好きって言って? それは、ほんの他愛ないやり取りから始まった。 そう、本当に些細な事。 「キラ。俺の事好き?」 ふたりきりで過ごす久しぶりの甘い時間。 机を挟んだまま腕を伸ばして、お互いの頬を撫でたり鼻をつついたりとじゃれあいを続けていた。 そんな中でふと戯れに飛び出した言葉が、それまでの和やかな空気を一変させた。 「キラ………………?」 キラは目に見えて顔色を変えた後、俯いてしまった。 ちょっとした言葉遊び。 深い意味などなかった。 ただ、愛しいひとの口から日頃滅多に聞く事が出来ない「好き」という言葉が聞きたくて、強請るような心持ちで紡いだ。 けれど、それに対する答えは、望んでいたものとは百八十度違っていた。 「……………ごめん、アスラン」 「キラ?」 「ごめんね。僕、もう………………君にそう言えないんだ」 「………………え?」 顔を上げたキラの目は、とても哀しげだった。 見るものに不安を誘うような色を纏いながら、昏くきらりと閃く。 「僕…………─────他に、好きな人が……出来たんだ」 その時の衝撃を、いったいどう表現したら良いのだろう。 「な………………っ?!!!」 「……………ごめん」 「そ……んな………………」 「……………………」 「……………冗談、だろう……?」 「…………………っ」 「キラ……ッ」 「…………………ごめん……っ」 「嘘だ……ッ!!そんなの嘘に決まってる!!そうだろ、キラ………!!」 「うん」 「………………………………………は?」 「だからウ・ソ。冗談だってば。はぁ〜あ、やっぱりバレちゃうかぁ」 「……………………………………………」 「だから僕じゃアスラン騙すなんて無理だって言ったのに」 「……………………………………………」 「ま、いっか。最初から無理だって言ってたんだし」 「……………………………………………」 「でも、エイプリル・フール………だったっけ?昔の人って面白い事考えるよね」 「……………………………………………」 「にしても、さすがアスラン!でも、もう少しくらい引っかかってくれてもいいんじゃない?」 「……………………………………………」 「ん?アスラン?」 「……………………………………………」 「おーい、ア・ス・ラ・ン!何固まってんの?ねぇってば!」 「…………………………………キラァ」 「ど、どうしたの?!顔真っ青だよ、気分でも悪いの?!!」 「…………………も、いい………」 ─────誰だよ、エイプリル・フールなんて考えたのは……………!!! ぐったりと机にへばりつきながら、アスランは心の中で何処の誰とも分からない人間に恨み言を言い放つ。 ジョークで危うく心臓が止まる寸前まで追い込まれたアスランは、けれども目の前であたふたしながら自分の心配をしている愛しい人を見て、はぁっと安堵の溜息をついた。 (嘘でほんっっっっとうに良かったぁ……………) 実は、安堵のあまり目尻にはうっすらと涙まで浮かんでいたりする。 けれど、どんなに情けないだの女々しいだのと言われようが、アスランにとってはあれ以上に怖い事などなかったりするわけで。 そういう意味では、このイタズラを思い付いてキラをけしかけた人物(多分……いや間違いなく腐れ縁な同僚の誰かだろう)は実に的確にアスランの弱点を突いてきたといえる。 この結果を知れば、それはもうしたり顔で厭味のひとつも言ってくるはず。 それはそれでしてやられた方としては悔しいというか腹立たしいというか………。 でも。 (いいよ、もう。四月馬鹿だって笑われても) ─────滅多に「好き」って聞けなくても。 別にいいや。 キラが変わらず側にいてくれるなら、他はもういい……─────。 不安そうに顔を覗き込んでくるキラにへらりと力なく微笑みながら、アスランはそんな事を思った。 ++END++ ++後書き++ 休止中、日記にて書いた小話その4。 思いつきだけで突っ走ったまさに駄文中の駄文。アスランのヘタレっぷりを崇めてみました(笑)ヘタレな上にキラにベタ惚れなのであんなバレバレの嘘にすら引っかかります。 ……ダメじゃん。
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