橘の子供




「わー、犬だ」
もえはストーンを見てうれしそうに頭をなでた。
秋葉はコートを掛けながら
「ストーンていうんだよ」
といい、もえのいる部屋に行くと
目がつり上がり、氷のような冷たい目をしたまおがストーンの頭をなでていた。
「誰だい?」
秋葉が聞くと、
「まお」
と言い、なでつずけていた。
秋葉はふと真田警視に見せられた写真を思い出し、
「何で殺したんだい?」
と、つぶやく様に言った。
「なにを?」
つぶやく様に言った。
「犬を」
と、言ったとたんまおは怒りに目を染め、秋葉の襟首をつかんだ。
「俺じゃねえ。」
と言い、まおの目が涙で潤んだ。
「詳しく話てくれないかい?」
と、秋葉が言うと、秋葉の襟首を放し、ストーンを撫でながらゆっくりと話し出した。

ある休みの日、まおの人格の時土手を歩いていたら石みたいな汚い犬がすり寄ってきた。
まおは、
「汚ねえ犬」
と言って通り過ぎたが犬は付いてついてきた。
まおは走り出したが、犬も走ってついてきた。
走ったり、歩いたりしたがついてくる。
しばらくそんなことを繰り返し、まおはついに、ため息をつき振り返って犬を抱き上げた。
犬はうれしそうにしっぽを振った。
まおは犬を抱きながら土手へ行った。
まおは近くに落ちていた箱に犬を入れ、
「息切れてるな」
と、話しかけた。
首輪もないから、捨て犬だろうと思い、家では飼えないが家の側のこの土手で飼おうと思った。
「飲み物持ってきてやるよ」
と言い、家から牛乳のパックとお碗を持ってきて、お碗に牛乳を入れ、犬に渡した。
犬はすごい勢いで飲み出した。
「名前決めるかな」
と言い、しばらく考えてから、
「ストーンでいいか。石みてえな色だし」
と言い、頭を撫でた。
その日から、まおは自分の人格になると必ず、ストーンに牛乳を与えに行ったらしい。
でも、ある日いつも通りまおの人格になりストーンのところに行くと、ストーンがずたずたに切られていたらしい。

「俺はそん時、ストーンに柿でもやるかと思ってナイフを持ってたからな」
と言った。
「違うっていったのかい?」
「ああ、だがみんな信じねえ」
と怒り混じりに言った。
「そして、あたしを・・・」
と言い、手首の手錠の後をみた。

秋葉は気を取り直させようとする様に
「夕ご飯、何を食べたい?」
と聞いた、まおは初めて聞かれたことに少し恥ずかしそうなうれしそうな顔をした。
しかし、すぐに
「どうせ、もうすぐ私は消えるよ」
と言った。
「でも・・・・」
秋葉が言おうとしたがその時まおの目が閉じられた。
「そうかもしれないけど、今は君だ」
と、つぶやく様に言った。

目を開けると、全く普通の少女の目になっていた。
「誰だい?」
「人の名前を聞くときは、先ずはあんたから名乗りな」
秋葉は名前と今までのことを説明しもう一度なを聞くと、
「みき」
とだけ言うと、何も聞かず彼女たちようの物の入った袋から、モデルガンを出した。
秋葉は何をするのかとみていると、みきはモデルガンを熱心にみていた。
「みていて面白いかい」
「ああ、生きてるって感じる」
秋葉は使命を思いだし、ポケットに入っている銃から玉を取り、
「本物を見たくないかい?」
「ああ、何かしろって言うのかい?」
「うん、何か事件を見たことがないかい」
秋葉に聞かれ少し考えてから、
「密入も事件かい?」
「ああ」
「じゃ、毎月22日の朝一の便で、解航空に密入が行われる」
「誰に聞いたの?」
「どこか知らないが、多分ホテルのスイートルームの引き出し中に入ってたメモに書いてあった」
「どこか分からない」
「ああ、変わったらそこだった」
「で、そのメモを見た後どうしたんだい?」
「名前は知らないけど、いい身なりの男が入ってきて、ジュウスを勧められて、その後・・・、眠くなって、寝ちまった。」
多分ジュウスの中に睡眠薬が入っていたのだろう。
「さっ、約束だよ」
と言った。
秋葉は銃を渡した。
みきは目を輝かせ、見入りながら
「手入れはたまにした方がいいよ」
と、言いはじめ、次々と銃の専門家しか知らない様な専門的なことを話し始めた。
秋葉はそれを聞かず携帯で、真田警視に密入の話を教えた。
真田警視に伝えはを終えたとき、みきは目を閉じた。

みきが目を開けると、幼い目であった。
「誰だい?」
と聞くと、
「もえ。お腹空いた。」
秋葉は冷蔵庫から昨日食べた肉や、ご飯お残りを机に出した。
もえはうれしそうに食事を始めた。
「ホテルとかに行ったことはあるかい?」
秋葉は何気なく聞いた。
「うん」
もえは笑顔で言った。
「何時だい?」
「ええっと、ジョン・ケインっていうお兄ちゃんが泊まっているホテルに呼んでくれたの」
「ジョン君ていうのは?」
「映画とかに出てる、格好いいお兄ちゃん」
「どうやって会ったの?」
「道歩いてたら会ったの。お忍びで遊んでたんだって」
「ふうん」
秋葉はメモを取った。

