原子力の雑学
用語
- 放射線
X線、γ(ガンマ)線などの電磁波(光子)ならびにα(アルファ)線、β(ベータ)線、中性子線等の粒子線(α線、β線は、それぞれヘリウム原子核および電子からなる)をひとまとめにして放射線と呼ぶ。原子核の反応や原子核の壊変により発生するものと、原子のエネルギーレベルの変化によって発生するものとがあり、いずれも直接あるいは間接的に物質中の原子や分子を電離(電離作用)するほか、物質によっては発光(蛍光作用)させたり、化学変化を起こしたりする。
- 放射能
もともと放射線を出す能力という意味だったが、最近では放射性物質(放射線を出す物質)と同じ意味でも使われている。
放射能の単位としては、ベクレル(Bq)が使用される。
- 核分裂
1つの原子核が2つ以上の原子核に分かれることを、核分裂という。この核分裂の際に失われた質量が大きなエネルギーに変化して、中性子とともに放出される。たとえばウランに中性子を衝突させて分裂させると、同時に新たな中性子が2〜3個発生する。この中性子をさらに別のウランの原子核に衝突させ、連続的に核分裂を起こすように工夫されているのが原子炉。
- 核融合
水素や水素の同位体である重水素、三重水素といった軽い原子核どうしを衝突させると、新たな原子核が生まれる。これが核融合。この核融合の際、ごくわずかな質量が失われるが、代わりに大きなエネルギーが発生する。核融合の燃料となる水素は地球上に豊富に存在するため、核融合を制御して起こせるようになれば、人類は大変なエネルギー資源を得ることになる。
水素爆弾、いわいる水爆は、この核融合を無制御に行う事により、エネルギーを破壊力として利用している。
- 臨界
核反応が連続して起こる状態。
一般に、核反応は、少量の核物質では発生せず、ある程度の量が集まって始めて臨界に達するとされる。
核爆弾の場合は、臨界量に達しない程度の核物質を分散して配置し、爆薬等により、一気に集約、急激に臨界量に達しせしめ、核爆発を引き起こすものである。
- 加速器
電気や磁気を帯びた空間を人工的につくりだす装置を加速器という。この加速器に陽子や電子といった電荷を持つ粒子を入れると、粒子はだんだん速く運動するようになり、強力な貫通能力や破壊能力を持つようになる。加速器で運動エネルギーを高めた粒子をいろいろな原子核にぶつけることで、より大きな放射線が人工的につくれるようになる。
- サイクロトロン
加速器の一種で、D字型をした薄い容器を2つ向かい合わせたような形をしているのが特徴。加速したい粒子やイオンをこの中心から発射し、隙間を通過するときに高周波電圧によって加速する。加速された粒子やイオンは原子核研究に広く応用され、一方で有用な放射性同位体の製造などにも使われている。
- 冷却材
原子炉で発生した熱を伝達する物質。
水などの液体を使用する加圧水型と、ヘリウムなどの気体を使用する黒鉛型(高温ガス炉)がある。
加圧水型において、一次冷却材は、減速材を兼ねており、直接原子炉の炉心に触れており、放射線を大量に含んでいる。
熱交換器を挟んだ、二次冷却材は、一次冷却材のような放射線は含んでいない。
- 減速材
原子炉の働きを制御する物質。
水などの液体を使用する加圧水型と、黒鉛を使用する黒鉛型(高温ガス炉)がある。
- 燃料棒
核燃料を詰めた棒状の容器。
- 制御棒
原子炉の働きを制御する装置。
中性子をよく吸収するもの(ホウ素、カドミウム等)でつくられている。燃料棒と燃料棒の間に配置され、遮蔽する事により、核反応(核分裂)を抑制し、開放する事により、核反応を起こさせる。
- 遮へい
放射線をさえぎり、外部への放射線の影響を少なくするための防壁。遮へい材としては多くの場合、水、コンクリート、鉛、鉄等が用いられる。
- シュラウド
沸騰水型原子炉(BWR)内で、一次冷却水の高温の炉心側と、復水後の低温側を仕切る隔壁。
2002年に各地の原発でシュラウドに亀裂が発見され問題となったが、放射線遮蔽隔壁ではないので、亀裂、破断により、ただちに放射線被害を及ぼす性質のものではない。
シュラウドの亀裂は、一次冷却水の沸騰による振動の影響で、金属疲労として発生するらしい。
尚、アメリカでは、この損傷程度により、停止基準のレベルが設定されているが、我が国では「無傷」以外の状態の基準がない為、今回のような騒ぎになっている。
- チェレンコフの光
臨界時、水中を電子が通過する事により発生する、青白い光。
- 核爆発
