銀の月の調べ 〜アスラン誕生日記念〜









寄せては返す波の音に耳を傾けながら、ゆっくりと辿る家路。

辺りに響く砂を踏み締める音もどこか心地良い。

夜空を埋める星たちの輝きに見蕩れて暫く空を見上げながら歩いていたキラは、すぐ隣で半歩程前を歩くアスランをちらりと伺い見ると、小さく溜息をついた。
キラやアスランの髪をさらさらと攫ってゆく夜風は少し冷たさを含んでいたけれど、繋ぎ合わせた掌から伝わる温もりがそれを感じさせずにいる。

(子供みたい)

しっかりと握られている自分の手を見て、キラは内心で呟いた。
まるで月での幼い日々のようにアスランに手を引かれている自分が、少し可笑しかった。
あれからもう何年も経ったというのに、この変わりなさはなんなのだろう。

「キラ?」
ほんの微かに笑っただけなのに、アスランはそれに気付いて不思議そうにキラを振り返る。
「ううん、なんでもない。ちょっと思い出し笑い」
「へぇ、珍しいな」
キラは半歩の差を小走りで埋めてアスランの真横に並んだ。
「今日は楽しかったね。久しぶりにカガリに会えて嬉しかった」
キラの嬉しそうな顔に、アスランもふ…と優しい微笑みを浮かべる。
「ああ、そうだな。俺は結構会議で会うことも多いけど、キラはなかなか会えなかったしね。あいつ、俺と顔を合わせる度にいつもキラに会わせろ会わせろって煩かったんだぞ」

つい先程までアスランとキラは、戦時中のオーブの重要な拠点であり今では都市としての復興の著しいカグヤ郊外へと、キラの双子の姉であるカガリに会いに出向いていた。
戦後間もなくオーブ代表として就任したカガリは、オーブの復興と共に地球とプラントの橋渡し役として忙しい日々を送っている。
そういうアスランも今では地球に身を寄せているとはいえ、以前はプラント代表となったラクスの側近として動く日々を送っていたのだが、そのラクスや元戦友でもある同僚達の計らいで暫くは仕事に追われない穏やかな日々をこの地で過ごしている。
もちろんそれは、アスランの為というよりも、彼の元にいるキラの為と言ってしまって間違いはないのだけど。


「僕もずっとカガリには会いたかったよ。ちゃんと会って、謝らなくちゃって思ってた」

闇に呑まれた海の向こう側を見ながら、キラはぽつりと呟く。
あまりに寂しく儚げなその姿に、アスランは繋いでいた手にぎゅっと力を込めた。
自分はここにいる───そう主張するように。
そんなアスランの想いを受け取ったキラは、少しだけ痛みの色を滲ませた瞳をそっと閉じると、その後穏やかに頬笑んだ。



『じゃあなキラ。いいか、何かあったら必ず私に連絡を入れるんだぞ!何があっても飛んでいくからな!!もう絶対にひとりで全部抱え込んで消えたりなんかするんじゃないぞ』



ふと、数十分前にカガリに言われた言葉が蘇る。
久しぶりの再会を果たし短い時間ながらもつもる話しを沢山した帰り際、またねと振った手を不意に掴まれ、縋り付くようにして言われた言葉。
その指が、肩が、震えていたのに気付いたのはきっとキラだけだったけど。
いつも勝ち気だった彼女が不意に見せたそんな弱い姿に、かつて自分の起こした行動が残した傷跡を見た気がして、キラは表面上は優しく頬笑んで頷きながらも心の中でずっと謝り続けていた。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…………と。

許してなんていえない。
ただ自分には、謝ることしかできなかった。


思わず足を止めて顔を俯かせてしまったキラの頭に、ふわりとアスランの手が乗せられる。
もう片方の手は、キラの左手を優しく包み込んだまま。
ゆるゆると視線を上げたキラの目に映り込んだのは、幼い頃から隣にあったどこまでも透き通ったエメラルド・グリーン。
何も言わずにただ頭を撫でてくれる彼の優しさに、キラは今にも込み上げてきそうな涙を必死で耐えた。

「泣き虫だねキラは。本当に昔から変わらないんだから」

それでも全てお見通しのアスランは、キラの手をぐいっと引いて自分の胸へと抱き寄せた。
柔らかな温もりに包まれたキラは、アスランの背中に腕をまわしてその胸に縋り付く。

