超天然危険物 〜その後〜 「アッハハハハハハ!ギャ〜〜〜ハハハハハハ!!」 突然食堂から響いた奇声に、偶然近くを通りかかったクルー達がビクリと体を竦めた。 いったい何事かと中を窺ってみれば、そこにいるのは先頃ヴェサリウスに配属されたばかりの通称"紅"と呼ばれるクルーゼ隊のエース達が3人と、その向かいに座る緑の軍服の青年がひとり。 ちなみに奇声の発生源は緑服の金髪青年らしい。 ドリンク片手に机に突っ伏して、ピクピクと酸欠の金魚みたいに体を震わせていた。 イザークが眉根を寄せてじろりと睨むも、当の本人はそれどころじゃない。 「ヒィ〜〜〜苦し…アハ…ハハハ……ッ!!」 「笑い過ぎだぞミゲル」 「〜〜〜〜だってよォ〜、あの隊長に面と向かって"アブナイ"って………ぶふっ……ククククク…ッ」 「だぁぁぁ〜〜〜やかましいっ!いい加減にしろっ!!」 ───やっぱりキレたか。 椅子を蹴り倒して絶叫するイザークに、ヒヤヒヤしながら様子を見守っていた衆人観衆はこぞって溜息をついた。 ちなみにミゲルはというとそれすらも聞こえないくらいヤラれているのか、お腹を抱えてヒーヒーと苦しげに笑っている。 「ツボはまっちゃったみたいですね」 「ま、気持ちは分かるけどな」 ニコルとディアッカはお茶を啜りながら、そんなふたりを眺めている。 自分達も騒ぎの中心にいるのに、ほとんど見物客気分。 そんな時、要請があって整備班の方に顔を出していたキラがひょっこりと現れた。 「あれ、みんな来てたんだ?」 「お、張本人のご登場だ」 「あ、キラ。お疲れ様です。これから食事ですか?」 「うん、まぁね。ところで何?その”張本人”って」 「ああそれは…………」 困ったように苦笑するニコルの視線を追えば、笑い過ぎて半分死んでるミゲルの姿が。 イザークはもう怒る気力も失せたらしく、耳を塞いでそっぽを向いている。 「………なにやってんのミゲル?」 「この間のお前の武勇伝を俺らに聞かせてくれてたんだけどよ。話してるうちに自分でハマっちまったらしくてずっとあんな感じ」 「……………僕?」 「ええ。この間の隊長室でのやりとりですよ。近頃じゃこの噂でもちきりですよ?『あの隊長を口でやり込めた新人がいる』って」 「まぁ、あながち間違ってはいないよなぁ」 「ええっ?なんだってそんな変な噂になってんの?!」 キラはぱちくりとその大きな瞳を瞬かせた。 隊長室云々が何時の事を指しているのかは分かったけれど、それの何が問題なのかを全くもって理解していなかった。 周囲にはひたすらショッキングだったあの出来事も、本人にとってはただの日常のひとコマなわけで─────。 難しい顔をして真剣に考え込んでるキラの姿に、ディアッカとニコルは苦笑した。 そして、なにやら部分部分で妙な雰囲気になっている食堂内に、また新たにひらりと入って来た人物がひとり。 ここ数日プラントに帰っていたアスランである。 「キラ?ここにいたのか。探したよ」 「〜〜〜〜〜ん?あっ、アスラン!!おかえり〜!」 「ただいまキラ。元気そうでよかった、変わりはないね?」 「うん!」 満面の笑みを浮かべて、キラはアスランに飛びついた。 優しく微笑みながら軽く頬を撫でるアスランと、撫でられて嬉しそうに目を細めるキラ。 帰って早々独特の世界を展開するふたりに、周囲は石のようにピシッと固まっている。 ちなみにニコルをはじめアカデミーからの付き合いである者達にとっては、最早見慣れた光景だったりするわけなので、「相変らず仲がいいですねぇ」なんてのほほんと笑っていられたりもするのだ。 ───慣れとは恐ろしいものである。 「よぉアスラン、早かったな。予定じゃ明後日までかかるんじゃなかったか?」 「ああ。一応そのはずだったんだが、切り上げて来た。あのまま残っていたって、また暫くいいように宣伝に使われるだけだから」 「ラクス嬢とのことか?ザラ国防委員長も懲りないねぇ〜」 アスランとプラントの歌姫であるラクス・クラインの婚約話が進められているのは、既に周知の事実である。 仕掛人はもちろん、アスランの父であるパトリック・ザラだし、それを広げたのは常に話題性を求めるプラントのマスコミだ。 曰く、プラントの明日を担うだとか希望の光だとか云われているけれど………。 こいつがキラ以外に興味持つわけないじゃん…───と内心でディアッカは付け足した。 その間にようやくつぶれたヒキガエルから人類に復活したミゲルが、アスランがいることに気付いて顔を輝かせた。 「おおっ、やっと帰ったかー!ちょっと聞けよアスラン、コイツの素晴らしすぎる武勇伝を!!」 「…………………?キラの武勇伝?」 