平成13年度 第三回都議会定例会

2001年9月27日 一般質問&答弁

馬場裕子

 
 一 東京都の人権施策について
 二 東京の交通関係施策について
  ※実際の本会議では、まず、全ての質問をした後、まとめて答弁があります。

 東京都の人権施策について

○馬場 21世紀は人権の世紀と呼ばれております。私は、世界平和を望む者として、国家を超えての人権意識を持つことがあらゆる差別をなくし、ひいては国家間、個人間の平等な関係をつくることができるのだ、そういう共通認識が持てる時代が来たことを大変うれしく思っております。
 50数年前、地球上で最大の戦争終了を機に、多くの国々は国連に集い、平和な人権尊重社会を築くため、世界人権宣言を初め、人種差別・女性差別撤廃条約、児童の権利条約の採択など積極的に取り組んでまいりました。さらに、平成7年から16年まで、人権教育のための国連10年として行動計画が策定されております。我が国も平成9年に国内行動計画を策定し、人権教育の積極的推進を図っている状況にあります。
 こうした中、アメリカで発生した同時多発テロは、断じて許すことのできない無差別暴力であり、報復に続く戦争も地球上で最大の暴力になる可能性があります。ニューヨークのみならず、世界じゅうの都市が危機管理のあり方に悩んでいると思われます。けさのテレビでは、シェルターの話題が出ておりました。子どもたちが不安がっております。不必要に危機感をあおることのないよう、今後の対応を願っております。
 先般より知事は、東京を千客万来の国際都市とすべく、さまざまな施策を進められておりますが、来訪する外国人を初め東京に暮らす都民の人権が守られ、真に安心して暮らせるまちでなければ、それは絵にかいた餅になってしまいます。東京を安全で国際的な魅力のある都市とするためには、このような国内外の動向を踏まえ、真に人権を守る都市とすることが重要であると考えますが、知事のご所見を伺います。

●知事 人間の存在や尊厳が脅かされることなく、安心して暮らせる東京を実現する上で、治安の維持も含めて、人権の尊重が重要な、不可欠の課題であることは当然であります。現在、東京には、子どもへの虐待や犯罪被害者に対する人権侵害など、さまざまな人権問題が、新しい人権問題が生じております。今後とも、だれもが安全に安心して暮らせるまち、また、魅力のある国際都市とするために、基本的人権を守るさまざまな施策を推進していきたいと思っております。

○馬場 国際都市東京に住む者として、また将来、国際社会の中で生活する青少年のためにも、人種や宗教、性別、年齢、障害など、あらゆる違いを理解できる人権意識を持つことが必要です。また、弱い者への暴力は犯罪であり、差別は人権の侵害であることを少しでも早く自覚することが、いじめなどの加害の拡大を防ぐことになります。援助交際やメル友事件など、大人みずからが犯罪との認識を持たないことに対して、大きく責任を問われなければなりません。都の人権に関するアンケート調査では、若年層ほど、特に性や人権に関する意識が希薄となっております。子どものころから自分を守るため、また他者との関係をきちんと構築できる人権教育、啓発を行っていくことが必要と考えますが、ご所見を伺います。

●総務局長 基本的人権が尊重される社会を実現するためには、人格が形成される早い段階から、人権尊重の精神が感性としてはぐくまれることが大事だと考えております。そのため、東京都はこれまでも、子どもの発達段階に応じながら、人権教育、啓発に取り組んできたところでございます。今後とも、人権問題を敏感にとらえる感性や、日常生活において人権への配慮が、その態度や行動にあらわれるよう、人権教育、啓発に一層の創意工夫を凝らしてまいります。

○馬場 また、行政はあらゆる立場で都民の人権を守ることを要求されます。よって、相談機関に従事する職員を初め、行政に携わるすべての職員に対し、職務に対する専門性とともに、人権尊重の理念を理解し、実践するための研修が必要と考えますが、ご所見を伺います。