どこまでも優しいアスラン。
キラの突然の失踪はカガリだけでなくキラの周りの皆を………そして誰よりもアスランを深く傷つけた。
2年の時を経て再会した時のアスランの涙と叫びは、今でもキラの心に深く刻み込まれている。
その後、少し落ち着いてから会ったラクスやイザーク達の話で、キラの知らない空白の2年間にどれほどアスランが追いつめられていったのかを知った。
けれども今目の前にいる彼は、そんなものを微塵も見せずに昔とちっとも変わらない様子でキラの前で頬笑んでいる。

「ごめんね……アスラン。それと、ありがとう………」

何が、とは言わない。
言わなくても、きっと伝わっているから。

「ごめんはもう無しだって言っただろう?いいんだよ、もう……」

それ以上謝罪の言葉なんて言わせたくなくて、アスランはキラの唇に自分のものを重ねて塞いだ。
一瞬キラの体がビクッと震えたのが分かったけれど、それに気付いた素振りを見せずに口付けを深くしてゆく。
"ごめんね"も、"ありがとう"も、いらない。
こうして目の前にいて、望めばすぐに触れることができる。
また失ってしまったのだと絶望したあの時の痛みはきっと忘れられないだろうけれど、何よりも欲したこの現実があればそれでいいのだと………そう思うから。

「…ぅ……んん…っ」
アスランは微かに漏れるあえかな声に聴き入りながら、深く絡めた舌でキラの口腔を探る。
今にも零れ落ちてしまいそうな程にゆらりと溶ける紫苑の瞳を前に、アスランの口付けにもどんどん熱が篭り始めた。
「キラ、キラ…………」
「ふぁ…あ………っ」
肩を軽く抱き寄せていただけだったアスランの手も、いつしかキラの細腰を押し上げるようにきつく抱きしめていた。
啄むだけの囁かなキスと、奪い合うようなディープキスを繰り返しながら、ふたりはどこまでも続く夜空と暗い海に溺れるように互いを求め合っていった。


そんなことがいつまで続いていただろう。
アスランもキラももうすっかりと息が上がる頃。
キラは肩で荒く息を付きながら、アスランの胸へと縋り付いて、今にも崩れ落ちてしまいそうなその身を預けていた。
そしてアスランもまた、すこし低い位置にある栗色の髪に愛しげに顔を埋めている。
急激に燃え上がり、そしてゆるやかに収まりつつある熱の余韻をふたりは抱き合いながら静かに楽しんでいた───キラが急にそわそわとした様子を見せるようになるまでは。

「ア、アスラン………その……あの………っ」
「………?」
どうかしたのだろうか。
何故か急にもぞもぞと落ち着かなくなったキラに、アスランは思わず抱きしめる腕を緩めた。
戸惑うように上げられたキラの顔は、耳や首筋までが朱に染まっていて───。
「どうしたのキラ」
不思議に思って瞳を覗き込みながら尋ねると、キラはこれ以上は耐えられないとばかりに視線を逸らして、恥じ入るように小さく呟いた。

「あ、当たってる………んだ、けど……」

なにが?
そう聞き返そうとした瞬間。

「─────っ!!」

ぽんっと音がしそうな勢いで、アスランの顔に血が上った。
思わず視線を下の方に下ろしていくと…………。
「うわ……っ!ご、ごめ…………っ!!」
「いや……うん、別にいいんだけど…………」
ちょっと恥ずかしかっただけと、相変わらず顔を真っ赤にしながらキラがぼそぼそと呟いた。
一方アスランはといえば、あまりにも正直すぎる自分の体に思わず顔を覆った。

確かに最近はずっとキラとそういうことが出来なくて、欲求不満気味だったことは認めよう。
片手で数えられる程とはいえ既に体を重ねたことがあり、その喜びと心地良さを知ってしまっているこの身にとって、愛しい人を目の前にしながらもそれをすることができないのは正直かなり辛い。
本当なら毎日だって抱き合っていたいのだ。
けれど、今のキラの体のことこそを思えば、そんなことが出来るはずもなく───。

「その…………い、いいよ?」
「え………」
「だって……ええとその……随分我慢させちゃったでしょう?僕の体調が落ち着かないせいで………さ」
恥ずかしそうに、そしてすまなそうに呟くキラに、アスランは思わず目を丸くする。
キラがそんなに気にしているとは、正直思わなかった。
確かに大分我慢はしていたかもしれないな……と内心で苦笑しつつも、それをキラに悟らせるような真似はしない。
キラが欲しい気持ちは確かにあるけれど、それを急くつもりはなかった。
今はただ、体と心を癒している途中のキラを、彼の一番近くで見守り支えていてやりたいのだ。

