ノー・ウォー美術家の集い横浜 事務局通信/2020年4月6日

独 ・ メ ル ケ ル 演 説  /3月18日 テレビ


 ▲メルケル首相、2月19日(ロイター)
親愛なるドイツ国民の皆さん!
現在、コロナウィルスは私たちの生活を著しく変えています。日常生活、公的生活、 社会的な人との関わりの真価が問われるという、これまでにない事態に発展しています。
何百万人もの人が職場に行けず、子供たちは学校や保育施設に行けない状況です。劇場、映 画館、店などは閉鎖されていますが、最も辛いことは、これまで当たり前に会っていた人に 会えなくなってしまったことでしょう。このような状況に置かれれば、誰もがこの先どうな るのか、多くの疑問と不安を抱えてしまうのは当然のことです。

このような状況の中、今日、首相である私と連邦政府のすべての同僚たちが導き出したことを お話ししたいと思います。 オープンな民主主義国家でありますから、私たちの下した政治的決定 は透明性を持ち、詳しく説明されなければなりません。決定の理由を明瞭に解説し、 話し合うことで実践可能となります。
すべての国民の皆さんが、この課題を自分の任務として理解されたならば、この課題は達成 される、私はそう確信しています。 ですから、申し上げます。事態は深刻です。どうかこ の状況を理解してください。東西ドイツ統一以来、いいえ、第二次世界大戦以来、我が国に おいてこれほどまでに一致団結を要する挑戦はなかったのです。

連邦政府と州が伝染病の中ですべての人を守り、経済的、社会的、文化的な損失を出来る限 り抑えるために何をするべきか、そのためになぜあなた方を必要としているのか、そしてひ とりひとりに何が出来るのかを説明したいと思います。
伝染病について私がこれから申し上げることは、ロベルト・コッホ研究所のエキスパート、 その他の学者、ウィルス学者からなる連邦政府協議会からの情報です。世界中が全力で研究 していますが、まだコロナウィルスの治療薬もワクチンも発見されていません。 発見され るまでの間に出来ることがひとつだけあります。それは私たちの行動に関わってきます。つ まり、ウィルス感染の拡大の速度を落とし、その何カ月もの間に研究者が薬品とワクチンを 発見できるよう、時間稼ぎをするのです。もちろん、その間に感染し発病した患者は出来る 限り手厚く看護されなければなりません。

ドイツには優れた医療制度があり、世界でもトップクラスです。しかし、短期間に多くの重 症患者が運び込まれた場合、病院には大きな負担がかかります。それは統計上の単なる抽象 的な数字ではなく、父または祖父、母または祖母、パートナーであり、彼らは人間です。そ して、私たちはすべての人の命に価値があることを知るコミュニティで生活しているのです。 まずこの場を借りて、医師、そして看護施設、病院などで働くすべての方にお礼を申し上げ ます。あなた方は最前線で戦っています。この感染の深刻な経過を最初に見ています。毎日、 新しい感染者に奉仕し、人々のためにそこにいてくれるのです。あなた方の仕事は素晴らし いことであり、心から感謝します。

さて、ドイツでのウィルス感染拡大を遅らせるために何をするべきか。そのために極めて重 要なのは、私たちは公的な生活を中止することなのです。もちろん、理性と将来を見据えた 判断を持って国家が機能し続けるよう、供給は引き続き確保され、可能な限り多くの経済活 動が維持できるようにします。
しかし、人々を危険にさらしかねない全てのこと、個人的のみならず、社会全体を害するで あろうことを今、制限する必要があります。私たちは出来る限り、感染のリスクを回避しな ければなりません。

すでに現在、大変な制限を強いられていることは承知しています。イベントは無くなり、見 本市、コンサートは中止、学校も大学も保育施設も閉鎖、公園で遊ぶことさえ出来ません。 州と国の合意によるこれらの閉鎖は厳しいものであり、私たちの生活と民主的な自己理解を 阻むことも承知しています。こういった制限は、この国にはこれまであり得ないことでした。 旅行や移動の自由を苦労して勝ち取った私のような人間にとって(注※メルケル首相は東独 出身)、そのような制限は絶対に必要な場合にのみ正当化されます。民主主義国家において は、そういった制限は簡単に行われるべきではなく、一時的なものでなくてはなりません。

今現在、人命を救うため、これは避けられないことなのです。 そのため、今週初めから国 境管理を一層強化し、最も重要な近隣諸国の一部に対する入国制限を施行しています。
経済面、特に大企業、中小企業、商店、レストラン、フリーランサーにとっては現在すでに 大変厳しい状況です。今後数週間は、さらに厳しい状況になるでしょう。しかし、経済的影 響を緩和させるため、そして何よりも皆さんの職場が確保されるよう、連邦政府は出来る限 りのことをしていきます。企業と従業員がこの困難な試練を乗り越えるために必要なものを 支援していきます。

