『キラ、お前も一緒に来いっ!!』



────本当は、本当なら………。
それが………許されるのなら。





あの時、君の元に行ってしまいたかった。










平行線上のオモイ-side KIRA-











差し伸べられたその手に、いったいどれほど縋り付きたかっただろう。


もう幾度も幾度も、僕はその手を拒んで来た。
共に……と乞うその声を、引き寄せようとするその腕を。
その、心を。
拒絶して踏みにじったのは────僕。


それなのに。



『お前が地球軍に居る理由がどこにある?!!』



それなのにどうして…………。
どうしてそんな風に僕を呼んでくれるの?
君を裏切った僕なんかを、そんなに必死に引き止めてくれるの?

────そう、裏切ったのは僕だ。

昔を捨てた様にしてザフトに居る君を、責めるような事を言った。
君の後悔も決意も何一つ知らないまま、ただ変わってしまった君の姿に、勝手に裏切られたような気になって。


────アスラン。
優しいアスラン…………3年経っても、ちっとも変わっていなかった。
ザフトの軍人になっていても…………君は、君のままだった。
僕の知っている、アスランのままだった。


それなのに、そんな君を裏切ったのは………。





変わらない、君。
………変わってしまった、僕。





ザフトの奇襲、ヘリオポリスの崩壊、新造艦アークエンジェル、そして……ストライク。
そのキーワードが組み合わさった時、当たり前のはずだった日常の全てが色を変えた。
盲目的に信じていた"いつも通り"の明日は、もう訪れない。
けれど───変わってしまったのは、日常だけじゃない……取り巻く環境だけじゃない。

───僕自身すらも。
もう、戻れない程に変わってしまったから。

幼いあの頃には、戻れない。
両親が居て、友達が居て………そして、君が居て。
それだけで満たされていた、幸せだったあの頃にはもう………。

もう、昔のままじゃ…………いられない。



どんなに君を想っていても。
どんなに君に焦がれていても。
どんなに君の傍に居たいと願っていも。





僕はもう─────君だけを、選べない。





『僕は、アスランが居てくれればそれでいいから』


昔は、あんなに簡単に言えた。
願えば、それが叶った。

けれど、今は…………?

それでも、心に根付く想いは、こんなにも変わらない。
いつだって───君を想っている。

でも、僕にはもう……それを言葉にする資格なんてないから………。





無限に広がる宇宙。
沈黙を守りながらも睨み合うザフトと地球軍の戦艦。
そして、対峙した白と紅の機動兵器。

誤って別天地に舞い降りた天使を、在るべき場所に還したあの時。

思いがけず差し伸べられたその手に、いったいどれほど縋り付きたかっただろう。
けれど………僕はもう、選んでしまったから。
僕がコーディネイターである事を知っても、変わらずに接してくれ友達を。
僕だけに戦わせられないからと、着る必要なんてなかった軍服まで身に纏って僕を助けてくれた彼らを。

例え君と戦う事になろうとも、あの優しい人達を守るって。

それが今の僕の決意。
君を拒絶してまで選んだ、僕だけの道。



だからアスラン……………ごめん……。
やっぱり君の手は取れない。



本当は………本当はね。
君の所に行きたかったんだ。
君への想い以外の全てを捨てて、君だけの傍に行ってしまいたかった。

でも………やっぱり無理だった。

今君の手を取ってしまったら……きっと僕は、一生自分を許せなくなる。
友達を見捨てて自分勝手な望みに走った僕自身を、許せなくなる。

そして僕は、そんな想いを抱えて生きていける程、強くはないから……。
きっと、バラバラに壊れて使い物にならなくなってしまうから。
そうしたら、君はきっと傷付く。
君は誰よりも真っすぐで優しいから、僕がそうなったら、きっと君は自分を責める。


だから………君とは行けない。
僕は、この道を選ぶ。
例えこの決断が君を傷つける事になっても。





『ならば仕方ない…………次に戦う時は、俺がお前を討つ!』





うん………そうだねアスラン。

僕達の道は、きっともうとうに分たれていたんだね。
決定的な決別の言葉が無かっただけで。
あの時、爆煙と硝煙の渦巻くヘリオポリスで再会した時から、きっと………。



僕らは決して交わらない平行線上に居る。
見えない大量の血に濡れたこの手が、君の手を取る事は無いけれど。

ずっとずっと、大好きだから。

それだけが、僕の中で唯一変わらないもの。
何も告げずに君から逃げる卑怯な僕を、許してほしいだなんて言わない。
許さなくて、いい。



でもお願い、その言葉だけは違えないで。



僕を討つと言い放った時、辛そうに震え掠れた声。
確かに伝わってきた、君の心の叫び。
それだけで、僕はもういいから。



だからこの先、再び戦場で会った時には。
───どうか躊躇しないで。



僕が刃を取って、君を殺そうとしたその時は。



その時はきっと………。










『君の手で僕を殺して』













++END++





++後書き++

DVDでPHASE10を見た後に突発的に書いたキラのモノローグ。
そしておもいっきりあの場面を捏造中。端的に言えば、アスランの手にかかる事を望むキラの話。キラはこんなこと考えんって!と思いつつも、ついついやってしまいましたι

written by  深織

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