「キラ………いいんだよ、無理しなくても。俺なら平気だから……」
優しく諭すように頬を撫でてくるアスランに、キラは違う違うと激しくかぶりを振った。
「違……っ!そうじゃ、なくて…!!無理するとか、そういうんじゃ…なくて………その…ぼ、僕も………」
「………キラ?」
「僕も、アスランの事…………欲しい、から…………」

しん………と、両者の間に沈黙が降りる。

ついさっきまでBGMと化していた波音が、やけに大きく聞こえる気がした。
キラはといえば、今更とはいえ言ってしまった自分の言葉の恥ずかしさに口を開いたり閉じたりしながら顔を真っ赤に染め上げ。
もう一方ののアスランはといえば、あまりにも思いがけないひとの口から思いがけない台詞を耳にして、不覚にも石のように固まってしまっている。

「ちょっと………な、何か言ってよ」

「あ…うん。…………ごめん」

何を謝ってるんだろう、とお互いに思いながら、ついつい同時に視線を地面に落としてしまう。
まるで付き合いたてで互いの間合いを掴めずにいる、初々しい恋人達のようだった。
「キラ………本気?」
「………本気、だよ。それに、どうせいつかこうなるんだったら、それが今だっていいはずでしょ?」
「それは……そうだけど。でもおまえ……」
「体のことなら大丈夫だって。したらいきなり壊れる程ヤワじゃないよ」
それでもまだ心配そうなアスランにキラは、君は昔っから心配性だねと笑った。
そうなったのは昔っから心配ばかりかけるお前のせいじゃないかとアスランは反論しかけたけれど、言えば倍近く文句が返ってくるだろうから喉元まで込み上げたその言葉は呑み込んだ。

「それに……ほら、もう日付けが変わってる」
キラは、先日アスランがら贈られたデジタル時計を見せながら、意味ありげに頬笑む。
「今日は特別な日だから、もしもう一回そういう風にふたりの関係を始めるなら今日かなって………ほんとはずっと思ってたんだ」
「ちょっと待って。今日が、どうかしたのか?そういえば家を出る前にもそんなふうなことを言っていたけど…………」
本当に分からないらしいアスランを前に、キラははぁっと大きく溜息をついた。
「もしかしてって思ったけど………本当に全然、全く、忘れてるんだね。なんていうか、そこがアスランらしいけどさ」
そう言って苦笑するキラに、アスランはますます訝しそうに眉を寄せた。
「キラ……?俺、何か大切なこと忘れてる?」
「ううん、いいよ。確かに君にとっての大切な日だけど、この日を僕が覚えてるっていうことに意味があるんだからさ」
どこか晴れやかに笑うキラに丸め込まれた感じがしたけれど、アスランはそこで引くことにした。
キラが笑っているなら、それで良いのだから。


キラの頭に手を添えて引き寄せると、もう一度淡い朱の唇を掠め取る。
へ……っと、不意打ちを食らって素っ頓狂な声を上げるキラにアスランは満面の頬笑みを見せると、今度は噛み付くように口付けた。
「んぅ……ア…ス……ッ!」
苦しげに喘ぐキラを優しく抱きしめながら、その体をそっと地面に押し倒していった。
「………え?って、まさか…ここで………っ?!」
あまりにも予想外の事体に、キラの瞳が見開かれる。
キラがひとりであわあわしている間に、アスランは自分が羽織っていた厚手の上着をキラの下へと敷いてしまうという用意周到ぶり。
キラはといえば、いくらそういうことをしてもいいとOKを出したからといって、まさかこの場でコトに及ばれるとは思うはずもなく───。
だってここはいくら人気がないとはいっても、外、なのだし。
アスランは焦りを見せるキラを容易く組み敷くと、その細い両手首をやんわりと拘束した。

「我慢できない」

耳朶を甘噛みしながら耳元で低く囁かれ、キラの背中にぞくりと甘い戦慄が走り抜ける。
「今すぐキラが欲しいんだ。だから、俺に頂戴」
キラを慮り硬く閉ざしていたはずの理性の扉。
それを解き放ったのは、他ならぬ君なんだよ───と。
キラのシャツの上から3つまでのボタンを片手であっさりと外し、大きく解放した襟元を指先で弄びながら、うっとりするようなテノールでキラを誘う。