そして安心していただきたいのは、食糧の供給については心配無用であり、スーパーの棚が 一日で空になったとしてもすぐに補充される、ということです。スーパーに向かっている 方々に言いたいのです。家にストックがあること、物が足りていることは確かに安心です。 しかし、節度を守ってください。買い溜めは不要で無意味であり、全く不健全です。 また、 普段、感謝の言葉を述べることのなかった人々に対しても、この場を借りてお礼を申し上げ ます。スーパーのレジを打つ方々、スーパーの棚に商品を補充される方々は、この時期、大 変なお仕事を担われています。私たち国民のためにお店を開けていてくださって、ありがと うございます。

さて、現在急を要すること、それはウィルスの急速な拡散を防ぐために私たちが効果的な手 段を使わない限り、政府の措置は意味を持たなくなるということです。私たち自身、誰もが このウィルスに感染する可能性があるのですから、すべての人が協力しなければなりません。 まず、今日、何が起こっているかを真剣に受け止めましょう。パニックになる必要はありま せんが軽んじてもいけません。すべての人の努力が必要なのです。 この伝染病が私たちに 教えてくれていることがあります。それは私たちがどれほど脆弱であるか、どれほど他者の 思いやりある行動に依存しているかということ、それと同時に、私たちが協力し合うことで いかにお互いを守り、強めることができるか、ということです。

ウィルスの拡散を受け入れてはなりません。それを封じる手段があります。お互いの距離 を保ちましょう。ウィルス学者は明確にアドバイスしています。握手をしてはいけません。 丁寧に頻繁に手を洗い、人と少なくとも1,5 メートルの距離を置き、出来るだけお年寄り とのコンタクトを避けましょう。お年寄りは特にリスクが高いからです。 この要求が難し いことであることは承知しています。こういった困難な時期にこそ、人にそばにいてもらい たいものですし、物理的な近接、触れ合いこそが癒しとなるものです。残念ながら、現時点 ではそれは逆効果を生みます。誰もが距離を置くことが大変重要であることを自覚しなくて はなりません。

善意のある訪問、不必要な旅行、これらはすべて感染を意味し、行ってはならないのです。 専門家が「お年寄りは孫に会ってはいけない」と言うのには、こういった明白な理由がある からです。人と会うことを避ける方は、毎日たくさんの病人の看護をしている病院の負担を 軽減させているのです。これが私たちが人命を救う方法なのです。

確かに難しい状況の人もいます。世話をしている人、慰めの言葉や未来への希望が必要な人 をひとりにはさせたくはありません。私たちは家族として、あるいは社会の一員として、お 互いに支えあう他の方法を見つけましょう。ウィルスが及ぼす社会的影響に逆らうクリエイ ティブな方法はたくさんあります。祖父母が寂しくないように、ポッドキャストに録音する 孫もいます。愛情と友情を示す方法を見つける必要があります。Skype、電話、メール、そ して手紙を書くという方法もあります。郵便は配達されていますから。自分で買い物に行け ない近所のお年寄りを助けているという素晴らしい助け合いの話も耳にします。この社会は 人を孤独にさせない様々な手段がたくさんある、私はそう確信しています。

申し上げたいのは、今後適用されるべき規則を遵守していただきたい、ということです。政 府は常に現状を調査し、必要であれば修正をしていきます。現在は動的な情勢でありますか ら、いかなる時も臨機応変に他の機関と対応できるよう、高い意識を保つ必要があります。 そして説明もしていきます。ですから、私からのお願いです。どうか私たちからの公式発表 以外の噂を信じないでください。発表は多くの言語にも訳されます。

私たちは民主国家にいます。強制されることなく、知識を共有し、協力しあって生活しています。 これは歴史的な課題であり、協力なしでは達成できません。 私たちがこの危機を克服できること は間違いありません。しかし、いったいどれほどの犠牲者となるのでしょう? どれだけの愛する人々を失うことになるのでしょう? それは大部分が今後の私たちにかか ってきています。今、断固として対応しなければなりません。現在の制限を受け入れ、 お互いに助け合いましょう。 状況は深刻で未解決ですが、お互いが規律を遵守し、 実行することで状況は変わっていくでしょう。
このような状況は初めてですが、私たちは心から理性を持って行動することで人命が助けられ ることを示さなければなりません。例外なしに、一人一人が私たちすべてに関わってくるのです。
ご自愛ください。そしてあなたの愛する人を守ってください。ありがとうございます。

[翻訳者 註]:ドイツの医療制度は国民皆保険で強固なファミリードクター制度をとっており、 検査は全て無料。今回のコロナ騒動でも致死率0.25%(3/22 現在)と欧州では圧倒的に機能している といえよう。