志摩が警部に昇進して1ヶ月が過ぎようとしたある日。 沢木晃が目撃されたという連絡が警察に届いた。 「志摩警部、行ってみてくれ」 警視に命じられ、志摩は現場に向かった。 「目撃したのは昨日ですか?」 「はい。目撃したというより」 と言い、遊園地の責任者がテレビをつけた、ビデオを再生した。 「これは昨日の出入り口にある監視カメラの映像です。」 沢山の人が歩いていくのが見える。 「ここです」 責任者がビデオを止めた。 そこには間違いなく沢木晃が映っていた。 「このビデオ貸してください」 「どうぞ、5時間後に出るところも映っています。」 志摩はビデオに不思議な点を感じた。 それは、何の警戒もしていないのはもちろんであるが、沢木の隣に女の子歩いていた。 鑑識に頼んでこの子供を拡大し、コピーしてもらいに行った。 拡大処理を待っていると、阿部が話しかけてきた。 「何しているんだ?」 「写真待ち。あなたは?」 「俺も写真待ちだ。どうだい、ちょうしは?」 「まあまあかな。そっちは?」 「ワケのわかんねえ。事件の調査だ」 「どんな事件?」 「最近新聞で騒いでるだろ。昨日10回目の犯行おこなわれたATMから金を盗まれる事件だよ」 「ええ。確かどの機械も指紋もなくまた、機械には何の外傷もないってやつでしょ。 でも、内部犯じゃないの?」 「いや。全員アリバイがあったりする。しかも・・・」 と言いながら1枚の写真を出した。 「こいつは、昨日の事件の監視カメラに残ってた最後の映像だ」 志摩は唖然とした。 写真には機械が勝手に金を出していた。 「この直後、監視カメラは勝手に壊れた。というより、20分止まった。 この監視カメラが止まるのも、どの事件も同じだ。」 「指紋は?」 「あったら、変な事件なんていわねえよ」 「担当している奴が気味悪がってどんどんやめて代わってるから、 お前の担当になるかもしれねえ。」 と言っていると。 「出来ました。志摩警部。」 といい、1人の男が志摩に写真を渡した。 「ありがと」 志摩が礼を言うと、男は去っていった。 「かわいいな」 阿部がつぶやいた。 歳は5歳くらいであろうか。 長い黒髪を1つに束ねている。 「この子は?」 「沢木とアンリエット遊園地にいた子供よ」 「沢木と?」 「ええ、今からこの子を捜そうと思って」 「ふうん。さっきよく似た子を第一取調室の前で見たぞ。」 と言われ、志摩は取調室に向かった。 部屋の前に起っている警官に、 「何の取り調べをしているの?」 「はい。昨日見つかった、坂山の大量殺人の参考人を取り調べているんです。」 「ああ、あれの」 昨日。呪われているといわれ、人が全く入らない坂山で大量の死体が発見された。 死後1年くらいだといわれている。 その後の調べで、殺されたのはこの山の所有者である。 雨野郷とその子供や分家筋に当たる人たちで、みんなこの山に住んでいた。 志摩は写真を出し、 「この子を見ませんでしたか?」 「はい。今取り調べている参考人の子供です。」 「どこにいるの?」 「隣の部屋です」 「ありがとう」 志摩は深呼吸をしてから、隣の部屋のとを開けた。 「こんにちは」 志摩が声をかけると 「こんにちは」 と、少し元気のない子供の声が返ってきた。 写真とまったく似た少女である。 「私は亮子っていうの。あなたは?」 「みう」 「みうちゃん、お母さんに呼ばれたの?」 「ううん。警察のおじちゃんに呼ばれたの」 「そう、お母さんは大丈夫よ」 志摩は少女が元気なさそうな様子を見て、元気づけるように言ったがみうは他人事のように。 「ふうん」 といった。 志摩が会話に詰まっていると、阿部が走って部屋に入ってきた。そして、志摩の腕を引いた。 「ちょっと、ごめんね」 と言い、部屋を出てとをしめた。 「どうしたの?」 「これを見てくれ」 と言い、1枚の写真を出した。 写真にはみうが奥を指さしていた。 「この写真がどうかしたの?」 「こいつは昨日事件の起きた店前にある監視カメラの映像だ。