12時。 鵺野たちはマンションを出て駅の改札へそれぞれ向かった。 予定通りの待ち合わせ場所へ。 「玉藻、明日の朝あの子の出る時間、エレベーター使って屋上に行ってくれないか?」 駅近くのファミリーレストラン。 鵺野は遠慮がちに言った。 「屋上を調べてみたけど何も出てこなかったんだ。だが、あの子の気配は昨日屋上で消えた。おそらくあそこに何かあるんだ。」 鵺野は<何故玉藻なのか>を説明しなかった。 必要ないことだからだ。 雪女も玉藻自身も昨日エレベーターで見せたあの子の態度と、その後のマンションの変化を見ていた。 「わかりました。こちらが動かないとあちらも動かないでしょうし。」 玉藻は引き受けた。 帰りもそれぞれ別行動で帰る。 最初に雪女。次に鵺野。最後に玉藻の順で1時間おきくらいの間隔で。 玉藻はエレベーターを使った。わざと、気配を表に出しながら・・・ すると、エレベーターが4階のボタンを押したはずなのに7階まであがり戸が開いた。 よほど屋上に来て欲しいらしい。 玉藻とその様子を監視カメラで見ていた雪女と鵺野は思った。 玉藻はうっすら微笑んで、そのまま降りた。 玉藻の予定外の行動・・・。いや、こうなるかもしれないと思っていた。雪女は異変が起きたとき気配を隠し、6階まで飛んでいた。鵺野は武器を持ち戸口に立ち、玉藻もカバンの中に首さすまたを入れてあった。 しかし、いくら武装しているからと言っていきなり屋上へは行こうとしない。 おそらく少し待てば子供が現れる。 玉藻に敵意はあるまい。それなら案内させられるかもしれない。なんと言っても玉藻は狐。人を化かすことには得意だ。 計画通通り、少しすると子供の足音が聞こえてきた。 「おとうさーん」 子供の声が聞こえてきた。 そして、まもなく金髪の髪を後ろに1本に束ねた子供が降りてきた。 鵺野と雪女そして玉藻まで少女のかっこうに驚いた。 本物の鹿の毛皮を着ていたのだ。しかもそれを当たり前のような顔で。 そう言えばカメラの映像も厚手のワンピースを着ているように見えたが毛皮だったのだ。 と思い出しながら走ってくる少女にうっすら微笑みながら、腕を広げた。 子供は疑うことなくその腕に飛び込んできた。玉藻は優しく抱きしめてやるとうっすら涙を浮かべながら満面の笑みを浮かべていた。 今、この子を騙しているのだ・・・私たちは・・・こんな純粋な子を・・・ 鵺野と雪女は様子を遠くから見ながら罪悪感に打ちのめされていた。 玉藻何も感じていなかった。子供の涙を拭いてやり、父親を演じていた。 「いい子だ、いい子だ。待たせてごめんね。」 優しげに語りかけ、子供に安心感という油断をさせておいている。 「あのね、・・・」 子供が顔を上げ、玉藻に話し出した。 いよいよ本題を話すか・・ 内心ほくそ笑みながら、微笑みながら聞く 「お友達いっぱい出来たの。お父さんも会いたいでしょ。」 「ああ」 当たり前だ。 玉藻は心の中で言った。 おそらくその、友達がー消えた子供たちだ。 「屋上いこ。」 やはり屋上か・・・ 玉藻は子供に手をさしだし、手をつないで階段を上っていった。 鵺野たちもこっそり後を追う 玉藻たちは屋上に着いたが、やはり何もない・・・。 鵺野たちもこっそりつけてきながらそう思った。 いや、もうこっそりしていない。子供はよほど”お父さん”にあえたのが嬉しかったらしく警戒など全くしていない。 子供は貯水槽の階段を上りながら玉藻にも来るように言った。 蓋の閉まった貯水槽。 このアパートの1番高いところ。 子供はその上に立ち、しばらく空を見た。すると底に小さな裂け目が出来た。 恐ろしい妖力を感じるこの子以上の力だ・・・。 