九尾の狐
2章




翌朝。たった1人の生徒の入学式が行われた。
全く普通に式は行われた。入学生の席と保護者席がぽつんとあるだけは全く普通だった。しかし、鵺野は入学生の母の異常なまでに高い霊力と、新入生のそれをしのぐ神のような霊力と、かすかな獣のにおいを警戒していた。

このにおい玉藻に似ている。・・・妖狐か・・・。

鵺野は新入生を刺すような目で見た。
新入生、舞はあどけない子供そのものという感じで、あたりをきょろきょろしていた。そしてその母は、教頭に目を向けていた。


「おっきなお部屋。」
式を終え教室に案内された舞は教室中またきょろきょろした。
全く普通の子にしか見えない。しかも今時珍しいくらい純粋な子だ。しかし、鵺野は警戒していた。母親は今校長と話している。教室の周りは今、無人だ。鵺野はポケットにある数珠を左手で握りしめながら。黒板にひらがなで名を書いた。
「俺の名前は鵺野鳴介だ。得意技は分かるよな。」
鵺野は舞を鋭い目で見た。
「霊能力。」
舞は得意げに答えた。あどけない笑顔だ。しかし、油断できない。前に玉藻に騙された経験と、最近起こりつつある何か知らないがとてつもないことを警戒し、鵺野は警戒をとかない。舞は気づいていないのかあどけない顔をしている。鵺野は思い切って。
「君は狐だね?」
と聞いた。子供は笑顔で、
「うん。お父さんが妖狐なのだから、舞こんな姿持ってるの。」
と言ったその時、舞は次の瞬間金色の狐の姿になった。
「ほんとは2本足の姿もあるけど、まだその姿で立つの練習中なの。」
「ちょっといいかい。」
鵺野はしっぽ付近をさわった。するとその付近に8本の、小さなしっぽがあることに気がついた。
「あっ、舞ねしっぽあと8本あるの。少しずつ大きくなってるの。」

・・・九尾の狐。

鵺野は再度数珠を握った。
「もどるね。」
と言ったかと思うと、また子供の姿にもだった。
「舞のお父さんは九尾の狐か?」
「違うよ。一本の普通の妖狐だってお母さんから聞いてるの。舞力が強いから九本なの。」
「そうか・・・」

鵺野は迷っていた。この子に邪心は感じられない。鵺野はため息をつき数珠を手放し、
「校内見学するか」
「うん」
舞は嬉しそうに答えた。


「ここが図工室。」
舞はどの部屋も嬉しそうに見ていた。そして、
「これなーに?」
「あれ何に使うの?」
質問をし、うれしそうに声を漏らしていた。

「ここが保健室だ。」
椅子に座っている玉藻に鵺野が声をかけるより先に舞が、
「玉藻お兄ちゃん。」
「あっ、舞ちゃん」
「知り合いか?」
「うん。この前、妖狐の谷いったの。その時あったの。」
「ふうん」
鵺野は小声で玉藻に、
「あとで聞きたいことがある。」
「ええ。じゃあ終わったら来て下さい。」


教室を全て回り、教室にもどると校長と話を終えた母親がいた。
「天道沙織と申します。」
「あっ、鵺野です。」
「舞をお願いします。私は舞を普通の人として暮らさせたいんです。」
「はあ・・・」

しかしこの子は九尾の狐。

鵺野が気のない答えをしていると、
「舞ちゃん久しぶりね。」
と声がした振り向くと50才くらいの老女がいた。
「沙鬼おばあちゃん」
「ひさしぶりね。舞ちゃん。」
と、言い切る前に沙織が舞の前にたった。
「何のごようです?」
「甥の子供の入学式を見に来たのよ。」
「そうですか、それなら終わりましたよ。」
と言い、舞の手を取り
「それではこれで。」
と、鵺野に言い舞の手を引き去っていった。


「色々ご説明したいとがあるんですが・・・」
「はい」
この沙鬼という人もすごい霊力を感じる。
「取りあえず保健室に行きませんか?あの人にも聞いてもらいたいんで」
「はい・・・」
あの人とは玉藻のことだろうか?

鵺野はポケットに入っている数珠を握った。


「何をお企みになられているのです?」
保健室にはいると玉藻と教頭が話していた。
教頭はいたずらぽく微笑んで、
「なんのことかしら。私には身に覚えはないわ。」
「しらばっくれないでください。2ヶ月ほど前いきなり、妖狐の高官に付けるから見てくれと連れてきて、次はその子狐の通う学校の
 校医にして」
「あれ、舞ちゃんのこと嫌い、これならしっかり上位の狐になれると言ってたのに・・・」
「確かに彼女は優れた狐です。あなたが妖力をおさえていた、ようですからちからもあるんでしょう。」
「あくまで疑う?」
「はい。あの子からうっすら、昔死んだ、九尾の狐様の次ぎに権力のあられた綾士に似た気配を感じます。確か、綾子を殺したのは
 沙織さんですね。」
「ええ」
「それについて殺した動機について、あなたと天道家は隠しましたね?」
天道家・・・
鵺野は会話から見てかなりの高官なのだろうと思った。
二人は会話に夢中で鵺野たちに気づいていない。

「隠してないわ。ちゃんと<沙織は妖狐と言うだけで危害なすと勝手に判断し殺した>と言ったじゃない。」
「そう、あなた方はそういい他の者はもう調べぬよう命じた。調べられるのを恐れるように・・・」
「それなら九尾も<このことを調べぬように>と命じたじゃない。」
「あの方も関わられているんでしょう」
「メア様これ以上隠されない方が・・・」
沙鬼が口を挟んだ。教頭は鵺野を見て沙鬼に、
「ここでは教頭よ。」
「あっ・・・」
沙鬼が言い換えるより前に鵺野は声を出した。

メア・・・夢。・・・万物の母。・・・全ての神を作りだした。

「私跪かれたりするの苦手だからね。普通でいいよ。」
鵺野が思っていた以上にすごいことがあるのだ。


「何から説明しようか?」
沙鬼が聞くと鵺野は
「天道家とはなんですか?」
と聞いた。玉藻は苦笑しながら、
「神や妖怪が全ての間に決められた掟を破ったら、そいつを見つけ裁くいわば警察官兼裁判官のようなものです」
「沙織は家の者じゃないわよ。」
「どうしてです?」
「彼女は掟違反をしたからよ。」
「掟違反?」
「ええ。勝手に許し無く妖怪を殺したことが多々あったことと、あれでね。」
「あれ?」
「ええ。玉藻の言う私たちが隠してきたことよ。これからの担任の先生と妖狐最上位に最も近い妖狐には話しておかないとね。」
と言い微笑んだ。そしてまじめな目で玉藻を見て、
「あなたがどう思おうと、これからはなす事は事実よ。そして誰にも話さないでね。」
といった。





ぬ〜べ〜の間 
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