時間は金が勝手に機械から出だす1秒前」 「あの子が事件に関与よしているってこと?」 「おそらく無関係者ねえだろう」 「ふうん。・・・・あれっ」 志摩はみうの隣を指さした。 「阿部さん。ここ見て。写真の端」 そこには、みうを見ている男が映っていた。 しかも、その男はっきりとは分からないが、沢木に似ていた。 「えらいことになってきたな」 「ええ」 と言っていると、 部屋からみうが出てきた。 「どうしたの?」 「つまんないから、おんも出る。」 「じゃ、お姉さんとお話ししない?」 「うん」 志摩と阿部はみうを部屋に戻した。 刑事に行ってお茶とジュウスと菓子を持ってこさせた。 「さっき私は自己紹介したわね。」 「うん」 「おれは阿部だ。よろしくな。みうちゃん」 と言って。 「遠慮無く食えよ」 といった。 「みうちゃんはお母さんのこと好き?」 「大っ嫌い」 「じゃ、お父さんは?」 「いないよ」 「そう・・・。」 と、志摩が言葉を無くしたのをみて阿部が 「じゃあ、みうちゃんが一番好きなのは誰?」 「リンゴのお兄ちゃん」 みうが笑顔で答えたとたん、志摩と阿部は緊張した。 志摩は資料用のファイルから1枚の写真を出し。 「リンゴのお兄ちゃんてこの人?」 と言って、逮捕時の沢木の写真を出した。 「うん。」 志摩と阿部は小さく頷きあった。 「お兄ちゃん凄く優しいし、力のことも受け入れてくれるの」 「力?」 「うん。みんなはそのせいでいじめるの」 「そう」 と言うと、みうは服を脱いだ。 すると無数の何かを投げつけられた跡や、火傷などの跡があった。 「誰にやられたんだ?」 阿部は勢いよく聞くと、 「みんな。」 「みんなって、お母さんも?」 「うん。お母さんや近所の人や保育園のお姉さんやお兄さんや保育園のみんな。」 「力って何が出来るの?」 「いじめない?」 「ええ、お姉ちゃんたちは味方よ」 というと、みうは少し間をおいて。 「えいっ」 と、お菓子の1つを指さすと、それがなんとリンゴになったのである。 どう見ても手品ではない。 2人とも息をのんだ。 魔法だ。 「他にもいろいろ出来るよ。」 「リンゴのお兄ちゃんに頼まれて力を使うこともあるのかい?」 「うん、昨日も機械からお金出したよ」 「ふうん」 ということは、この子の魔法だったのか。 2人は半信半疑に頷きあった。 「リンゴのお兄ちゃんとはいつもどうやって連絡を取っているんだい?」 「お手紙とか道で会うの。」 「ふうん」 と言っていると、警官が一人は行って来て。 志摩に紙を渡した。 「真田警視からです。」 と言って去っていった。 手紙にはこの子を2,3日預かるように書いてあった。 理由は彼女の母親をもう2,3日取り調べするためらしかった。 志摩たちにはちょうど良かった。 「みうちゃん。今日お姉さんの家にお泊まりすることになったの」 「ふうん」 みうは興味なさそうに答えた。 それから何を思い出したのか、1枚の紙をポケットから出して目ていた。 「その紙何書いてあるの?」 志摩が聞くと、みおはサッと背中に紙を隠した。 「なんでもない!」 「手紙かい?」 「違うの。紙。」 「何が書いてるの?」 「真っ白い紙だもん。」 志摩が後ろの回ると、みうは口の中に入れてしまった。 「みう、食べたからね。ないないなんだからね。 阿部が志摩に合図した。 志摩は、椅子に座り。 「そうね、諦めるわ」 みうは紙を口から出した。 阿部はティッシュを2、3枚出しみうにわたした。 「汚れたろ。それで拭けよ」 「うん」 みうは嬉しそうに隅っこに行き紙を拭いてまたポケットに入れ椅子に座った。 「その紙大切なんだな。」 阿部は優しげに語りかけた。 みうお安心したのか。にっこり笑って頷いた。 「今朝もね、靴箱にまた入れてくれていたの。」 「毎日靴箱にあるの」 「うん。みうのこと心配でいつも書いてくれるの」 「心配してくれてるんだ」 「それだけじゃないよ。毎日、遊んでくれるの。