しかし、気はこの子のものそのものだ。 と感じながら、子供に導かれるままにその中に入っていく。鵺野たちも後を追った。 中に入り鵺野たちや玉藻は驚いた。間違いなく紀元前。住居一つ無い。 遠くをマンモスの大群まで走っている。 「ここ。」 案内された洞穴には獣の肉を食べている子供や大人がいる。 「ただいま」 「おかえり」 大人たちは毛皮を。子供たちの中にはこの中でいように目だつ幼稚園の制服や、子供服を着ている。 これで全員かな? 「この人たちがお友達なのか。すごいね」 玉藻は誉めてやってから確かめるように 「この人たちで全員?」 「うん。」 そうか・・・。さて、・・・ 玉藻はこっそり後ろにいる鵺野たちに目で聞いた。 どうします? 鵺野はその目を見てとまどった。 子供たちや大人は楽しげにしている。生き生きしている。 でも・・・、このままで言い訳がない。 鵺野は目線で玉藻に言った。 玉藻は溜息をついてからしゃがんで、子供と目を合わせ、 「お願いがあるんだ・・・」 と言いづらそうに言う。 「なに?」 子供は不安そうに言う。 「・・・お父さんが今住んでいるところに一緒に住もう」 子供が望んでいることだ。勿論嬉しそうな顔をする。 「うん。うれしい。」 はしゃいでいる。 「で、お友達たちもお友達たちのお父さんたちのところに返そう」 「いや」 子供が反抗した。 玉藻は少し驚いた。言いなりになると思っていたのに・・・。いがいとしぶとい。 「みんなね、お父さんやお母さんにいらないって言われてね。嫌になってね。泣いてねここ来たの。もう帰りたくないの」 「でもずっとここにいて幸せ」 子供は言い返してこない。少し迷っている。 「おとうさん、怒ったことあったよね」 「うん。」 子供は頷く。どの家にも一回はあることだ。適当に言っても当たる。そしてそれで一回は感じること。 「その時家出ていきたかったよね」 「・・・うん」 「今まで、家無かったけど、どうだった?これでよかった?」 首を振った。 「・・・寂しかった。・・・悲しかった。・・・帰りたかった。・・・」 子供は泣き出した。 「お父さんも同じだよ・・・」 玉藻はうっすら涙を浮かべて言った。子供は玉藻の顔を見た。 「こんな子いらない・・・。別な子がいい・・・。て思った事あるよ。」 子供は声を出し泣き出した。玉藻はあやしながら。 「それでも、本当に君がいなくなったとき悲しかったよ・・」 子供は顔を上げた。 「お友達たちもそう思っているよ。この子の親たちも。」 子供は少し考えていた。 「お友達は帰ってから沢山つくろう。」 「・・・うん」 子供は涙をにじませた目で微笑んで答えた。 そして、手を叩いた。すると、子供たちや大人たちが倒れた。 「おうち帰ったら、ここのこと覚えてたら邪魔になるもんね。消したよ。」 「ありがとう」 玉藻は優しく微笑み、一人担いだ。 「取りあえず、友達たち返してくるね。そしたら帰ろう。」 「うん」 子供は微笑んだ。 それを見てから玉藻は鵺野たちを手招いた。 子供は誰とも聞かなかった。 ただ大人しく言われたとおり、貯水槽まで穴を開ける。 子供たちは予定通り、近くの警察へと運ぶ。 鵺野たちはなにもしゃべらなかった。 鵺野と雪女の心はただ罪悪感を感じていた。 最後の子を運び去るとき子供に玉藻は 「じゃあ、明日お迎え来るね。絶対お迎えに来るまでお外に出ちゃ駄目だよ。あと、力も使わないで何もしないで、ここで待っている んだよ。」 と優しく玉藻が微笑みながら言ったとき、 あの子がどんなに嬉しそうな顔をしたか・・・・ 騙されているとも知らずに・・・・ |