「キラを、ぜんぶ頂戴」

月明かりを背負いながら艶めいた微笑みを浮かべるアスランは、息を呑む程に奇麗だった。

「……いいよ。ぜんぶあげる。僕には、何もあげられるものなんてないから……だからせめて………」

あの空白の2年間には、懐かしい月を見上げて目の前に居ない幻に言葉を贈ることしか出来なかった。
だからこそ……こうして再び過ごす今日のこの日には、僕の全てを君に───。











「あ………っ」
鎖骨の辺りにちくりと囁かな痛みを感じて、キラは思わず喘ぐ。
その様子を横目で伺いながら、アスランはさらなる所有の印を刻み付けようと喉元や首筋や肩といった具合に次々と唇を寄せてはきつく吸い、鮮やかな朱の華を散らしていった。
その度にぞくりと背筋を走る甘い痛み。
「ちょ……っ。そこって…、み、見えちゃうじゃ…ないか………!」
服を着ても到底隠せないような場所───耳のすぐ下に唇を寄せられて、キラは慌てて
抵抗の意を示した。
アスランの望むままにと思いはしたけれど、そんな人に見られるような場所に印なんて付けないで欲しい。

「駄目」

でもそんな抵抗は一言の元にあっさりと切り伏せられ、なんとか体を離そうと胸を押していた両手も再び地面に縫い止められてしまう。
「うちにわざわざ来るのなんて、ラクスとかイザークとかディアッカとかそういう連中だけだし。皆知ってるんだから、見られた所で今更だろう?」
「それでも恥ずかしいものは恥ずかしいの!それに、もしかしたら今日みたいに僕が外に出ることもあるかもしれないじゃないかっ」
「キラが?外に?」
それは有り得ないと言外に含んだ言葉を、アスランは少し面白がるような声音で呟いた。
少しカチンときたキラは、そのまま噛み付くように睨み付ける。
「なんで?先のことは分かんないだろ」
「分かるよ。だって、俺が出さないもの」
「へ…………?」

一瞬きょとんとしたキラに少しだけ笑って見せた後、アスランは大きくはだけられて晒されているキラの薄い胸に手を這わした。

突然再開された愛撫に、キラの腰が大きく震える。
「ア、アスラン…………!」
「今日は珍しくカガリがこっちの方に視察に来たから、特別にだよ。いくら何でも代表で忙しい彼女をこんな辺境まで引っ張ってくるわけにはいかないだろう」
最も、カガリは何度も自分が行くと言っていたけれど、そんな時間が取れないことはアスランだってキラだって分かっていた。
今日だって、彼女の宿泊先であるホテルにまで出向いての姉弟の久しぶりの対面の時間は、カガリが交渉に交渉を重ねた上でほんの2、3時間だけだった。

「キラはまだ本調子じゃない。そんなにちょくちょく外になんで、とてもじゃないが出せないよ」
最も───と、思い出したように付け加えると、アスランはキラを間近で覗き込みながら、艶やかに頬笑んだ。

「体調が戻っても、出さないかもしれないよ?もう勝手にどこにも行かないように、俺に縛り付けてしまうかもしれない。籠の中の鳥みたいに」

すっと細められた双眸に、キラは茶化し気味な言葉の中の本気を感じ取って小さく体を震わせた。
それは、恐ろしいから───?
キラは自分で自分に問いかけながら、いいやと内心首を振った。
確かに少し……少しだけ、怖いと感じたかもしれない。
けれど、それよりも尚大きく感じたのは───甘美な歓び、ではなかっただろうか。
普段は心の奥底に沈めてある独占欲の片鱗をこうして曝け出す彼が、たまらなく愛しい。
もしかしたら自分は、力強くて優しくてまだどこか底の知れないあの腕に縛られることを望んでいるのかもしれない………と。
胸元をやんわりと刺激されることで漏れそうになる声を必死に噛み殺しながら、そう思った。