待ち合わせ場所書いてあるの。あと時間も。」 「何処に行くんだい?」 「遊園地とか玩具屋さん。あと、お店と銀行。」 「お店と銀行?」 「うん。機械からお金出してって頼まれるの。みうの力頼りにして。」 「みうちゃんから、お兄ちゃんに手紙とかは?」 「しないよ。」 「どうして?」 「だって、毎日遊んでくれてるもん。」 「毎日?」 「時々用事があるってダメになるけど。」 「休みの日はともかく、保育園のある日はいつ遊ぶんだい?」 「朝と夜。」 「朝っていつだい?」 「保育園行った後。」 「みんな心配しないの?」 「うん。だって誰もみうの心配なんてしないし、いようといまいと価値ないらしいし。いない方がいいらしいし。」 「誰がそんなひどいこと言うんだい。」 「みんな」 「保育園の?」 「近くに住んでる人とかも言ってる。みうにいて欲しいって言うの。お兄ちゃんだけだもん」 阿部は少し間をおいて 「夜っていうのは?」 「お家帰ってから。」 「お母さん・・・」 言おうとしてやめた。 そしてみおから目をそらした。 とても正視できない。 もし、目の前に机がなければみうを強く抱きしめていた。 「みうちゃんは人に力使ったことある?」 今まで黙っていた志摩が聞いた。 「2回だけ」 「何をしたの?」 みうは涙を流しだした。 「保育園入って初めての、おんも行ったときにね、水の中おぼれた子がいたの。みうね、その子をアヒルに変えたの。」 「その子は?」 「岸に上がったから人に戻した。そしたらみんないじめるようになった。」 「もう1つは?」 「お隣の家が火事になったとき、5階にお姉さんがいて、このままじゃ焼け死んじゃうから、鳥に変えたの。」 「それで周りの人たちも・・・?」 「うん。いじめるようになった。この化け物って。」 「助けた人も?」 「うん。」 少し間をおいて、みうが口を開いた。 「お兄ちゃんにね、このこと話したらね、みうがしたこと間違いなんだって教えてくれたんだよ。」 「どうして?」 「だってみうと関係ない人だし、みうその人死んでも困らなかったし、助けたことでいじめられた。」 「もし、おぼれている子がいても、死にそうな人がいても助けなくていいって言ったのかい?」 「うん。でもお兄ちゃんなら助ける。」 「そうか・・・」 阿部がまた黙り込んだ。 外から激しい雨音がする。 と、いきなり雷の音がした。 すると、見羽がいきなり脅えながら泣き出した。 阿部は慌ててみうを抱きしめ、 「どうしたんだい?」 と聞いたが、みうは泣いてばかりで答えない。 体を震わせているのが、よく伝わってくる。 「大丈夫。なんでもないよ。」 と優しく頭を撫でながら言った。 みうは阿部の服をつかみ泣いているが、少しずつ落ち着いてきたらしくおびえは少しずつひいていった。 「怖くなくなったかい?」 みうが泣きやんだので聞いたが返事がない。 見ると、泣き疲れたのか服をつかんだまま眠ってしまっていた。 「どうしたのかしら?いきなり」 志摩が話しかけた。 「さーな」 阿部は答え。 服を放させようとした。 しかし、まるで死後硬直を起こしたようにびくともしない。 「しばらくそのままにしてあげたら?」 「ああ」 阿部はみうを膝に乗せ椅子に座り直した。 志摩は以前沢木からもらった、MOを機会に入れた。 キーワード欄に、見羽、魔法と打ち込んだ。 もしかしたら何かあるかもしれない。 そして、沢木が何をしようとしているのか分かるかもしれない。 ズキューーーン! 1分もしないうちにヒットを知らせる音がした。 みうは飛び起きまた震えながら泣き出した。 しかもさっきよりひどい震え方である。 「いいこだ。いいこだ。怖くないよ。君を撃とうとしている訳じゃない。」 阿部は必死になだめた。 また眠ったのを見て。 「どうした?」 阿部は椅子を脚で移かし志摩の所に来た。 「みて。」 志摩に言われ見ると、 「国の機密情報じゃないか!」 「ええ。見て欲しいのはこれ。」 