触れ合う指先









正直、戸惑っていた。

心の中に渦巻く様々な思いが……。
ひとつにすることも、消化することも出来ないそれが───重くて。
消えない迷いが鎖となって、この身を地面に縛り付けている。


……もうどのくらい、こうしているだろう。

階段に座り込んだまま、地面に視線を落として。
そのまま、ただ時間だけが過ぎてゆく。
立上がる術は、まだ見つけられぬままに………。
やけに重く感じられる身体を、持て余しながら。



(俺は、どうするべきなのだろうか……)



地球に降りた目的───キラと話す事は叶った。

MS越しではなく、視線を交わして。
名を………呼んで。
そして、あいつ自身の口から、その決意と想いを聞いた。
哀しみと切なさと、それ以上の強さを秘めた瞳と共に。

キラは───あいつは、もう決めていた。
自分の進むべき道を。
自分の望む世界を。
それだけを、真っすぐと見つめていた。
………ラクスから受け取った、新たな剣を携えて。

けれど、俺は………。

まだ、決められずにいた。







突如、周囲に響き渡った地球軍の侵攻を告げる放送。
それと同時に、慌ただしくなるドッグ。
分かっていた事とはいえ、早急なそれは元々戦力差がある上に先の戦いで疲弊したオーブには重くのしかかる。

MSが次々と出撃体制を取る中、俺はその場を動けずにいた。
自分の中の迷いが足を止めさせる。
こんな時でさえ………。



(俺は、どうしたいのだろうか……)



フリーダムに駆け寄るキラを呼び止め、告げた言葉は紛れもない真実だった。
この状況では、オーブに勝ち目はない。
例え今回を凌げたとしても、物量を全面に波状攻撃を繰り返されれば戦力は削がれる一方だ。
戦い続ければ、先にオーブが膝を折る事は目に見えている。
それが、キラに分からない筈がない。
事実、キラはその言葉に頷いた。
そして─────静かに、微笑んだ……。



(何故…………?)



こんな表情を、つい先程も見た気がする。



『僕達も、また、戦うのかな』


───そうだ、あの時、だ………。
あの時も……今と同じ様に、そっと……哀しげに微笑んでいた。

お前は、言わない。
あの時も、今も。
共に戦って欲しい───とは言わないんだな。
そして───敵対しないで欲しいとも、言わない。
きっと……俺がお前と再び敵対する立場を取ったとしても、お前は俺を責めないんだろう。
どうして、とも聞かずに………今と同じ表情を浮かべて。
痛みも、苦しみも、哀しみも、全てをその胸に抱え込んで………。
そうして傷付きながらも、自分の意志を貫くために、戦い続けるのだろう。
本当は、誰よりも戦いを望んでいないのに─────。



「ごめんね、アスラン。………ありがとう」


遠ざかって行く背中。
告げられたのは、謝罪と、そして感謝の言葉。
『ごめんね』に込められた意味と想い。
『ありがとう』に込められた意味と想い。
それに、胸を突かれる。


「話せて嬉しかった」


こちらを振り向いた表情は、穏やかで………。
キラは、確かに微笑んでいた。
先程のような、翳りのあるものではなくて。
記憶の中にある幼い頃のように、優しく瞳を和ませて───。
コックピットへと、消えて行った。

違う、違うんだ。
………そんな言葉をお前に言わせるために、俺は此処に来たんじゃない。
そんな、これで最後なんだと思わせるような言葉を交わすために来たんじゃない。
そのはず……なんだ………。



───キラ。
お前は、どんな思いでそれを口にしたの?






『大切なのは、何のために戦うか─────』


キラの言葉が、胸に響く。
そして、俺に問いかけてくる。

(俺は……何の為に戦っていた?)

戦いを終わらせる為。
プラントを守る為。
もう二度と母のような人を出さない為。

今までは、そのはずだった。
軍に入ったのも、戦い続ける意味も。
全てはそんな思いからだった。

では、今は─────?



父が築こうとしている世界。
プラントが行こうとしている未来。

それは果たして、俺が守ろうとしていたものだった………?

血腥い戦いによって得る、コーディネイターの為だけの世界。
その為に、封印したはずの核すらも振り翳して。
そんなものが、俺が本当に望んでいたものだったのか?



『アスランが信じて戦うものはなんですか?』

あの時に言われたラクスの言葉が、ずっと付いてまわっている。
厳しい眼差しと共に、斬りつけるような鋭さで放たれたその言葉。
それがひどく痛いと感じたのは、俺が意識的に避けていた問題を目の前に突き付けられたからなのだろう。

掲げた大義の裏に潜む、消せない影。
いつのまにか大きくなっていったそれに気付きながらも、ずっと目を背けていた。
───揺らいでしまうのが、怖かった。

そして、ラクスの導きに頼る様に、纏らない思いのままに地球に降りて……。
キラと………会って。

───ようやく気付いた。
否、ようやく思い出したんだ。
自分の本当の想いを。
自分がずっと望んでいた事を。



戦場へと飛び立つフリーダムを見送る。
そして───駆け出した。
フリーダムの片割れである、深紅の機体の元へと。
今度は、確かな自分の意志で並び立つ為に。



そう、俺は………。
お前と共に在るために─────。

お前と同じ道を歩くために、此処に居るんだ。



振り切れない思いがある。
割り切れない思いがある。
未だに、迷いはこの心の内に蟠っているけれど………。
それでも───俺はお前と共に行きたい。
いつか、自分だけの答えを見つけるためにも。

キラと歩む事で、それが見つけられる気がするから………。








++++++++++








「一緒に行こう、アスラン」



向けられた、柔らかな声。
ああ………久しぶりに見る気がするよ。
お前の、飾らない本当の表情を。


『本当は、何と戦わなければいけないのか─────』


もしかしたら……キラは待っていたのかもしれない。
俺が、この言葉に辿り着くのを。
自分自身でその疑問の答えを探そうとするのを。

その答えも皆と一緒に探せばいいと、キラはそう言った。

差し出された手。
ひとりで悩まないでと、そう言われているようで───。
俺は、その手を取る。
そして、優しく強い光を宿す菫色の双眸に、小さく頷いてみせた。
今ならば………きっとこれだけで、思いは全て通じるから。

嬉しそうに和んだキラの表情に、自然と口元が綻ぶのが自分で分かる。


久しぶりに───心から穏やかな気持ちになれた気がした。





まだ何も終わっていない。

明確な終わりすらも見えていない。

けれど、今はこの手さえ離さなければいい。

心から欲したこの温もりを忘れなければいい。

そうすれば、きっと見えてくるから。

欲しかった全ての答えと共に………。












++END++





++後書き++

PHASE-40を見た直後に書きなぐったブツ。
だから、感想に近いかな?ちゃんとした意味の通じる文章になってないような気がヒシヒシとしますι自分でも書いててなにがなんだか分からなくなってきたしね(乾笑)
今回は、結構色々と思わされる回でした。かなり詰め込まれてたからなぁ………キラとアスランのやりとりは萌えだったしね〜vvまぁその辺はアニメ感想の方にでも書きます♪
written by  深織

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