2010.3.26 韓国海軍哨戒艦「天安」沈没事件

2010.3.26 9:45ごろ、黄海(ソヘ/西海)ペンリョン島西南方海上で警備中だった韓国海軍哨戒艦「天安」の艦尾側で原因不明の爆発があり、浸水沈没した。
2010.3.29現在、救難活動と、事故原因調査が進められている。
位置が南北朝鮮国境付近であり、わが国での関心は低いが。。。
救難活動や事故原因調査は難航しており、憶測も生んでいる。

発表等では、スクリュー付近、あるいは艦尾側での爆発とされている。
船体は二つに折れているようで、相当な破壊力を伴ったものと推測される。

爆発原因としては、攻撃、事故、などさまざまなものが考えられる。

直前には、韓国海軍艦艇も北の身元未詳の船舶に発砲したと伝えられ、ペンリョン島の住民たちも夜11時から大砲の射撃音が15分間続いたという。

目下のところ、北朝鮮政府等の行動は平穏であり、北朝鮮の攻撃による可能性は薄いとされている。

ただ、南北朝鮮の境界線付近であり、その海域の領有が南北で対立していることもある海域の特性上、機雷等による爆発も考えられる。
この海域は、韓国が黄海上の軍事境界線と位置付ける北方限界線(NLL)が引かれている。

艦内爆発の可能性としては。。。
弾火薬庫の爆発が、破壊力としては一番考えられる。
ただ、最近の弾火薬は、密閉度が高く、かつての火薬庫に火をつけるようなわけには行かない。
艦上に搭載されているミサイルの場合、その位置で爆発が発生しても、今回ほどの船体への破壊的影響は乏しいと思われる。
その昔、大日本帝国海軍の酸素魚雷の攻撃によって、巡洋艦が轟沈する戦果はあったが、魚雷の場合、高速で船体舷側に衝突することによって船体外板を突き破って艦内で爆発する場合のほか、舷側で爆発した場合でも、外側の水圧によって破壊力は船体側に集中するため、船体に対する破壊力は大きい。
これに対してミサイルは、艦上や船体上部に対する破壊力であって、破壊力の多くは大気側に拡散してしまう傾向がある。
機関爆発は。。。
その昔の蒸気機関の場合、ボイラーの缶が爆発する事故は多かった。この場合、水蒸気の圧力による破壊力は大きく、船体を損傷するケースも多い。
対して本艦はCODOGであり、ディーゼルとガスタービンを混載している。
ガスタービンはジェットエンジンそのものであり、大破した場合はむしろ大火災となる。
ディーゼル機関は構造上鉄の塊であり、シリンダひとつが飛んだところで、船体を破壊するケースは少ないと思われる。
この観点からは、機関の破壊を原因とするケースは少ないと考えられる。


2010.3.31「疲労破壊」の可能性が新たに浮上したようだ。
救助に当たっている救助隊員の証言から、二つに割れた哨戒艦の断面が滑らかな一直線であることが明らかになったという。
金属疲労による破断のほか、溶接部分の崩壊など、確かに、爆発によるめくれの発生しない破壊は存在する。
ただ、一般に、しかも艦艇であるなら、30年程度の耐用には耐える設計であるべきで、設計、製造上の欠陥も疑われる。
わが国の造船所の建造の船舶でも、戦後昭和の時代に「かりふぉるにあ丸」「ぼりばあ丸」の溶接破断による船体が折れる事故があり、最近でも、韓国造船所建造の船舶に同様の事故が発生している。
関係者の証言によると、普段から水漏れがあり、3回ほど修理に出されたことが判明している。

ただ、このような形で船体が折れたとしても、他の水密性が十分に保たれていたなら、直ちに沈没ということはなく、他の隔壁自体も連鎖崩壊するほど脆かったものなのか、戦闘任務中の艦艇として当然の隔壁閉鎖を怠っていたなど、造船や海軍など、海洋国の基盤を揺るがす事態ではありそうだ。


2010.4.13 韓国軍当局による調査では、切断面付近の甲板の鉄板だけでなく、船内通路の鉄板などもほぼ上向きに曲がっていることが確認されたようだ。
煙突などが外れた天安の中央部は、甲板の鉄板(11.6ミリ)が上向きに曲がった状態で裂けており、甲板の下の元士・上士(上級曹長・曹長に相当)の食堂や機関操縦室の床も甲板近くまで押し上げられていることが判明した。船尾の甲板の下にある船内通路の鉄板も上向きに曲がっており、船体の下で上向きの大きな衝撃があったことを示している。また天安の船尾は、船体の左舷が36メートル、右舷が30メートルあり、右から左へ斜めに切断されたことも判明した。
しかし、内部爆発か外部爆発なのかを最終的に把握するには、船体切断面底部の鉄板が内側に曲がっているのか、外側に曲がっているのかを確認する必要がある。内部爆発であれば、底部の鉄板は外側(下向き)になり、外部衝撃であれば、底部の鉄板は内側(上向き)になる。


2010.4.15 船体の後部が引き上げられた。
聯合ニュースでは、海上に引き上げた船体の損傷具合から「右側外部から強い衝撃を受けたと見られる」と報じた。
映像からは、断面の状況はわからないが、煙突が失われている以外、比較的損傷が見られないことが気になる。
SSMなどは、ラックに載せてあるだけといっても過言ではないから、相当量の炸薬が爆発しうる魚雷や機雷の、本来の威力であれば、もう少し損傷が見られると考えられるわけだが。。。


