海上自衛隊のイージス護衛艦は米空母の護衛艦なのか

海上自衛隊のイージス護衛艦は、最新の防空能力を備えており、これだけの能力を持つ艦は、アメリカを除けば、つい先ごろ整備が始まったスペイン程度しかない。

イージスシステムは、もともとはアメリカの空母機動部隊を、ソ連の同時多数によるミサイル攻撃より守り抜くために開発された。
その高性能がゆえに、システムの輸出は、極めて限定された同盟国に限られている。

海上自衛隊への引渡しは、アメリカの空母機動部隊を護衛するためだといわれるのは、こういった事情だろう。

しかしだ、冷静に考えたい。
アメリカ海軍は、世界屈指の海軍である。
空母機動部隊を構成するに十分な艦艇は、自前で装備している。

もちろん、有事の際には、護衛は多いほうが良いかもしれない。
しかし、その護衛を当初から前提とした作戦はないだろう。

イージスシステムそのものはアメリカのものでも、搭載する艦の設計は独自のものであり、なにより乗員は日本語を話し英語に弱い日本人である。
もちろん、指揮命令体系も異なる。

そんな、ある意味扱いがたいものは、共同作戦でこそあれ、隷下の護衛艦とはなりえないのである。

そもそも、国が違う、指揮命令体系が異なるということは、アメリカの自由にはならないということなのである。
そして、極端な話、敵にもなりうるのだ。

適切ではないかもしれないが一例を挙げよう。
やくざの出入りで、A組とB組が抗争していたとする。
C組は、A組とよしみを通じていた。
ここで、A組の資金で、C組に武器をそろえさせたとしよう。
直後、C組は、より条件の良いB組の門を叩いた。
A組の資金でそろえられた武器は、A組に向かってくるのである。
義理を重んずる任侠の世界ではこのようなことはありえないのかもしれないが、欧米のギャングでは往々にしてあるだろう。

国家間の関係も、いわば一時的なもので、かつての同盟国と、幾多の戦火を交えたことだろうか。
そしてまた、戦火を交えた国といえども、友好同盟関係にはなりえるのである。
わが国の例でも、日英同盟というものがあったが、太平洋戦争では敵国となっている。
太平洋戦争を戦ったアメリカとは、日米安保条約を結んでいる。

イギリスの実例として、兵器輸出先としてアルゼンチンがあった。
当時の最新鋭艦シェフィールド級を2隻輸出していた。
が、フォークランド(マルビナス)諸島をめぐる領有関係から両国は戦火を交えた。
そしてイギリスは、輸出したシェフィールド級を2隻と同型の艦の誤認を防ぐため、煙突に派手な黒線を書き入れている。
味方のうちは何の問題のないものであっても、矛先が変わるとこれほど危険なものはないのである。

すなわち、護衛と思っていた味方が、至近距離から撃ってくるという恐ろしいことさえあるわけだ。

もちろんこれらはあくまで例であり、現在のわが国がアメリカと事を構えることは考えられない。
しかし、そのことは、アメリカに全面的に協力することは意味していないのだ。

現在の指揮命令体系を維持するのであれば、仮に米空母の直衛のごとく航行していても、米空母から、防空の「依頼」を受けて、これを精査し、或いは上級司令部の裁可を仰ぎ、場合によっては国会の承認を求め、ているうちに、事は終わっている。
むしろ、自艦の防空射撃すらままならない護衛艦を守るために、米艦が働かなければならない局面もあるかもしれない。
これは「足てまとい」とも言うだろう。

さて、そもそも護衛とは何であろうか。

アメリカの空母を取り巻いた広報写真を目にするたび、「このように米空母を護衛している」とわめく向きがある。
この写真は、あくまで撮影用の集合写真なのだ。

そもそも艦艇というのは、洋上を航行するのである。
鉄道のように、定められた軌道上を走行しているのであれば、側面の接触はありえないのだが、そうは行かない。
近接して航行するというのは、実に神経を使うのだ。
先頭の艦が冗談で舵を切ってみよう。そのときに接触しないまでも、このときにできる波で後続艦の航行が乱れ、しいては接触するであろう。
プラモデルを並べるのとは違うのである。

船で外洋に出たことがある人はわかると思うが、他の船の姿は容易には見ることができない。
展示訓練や観艦式の場合、一緒に行動する艦艇が近くに見えるが、これは別である。
このときでも、これ以外の船を見ることはまれであろう。
すなわち、それだけ海は広く、一箇所に集中していたら仕事にならないのである。
広範囲に展開するのは、全体としての作戦であり、個々の護衛でもあるが、独立した任務でもある。

そもそも海上自衛隊の護衛艦は、海上交通路の保護なのである。
広範囲のシーレーンを守らなければならない。
そのためには、米空母という特定の護衛にかまっているほど手は空いていないのである。


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新規作成日:2003年12月30日/最終更新日:2003年12月30日