「ふ……ぁあ……っ!!」
突然胸の淡く色付く突起を摘まれ、キラの口からとうとう抑えていた甘い声が漏れ出る。
「キラ、ここが好きだったよね」
指の腹で優しく撫でさすり転がされ、時には強めにきゅっと摘まれる。
「ひ…やぁあぁー…!!」
「気持ちいいの?」
「や……ちがっ」
懸命に否定の言葉を紡ぐその姿にくすりと笑みを浮かべると、アスランキラの胸元に唇を寄せた。
そして、施した愛撫によってより一層赤く色付いたそこに、わざと音を立てるようにしてちゅっと吸い付く。
「ひぃ………っ!!」
悲鳴のような声と共に、キラの白い喉が美しい弧を描いて仰け反った。
片方は唇と舌で、もう片方は繊細な指先で胸の敏感な突起を執拗に嬲られる。
緩急をつけた巧みな愛撫にキラはひたすら翻弄されるしかなかなかった。
時折歯や爪をカリリと立てられてしまえば、キラにはもう快楽に啜り泣くしかできない。
「ふぁ…ぁん
…っ」
自分のものではないような甘えた声に羞恥を覚えて懸命に口を閉ざそうとしても、今度は荒々しい口付けによって噛み締めていた唇を容易に抉じ開けられてしまう。
唾液の混ざるぴちゃぴちゃという淫猥な音が静寂の支配する辺りに響き渡る。


「声、殺さないで。もっと俺を受け入れて」
「はぁ…あ……ぁああ…!!」
熱っぽく囁かれる声と当時に胸の蕾にきつく爪を立てられ、キラは声を噛み殺すことも忘れて嬌声をまき散らした。
胸の蕾は今や嬲られすぎて痛々しいほどにぷくりと膨らみ、その存在を主張している。
「胸だけでそんなに感じて……。相変わらず敏感だね、キラは」
胸への愛撫を止めないままわざと羞恥を煽るようにそう告げれば、キラは熱で潤んだ瞳をぎゅうっと閉ざして、ふるふると力なく首を横に振った。
そんなキラの愛らしい様にアスランは優しく頬笑むと、耳元で囁かれることに弱いキラを殊更追いつめるように耳元で低く甘く囁いた。

「うそつき」
だって───ほら、ここだってもうこんなに感じてる。

赤い蕾を嬲っていた指先を下に下にと滑らせて到達したその場所───キラの中心は、既に頭を擡げてじわりと蜜を零していた。
「ふぁあぁあああ………っ!!!」
立ち上がったその場所を布越しに擦られて、急な強すぎる快感にキラは目尻に堪っていた涙を散らしながら喘いだ。
「下着の上からでも、濡れてるのが分かるよ?」
「や……やぁっ!言わな…でぇっ……ああ…っ!!」
どんどん広がっていく染みにアスランは笑みを深めると、ふるふると快楽に震えるキラを宥めるように頬や肩口にキスをする。
そして張りつめられた体がくたりと弛緩した間に一気に下肢を覆っていた下着を取り去ってしまった。

「あ………っ!!」

キラのそこが涼やかな風を孕む空の下に晒される。
そして、今まさに熱を交わそうとしている一番大事なひとの目の前にも。

「や……いやぁっ!やだよ…ぉ……、見ないでアスラン………ッ!!」

自分の中心がはしたない程に熱くなり、快楽の涙を流しているのがはっきりと分かった。
キラはいたたまれなさと恥ずかしさに首元まで真っ赤に染め上げながら、アスランの視線に耐えきれずに両手で顔を覆う。
「かわいい、キラ……」
初めてというわけではないのにどこまでも初々しい反応を示す姿があまりにも愛おしくて、アスランはキラの顳かみにちゅっと音を立てて口付けた。

「あいしてるよ」

顔中にキスの雨を振らしながら右手をそっと下肢に運ぶと、アスランは立ち上がっているキラの花芯をやんわりと包み込んだ。
「ん…はぁ……っ!ひぁああ…ぁ…ああぁ………っ!!!」
最も敏感な場所に直に触れられ、キラは背中を仰け反らせた。
腰がガクガクと揺れるのを抑えられない。
アスランは掌全体でキラのものを優しく握ると、根本から先端まで余す所なくゆっくりと何度も行き来して愛撫を与え続けた。
「あぁああ…っ!!アスラ…ン、アス…ラァ…ン……!!」
あまりの熱さに、頭がくらくらする。
夜風に晒された体はいっそ冷たい程のはずなのに、身の内から湧き出る熱が体中を浸食してゆく。
甘い疼きが止まらない。

「キラ」
触れてくる指先も、まるで火を灯しているかのように熱い。
「あいしてる」
「ふ……ぁ…あぁ……っ」
「気持ち良い?」
「あぅ…んっ!はぁ…ぁ……きもち…いぃ……よぉ…」
「かわいい、キラ。もっともっと気持ち良いことしてあげるから……」
───たくさん、鳴いてね?