●総務局長 行政の仕事は、大なり小なり人権にかかわりを持っていることが多いわけでございます。このため、各分野の職員が、首都東京にふさわしい国際的視点に立った人権感覚を身につけることが重要であると考えております。都はこれまでも、人権に関するこうした課題を十分理解し、人権意識の醸成に重点を置いた職員研修を実施してまいりました。今後とも、人権に配慮した視点に立ち、職員研修の充実強化に努めてまいります。

○馬場 昨年から人権に関する法律が続けて制定されております。犯罪被害者保護法、児童虐待の防止等に関する法律、ストーカー行為等の規制等に関する法律、人権教育及び人権啓発の推進に関する法律、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律、これらのうち暴力に関する三件は、民事不介入として、家庭生活の場での出来事と放置されてまいりました。
 国会でも、男女平等意識の大きな高まりから各党による調査検討が進められ、男女間、家庭内であっても、すべての暴力は犯罪であるとの認識が強まり、法の制定とともに前文に明記することができました。しかし、これらは、歴史的慣習や被害は被扶養者が多いという状況から、まずは隠れていたものが見えてきたにすぎないといえます。いずれも、法の施行に当たっては、国とともに各自治体が具体的な対応を図る責務があります。
 この10月からは、今まで家庭の中に隠されていた暴力に関して、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律、略してDV法が一部施行されます。被害者に対する相談や一時保護に加え、保護命令が出せることになります。その後の自立支援も含め、都と区市町村、福祉事務所、婦人相談員、警察署等の関係機関、NPOや民間シェルターとの連携と協力が重要であり、都として、DV被害者への対応について、体制をより充実整備していくことが必要と考えます。都としてのDV対策への取り組みについてお伺いをいたします。

●生活文化局長 都はこれまでも、ウィメンズプラザでの相談や女性相談センターにおける相談、一時保護など、DVへの取り組みを行ってまいりました。また、今年度から直営化しましたウィメンズプラザにおいて、夜間相談、DV被害者サポート相談、男性への相談を新たに始めるなど、相談事業の充実を図ってきたところであります。このたびのDV法の施行に当たっては、ウィメンズプラザと女性相談センターが連携し、保護命令への対応も含め、都民が利用しやすく安全な配偶者暴力相談支援センターの機能整備を行ってまいります。さらに、被害者への支援を円滑に行うため、現場レベルでの連絡会など、関係機関や民間との連携協力関係を構築してまいります。

○馬場 児童への虐待に関しましても、昨年防止法ができた以降も、残念ですが児童相談所などへの相談件数が増加しております。都は、これまで全国に先駆け、虐待問題の専門所管として虐待対策課を設置するなど先駆的な対応をとってきたことは、高く評価いたします。しかし、根本的に問題を解決するためには、児童相談所と地域の関係機関との、ネットワークの構築による総合的な取り組みが必要と考えます。児童虐待への取り組みについて、都のご見解を伺います。

●福祉局長 児童の虐待については、福祉、保健、医療、教育、警察等の関係機関が地域の中で一体となって総合的に取り組むことが必要であります。都では、こうした観点から、児童相談所の機能強化に努めるとともに、予防や早期発見などに重要な役割を果たす区市町村との連携を図ってまいりました。今年度は、区市町村が中核となって、具体的な実践を通じて連携のあり方を探る児童虐待防止ネットワーク事業を実施しております。今後、この成果を踏まえて、児童虐待に地域全体で対応する仕組みを構築してまいります。

○馬場 ドメスチックバイオレンスや子どもへの虐待についての都の対応状況を伺っておりますが、行政の責務として、個人情報やプライバシー保護への対策をきちんと立てることを求められるとともに、家庭への立入調査や、強制的に子どもを保護しなければならないかなどの判断、危険を感じる一時保護先への同伴など、職員としてできる職務範囲ぎりぎりの救済保護のあり方については、今後の検討課題であると考えます。
 今まで述べましたように、東京における人権問題は多様化、複雑化しており、今後、救済、保護を効果的に行うためには、各相談機関の緊密な連携により、迅速、効果的な相談体制を充実するなど、総合的な施策を講ずる必要があると考えます。都として、東京都人権施策推進指針を踏まえ、相談体制の充実にどのように取り組んでいくのか、お伺いをいたします。