食事を終え食器を片付けていると、また人格が変わった。
が、今度は聞くまでもなかった。
鋭いまなざしーまおだ。
秋葉はふと、彼女の目を見て、橘に似ていると思った。
橘とは去年死んだ日本の犯罪史上最悪の殺人鬼であり、秋葉の親友だった男である。
「どうしたの?」
まおは固まっている秋葉に聞いた。
「いや、何でもな」
と答え、
「何かしたいことは?」
と聞きながら、彼女たちの物の入った袋を出すとまおは
「その袋に私、用の物は入ってないよ」
「そうだね」
秋葉は、真田警視がまおを説明したときや、まおを押さえたときのことを思い出した。
「本は好きかい?」
「ああ」
「君の好きな本があるか分からないけどあそこに何冊かあるよ」
と言い本棚を指さした。
本棚を見ているまおの後ろ姿に何気なく
「密輸の現場とか、危険な場面を見たことあるかい?」
まおは振り向いて、
「私の言う事信じる?」
まおは少し不安げに言った。
「ああ」
秋葉も真面目に答えた。
まおは椅子に座った。
秋葉も向かいの椅子に座った。
「・・・」
「・・・」
2人の間に沈黙が流れた。
「・・・。いつ頃かは忘れたけど、」
まおはゆっくり語り出した。

目を開けたら暗いところで、空気も薄かった。腕を伸ばすと壁に当たり、箱の中に入れられて いると分かり焦った。箱が引くと開いたから出ると、沢山の箱が合った、1つ開けると白い粉が 沢山入っていた。多分薬物だと思う。あと、他の箱には銃が入っていた。しかも、本物らしく、 実弾もあった。
 ヤクザか。飛行機の中にいると分かって、慌てた。空気が薄いということは多分飛行機の中だ と分かり、何とかしなくっちゃと思って、私の入っている箱を見ると、英語でアメリカ行きと書いてあったのを、日本行きと書き換えた。うまくいけば、戻れると思った。
 それくらいしか、何も出来そうになかったから。また箱に戻った。
 そして、ついにアメリカの航空に着いた。

「それで・・・」
秋葉が急いで聞くと、まおはくすくす笑い。
「最後まで聞いて」
と言い。続きを語り出した。

最近航空では荷物の積みミスが多かったらしくすぐ別の飛行機に乗せられたは、そして日本の航空に着いていた。
でも、私の入った箱は全然下ろされなかった。
不審に思っていると箱が開けられた。
そして、同い年くらいの男を中心に見るからにヤクザ・・・いやそんなモンじゃなかった。
血も涙ねえ目だった。
同い年くらいの男が
「ごめんね。手下が君を飛行機に乗せたんだ」
と言って私に手をさし出したから、手を引っぱたいてやった。
そしたら、驚いた顔をして、
「僕たちをなんだと思っている?」
と、聞いた。
「密輸組織。ヤクザ。マフィア。とにかく、拳銃や、薬を持っている。」
と、私が言うと男の一人が銃を突きつけたけど同い年の男が腕で制したからやめた。
「勇敢だね、みおとは大違いだ。名前を聞いておこうか。なんていうんだい?」
「まお」
「まお、良い名だ」
と言って、少し私の目を見てから。
「外の奴はみんな僕の仲間だ。そいつらに、君のことは言ってある。安心してここから出ろ」
「あんたらのことは言っても無駄なワケね」
「ああ。好きなときに出な」
と言って、男たちは去っていった。
私が飛行機を降りると側にバスが止まっていて、
「乗ってください家まで送ります」
と言われた。
何も出来そうになかったから乗った。
しばらく進んで、私じゃなくなった。

「その同い年くらいの少年たちの顔は?」
「覚えている。」
秋葉は慌てて紙を出し、
「書いてくれ」
「ああ」
と答え鉛筆持ったとたん目を閉じた。
目を開けると、もうまおではなかった。
「誰だい?」
「もえ」
と答えあくびをした。
「ねるかい?」
秋葉が聞くと、うれしそうに「うん」と答えた。
その日はそれきり人格の変更はなく、まおに人相書きを書いてもらえなかった
しかし、ジョン・ケインという映画スターが何か絡んでいそうなことは分かった。
秋葉はみおを寝かしつけ、自分も寝ようとしていると携帯が鳴った。
真田警視が状況を聞くためにかけて来たのである。
秋葉はそれぞれの人格から聞いたことを話したあと、
「まおは見てくれだけです。怖いのは」
秋葉にはふとつぶやくように言った。
自分でも脈略もなく話していると思ったが、どうしてもこれだけはいいたかった。
まおの顔を見ていると、まおと話していると、橘に重なってくるのである。
「やっぱり、君はまおを一番気に入ったか。」
「はい。彼女には橘が重なるんです。」
「ま、詳しいことは明日本庁で」
「はい」
「彼女を連れてきてくれ」
「はい」
「じゃ」
真田が電話を切ったのを聞いて、秋葉も電話を切った。


続く




おっとり捜査の間 
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