核物質が、急激な臨界により、無制御に爆発するもの。
これを利用したものが、核兵器である。
- 水蒸気爆発
原子炉事故において、爆発が起きると、あたかも「核爆発」かのように報道される事が有るが、大きな間違いで、一般には、水蒸気爆発である。
冷却液が漏れ出したりする事により、管内圧力が極度に高まり、水蒸気が大きな破壊力を持って爆発する事により、発生する。
これが一次冷却水を含むと、放射能汚染が発生する場合があるが、「核爆発」とは異なる。
原子
- 原子
私たちの身のまわりにある物質は、すべて小さな原子が集まってできている。たとえば水は水素原子2個と酸素原子1個が結びついたもの。このように原子が決まったカタチで結びついたものを分子と呼ぶ。木や紙、金属、そして私たちの身体もこの原子と分子が集まってできている。
- 原子核
原子の中心に原子核があり、この周囲を電子が回っている。原子核の大きさは1兆分の1センチ、これは原子の大きさのわずか1万分の1。原子にはいろんな種類があるが、それはこの原子核の違いによるもの。
- 中性子
原子の種類を決定するのはプラスの電気を持つ陽子だが、原子核の中には陽子とほぼ同じ重さで電気を持たない粒子がある。この粒子のことを電気的に中性であることから、中性子と呼ぶ。中性子は電気を持っていないため、原子核に突撃して他の粒子を弾き出したり、別の核につくりかえやすい性質がある。
- 電子
原子の中心には原子核があり、その中にはプラスの電気を持つ陽子がある。しかし、すべての物質は普通、電気的に中性な状態にある。原子核にプラスの電気があるとすれば、これと同量のマイナスの電気がどこかになければならない。このマイナスの電気を持った微粒子を電子と呼ぶ。電子は原子核のまわりを衛星のようにまわっていて、その数は陽子と同じ個数だけある。
- 陽子
原子核をさらに詳しく調べると、さらに小さな粒子に分解可能である。原子核はプラスの電気を持っていて、この電気量はある値の整数倍になっている。つまり一定量の電気を持つ粒子があり、それぞれが持つプラスの電気の数だけ、その粒子が原子核の中にあると考えることができ、この粒子を陽子と呼ぶ。
核燃料
- ウラン
地球上に存在するもっとも重い元素で、金属の一種。鉱石はニジェール、南アフリカ、カナダ、オーストラリアなどで産出する。このウランに中性子を衝突させると核分裂が起こり、その分裂の際に新たな中性子を生み出す。この状態を連続的に起こすことでエネルギーを取り出すのが原子炉。原子炉では重さの異なる同位体ウラン235(天然のウランに0.7%含有)とウラン238(天然ウランの大部分を占める)のうち、核分裂しやすい前者を2〜3%程度に濃縮して使用する。
- プルトニウム
原子番号94の元素のことをプルトニウムという。これは天然にはなく、原子炉で人工的につくられる。核分裂しにくいウラン238は、原子炉の中で中性子を吸収してこの核分裂性のプルトニウムに変わる。プルトニウムはウラン235と同じ核分裂性物質であり、核エネルギーを容易に発生させることができる。うまく利用すれば、原子炉に使用する核燃料のリサイクルが可能。
原子炉
英語では、Nuclear Reactor(核反応炉)あるいは、Nuclear Chain Reactor(核連鎖反応炉)と呼ばれている。原子力分野ではReactor(反応炉)で十分通用しているが、化学反応炉と間違われ可能性がある為、Nuclear Reactor(核反応炉)が一般に使われている。
- 原子炉
ウラン、プルトニウム、トリウムなどを燃料にして核分裂を起こし、核分裂の連鎖反応を制御しながらエネルギーを取り出したり、強い中性子の源をつくる装置の総称。原子炉内で利用される中性子によって高速、中速、熱中性子原子炉に分類できる。現在建設されているものは、ほとんど熱中性子原子炉。
一般に、原子炉においては熱を発生させ、これによりボイラ同様の機能としている。従って、実際の動力発生装置としては、蒸気タービンが使用される。
- 原子炉での核反応
原子炉燃料のウラン235に遅いスピードの中性子があたると核分裂が起きやすく、大量のエネルギーと数個の中性子が放出される。
この中性子がさらに別のウラン235にあたり、核分裂を連続的に起こす事を連鎖反応と言う。
この連鎖反応を起こさせるためには、(核分裂で生じる中性子のスピードは速い為、中性子のスピードを遅くするための)減速材が必要。
日本の商用炉は軽水炉と呼ばれており、減速材として軽水(普通の水)が使われている。
