19回目の誕生日がくる。

あと少し、両手で足りるだけの日を数えたら。



特に意識もせず何の感慨も抱かずに過ごしていても、その日の存在はすぐに現実味を増して突きつけられる。
時期が近付いてくると、色々な人に必ず訊かれるから。





『何か欲しいものは?』




訊かれる度に、別に、と呟く。


毎年決まり事のように繰り返される言葉のやりとり。

変化のないそれにもうとうに飽きてしまっているはずなのに────実際に飽きてか諦めてか訊くことを止めた人たちも何人もいるのに、それでも彼らだけは、毎年尋ねることをやめようとしなかった。
返される素っ気ない言葉に対する反応も変わらなくて………いつまで経っても、呆れることも怒る事も諌めることもしなくて。



彼女は「まったく贈り物のしがいのない奴だ」と困ったように笑い、彼女は少しだけ哀し気に目を細めてから「今年も何にしようか悩みますわね」と微笑み、彼はただ「そうか」とだけ呟く。


その、繰り返し……。



だからきっと、今年も変わらないと思っていたのだろう。

皆も、そして何より────僕自身も、きっと。



だから、毎年の定例行事のようにして尋ねられたあの台詞にいつもとは違う言葉を返してしまった時、誰よりも意外に思ったのはもしかしたら僕自身だったのかもしれない。





『もうすぐ誕生日だな。何か欲しいものはあるか?』



『────がほしいな……』



『え………?』





また今年も一番最初にそう尋ねてきた彼は、ひどく驚いた顔をしていた。

今でも鮮明に覚えてる。
だって、彼のあんなに驚愕した顔は、ここ数年見ていなかったから。





────何が、欲しい?





頭を過ったのは、あの漆黒と深紅。

激しくて儚い一瞬のきらめき。





「じゃあ、あの子が欲しいな……」





戸惑いと驚愕を見せる彼に、僕は微笑む。








────ごめんね、アスラン。


僕はやっぱり、君が…君たちが望むようには生きられないみたいだ。













春の子守唄 〜ハルノコモリウタ〜



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