ひどく優しい声に一瞬気を取られたキラは、快楽に蕩けたままの視線をぼんやりとアスランへと向ける。
月明かりを受けて白く光る横顔は、普段のキラからは思いもできないほどに淫らな美しさを放っていた。
アスランはとろんと溶けた菫色に優しい微笑みを返すと、先程からゆるい愛撫で苛めぬいていたキラの花芯の先端に爪をぐりぐりと押し込んだ。

「ひぃ…っ!や…ぁ…あぁああぁぁーーーっ!!」

あまりの快楽に、キラは身も世もなく悶え嬌声をあげた。
身体中に電流を流されたかのような痛みと紙一重の鋭い刺激に、頭が真っ白になる。
見開いた瞳からは、生理的な涙がボロボロと零れ落ちていった。
「やっ…アス…いやぁ……っ!ふ…あぁ…イっちゃ…ぁあ……ん!!」
「すごく感じてるね……こんなに濡らして。泣くほどいいの?」
キラのそこから大量の蜜が溢れ自分の指先を濡らすのをアスランは満足そうに見遣ると、爪を引き抜いて今度は優しく愛撫を施してゆく。
一度絶頂の寸前まで押し上げられた身体は、すでにとろとろに蕩けきっていて、内に篭った熱を解放する術をただひたすらに求めていた。
「ぁ……ああ…あぅ……っく……ん」
だらしなく開いた口の端から滑り落ちる唾液を舐めとりながらも、アスランはキラを高める手を止めることはない。
くぷくぷと泉のように後から後から沸いてくる透明な先走りを絡め取りながら、更なる刺激をを与える為にゆるゆると扱いていた手を速めていった。
「イっていいんだよ、キラ……」
「はぁ……んっ!ひぁ…ぁあああぁぁ……!!ア…アスラァ…ン…!!」
助けを求めるように伸ばされたキラの片手を取りしっかりと指を絡めると、アスランは涙で滲む美しい瞳にそっと口付けを落とした。
羞恥と快楽で朱に染まった首筋に顔を埋めてそこを甘噛みすると、絶えず響く嬌声が仔猫の甘えるような鳴き声に変わる。
キラの限界が近いことを知ったアスランは、そのまま絶頂へと導く為に再び最も感じる花芯の先の割れ目に指を這わせた。

「キラ……ほら、イって?」

指で亀裂を押し広げるようにすると、そこを少し強めに爪でカリッと引っ掻いた。

「ふぁ…っあぁあぁああぁーーーーーーっ!!!」

瞬間、瞼の裏で光が激しく煌めいて弾け飛ぶ。
キラはビクリビクリと体を大きく痙攣させながら、アスランの掌に白濁をまき散らして果てた。
その後も幾度か小さく痙攣を繰り返すと、くたりと力なく地面に横たわってしまう。


「あ…は…っ……はぁ…は…ぁ…………っ」
「キラ、キラ………大好きだよ」
アスランは掌に受け止めたキラの精を舐め取ると、くしゃくしゃになってしまった上着をもう一度敷き直して、その上にまだ力の入らないキラの身体を労るようにゆっくりと移動させる。
「辛くない……?」
「…ん………だいじょ…ぶ………。…続け…て……?」

そう言って笑うキラは、久しぶりの感覚に身体が付いていけていない様子だった。
まだ以前と同じように体力が戻ってきていないのだから、それも当然なのだけれど。
「キラ……もし辛いなら、無理することはない」
言葉ほど大丈夫じゃないだろうことを、多分キラ以上に分かっているアスランは、自分の内に渦巻く今にも溢れ出しそうな熱情と欲望を押さえつけながら優しく言った。
久しぶりに目にしたキラの淫らな姿を前に、既にアスランの体は愛する唯一のひとを欲して走り出している。
それを鎮めるには相当の苦労と苦痛を伴うだろうことは分かっていたけれど、それでもキラに無理を強いることだけはしたくなかった。
やっと再び己の腕の中に取り戻せた愛しいひとを、自分の手で壊すことなどしたくはない。

「俺の事なら大丈夫だよ。今ならまだやめられるから───」

そう言いながら少し心配気に顔を覗き込んでくる緑の瞳に小さく頬笑みを返すと、キラは目の前にある恋人の唇にちゅっと触れるだけの口付けを贈った。
「え……、キラ………?」
キラからのキスは、今までに本当に数える程しかない。
突然のことに目を丸くするアスランに、キラは少し怒ったように頬を膨らました後悪戯っぽく笑ってみせた。
「始める前も、ついさっきだって大丈夫だって言ったよ?そんなに僕は信用ないの?」
「でも………お前………」
「でもじゃない。なんで君はそうやって自分を抑えようとばっかりするかな……」

