【お天気雨/おまけvv】






キラを見送った後すぐに自分の仕事部屋に入ったアスランは、PCのスイッチを入れてネットワークに接続させると、専用コードを入力してある場所と連絡を取った。

一言二言の言葉を交わした後に、『暫しお待ち下さい』と画面の向こうで丁寧に頭を下げた女性に適当に相槌を打ち、アスランは腕を組んで壁に寄りかかる。
いくら必要な形式とはいえ、毎度毎度面倒くさいとついつい心の内で毒づいた。


─────そしてそれから数分後……。


再び画面上に現れ、『お待たせいたしました』と一礼する女性オペレーターの姿を確認すると、アスランは寄りかかっていた体を起こしてその時を待った。

ピピッという電子音の後PCの画面が切り替り、とある人物が映し出される。
その人物は、気難しそうに……というよりもかなり不機嫌そうに眉をしかめ、顎の下で手を組んでいた。


「通信にて失礼いたします、父上」


そう大して失礼とも思ってなさそうな口調でさらり言うアスランに、パトリックはただでさえ寄っていた眉をさらにきつく寄せた。
相手が何を気に入らなく思っているかをきちんと把握していながら、けれどアスランはそれに気付いた様子も正す素振りも見せずに淡々としている。

パトリックもそれを口に出して追求するのをやめ───結局は無駄だと分かっているからだが───深く溜息をつくと、画面上の息子に向き直った。


「なんだ。お前には本部に来るように伝えておいたはずだが」

「その件ですが父上。私には本日どうしても外せない用がありますので、今日中にというのは諦めて下さい」

「…………何を馬鹿な事を」

「私にとっては少しも馬鹿な事ではありませんが。これは優先順位の問題ですので」


ある意味とんでもない事をしれっと言ってのける息子に、パトリックの額に青筋が走った。
アスランが言ったこと─────それはつまり、自分が命じた軍務を拒否するという事なわけで…………。
しかもその理由が、ぶっちゃけて言えば"アンタの命令より自分にはもっともっと大切な用事があるんだ"とのこと。

只でさえ気が短いと日々同僚や部下に溜息をつかせている、"あの"パトリック・ザラがこれでキレないわけがない。
バンッと激しくデスクに両手を叩き付けて画面に向けて怒鳴りちらした。


「国防委員長たるこの私の命令を差し置いてでも優先させるべき事柄が他にあるとでもいうのか?!!」


大音量のソレにアスランは一瞬すごく嫌そうな顔をしたけれど、すぐに元の表情に戻りまたしてもしれっと言ってのけた。


「その通りですが、何か?」

「馬鹿は休み休み言うがいいこの大馬鹿息子がっ!!!軍人たる者が下された軍務を放棄するだと?!!!大体お前は─────」





「キラが『行かないで』と泣くんです」





…………………は?





今、なんと………?
その内容が脳内に届くやいなや、怒りのあまり握っていた拳を振り上げて言った。
……振り上げた手の親指をグッと立てながら。





「わかった許可しよう」



「有り難うございます」





……………………。


なにはともあれ、父と子は通じあった…………らしい。



「用件はそれだけです。ちなみに私はキラと今日一日外出しますので、呼び出しをしても通じませんからそのつもりで。それではキラが待っていますので私はこれで…………」

「待て、アスラン!」

「………何か?」

「外出するのなら、この間子供の日に送ったウサギ耳フード付きのふわもこジャケットをキラ君に着せるのだ」

「………………………何故?」

「そしてその姿を写真に撮って是非一枚─────」



プッ……ツーツー…………。


「…………………」


言い終わる前に通信を切られ、パトリックは深々と項垂れた。

ドサッと椅子に身体を投げ出し、縋るように向けた視線の先にあるは。
デスクの端に置かれた愛妻レノアと息子アスランのツーショット写真─────ではなく、その隣に飾られている満面笑顔のキラがアスランに抱き上げられている写真、だった。
白いダッフルコートとベビーピンクのマフラー姿がなんとも愛らしい。

ちなみに今までに持っていたキラ単独の写真は全てアスランに没収されてしまい、なんとか持つのを許されたたった一枚の写真がそれだったりする。


せっかくキラ君に似合いそうな服をプレゼントしたのに、それを着た姿を見る事もできないなんて…………っ!!


アスランに何度催促しても、あの息子は決して自分が居る時に実家にキラを連れて来ようとしない。
レノアには会わせているのに………だ。
しかも生はおろか、写真すらダメときた。



「写真くらいいいじゃないか……………」



哀愁漂う背中がなんとも言えぬ哀しみを誘っていた。













++END++





++後書き++

キラバカな親子による脱力系会話。
ね?だからくっだらないって………(笑)

written by  深織

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