「……また始まりましたね」 「また自爆してハマんなきゃいいけどな」 「もうあのバカ笑い聞かされるのはゴメンだぞ」 初耳のアスランとうんざりとした様子のイザークを加えてミゲル主催の談話モードに入った6人。 現場にいたミゲルが身ぶり手ぶりを加えて話せば、既に話を聞いてあらかた知っていたニコル達も思わず吹き出しそうになっていた。 アスランはといえば、額の辺りを押さえて溜息をついている。 「ほんっと、お前って面白いよなぁ。あの隊長にあんな事言ったヤツなんて初めて見たぞ」 「そりゃ、今までにも沢山いたらある意味問題だろ」 「ま、そーだけどよ。なんにせよ、天然ってのは恐ろしいな」 「キラは特別にスゴイからな。ここまでのはなっかなかお目にかかれないって」 「…………ミゲルもディアッカも、ひとのこと馬鹿にしすぎ。なんだよ、もうっ……!でも、あんな仮面着けてたら誰だって勘違いしない?」 「勘違い……?まぁ、確かに妖しいなぁとはちょっと思いましたけど………」 「ええっ、それだけ?だって仮面だよ?だから僕はてっきり……─────」 「てっきり………なんです?」 「SMクラブの人かと思っちゃった」 「ーーーーーーーッ!!!」 「おわぁ〜〜〜〜〜っ!!!!」 「あ〜あ………ディアッカ大丈夫ですか?はい、ハンカチ」 アスランの吹き出した紅茶が、正面に座っていたディアッカの顔面を直撃した。 おもいっきり咽せるアスランと呆然としているディアッカ。 自分の投下した爆弾の威力を知らないキラはそんなふたりを交互に見遣って不思議そうに小首を傾げていたが、ディアッカにハンカチを差し出しているニコルを見て、自分も慌ててアスランの背中をさすり始めた。 その横では、ドボドボになったディアッカを見てミゲルが仰け反って大爆笑している。 「ゲホッ……キ…キラッ!!お前いったいどこでそんな言葉を…………っ?!!!」 キラの口からおよそ信じられない言葉を聞いてアスランは軽くパニックに陥る。 小さな頃からそういう知識とは全く無縁だったキラ。 それは、男だらけの月での寮生活時代から、いたるところに蔓延するそういったブツや知識からアスランが身を挺してキラを守ってきた成果だった。 それはそれはもう、今時いいとこのお嬢様だってこんなに清らかじゃないだろう!というくらい蝶よ花よと愛でながら育てた(?)筈なのに何故…………?! ───ああ、俺の知らない所で俺のキラが汚されてゆく………と今にも泣き崩れそうなアスランに、キラの無邪気な声が降って来た。 「SMクラブって、仮面つけて鞭持った人が集まるクラブなんでしょう?この間教えてもらったんだ。それとその時見せてもらった雑誌に、クルーゼ隊長みたいな仮面着けた人が載っててさぁ。あ、あれは確か女の人だったけど。ああいうの今流行ってるの?」 「………………………………」 「あれ、違うの?………てかアスラン、顔、怖いんだけど……………」 「…………………キラ。それって、誰に教えてもらったの?怒らないから、正直に云ってごらん?」 「え?ディアッカだけど」 しん……と一瞬辺りに静寂が降りた。 周囲の視線がディアッカへと突き刺さる。 とりわけ、刺々しいというよりむしろブリザード級の極寒地獄並な視線がひとつ………。 誰?なんて確認するまでもないし。 というか、目を合わせた時点で命が無い。 「…………………………ディアッカ」 「ギク……ッ!!なななななんでございましょう………………?」 「後で訓練室に来い。話がある」 「…………………はい」 まるでヘビに睨まれたカエル。 というよりも、うっかり人間に見つかってしまい踏みつぶされる寸前のゴ○ブリ? なんにせよ、決して"話をする"だけで終わらないだろう事を確信して、ディアッカの顳かみを冷や汗が伝った。 「俺……生きて戻って来られるかな…………?」 「自業自得だバカめ」 ずぅぅんと影をしょったディアッカの背に、イザークの無情な声がとどめを刺した。 ちなみにその後、アスランの制裁を受け包帯だらけのミイラ男ルックで帰って来たディアッカは、変態だのエロ男だの頭が紅茶臭いんだ早くシャワー浴びやがれボケだのと散々罵られて部屋に入れてもらえなかったらしい。 全身の怪我のせいでシャワー禁止を言い渡されていたディアッカが部屋に入れるのは何時になる事だろうか。 とりあえず、合掌。 ++END++ ++後書き++ 休止中、日記にて書いた小話その3。 というか、前回のキラinザフトモノのおまけ。おまけなのに本編(?)より長いという不可解極まりないものになってしまいました………(チ〜ン)。でも、書いててすごく楽しかった。 ちなみに私の中のディアッカ像はあくまでこんな感じ♪
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