「行ってくるよ。」 パパはいつもみたいにボクにそう言って出ていった。 「晃、今日からこの人があなたの新しいパパよ」 ママはそれから1年もたたないうちにお父さんを連れてきた。 「パパは?」 ボクは何も分からなかった。 パパは長い間家に帰って来ないこともあったから。 それに期待もしていたのかもしれない。 ママはただ悲しそうな顔をし、お父さんに 「ごめんなさい。この子あの人のことまだ忘れられないみたいで・・・。でも大丈夫すぐにあなたの事が好きになるわ」 「ああ。分かっているよ。」 と言うと、ボク見て、 「晃はいい子なんだね」 といった。 その日からママとお父さんとボクの生活が始まった。 ボクはお父さんと暮らしながらもパパの帰りを待った。 お父さんはボクを実の息子のように接してきた。 ボクはそれがやだだった。 でも、本能のようなものがボクに笑うことをさせた。 泣くことをさせた。 まるでそれが本物の感情であるかのように、 「ママどうしてボクにはパパがいないの?」 ある日、ママと2人きりのとき訊いた。 本当はもっと早く訊きたかったことだ。 「パパは私たちよりもお仕事をとったのよ」 そしてボクの顔をのぞき込み、 パパとお父さんを同じじゃないことは分かっていたんだ。 嬉しかった。 でも・・・ 「お父さんのこと嫌い?」 ボクは怒りを感じた。 でも笑顔で、 「大好き」 と答え今度はママの顔を見て 「ママはパパとお父さんどっちが好き?」 「パパのこときらいじゃかかったのよ。でもお父さんはね――」 身体から力が抜ける気がした。 ママの続きの言葉が耳に入らなかった。 ママはパパが嫌いなんだ。 そしてあんな人を・・・ ボクの中に今まで押さえていた憎悪が起こった。 そしてあの決意がついた。 「おやすみなさい。ママ」 ぐっすり眠ったママの瞳に口づけながら幼い日にしたように言った。 そして火を放った。 火は瞬く間に家を焼いた。 何かあったらすぐ警察を呼ぶようにパパがよく言っていたっけ。 家が燃えているから呼ばないと ボクは涙声で消防ではなく警察を呼んだ。 ボクはママが眠る燃える家を見ながら昔、パパから習った歌を口ずさみながら警察が来るのを待った。 「はい。急いで下さい。中にお父さんとお母さんが」 駆けつけた警官に涙を流しながら言った。 その瞬間いや、 口づけたあの瞬間から“ママ”は“お母さん”だった。 違う パパと別れたときからかもしれない。 ・・・どうでもいいかそんなこと あの火事で2人の人間が死んだただそれだけだ。 ただそれだけのことだ。 |