水の構成元素である水素は大きな減速能力を持っている。
この水はまた、冷却材としての役割も持っている。
原子炉では、減速材と制御棒で核分裂の連鎖反応を制御している。
- 動力炉
核分裂エネルギーの熱を動力に変え、発電、船などのエンジンに利用する原子炉をこう呼ぶ
- 沸騰水型原子炉(BWR) Boiling Water Reactor
冷却材減速材に、水を利用した原子炉の事。
原子炉内で蒸気を発生させ、一次冷却水で、直接タービンを回す。
蒸気発生器を原子炉内に置く為、構造上巨大である。
- 改良沸騰水型原子炉(ABWR)
沸騰水型原子炉(BWR)の周辺装置を改良し、若干小型化した原子炉の事。
- 加圧水型原子炉(PWR) Pressurized Water Reactor
冷却材減速材に、水を利用した原子炉の事。
原子炉内を高圧に保ち、一次冷却水から蒸気発生器により二次冷却水に熱交換し、二次冷却水でタービンを回す。
構造上、制御棒が燃料棒の上に設置できる為、万が一の場合、無動力でも制御棒を自由落下させて停止できる。
舶用に使われる。
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- 軽水炉
普通の水(H2O)のことを原子力研究の分野では軽水という。この軽水を減速材、冷却水として使ってるのが軽水炉。水素の原子核は中性子と同じ質量のため、減速材として軽水を使えば、中性子の減速効率を高めることができる。
- 重水炉
重水素と酸素を化合した重水を使用するのが重水炉。軽水に比べ中性子吸収が非常に少ないので、天然ウランを燃料として用いることができる。現在、この重水炉は研究用原子炉、カナダ型の原子力発電炉などに使われている。
- 高温ガス炉
ヘリウムなどの気体を冷却材に、黒鉛を減速材に使った高温の原子炉。800〜1,000℃くらいの高温で運転できるため、燃料から発生する熱エネルギーを、タービンで電気エネルギーに変える熱効率を非常に高くすることができる。
チェルノブイリ原発事故で有名となった、黒鉛型原子炉である。
- 高速増殖炉
核分裂で飛び出してきた中性子を、そのまま次のウラン238に衝突させて、運転しながら次々と核燃料プルトニウムをつくる原子炉。実用化できれば燃焼させた以上のプルトニウムが炉の中で生産できるようになる。実用化は2020年以降の見込みだった。
原子炉の安全性
軽水炉の場合、冷却水(減速材)が失われれば、中性子の減速能力がなくなり、連鎖反応は弱まるか、あるいは、止まると考えられている。
すなわち、核爆発や暴走は起きないと考えてよく、軽水炉の持つ固有の安全性と呼ばれる。
原子炉(炉心)は、厚い原子炉容器に内装され、原子炉格納容器(厚いコンクリート:1メートル以上、放射線遮へいのため)内に格納されているので、普通の爆撃なら耐えられるという。
大型爆弾では破壊されるかも知れないが、そのときは放射性物質が飛散して、臨界事故そのものは起こりそうもないとされる。
なお、原子炉の安全設計では、全燃料の破損を想定して、環境へのリスクを法律(原
子炉等規制法)で定められている許容値内になるよう、原子炉格納容器等の設計を行っている。
原子炉が大型爆弾(非核兵器)により破壊された場合だが、原子炉が破壊されて燃料であるウラン235が分散すること、及び中性子の減速能力を持つ冷却水がなくなると考えれば、放射性物質が飛散し、その範囲は汚染されるものの、核爆発そのものは、発生しないと考えられる。
また、米国での評価結果によれば、原子炉格納容器、使用済み燃料プールにB747-400が衝突しても、原子炉および燃料への影響は無いらしい。
船舶の原子炉の安全性
原子力潜水艦、原子力空母などの原子力艦船で、原子力(原子炉)が推進用、電源用などに使用されている。
緊急時は、制御棒の挿入により停止し、炉停止後に発生する原子炉の崩壊熱は、海水で冷却され、炉心溶融などには至らず、放射性物質による海中の汚染は避けることができるとされている。
また、原子力艦船では、沈没した場合に備え、原子炉格納容器に圧力平衡弁が取り付けられており、ある程度以上の水圧になると、この弁が開いて海水を原子炉格納容器内に入れ、原子炉格納容器の圧壊を防ぐよう設計されている。
なお、減速材は低濃縮ウラン燃料でも核反応が継続できるよう中性子を減速させるためのもので、原子炉の冷却材を兼ねている。
新規作成日:2002年11月19日/最終更新日:2003年1月24日