発表されているいくつかの写真からは、確かに、右舷側の爆発で、左舷側にめくれている部分が確認はできる。


(2010.4.17記)
外部爆発が有力とされ、韓国国内では、北の魚雷攻撃説が有力視されつつある。
が、気になる点は。。。

引き上げの際、破断面を隠すべくネットを張っていたのはなぜか。
一時期の調査で、破断面の直線性がいわれていたのだが。。。


地震計によって、TNT火薬約200kg程度の直撃による爆発を観測したといわれているが。。。
韓国の地震観測って、そこまでの精度はあるのだろうか。。。


北の攻撃なら、意図は?、手段は?
もともと双方が領有を主張していた海域であり、領海侵犯を理由に攻撃するなら国際的にも正当性があり、むしろ華々しい戦果に大喜びするものだが。。。
魚雷攻撃とするなら、しかし、見事命中している。
当時の海洋条件は荒れ模様といわれており、潜水艦なら潜望鏡深度、半潜水艇ならきわめて小型で、そういった条件で、このような戦果が上がるものだろうか。


(2010.4.24記)
北の攻撃説が有力視されてきているのだが。。。
確かに、闇討ちのような形は卑怯ではある。
が。。。
そもそも、南北朝鮮は、朝鮮戦争が停戦状態というだけで、交戦国である。
すなわち、いつ戦闘状態が再開されてもおかしくないわけで、そのための警備である。
されば攻撃を受ける可能性は想定されているべきであって「まったく気がつかなかった」というのは、武人としては間抜けな部類でほめられたものではない。
この点は、日本の自衛隊のように、実弾の実装自体が制限される様な状況とは大きく異なる。
真珠湾攻撃を、卑怯なだまし討ちと称したアメリカをして、太平洋艦隊司令官のキンメル大将は責任を取らされているのである。


(2010.5.19記)
沈没原因は、北朝鮮による魚雷攻撃と調査結果が出たようだ。
まあ、それは、国家としての発表のひとつだろう。
が、ここに至るまでに紆余曲折もあり、釈然としない部分も残る。
破断面の問題や、ドイツ製魚雷の噂もあった。
未確認の事項も、分析の結果こう判明したというのが説明ではあろうが。。。
また、あくまで政治的側面を持つ発表でもある。
事実をそのまま発表する事が、国の政治として全て正しいわけでもない。
今の韓国政府はともかく、その昔、わが国領内から、韓国政治家を拉致誘拐したのは韓国政府であり、拉致誘拐という観点では、北も南も変わらない。


また、北の攻撃だとすれば、個々の装備の水準はともかく、戦力としてそこそこの物をもっているといわざるを得ない。
すなわち、沿岸海域では、大型艦艇をも十分損害を与えられるということを意味する。


(2010.5.20記)
> 北朝鮮は過去、1983年ミヤンマーでの韓国大統領暗殺未遂(随行閣僚など17人爆死)、87年の大韓航空機爆破(乗員・乗客115人死亡)など“国家テロ”を繰り返してきた。今回の事件でそのテロ体質があらためて確認された。

と言われるが。。。
今回の場合、北の主張する国境への侵犯とすれば、それに対する戦闘行動として正当要素もあり、ましてかくも見事に戦果を挙げたことについて、華々しい発表があってもおかしくない。
停戦状態にある戦争当事国の軍艦であれば、攻撃を受けて損害を出すことについて、民間人の犠牲と等価で論ずることにはいささか違和感がある。
また、1973年8月8日の金大中事件の例もあるわけで、南北ともにことさら非難できるレベルとも思えない。


韓国海軍 哨戒艦「天安」 chon an
24隻建造された、PO HANG 型のコルベット。14番艦
艦番号: 772
korea Tacoma にて建造、1989.11就役。
排水量: 1220t
中央船楼型船体
全長: 88.3m x 幅: 10m
最大速力: 32kt
乗員: 104名
搭載兵器は、艦によって差がある。
76mm砲、40mm連装機関砲、30mm連装機関砲、Exocet MM38、ハープーン、などが、艦首側に2基、艦尾側に2-3基搭載されている。

海上自衛隊の「ゆうばり」型護衛艦に、船体形状や任務は似ているが、より重武装となっている。


救難捜索に当たっている艦艇
韓国海軍
・救難艦 ATS28「クァンヤン」(2597トン)。全長86.2m
水深91mまで深海潜水を支援する装備を備えている。艦艇の前後には大型クレーンが搭載されている。
・掃海艇 MHC571「ヤンヤン」、MHC572「オンジン」(861t)
海に敷設された機雷を探し出して除去する艦艇。
・揚陸艦 LST685「ソンインボン」
・大型輸送艦 LPD611「独島(ドクト)」(14300t)
ヘリコプターをはじめ、各種艦艇を支援する臨時本部として活用される見込み。

米海軍
・イージズ級巡洋艦「シャイロー」(9750t)
「シャイロー」は米海軍イージス艦のうち弾道ミサイルを迎撃するSM-3ミサイルを真っ先に搭載した艦艇だ。事故の原因が北朝鮮の攻撃と確認される場合、北朝鮮の挑発に備えるという意味もある。
・駆逐艦など3隻
・救難艦「サルヴァ」(3335t)
100m深海での潜水を支援し、350tの物体を海底から引き揚げることができる。


艦艇の音波探知機(ソナー)が海底状況を詳細に把握できるという記載を良く見かけるが。。。
対潜用の音波探知機(ソナー)では、海底に着底している船体に対しては能力に疑問がある。
これに対して、掃海艇搭載の音波探知機(ソナー)は、海底に敷設されている機雷探索能力があり、沈没艦船捜索にあたってしばし成果を挙げている。


参考
魚雷
機雷
海難
海難救助




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新規作成日:2010年3月29日/最終更新日:2010年5月20日