●総務局長 東京の人権問題は多様化、複雑化しておりまして、その解決に当っては、各相談機関相互の密接な連携を図ることが求められております。昨年11月に策定した東京都人権施策推進指針におきましては、各人権分野における相談機関及び救済保護機関を結ぶ東京人権ネットワーク、これは仮称でございますが、これの構築や、この仕組みを十分機能させるトータルコーディネート部門の設置を掲げております。今後、こうした施策の具体化に向けた検討を行いまして、都民からのさまざまな人権相談に迅速に、かつ適切に対応していきたいと考えております。


 東京の交通関係施策について

○馬場 知事は、本定例会冒頭の所信表明で、都市への集中、集積は、文明の進展に伴う歴史の公理であり、社会活力の源泉でもある。それが今、大気汚染や交通渋滞など大都市特有の深刻な問題を抱えてしまい、今までどおりの全国一律の政策では破綻するとし、我が国最大の都市として交通政策を成功させ、全国共通のフォーマットとしたいと表明されました。しかし、交通運輸政策は国の所管事項であり、近年、国は交通運輸全事業分野で規制緩和政策を強化してまいりました。ほぼ全事業で需給調整規制を廃止したことになります。その結果、ここ10年で小規模化する運輸事業者の増加と経済不況のため、運賃水準の低迷、企業基盤の脆弱化が進み、雇用不安、労働環境・条件の悪化が深刻化しています。こうした東京の状況を見るとき、国の規制緩和政策がもたらすプラスとマイナスについて、また、都の施策への問題など、自治体として対策を立てなければならないと考えますが、このような国の規制緩和政策について知事のご所見を伺います。

●知事 我が国は戦前は典型的な中央集権国家としてやってまいりましたが、その残滓は戦後にも続きまして、戦後は戦後で経済成長の過程で、終身雇用、年功序列賃金、護送船団方式などに代表される日本独特の社会システムを構築してまいりました。こういったシステムは、高度成長期には豊かさの拡大を支えるのに効果もありましたが、しかし、行き過ぎた平等や私の利益を重視し過ぎて、公の利益を軽視する傾向を助長もいたしました。規制緩和は、こうしたシステムをようやく見直して、個人企業の自立を促し、自己責任に基づく多様な選択を可能にするものでありまして、我が国の活力を取り戻すために、痛みも恐れずに進める必要があるとは思いますが、ただ、規制緩和を行うならば、その余波として起こってくる問題に対するセーフティーネットというものの整備をきちっとしませんと、非常に結果がゆがんだものになってくるという気がいたします。都としても、そういうセーフティーネットに関しての施策というものは、できるものから積極的に進めていきたいと思っております。

○馬場 国は、規制緩和の理由として、競争の促進による効率化、活性化によって、交通運輸分野でのサービスの向上、利用者利便の向上が期待されるとしています。しかし、実態は、経済の長期低迷と規制緩和による競争の激化で、交通運輸各事業者の経営状況は悪化しています。さらに、バス、タクシーなど営業車の台数増は低賃金労働を生む傾向にあります。このような中で、トラック労働者を初めとして過重なノルマが課せられているなど、交通関係労働者の労働環境は一層厳しくなっております。こうしたことは、たび重なる交通法規の違反を頻発させ、ひいては交通事故にはね返ることも予想され、社会的、経済的、人的にも大きな損失を生むこととなります。このような社会的問題は、交通関係者の労働環境の改善なくして解決はないと思います。都として、交通関係労働者の労働環境の改善を図るため、どのような取り組みが必要とお考えですか、ご見解を伺います。

