【04:ひなたぼっこ  .....『ほのぼの10title』より






「うーん、良い天気!洗濯物日和だなぁ……」


庭に出て、う〜んと伸びをする。

キラの足下には、洗濯物の詰まった籠。
そして見上げる先には、完璧なまでに青い空が広がっている。

最も、そうなるように前もって『調整』されていたのだから当たり前。

ここは全てが在るがまま流れるままな地球ではない。
けれども、キラにとってはあまり関係ない様子。
前もって一週間の天気情報(全て確定なので予報ではない)を特に気にしたりはしないから、あまり地球にいたときと変わらないかもしれない。



「さてと、ちゃっちゃか干しちゃわないとね」

鼻歌まじりに作業開始。

奇麗に刈り揃えられている芝生が美しい、キラからすればちょっと広すぎる庭。
そこに、次々とカラフルな布が飾られてはためいていった。

大きめのシャツはキラのもの。
小さなシャツはアスランのもの。
真っ白なベッドシーツにレノアさん作のお揃いのキルトピロケースがふたつ、そして芝生の上には小さな小さな靴が二組。

キラがつい先ほどまで洗っていたものの数々が太陽の下に並べられていった。





「きら……?」

どこかふわふわしたような声に振り返れば、そこには眠たい目をこしこしと擦っている子供の姿。
キラはおやと目を丸くする。
さっき部屋を出てきた時にはそれはもうぐっすりと夢の中だったのに。

「あれ、起きちゃったんだ?」
「ん………」
「まだ眠いみたいだね。もう少しお昼寝しようか?」
「んーん…いい……」

とはいいつつも、薄らとしか開かない瞳がなんとも眠たげ。
少しだけ見える緑色が、どことなくとろんとしている。
こんな様子じゃ、もう一度寝かせた方が良いような……。

でも一度言ったら聞かない子だしなぁ…とキラはちょっとだけ苦笑しながら、少し寝癖がついてしまっている髪をなでなでと梳いて直してやった。
そうすると、子供は薔薇色の頬を嬉しそうに緩めてそうっとキラの手にすり寄ってくる。
まるで子犬みたい。


「キラ、おせんたくしてるの?」
「そうだよ。ほら、アスランのもいっぱいあるよ?」
「うん、たくさんだね」
「最近あんまり出来なかったから、今日まとめてやっちゃったんだ。ほら、アスランの靴もね」


ひょいと持ち上げたのは、青と白のコントラストが鮮やかな小さな運動靴。
奇麗になったでしょ?とキラが笑えば、アスランが顔を輝かせてうんっと頷いた。

そのスニーカーはアスランのお気に入りの靴で、最近では外に行く時には殆ど毎回これを履いていた。
そのせいか、かなり汚れが目立っていたのだったけれど、今ではもうすっかりピカピカ。


実はこれ、二週間前くらいにキラがプレゼントしてあげたもの。
とはいってもいたって普通の子供用スニーカー。
ついでに言えば値段も中の下くらいで、別に特別良いものというわけじゃないけど。
それでもアスランは他にもいくつもある靴の中でもそれを一番気に入っていた。

幼年学校の入学式用にと母親に買ってもらったお洒落な黒い靴や、父親がアスランが歩きやすいようにとオーダーメイドで作らせた有名ブランドの高価なスニーカーよりも。
何よりも、そのありふれた靴が、アスランの一番。

だって、大好きなキラが買ってくれたものなのだから。


「ほら、こんなに奇麗になったんだから、また汚し放題だよ?」

にっこりと笑って言うキラ。
アスランはその意味がよく分からずに、こてっと首を傾げた。

「よごし………?」
「そう。これで沢山お外に出てお外で遊んで、また前みたいに汚れたら僕が洗ってあげるから。だからまた沢山汚していいからね?」
「よごしていいの?せっかくキレイになったのに」
「もちろん良いに決まってるさ。だって、僕はアスランがお外で楽しく遊んでくれる方が嬉しいし、靴だってきっとアスランに沢山使ってほしいって思ってるもの」

晴れやかな笑顔を前に、アスランはすこしだけ俯いた。
ちょっとだけ、恥ずかしかったのだ。
でもなんだか、ほわん……と。
頬とか、胸の奥とか、そんなところがあったかくなるような気がした。

キラの笑顔は、いつも奇麗。
あったかくて、優しくて。

だからアスランは、キラの笑顔が大好きだった。





「はぁ〜……これで終わりっと」

最後の一枚を干し終わって、キラは腰をとんとんと叩く。
なんかお年寄りみたい…と自分で思わないでもないが、屈んで背伸びをしてまた屈んで……の連続は結構腰にくるのだ。

ううんと唸っていると、先程までキラのお手伝いの代わりに花に水やりをしていたアスランがぱたぱたと寄ってきた。
手にはまだ真っ赤なジョウロが。
それを地面にぽとんと置くと、アスランは拳をつくってキラの腰をぽんぽんと叩いてやった。