志摩がクリックするとこのような文が出てきた。 <管理番号 201 雨野 見羽(あまの みう) 研究所で生まれた。身長及び体重平均を下回る。 雨野の力を持つ子。 脳波などに他と変わるところ無し。 電気を流してもそんなに変わりなし。 遺伝子の検査にも特筆すべき物無し。 運動能力のー> まるでモルモットのようにたくさんの検査のことがいてある。 「ひっで−」 「これも見て」 次の出した物には、 <S056研究所の封鎖事件について 2月25日早朝5時、雷雨。 マウスたちが脱獄。表に出られては困るため、射殺命令が出る。 勿論、見羽は殺してはならない。 早朝10時、郷を射殺。 腕の中から見羽を発見。 そのあと会議により、施設をしばらく封鎖と決まる。 封鎖している間、見羽を千堂早紀に預ける。> 「千堂早紀!」 「どうしたの?」 「今、取り調べてる奴だ。」 志摩はキーワードの欄に<千堂早紀>と打った。 そして音を消した。 今度もまた、国の機密情報である。 <始末が悪かったため、早紀が今朝逮捕された。 我々は早紀に全てを背負わせる。 見羽については今、変に動く訳には行かない。 しばらく様子を見ることとする。 国土管理室が何かをつかんでいる。乗り出してきそうである。 充分に注意せよ。> 最後の国土管理室の行は読み飛ばしたようである。 「ひで−」 「ひど−い」 が重なった。 志摩は廊下に出て1人の刑事に、真田警視を呼びに行かせた。 「おまたせ−」 妙に明るい声で真田警視が入ってきた。 「警視これを見て下さい。」 「なんだい?」 警視はしばらく見てから。 「現実は小説よりも生成だね。」 「すぐ逮捕請求を。」 「残念だけど出来ないよ。その資料だけじゃ。」 「でも・・・」 「チャンスを待とう。」 と言い、志摩の肩をたたいた 「一様、国土管理室には連絡するよ。」 「警視、知ってるんですか?」 「先輩にそこ行った人がいたから言っておくよ。」 そして阿部の腕の中で寝ている見羽を見て。 「かわいい寝顔だね。」 と言い、戸を開けてから、 「じゃ志摩君その子をよろしく。あと阿部」 「はい」 「帰ったら家を掃除しておくこと。」 「どうしてです?」 「今日は志摩に預けるが、明日から君の家に預けるから。」 と言って出ていった。 「映児君を、呼ぶわ。」 と言って、志摩は外に出た。 阿部は見羽の頭を撫でていた。ふと、見ると見羽のズボンのポケットから紙が出ているのが見えた。 しかし、阿部は手を伸ばしたが、やめてまた見羽の頭を撫でた。 しばらくすると、うっすらと見羽は目を開けた。阿部は手を放した。見羽は椅子を持って阿部に近づきとなりに座った 阿部はお菓子を1つ取り見羽に渡した。 「食えよ、美味いぞ」 見羽は袋ごと口に入れようとした。阿部は慌てて、 「そう食うんじゃねえよ。」 「じゃあ、どう食べるの?」 「袋を破って、中のもんを食べるんだよ。」 と言い、見本を見せた。見羽もたじろぎながら食べた。 「おいしい」 見羽に笑みがこぼれた。 「食ったこと無いのか?」 「うん。見羽お兄ちゃんからしかお菓子もらってないし。お兄ちゃんこれくれたこと無い。」 「そうか。」 と言っていると、志摩が映児を連れて入ってきた。 「見羽ちゃん、紹介するわね。私の知り合いの映児君よ。」 「初めまして。」 と言い、握手をした。が、急に映児は目から涙を出し、見羽を抱きしめた。 見羽は抵抗せず抱かれていた。 しばらくして、我に返ったのか見羽を放した。 「座ったら。」 志摩に言われ見羽の向かいに座った。志摩も阿部の向かい座った。 「何が見えたの?」 志摩が小声で聞いた。 「志摩さんの言ってた光景と、あと母親におりの中に入れられ手錠につながれてる光景。」 と、小声で言った。が、見羽に聞こえてしまったらしく。 「お母さんいつもそうするのお家にいるときは。でもいい方だよ。ひどいとき見羽の脚にも変なの付けるから。」 「見羽は何でやられたままでいるんだ?」 