【 Help Me!! --- 学園パラレル//アス×♀キラ 】
『アスランなんて大っ嫌い!!』
『もう知らないからな!勝手にしろ!!』
それは、昨日の放課後のこと。
滅多に喧嘩などしない万年バカップルが十年か百年に一度かというくらいの大喧嘩をした。
おかげでいつもなら会えば延々とふたりの世界に突入して話をしているふたりが、今日は朝から顔を合わせても一言も口をきかない。
それどころか、視線が合えば「ふんっ」という音すら聞こえそうな勢いで露骨に顔を背ける。
きっかけは………聞いてはいない(というか聞きたくもない)が、まぁきっと大したことじゃないんだろう。
少なくとも、カガリはそう思っている。
あのふたりとの付き合いの長さから、絶対にそうだと断言できる。
何しろしょうもない事から痴話喧嘩に発展しそうになった事例を何度も見て来ているのだから。
だから、未曾有の事態におろおろとする友人達とは違い、カガリはどんと腰を据えて傍観者と化していた。
昔はよく最愛の妹が辛そうな顔をすることに耐えられなくて、その彼氏(この名称を未だに認めたくないけれど)の元へ喧嘩の仲裁(もとい怒鳴り込み)に行ったものだが、今ではもう殆どやらなくなっている。
別に妹が大事でなくなったわけでもないし、その彼氏にむかつく事がなくなったわけでもない。
理由は簡単だ。
意味がないからである。
この似た者同士のふたりは、とにかく筋金入りの頑固だ。
一旦こうと決めると人の話なんぞ聞きやしない。
喧嘩をやめるようそれはもう口をすっぱくして言い募っても、そんなものどこ吹く風。
しまいには匙だって投げたくなる。
元より、本当なら犬も喰わないナントヤラに誰も介入なんぞしたくもないのだから。
しかも周囲がそれだけ気を揉んであれこれと手を差し伸べても見向きもしない上に、たいてい一日も経たないうちにあっさり仲直りしてるのだから、もう今後は一切関わりたくないと思ってしまうのも無理もないことだと思う。
というか、無理もないはずだ。
……だから無理もないんだよ!
なので、いくらいつもとスケールが違うものだったとしても喧嘩は喧嘩だと、カガリは最初から傍観を決め込んでいた。
いらぬ火の粉を被らないで済むようにと、ちょっと距離を取って。
それなのに。
嗚呼それなのに。
(何故に最後の最後でこうなるのか………?!)
カガリは、自分をこの状況に追い込んだ生徒会顧問に殺意すら抱いた。
そして、妹をひとり狼の巣窟に飛び込ませられないと自ら副会長に立候補した過去の自分を呪っていた。
「ねぇカガリ、アスランにこの書類渡してくれる?」
「………………ほれ、アスラン」
「ん?カガリ、これ一番下チェックが抜けてるからキラに付けるように言ってくれ」
「………………はいよ、キラ」
「ええと、はい。チェック入れたよ。カガリ、これアスランに渡して」
「………………アスラン、これ」
「ありがとうカガリ。あ、それと昨日持ってくるように頼んでおいた予算資料どこに置いたかキラに聞いてくれるか?」
「………………キラ、予算のしりょ───」
「ああ、それなら必要な所だけプリントアウトしてファイルしておいたよ。ええっと……あそこの黒いファイルがそうだって伝えてね」
「………………おいアスラン───」
「……へぇ、分かりやすくまとまってる。キラに助かるって言っておいてくれ」
「………………キ───」
「カガリ、アスランにどういたしましてって。でも言っとくけど、僕まだ怒ってるんだからね」
「……………………」
「それはこっちも同じ。キラから謝らないなら今回ばかりは許さないから」
「……………………」
「それはこっちのセリフだよ!僕こそアスランから謝るまでせぇったいに許さないからね」
「……………………」
「あ、こらカガリ。ちゃんと伝えろよ」
「〜〜〜〜〜〜〜っ」
「カガリ!アスランにちゃんと言ってよ」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」
「「カガリッ!!」」
プツン、と。
カガリは自分の顳かみのあたり何かが断ち切れる音を聞いた気がした。
「だぁあぁああぁああ〜〜〜っ!!もういい加減にしろぉおぉぉおぉおおおぉお!!!」
全身からこれでもかというくらいひねり出した大音量のせいで、酸欠で頭がくらくらするのを感じたけれど、それでも止まらない。
吃驚してこちらを見つめているバカップルに向けて、カガリはビシッと人差し指を突きつけた。
ぜぇぜぇと息が切れているが、そんなこと知ったことか。
「5メートルと離れてないところで何やってんだよお前らは!!ちゃんと声届いてただろう!!喧嘩するのはいいがンなことに私を巻き込むなぁああぁあーーーーっ!!!」
カガリの魂の叫びは、生徒会室の窓から抜けて夕焼け色に染まる校庭へと響き渡っていった。
学園モノなアス×♀キラの痴話喧嘩。
……とそれに巻き込まれる被害者カガリのお話でした。
タイトルはこのお話のカガリの心の叫びですね。犬も食わないナントヤラと申しますが、もう犬でも猫でも何でもいいから、頼むから誰か食って無くしてくれ!…と(笑)
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