困ったように苦笑すると、キラは腕を伸ばしてアスランの頬に触れた。
そしてゆっくりと優しく、愛おしむように撫でる。

「もっと我が侭になっていいんだよ、アスラン。僕は………ずっとずっと、僕の我が侭の為に君を傷つけてきた。自分のことばかりに囚われて、ひとり残された君の想いを知ろうともしなかったんだ」
「………同じだよ、俺だって。自分のことだけで精一杯で、ずっと傍にいた筈なのにキラが苦しんでいたことにも気付いてやれなかった。それどころか、何もかも与えてやれているだなんて慢心して………結局、お前が姿を消すまで何一つとして気付けなかったんだ。否……その後もずっと、何故なんだとお前を非難するばかりで…………」
「アスラン………」
「それじゃあ戦時中と何も変わらなかったのにな。キラにはキラの立場とか、事情とか、想いがあるのだと分かろうともしなかったあの頃と…………」

懺悔するように呟きながら、アスランの表情が苦しげに歪んでゆく。
消せない痛みに揺らめく瞳が悲しくて、キラはよくアスランが自分にするように顳かみや瞼、鼻筋、頬と流れるように唇を触れさせて、その心を慰めた。

「アスランは強いよね。強くて優しいから、そうやって全部自分の中に仕舞い込んで背負おうとしてしまう。でも、あの時のことは……痛みも哀しみも、罪も罰も、ふたりで背負おうって決めたよね。一度は逃げ出してしまった僕が言えることじゃないかもしれないけれど………でも、今度こそ僕はどこまでも君と一緒にゆこうと心に誓ったから」

キラは少し冷たくなってしまった唇にもう一度口付けると、アスランの頭を自分の胸に抱え込んだ。
「体、だいぶ冷えちゃったね」
「………そうだな」
「ねぇ、アスラン」
「うん……?」


「もう一回、あっためあおう?」


少しだけ頬を染め、大きな瞳を潤ませながら、精一杯の言葉で誘いをかける。
慣れないことをした自分に穴があったら入りたい程の羞恥に襲われたけれど、けれでもそれは心からの言葉だったから、キラは瞳を逸らさずにアスランを見つめ続けていた。
そんな恥ずかしがりやなはずのキラの誘いにアスランは驚きに目を見開いた。
暫く見つめ合った後、アスランはふと一瞬瞳を附せて─────そうして子供のように小さく首を傾げながら優しく笑った。

「いいのか?もう途中で止められないよ」
「もちろん。それに……言ったよね?僕も君が欲しいんだって………」
ふたりは小さく笑い合って、どちらからともなく顔を近付けて口付けを交わした。
今度は触れるだけではなく、深く、深く─────。














「大丈夫か、キラ……?」

荒い息を整えながら、アスランは組み強いているキラの様子を伺った。
キラもまた肩で息をしながら、未だに熱が色濃く残る体を小さく震わせていた。
落ち着かせるように頬に手を伸ばして朱に色付いたそこを撫でると、キラの細い身体がビクリと大きく震える。
立て続けに何度も高みに押し上げられたことで、体がまだ敏感になったままなのだろう。

涙にぐっしょりと濡れた目許や頬を唇で拭いながら、いくらキラが望んだことでもあるといってもアスランは少し申し訳なく思ってしまう。
こんなに泣かせてしまった。
健気にも自分に合わせようと必死にしがみついてくる姿に理性を奪われ、優しく抱こうと思っていたにも関わらず大分無理をさせてしまった。

未だにキラの中に埋め込んだままだったものを、なるべく身体に障らないようにとゆっくり引き抜いてゆくと、内側からとろとろとアスランが放ったものが後を追うようにして溢れてキラの脚を伝い落ちていった。

「ふ…ぁ…あぁ………っ!」

徐々に引き抜かれていく感触と脚を伝う白濁の感触に、キラは掠れた悲鳴をあげる。
キラ本人の意思とは別に、まるで名残惜しそうにゆるやかに自身を締め付けてくる内壁に眉を寄せて耐えながら、アスランはキラの中から己を引き抜いた。

