其の声音、人を操る




──運命は、時に悪戯だ。

そこは折りしも小さな小部屋だった。
白い室内、真ん中にはテーブルとイスが数脚。
テーブルの上には何やら大小さまざまな機械類が並んでいる。
そこに、違和感が一つ在った。
少女である。
一脚のイスに腰掛け、何やら絵本を音読している。

「──何処までも黄金色の麦穂は実り…」

少女がそう告げるとそこは麦畑に姿を変えた。
どよめきが起こる。同室に居た研究者群のものだ。

「風を受けソヨソヨとなびく…」

風が吹き、麦穂が揺れた。

「───素晴らしい…」

沢木は、らしくない感嘆を示した。
すぐさま隣の研究員に何事か告げると、少女の細い両肩を掴みこう言った。

「君は、今から沢山の人を統べる人間になるんだ」
「──すべる…?」
「そうだ。君の声で、“人々を苦しみから救おう”」

そう。 この声さえあれば。
どんな人間だろうと頭を垂れるだろう。
だが、そんな瑣末な事などには“この声”は使わない。
すべては彼の研究の一端…。
沢木は微笑った。
久々に見せる人間らしい表情だった。
まるで、新しい玩具の遊び方をみつけた様な。
そんな笑みだった。




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