映児が聞くと、 「お兄ちゃんがやっちゃダメって言うから。」 「どうして?」 「やったら、見羽に悪いことが起こるんだって」 「そう・・・」 「見羽が覚えてる1番昔は?」 「4歳の時初めて水の中に入ったこと。」 「それより前は、例えば父親とか?」 「覚えてない。」 「ショックで忘れてるのかしらね。」 志摩が言った。 そう、父親が殺されたショックで・・・。 「失礼します。」 1人の警官が入ってきた。 「真田警視から千堂早紀に聞きたいことがあれば、警視立ち会いで良ければいいそうです。」 「警視は」 「はい。今取調室で待っています。」 「おれも・・・」 と、阿部は言い掛けたが見羽をみて 「おれはここにいるわ。」 「そう。行きましょ。映児君。」 「ああ」 映児たちは隣の取調室へ行った。 取調室には真田警視と、向かいには高そうな服を着た女性が座っていた。 「来たね。」 笑顔で真田警視が迎えた。 「従兄弟のこも連れてきたのか。」 彼は警察関係者以外が内部事情を知ることに何の危機感もないのか。 と、思うかもしれないが彼は映児を連れてくる志摩に何か理由があるのではないかと思っているのである。 真田は女性に向かい直り、 「何度もすいませんが、あなたは雨野郷をはじめとした大量の人を殺しましたね?」 「はい。私がやりました。」 女性はあっさりと答えた。 「自供はしている。」 と言って、戸の方へ歩き出した。戸を開けると。 「じゃ、僕は用があるから、聞きたいことを聞きなさい。あと終わったら外の奴に言ってね。」 と、言って出ていった。 「私、志摩と言います。」 志摩は手を出し握手を求めた。 「千堂早紀です。」 と、握り返した。 「明日真映児です。」 握手をしたとたん、映児は女性を睨んだ。 「どうしたんです?そんな怖い顔で見て。何か見えたんですか?」 映児は驚いた。 「俺の力を・・・」 「こんなところで握手を求める。つまり、その行為に特があるのはサイコメトラ−くらいですからね。」 「S056研究所でその研究もしてたんですか?」 「あら、知ってらっしゃるの?国の最高機密の筈なのに。」 「していたんですか?」 「いいえ。そこではなくSO55研究所ですよ。あそこも昔潰れてもうしてませんけどね。」 「潰れた?」 「ええ。また脱走騒ぎで。しかも、施設院全員殺されたのよ。」 「誰に?」 「サイコメトラ−どもに決まってるじゃない。こっちもほとんど殺して生き残りは1人だけどね。」 「何という名です?」 「確か、幾島丈治」 2人は固まった。 「たく、あの化け物ども飼ってやった恩もわす・・・」 映児が殴りかかろうとしたが、志摩は止めた。 「まっ、あんたたちはそんなに化け物じゃないわ。見羽に比べれば。」 「化け物ですって・・・」 「ええ。あいつ銃を撃っても1発も当たらないし、ナイフで刺そうとしてもナイフが曲がるし火もきかないのよ。化け物でしょ」 志摩も怒りで体が震えた。 「あなたが今自供したらどうなるか知ってるの?」 「全て私のせいとなり、真実は闇に消える。いいことね。」 「それで良いの?」 「ええ。どのみち死刑だもの。真実を追いたいなら好きにしなさい。どうせ見つからないだろうけど。」 と言うと、勝手に外に出ていった。 「最悪の奴だな。」 「ええ」 と言った。 隣の部屋では、阿部が警察犬を借りてきていた。 「わんわん可愛い。」 見羽は嬉しそうに撫でていた。 「スパークって言うんだ。」 阿部が教えた。 見羽は右手を出し。 「スパークお座り」 スパークはビシッと座った。 「おて」 お手をした。 見羽は普通の犬の芸を一通りさせてから。 「熊たんの次に可愛いね、お前」 「熊たんって?」 「これ」 と言ってキーホルダーを見せた。 かなり古ぼけていた。それを床に置き指で指すと、なんと20メートルくらいになった。 見羽がまた指さした。そして、見羽は熊の膝にのると勝手に熊が見羽を抱きしめた。見羽が体を登りだそうとすると、腕で助けた。 見羽は頭に座った。 「凄いでしょ。」 