●産業労働局長 雇用情勢が悪化している中で、労働基準法や厚生労働省告示の自動車運転者の労働時間等の改善のための基準を守らない事業者があると聞いております。このため、法的な監督権限を有する国に対して、労働条件の適正化を図るよう要請しているところであります。また、都としては今後とも、労政事務所による労働セミナーや職場改善訪問事業などの取り組みを通じて、事業者に対して関係法規等の普及啓発に努めてまいります。

○馬場 知事は、国際観光都市として都の観光産業の育成に向けた積極的な取り組みを進めると表明しておられます。その観光都市を支えるのが交通環境です。来年6月にはワールドカップが開催され、一時的に多量の観光客が見込まれます。またさらに、高齢化が急速に進行している現状にあっては、高齢者、障害者を初めとして、だれもが安心して利用できるタクシー、バスや歩行空間などの日常的交通環境整備が重要となります。こうした観点から、世界に誇れる大都市東京のまちづくりが急務と考えます。ハード、ソフト両面から、まち全体のバリアフリーを推進すべきと考えますが、ご所見を伺います。

●福祉局長 だれもがまちの中で安心して行動できるようにするためには、ハード、ソフトの両面からバリアフリー化を進めることが重要な課題でございます。そのため、都では従来から、福祉のまちづくり地域支援事業、だれにも乗り降りしやすいバス整備事業などを実施してきましたが、福祉改革推進プランにおきましては、新たに5カ年にわたる緊急整備事業を計画化し、地域におけるバリアフリー化を重点的、集中的に推進することといたしました。区市町村や事業者等と協働しながら、この計画の確実な達成を図り、東京のまちのバリアフリー化を推進してまいります。

○馬場 地下鉄の増設が進み、中距離の都民の足は便利になりました。しかし、高齢時代を迎えた都民の足として、玄関から玄関へのサービスができるタクシーの多様な利用形態が望まれますが、一方で大きく目につくのがこのタクシーのはんらんです。バブル期の増車に加え需給調整規制の緩和で、何と空車タクシーは五六%と半数を超え、流し営業を初め、時間や走行距離などに関する規制の見直しがないまま、流しても客待ちをしても幹線道路の交通渋滞をもたらし、むだな車両として都市機能を低下させ、環境に負荷をかける大きな原因となっています。
 以前よりタクシー等に対する国の規制や指導は、一定距離、時間とも流すことを基本に細かく策定されたままで、大都市東京の現状に即したサービスが提供できにくい状況にあります。今後は、IT技術の活用でむだな走行を削減し、東京の環境と福祉に配慮したシステムをつくっていただきたく、ご検討をお願いいたします。
 交通渋滞の大きな原因に、路上駐車があります。国土交通省が初めて行った全国の路上駐車実態調査で、全国ワースト20のうち、東京は、ワーストワンの三田警察署付近で260台に上るほか、6カ所を占めることがわかりました。自動車による物流は、東京の都市生活を支える上で必要不可欠なものです。しかし、荷さばき駐車スペースは足りず、路上駐車せざるを得ず、交通渋滞の大きな原因になっています。
 そこで、物流の効率化と路上駐車の削減を図るため、荷受け側の一定規模以上の建築物に荷さばき駐車スペースの確保を義務づけたり、商店街による共同荷さばき駐車スペースの設置を促すなど、荷さばき車対策に早急に取り組まれることを要望いたします。
 次に、ロードプライシングについては、6月に検討委員会より報告書が出されました。課金という形により発生交通量を抑制するという手段は、車の利用者に負担が大きいほど効果があるという、線引きが難しい制度だと考えます。また、課金はだれが負担をするのか、道路無料公開の原則との整合性など、今後、TDMの中で十分な検討が必要と考えます。
 最後に、私は今回、東京の交通運輸及び労働環境の問題と今後の課題を、都市環境やまちづくりとあわせて総合的に考えてみたいと思いましたが、国の所管事業が多く、都の交通問題を都みずからで対応できないことを改めて思い知らされました。知事も、きっと同じ思いで東京構想2000を策定されたことでしょう。東京の交通政策を成功させるために、東京の交通自治権を確立してください。