The Power of Smile 「どうしたのキラ?…………泣いてるの?」 「…うぅぅ……ひっく………っ」 「ああ、そんなにごしごし擦っちゃ駄目だよキラ。うさぎさんみたいに真っ赤な目になっちゃうよ?」 アスランが取り出したハンカチで優しく涙をふいていると、キラはその大きな瞳からさらに涙をぼろぼろと零した。 目許はもうすっかり赤く晴れ上がっていて、見ている者に痛々しさを感じさせる。 「ふぇっ……ふぇぇぇぇん………アスラァン…ッ」 「うわっ!!」 ドシン。 派手な音を立ててアスラン後ろにひっくり返った。 背中を強打して、思わず顔をしかめたけれど、自分にしがみついて泣き声を上げるキラを見て表情を緩めた。 「キラ?」 背中を地面につけたまま、名を紡ぐ。 すると、抱きついている腕にぎゅうっと力が入った。 胸に顔を埋めたままくぐもった嗚咽を漏らすキラにアスランはしょうがないなぁと苦笑すると、腕を上げて頭をそっと撫でた。 何度も何度も繰り返し。 「また……何か嫌なこと言われた?」 一瞬、腕の中の体がびくりと震えた。 それが答えだった。 アスランはぐっと眉を寄せると、やっぱり……と溜息をついた。 いつの頃からか、キラはひとつ上のクラスの男子数名にちょっかいを出されるようになっていた。 何がきっかけだったのかは分からない。 けれど最近ではキラのやることなすことに対して執拗につっかかるようになり、時には酷い言葉を投げ付けたりもしていた。 そのせいで、最近のキラはどこか影のある表情を見せる事が多くなっていた。 もちろんそれにアスランが気付かないはずはない。 けれどもキラが自分に隠そうと必死になっているのが分かったから、今まで何も言えなかったけれど。 ───もう、限界。 「今度は何を言われたの?」 「………………………」 「僕には言いたくない?」 「………………………」 「キラ………」 「…─────って……」 「……ん?」 「───のろまって……。…何やらせても一番遅くて………コーディネイターのくせに出来損ないだって…………」 「………………………」 嗚咽まじりの小さな声を拾ってそれを理解していくうち、アスランの双眸がすっと細められた。 「一世代目だから………っ。ナチュラルの親なんかに育てられたからそうなんだって……………っ!!」 キラは、とうとう我慢しきれずに再び泣き出した。 大好きな両親の悪口を言われる事を、キラは何よりも恐れていた。 自分という存在のせいで両親が悪く言われるのが、どんな事よりも辛かったから。 それを誰よりも知っているアスランは、悔しそうに唇をきつく噛み締めると、キラの体を力を込めてぎゅうっと抱きしめた。 「あんな奴らの言葉なんて気にしちゃダメだ。なんにも知らないくせに、いつも好き勝ってなことばかり言ってる。そんな言葉に、キラが傷付くことなんてないんだよ?」 「でも………っ!のろまなのは…ホントでしょ………?足、遅いし……授業の時も…実験とか終わるの………いつも僕が最後だもん」 「………キ〜ラ」 目の前にある、泣き濡れた頬。 差し伸べた両手でそっと包んで、額に口付けた。 きょとんとした瞳に微笑みひとつ返して。 「キラはなんにも悪くない。キラは、他の子よりちょっとのんびりさんなだけなんだよ。それに提出物だって確かに出すのはゆっくりだけど、その分誰よりも上手にできてるって先生にも褒められたじゃないか。そうだろ?」 「………………うん」 「ね?あいつらはそれを知って、ただキラのこと妬んでるだけ。だからもう気にしないの」 「………………でも……」 「大丈夫。僕がいるよ。キラは僕が守るから」 「…アスラン…………」 ───僕が、守るから。 ───だから、泣かないで? ───笑っていて? それは、いつかの日に言われた言葉と同じ。 あの時も………自分は泣いていて、彼はこんな風に優しく笑っていたっけ。 その笑顔はすぐに伝染して、いつの間にか自分も笑っていた。 胸の中に大事にしまっておいた、いとおしい思い出のひとつ。 ───変わらないね、アスラン。 嬉しそうに呟いて。 キラは、まだ涙の残る瞳をゆるりと細めて、笑った。 それはアスランでさえも最近は見る事ができなかった、眩しいくらいに晴れやかな笑顔─────。 「ありがとうアスラン。大好き!!」 ++END++ ++後書き++ 休止中、日記にて書いた小話その1。 アスキラ幼年学校時代って、妄想すると顔がにやけますよね(ヲイ)
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