「ああ」 見羽がまた2回指さすと、また元のサイズに戻った。見羽はキーホルダーをポケットに入れ、スパークの頭を撫でた。 そうしていると、志摩たちが入ってきた。阿部は得てきた情報を聞こうと思ったが見羽のいるのを見てやめた。 見羽は首を傾げ、 「何でそんなくらい顔してるの?」 志摩たちはハッとして、出来るだけ笑顔を作り 「なんでもないわ。」 と答えた。 「それより、みうちゃん。お腹空かない?」 「ちょっと」 「食べに行こうか?」 「うん」 部屋を出たとき、真田警視に会い、帰ったらどうだと言われたのである。 「じゃあ、ちょっと待っててね」 と言い、志摩と阿部がスパークを連れて出ていった。 阿部が戸の向こうに行ったとたん、見羽が少し寂しそうな目をしたのを映児は見逃さなかった。 「お前も人間だもんな。」 映児がつぶやいた。 目の前にいる少女は何処にでもいるような普通の子供である。 それを、あんな風に・・・。 映児は拳をぎゅっと握った。 「見羽のこと殴るの?」 見羽の問に我に返った。 目の前で拳を握ったので反射的に殴られると、思ったのであろう。 体を震わせているのが分かる。恐怖感がビンビンと伝わってくる。 「何もしねえ!何もしねーよ。」 見羽はお菓子を少し掴むと隅に行ってしまった。 志摩さんから聞いて自分が感じた以上に可哀想な子だ。映児は椅子に座って、隅でお菓子を食べている見羽を見ていた。 透明な気配だ。サイコメトリーをした感想である。全く色がない。 しいてみれば沢木の持つク−ルなブルーが少し見えるくらいだった。 映児はふと外に出た。 携帯で透流に志摩から聞いたことや今まで分かったことを話した。そして、父親に研究所について調べてもらうよう頼むように頼んだ。 「わかった。」 透流は引き受けてくれた。 電話を終え部屋に戻ると中、志摩たちと会い一緒に部屋に戻った。 部屋に入ると、20メートルの熊に見羽がじゃれついていた。阿部はすぐさっき見たキーホルダーだと思い2人に話した。 見羽は夢中でじゃれているらしく、3人の存在に全く気づいていない。 「何か親子みて−だな。」 映児がつぶやくと、他の2人も頷いた。 熊は映児たちに気づき見羽を抱きしめた。見羽はいきなりの行動に少しとまどった。 熊は「娘をお願いします。」と言うように、見羽を3人の方に向かせ丁寧にお辞儀をした。志摩たちが何か言うより先に見羽が魔法で元のキーホルダーに戻してしまった。 「熊たん。いきなり痛いよ。」 と言うとポケットに入れた。 「・・・じゃ、行くか」 阿部が言うと、見羽は頷いて隣に走り寄った。 「ご飯食べるには、ちょっと早いからお姉さんの知り合いに会いに行かない?」 「うん」 佐堂精神病院。 小さな看板が出ていた。 「先ほど電話した、志摩です。」 「少々お待ち下さい」 ロビーの本棚にはたくさんの手作りの本が並んでいた。 「これ読んで。」 見羽は1冊選んで持ってきた。そして阿部に渡した。阿部は読み出した。 志摩と映児もすることがないので、それを聞くことにした。 面白い。 読んでいた阿部も、聞いていた人たちもそうであった。およそ10ページ足らずの本なのに面白かった。 子供も大人も魅了するモノがあった。 そのために、全員診察室から女性が入ってきたことに気づいていなかった。 「久しぶり、亮子」 「明子先輩。」 志摩たちが驚いているのをよそに明子はしゃがんで見羽と同じくらいの目線になり、 「初めまして、私は明子。あなたは?」 「見羽」 「そう。見羽ちゃんていうの」 明子が優しく微笑みかけると、見羽も少し笑んだ。 「誰だ、あいつ?」 「私の大学時代の先輩で、幼児、児童心理学の天才よ。在学時代から、いろんな事に伝説的成績を残した人よ」 「へえ」 2人はこそこその話している。 「そう、見羽ちゃん本が気に入ってくれたの」 こちらの会話は盛り上がっていた。 「奥行ってお話ししない?」 「うん」 明子は見羽の手を引き、3人にも来るように行った。 |