【 10コ目 --- 幼年アスキラ






「あ………」

とても微かな、呟きともため息とも取れるような声が上がった。
近距離にいた為になんとかそれを拾ったアスランは、不思議そうに声の主を伺う。

「キラ?」

先程まで同じペースで横を歩いていたのにその定位置に姿はなくて。
訝しんで後ろを振り返ってみれば、視線の先の幼馴染みは何か眩しいものを見てしまったかのような表情で立ち止まっていた。
もう一度名前を呼ぶとキラはようやく気付いたらしく、小走りでアスランの隣へと滑り込んできた。

「どうしたんだ。気分でも悪い?」
「ううん、なんでもないよアスラン。ちょっとぼーっとしちゃっただけ」
「寝不足か ?昨日、ちゃんと寝たんだろうな」
「だ、大丈夫!ちゃんと寝たよ」
「……本当に?また、この間買ったゲームを遅くまでやってたんじゃないの?」
「(ぎくっ………)あははは、ま…まさか〜………」
「(はぁ………図星か)ようやく手に入れて嬉しいのは分かるけど、程々にしろよ?また一昨日みたいに起きられなくて遅刻しても知らないからな」
「……気をつけマス」



おっしゃる通り。
昨日はちょっと遅くまでゲームに熱中してしまった。
気付かれたらアスランにお説教くらうのは分かっていたけど、衝動に勝てなくてついつい手を出してしまったり……。

でも、さっき立ち止まった原因は寝不足なんかじゃなくて───。


キラはアスランの横顔をちらりと覗き見た。
真っすぐに前を向きしゃんと背をのばして歩く姿は、どこか颯爽としていて見ていて気持ちがいい。
キラは、歩いている彼の姿が大好きだった。
特に、一歩踏み出す度に柔らかい輪郭に彼の少し長めの髪がふんわりとかかる様は昔からお気に入りだった。


アスランの髪の毛はとても深い藍色をしている。
キラが大好きな、夜空の色に似ていた。
アスランに「キラの髪の毛はサラサラで奇麗だね」と髪を梳きながら言われる度に、キラはアスランの方がずっとずっと奇麗なのに、と思うのだ。

さっきだってそう。

太陽の光の中、風に攫われてキラキラと舞った夜色の髪があまりにも奇麗で、思わず見とれて足を止めてしまった程だった。



(またいっこ、見つけちゃった)

キラは内心で呟くと、ふわりと嬉しそうに笑った。
隣ではアスランが『どうしたの?』とますます訝しそうな顔をしていたけれど、それにも『なんでもないよ』と頬笑んで。

(これでいくつめかめかな?)

ええっと……と指折り数える。


優しい笑顔。
奇麗な緑色の目。
高くもなく低くもない声。
しゃんと伸びた背筋。
意外に形の良い爪。
抱きしめてくれるあったかい腕。

そして………光を受けた夜色の髪。


「アスランッ!ぼくまたいっこ見つけたよ!」
「わっ!な、なんだよ急に……何を見つけたって?また新しい裏技か何か?」
「ちーがーうーっ!えっとね。えっと……………」
「?」
「うー…………やっぱナイショ!」
「はぁ?!なんだよ、それ…………」

肩透かしをくらったアスランは、『気になるじゃないかっ』ってブツブツ言って。
一方のキラはといえば、えへへと照れたように笑うだけ。



別にナイショにするほどのことじゃないけど。
でも、なんとなくナイショ。
だって、なんだか今言っちゃうのはもったいない気がするから。

でも、だからといってずっと教えないままだと、自分の方が言いたくてウズウズしちゃうかも……。
だから、せめて10コ溜まるまではナイショにしておく。
溜まったらその時は、ちゃんと教えてあげるからね?


そんなことを思いながら、キラは上機嫌でアスランの片方の手を握った。
アスランは、しょうがないなぁなんていう呆れたような顔をするけれど、すぐに優しく頬笑んで手を握り返してくれた。

ふたりともちょっとだけ、今よりもっと小さい頃してたみたいに、手を繋いで歩きたくなったから。








『ねぇねぇアスラン、僕またいっこ見つけたの!』


『何を?そういえば、前からたまにそんな事言うよね、キラって……。』


『えっとね、これで10コ目なんだ!だから、アスランにも教えてあげるね?』


『うん………?』


『えっとね、えっとね───』




指折り数えて、これで10コ。
なにがなんだかちっとも分かってないアスランに、キラは悪戯っ子みたいにニィッと笑った。




『これ全部ね───アスランの、大大大好きなところだよ!!』








web拍手お礼展示品第一段。おのろけ……?


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