「いたい?」
「ううん、気持ちいい。ありがとうアスラン」

感謝の意味を込めて頭のてっぺんを幾度か撫でると、アスランは嬉しそうに…そしてちょっとだけ恥ずかしげにはにかんだ。


「さてと、これでお洗濯はおしまい。これからどうしよう、さっきと違う絵本読もうか?」
「…………うん」
「そっか、じゃあリビング戻ろう?ソファで読んであげる」
「あ………あのね。……ここじゃ、ダメ?」
「ここって、お庭で?」
「うん。まだ…おひさまといっしょにいたいな…………ダメ?」


不安げに見上げてくる瞳。
キラは一瞬きょとんとした後、アスランが大好きな満面の笑顔を浮かべた。

───お日さまと一緒にいたい……。

なんて純粋で可愛い言葉なんだろうと、キラはついついほんわかとしてしまう。
子供って本当に可愛いなぁと思う瞬間かもしれない。

ちなみにアスランの可愛らしいお願いに対する答えは、もちろん………。


「良いよ。たまには芝生の上でっていうのも素敵だね。じゃあ、ついでにひなたぼっこもしよっか」
「ひなたぼっこ……?」
「そう。お日さまの光に当たってあったまることをそう言うんだ」
「……じゃあ、ぼくがさっきお水あげた花も、ひなたぼっこしてるの?」
「うん、そうだね。お花はお日さまの光が大好きだから、いつもいつもひなたぼっこしてるんだよ」
「じゃあじゃあ……あのおせんたくものも、ひなたぼっこ?」
「あはは!うん、そうかもしれないね。あの洗濯物もひなたぼっこ中だね」
「………みんな、お日さまが大好きなんだね」
「そうだよ、みんなみんな大好きなんだよ。アスランも大好きだよね?」
「うん!………キラは?キラも好き?」
「もちろん。僕も大好きだよ」
「ほんと……?じゃあいっしょだね」


『一緒』なのがよほど嬉しかったのか。
アスランはそれから暫くほわほわとした微笑みを始終絶やさなかった。
キラはそんなやけにご機嫌なアスランを少し不思議に思ったけれど、それでもにこにこと笑っている子供が可愛らしくて微笑ましく思った。


そうして次に始まるのは、お日さまの下での絵本読み会。


キラが本棚から持ってきた今度のお話は、太陽の王様と雲の王様と雨粒たちのお話。

とても仲の良かった太陽の王様と雲の王様は、ほんのささいなきっかけから大喧嘩をして、怒った雲の王様がお空からいなくなってしまった。
雲の王様がいなくなってしまってから、地上は雲一つない快晴続き。
最初はみんなお天気続きを喜んだけど、その間は雲がないせいで雨が全く降らず、地面はどんどんからからに乾いていってしまう。
降る事ができなくなってしまった雨粒たちは、自分達が降る事ができないせいでどんどんと干上がっていく地上を見てとてもとても悲しんで……─────。


次はどうなるの?
王様達は仲直りできるの?


はらはらどきどきとしながらも続きをせがむアスランに、キラは優しく微笑みながら絵本をめくって。
ゆったりと穏やかな、辺りに優しく響く声で物語を語って聞かせた。








「……あったかいね」

キラの胸にこてんと身を預けながら、アスランはぽつりと呟く。
絵本を読み終えてアスランをあやしていたキラは、その小さな呟きを拾ってうん?と顔をうかがった。

「お日さまが?」
「……お日さまもだけど…キラもあったかいね」
「アスランの方があったかいよ」
「ううん、キラのがあったかい」
「そうかな?」

子供体温なアスランの方が平熱が低めのキラよりもずっと温かい気がするけれど?
それでも腕の中の子供のかたくなな様子に、キラもそれ以上引き下がるような事はなく。
アスランからだとそう感じるのかもしれないなぁ……と。

「僕ってそんなにあったかいの?」
「うん。キラはね……ぜんぶあったかいの。キラがいるとね……キラが笑ったりするとね、こことかがあったかくなるよ」

小さな両手で、アスランのこころのある部分にそっと手を当てて。
そして何かを思い付いたようにぱっと顔をあげた。
自分を抱き込むキラを振り向いたその顔は、宝物を見つけた子供の様子さながらだった。

「キラ、お日さまとおんなじだ」

きらきらと輝くエメラルドグリーンの大きな瞳。
その中に写り込んだキラは、まるで宝石の中の囚われびと。


「キラはぼくのお日さまなんだね」


キラの傍でひなたぼっこできるから、いつもキラが傍にいるとあったかいんだ。
アスランは嬉しそうに笑った。
その笑顔を見つめながら、キラはそれじゃあ………と悪戯っぽく瞳を眇めてアスランのおでこと自分のおでこをこつんとくっつけた。


───それならきっと、僕のお日さまは君だね……アスラン。






++END++



アスランの太陽はキラで、キラの太陽はアスラン。
互いがいるだけで充電完了?


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