石英病
背骨がきしきしと冷えるので
勧められて医者に行く。
医者はレントゲン写真を何枚も貼り付けながら
首をかしげたのち、さらりと診断を下した。
石英病。
知られていない病名ですが
珍しくはない症状で
貴方の様に背骨に発症するのは
真性なものです。
脊髄から滲み出た
背骨の成分が一部石英化していくもので
背骨全体が石英と化すまで
何十万年かかかりますので
心配なさらずに結構です。
どういうわけだか、
古来貴方の体を形作る成分であった
貴方の形以前のものたちが
体に滲んでくる事がありまして
先祖がえりともいいますが
貴方の場合はそれが石英であっただけの話。
石英化の激しい方のご遺骨は
それはもう立派な水晶の骨で
珍しいものは博物館にも展示されていますが
大丈夫
水晶骨でも生きていくことはできるのです。
合併症状として
透明なもの
冷たくあたたかなもの
瑞々しく乾いたものに
過度に惹かれる状況がありまして
中毒症状をひきおこしますと
それなしでは生活が困難になります。
そうならないように
石英化を遅らせる手段として
日ごろから極力
濁ったたべものと
濁った景色と
濁った思想で
純化を防ぐのがよろしいでしょう。
できるだけ
透明な水は飲まないこと。
私は几帳面に医者の言うことにいちいちうなずく。
医者は透明な丸眼鏡の奥から私を見極め
勿論、
と一息つく。
これらの処置を行わずに
石英の背骨を貫く生き方もあります。
透明に身をゆだねて
純度の高い背骨を作るのも
石英病患者の
ひとつの生き方です。
診断を終え
とりあえず大した病気ではないと
私は勝手に判断し、
普段通りの生活に戻る。
濁ったたべものも食べるし
透明な水も飲む。
今のところは不自由はない。
ただ願うらくは
私の最期
焼かれた骨の中にひとつぶでも
水晶のかけらはでてくるかしら。 |