「…ん……んん………っ」

「……ごめん。もっと優しくしてあげるつもりだったのに……」

汗で張り付いた栗色の前髪を愛しげに梳きながら、ぐったりと四肢を投げ出して陶然としているキラをそっと抱き起こして腕の中に閉じ込めた。
労るように何度も繰り返し頭を撫でられ、キラはアスランの胸に寄りかかりながら心地良さにうっとりと瞳を閉じる。
やっぱりこの手がこの腕がこの胸が、一番自分を安心させてくれる。
泣きたい程の幸福感に包まれて、キラは自分を支えてくれる胸に甘えるように擦り寄った。
「このまま眠ってしまっていいよ。疲れたろう?」
「……ちょっと…だけ…………」
「後は俺に任せて、このままお休み。ちゃんと家に連れ帰ってあげるから」
「…うん…ありがと……。ねぇ、アスラン………?」
「なんだい?」
「まだ、言ってなかった…ね……。家帰ったら、もう一回ちゃんと……言うから………」

うとうととしながらも懸命に瞼を押し上げて、キラはふんわりと笑った。
眩しいくらい無邪気に。
とてもとても幸せそうに。


「お誕生日、おめでと………アスラン…」








すっかり眠りの世界に誘われてしまった可愛い恋人を見下ろしながら、アスランは思わず口元にやった手を取り払えないままでいた。

「10月29日……俺の、誕生日……?」

晴天の霹靂とは少し言い過ぎかもしれないけれど、こんなことを言うのだろうか。
自分のものなのに、ずっと忘れてしまっていたのだから。
キラに言われて初めて、今日がその日なのだと思い出した。
「そうか……だからお前、あんなこと言ってたのか…………」
そうして思い出すのは、家を出る前と、今からほんの少し前のキラとのやり取り。





『明日はとっても大切な日なんだ』



『もしかしてって思ったけど………本当に全然、全く、忘れてるんだね。なんていうか、そこがアスランらしいけどさ』



『僕には、何もあげられるものなんてないから……だからせめて………』





あの時は何を思って口にしたのか分からなかったけれど───。
つまりは、そういうことだったのだ。

「……馬鹿だな、おまえ」

愛しくて仕方がないとでも言いたげに瞳を和ませながら、アスランは腕の中で眠るキラに優しく悪態を付いた。
「自分には何もないなんて………本気で思ってるの?俺が本当に欲しいものは、いつだってキラしか持ってないのに」

月で暮らしていた幼い頃、誕生日を祝いたいのにアスランの欲しいものが分からないと言って当日に泣きついてきた小さなキラ。
あの時も確か、今と同じような気持ちになったように思う。
今ではもう遠いあの日に、泣きじゃくる君を慰めながら言った言葉を今でも君は覚えている?

"キラが一生懸命考えてくれただけで、僕は嬉しいよ?だって、僕はキラが大好きだから"

その想いは、今でも変わらない。
「お前が俺の傍に居てくれる。俺を受け入れてくれる。それが何よりも嬉しいんだ」
何もいらない。
キラ以外は、なにも───。
そしてキラは、その唯一を他でもない自分に与えてくれた。

「最高のプレゼントだよ、キラ。ありがとう」

腕の中に囲われ、安らかな顔で眠り続けるキラ。
その微かに涙の痕の残る目許に口付けて、アスランはふわりと子供のように頬笑んだ。



空に輝く銀の月が、幸せそうに寄り添うふたつの影を、いつまでも照らしていた。













++END++





++後書き++

今日は10月29日、つまりアスランの誕生日ですね。
せっかくなので記念小説などを書いてみたのですが………なんていうか、撃沈?(苦笑)ひたすら長いだけで中身がないです……ス、スミマセ……ιしかも勢いに任せて初のエロシーンなんぞを書いてしまい、恥ずかしさのあまり死にかけてます!!くっそー……せっかく王子の誕生日だからと慣れないこと頑張ってみたらこの有り様かい……。本当はR-18にしようかとも思ったのですが、ホントの本番(笑)を書いてないのでR-15に。ヌルすぎ……ですか?(びくびく)
ちなみにこのお話はSEEDの小説置き場にある『太陽の生まれるところ』の続編的なものになってます。といっても、設定をちょっと引き摺ってるだけなので見なくても読めるとは思いますが。
世間ではDESTINYも始まってるのに似非戦後設定モノって………往生際が悪いぞ、私。ま、まぁ…とりあえず、アスラン誕生日おめでとう〜〜〜〜vv

written by  深織

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