言われる事だろう。
そうなのだ。分野が違うのだ。
防空能力は、水上艦船に対する、哨戒能力とは、別なのである。

水上艦船に対する哨戒能力は、主として水上レーダーであり、あるいは航空機である。
水上レーダーであれば、今時の海上自衛隊の護衛艦、どれでも変わらない。
航空機であれば、搭載ヘリの運用能力であるから、ヘリを搭載しない現在のイージス艦より、一般のヘリコプター搭載護衛艦の方が勝っている。
もちろん、対水上哨戒能力が同じなら、他の分野(例えば防空)に秀でている艦の方が、よりポイントが高い事は言うまでもない。
しかし、それなら論法が違うだろう。
「イージス艦は水上哨戒能力が優れている」のではなく、「イージス艦は水上哨戒能力は他の艦と同一だが、加えて防空能力が優れている」のではなかろうか。

国会での答弁は、実際は国会議員や国務大臣が発言するのだが、すべてを本人の知識で応答するわけではない。
大半は、秘書や事務局などが、草案を用意する。

防衛庁長官であれば、その装備について熟知していてもらいたいものだが、確かに難しい面もあろう。
されば、草案を作る事務官がしっかりしていてもらわなければ困る。
「イージス艦と騒がれているくらいだから」とか「建造費が2倍だから」、何でも出来るのだろうと言う、お粗末な認識ではまいってしまう。

シビリアンコントロール(文民統制)と言うのは、別に、制服の自衛官に対して、内局が威張って良いと言うシロモノではない。
旧軍のような、軍人の独断専行を、高度な政治力が制御すると言うものである。
その為には、その装備と実力に対して、十分な認識をしていなければならない。

まあ、実際問題、今回の程度の発言に対して、他の国会議員から、事実誤認である指摘も追求もなかったと言うから、国会の水準もその程度であり、しいては日本国民の水準もその程度だと言う、情けない話に陥って行くのではあるのだが・・・。



また、「乗組員の負担が軽減される」と言うのもおかしな話だ。
哨戒、見張りと言うのは、結局は乗組員の目である。
他国の艦艇において、もし交戦中であれば、未確認の相手に対して、警告を発し、応じなければ、肉眼で視認できないような遠距離で、ミサイルによって撃破することもあるだろう。それはあくまで戦闘である。
情報収集目的で現場海域にいる場合、こんな事が出来るわけがない。
そもそも、我が国の艦艇は、他国の艦艇とは異なり、武器使用について極めて制約が多いのだ。
かつて、アメリカ海軍のイージス艦コールがテロにより大破した。
この時も「あのイージス艦でさえ被害を被る」と言う論法がまかり通ったが、イージスそのものは、テロには無力だと言っても過言ではない。
その意味では、もし、撃破に成功した場合、そのインパクトが大きい事にこそ、注目すべきであろう。
テロ側としては、反撃に極めて制約の多い海上自衛隊艦艇は狙いやすい目標だし、イージス艦と言う「世界最強」と評される艦艇を撃破する事の戦果は、魅力的なものだろう。あまっさえ、アメリカに次ぐ経済、アメリカの筆頭同盟国日本と言うポイントも加算される。
「乗組員の負担が軽減される」と言うよりは、むしろ目標となる可能性が増大する分、危険度は増すとも言える。


国会や報道においては、「世間はシロウトだからこの程度の適当な解釈で構わない」論法ではなく、正しい認識と議論であってもらいたいものだ。



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新規作成日:2002年11月7日/最終更新日:2002年11月7日