カッター
カッターの原形は、救命艇などとして使用されているもので、一般に船首と船尾が同型であるのに対し、カッターは船尾を切り落とした「カットした」形状となっており、為に「カッター」と呼ばれる。
帆船時代の木造軍艦には、大小様々の手漕ぎボートが搭載されており、一番大型のボートは物資の運搬等に用いられ、ロングボート(長艇)と呼ばれ、後にはランチと呼ばれた。これより短く小型のボートがカッター(短艇)と呼ばれ、主に人員の輸送、連絡に使われた。
旧日本海軍でもあらゆる小艇の総称として短艇という言葉をつかっている。
これに対して商船の場合は(海軍と区別するために)同様の小艇を端艇と書いていた。
船舶救命設備規則では、船舶に備えられるボートで救命艇としての用件に欠けるものはすべて端艇と呼んだこともあった。
漕手は Crew と呼ばれ、艇首右舷側のものが1番、同じく左舷側のものが2番、以下艇尾に向かって交互に3、4〜番と続く、1、2番(艇首側)をBowmen、最後(艇尾側)の2人をStrokemenと称している。
但し、1挺のオールを2人で漕ぐ場合、1の左、右〜12の左、右 と呼ぶ。
Strokemenは艇漕のピッチを加減する任務を持つ。
艇尾で舵を握るのが艇長。
号令をかけ、指揮するのが艇指揮である。
艇指揮は艇のすべての指揮を行い船長に相当する。
但し、艇指揮がおかれない場合は、艇長が兼ねる。
カッターの構造と各部名称カッターの構造と各部名称
- 竜骨(キール / Keel):艇体最下部に縦行している主要材で、各部の基礎となる。
- 竜骨帯(キールバンド / Keel band)キール下部の摩耗を防ぐために張った金属板で、主に真鍮が用いられる。
- 副竜骨(ホグ / Hog):キール上に縦通して、肋骨とその位置に固定する木材である。
- 柱座板(キールスン / Keelson):ホグ上に縦通して、檣座および漕手座柱の座となる木材である。
- 艇首材(ステム / Stem):キールの前端に接合樹立したもので、艇首を形作っている木材である。
- 艇首帯(ステムバンド / Stem band):ステムに張り付けてこれを保護する金属板で、主に真鍮を用いる。
- 艇首冠(ステムプレート / Stem plate):ステムの頂部を覆っている金物である。
- 艇尾材(スターンポスト / Stern post):キールの後端に装着樹立した木材である。
- 艇尾材(トランサム / Transom):艇尾を構成している扇形の木材である。
- 肋骨(フレーム / Frame):キールに直角な方向に外板内側に沿ってわん曲した角材で、中央はホグに固定されて艇体を形作り、外板に強力を与えるものである。
- 外板(プレート / Plate):艇体の外形を形作り水密を保つものである。
- 敷板(ボットムボード / Bottom board):プレート内側底部を保護するためにキールスンの両側に敷いた数条の薄い木材である。
- 上帯(アッパーブレストバンド / Upper breast band):プレートの内側上部にめぐらしてある角材である。
- 下帯(ロアーブレストバンド / Lower breast band):漕手座の両端を支持し、内舷にめぐらしてある木材である。
- 縁板(ガンネル / Gunwale):アッパーブレストバンドの上部にめぐらしてある木材で、櫂を備えるために数多くの切欠きを有している。
- 上縁(キャッピング / Capping):ガンネルを損傷しないために上部に取り付けてある木片である。
- 防げん帯(ラビングストレーキ / Rubbing strake):ガンネルの直下外側にめぐらしてある木材で、その後端はひろがっている。
- 動揺止め(ビルジキール / Bilge keel):艇の横揺れを防ぐため、喫水の直下に縦通している細長い木材である。
- 漕手座(スオート / Thwart):艇員の座板で、両端はロアーブレストバンドに支えられている。最前のものを最前漕手座、最後のものを最後漕手座という。
またマストをを立てるためにクランプが設けてあるものを帆走用漕手座(セーリングスオート / Sailing thwart)という。
- 支え金(ニー / Knee):スオートの両端を舷側に固定している金具である。
- かい座(ローロック / Rowlock):櫂を備えるためガンネルを切り欠いて金具を装着した所をいう。
- 櫂座栓(ポペット / Poppet):ローロックを閉じる木片で小索がつけてある。
- かい架(クラッチ / Crutch):ローロックを有しない単座艇などの小艇で、かいを備えるために用いる金具であり、脱落を防ぐために小索がつけてある。
- 艇首座(ヘッドシート / Head seat):艇首の高台をいう。
- 艇尾座(スターンベンチ / Stern bench):艇尾内側周辺に設けた腰掛けをいう。
- 艇尾床(スターンシート / Stern seat):最後漕手座から後部の内底をいう。
- 艇尾腰掛け(ディッキー / Dickey):艇尾両すみにある2個の腰掛けで、艇指揮及び艇長の座席をいう。
- 格子(グレーチング / Grating):艇首座および艇尾床に敷いた格子をいう。
- 背板(バックボード / Back board):艇尾座の後方に横ばめした木版で、自由に着脱できる。
これとトランサムとの中間は用具などを格納する箱(スターンボックス / Stern box)を形成する。
- 背板受け(チェストツリー / Chest):艇尾のアッパーブレストバンド横架している角材で、背板を支える。
- 足掛け(ストレッチャー):艇員の両足を支えるために横架している木材である。
- 檣座(マストステップ / Mast):マストを立てるためにキールスンに設けてある座をいう。
- 檣脚受け(タバーナックル / Tabernacle):マストの根をはめる箱形のものをいう。
- だ索(ラダーランヤード / Rudder lanyard):ラダーの流出を防ぐためにラダーに付けられた小索をいう。
- だ冠(ラダーキャップ / Rudder cap):ラダーの頭にかぶせてある金具である。
- 軸針(ピントル / Pintle):ラダーを保持する金具をいう。
- 軸受け(ガジョン / Gudgeon):ラダーを保持するつぼ金である。
- 舵柄(ティラー / Tiller):ラダーの頭にはめ込んでラダーを動かすための金属棒をいう。
- 舵軛(ヨーク / Yoke):ギグ以外の小艇のラダーの頭に横ばめして、これにヨークラインをとりつけラダーを動かすためのものである。
- 栓(プラグ / Plug):艇底のビルジ排水孔の栓をいう。
カッターで使用する属具
- かい(オール / Oar):複座艇には2本、端座艇には一本の予備かいを備えます。
- 握手(グリップ / Grip):オールの内端の細くなった部分、ハンドル(Handle)と呼ぶこともあります。
- 被巻(レーザー / Leather):ローロツクまたはクラッチに架する柄の部分に当革を施し、またはセンニットを巻いてその摩損を防ぐ物です。
- 柄(ルーム / Loom):オールの円形になっている部分をいいます。
- 水かき(ブレード / Blade):先端の平たい部分をいいます。
- スリング(Sling):端艇をつり上げるための短い2条の鉄鎖で、一端はキールに、他端はステムまたはスターンポストの鉄環に取り付けられます。
- 眼環(アイボルト / Eye bolt):諸索具・滑車などの結止に用いられます。
- 輪環(リングボルト / Ring bolt):スリングの左右にとりつけられた小鉄索で、その両端はアッパーブレストバンドのアイボルトに取り付けられます。
- もやい索(ペインター / Painter):端艇を係留するため艇首のリングボルトに取り付けた繊維索です。
また、必要に応じて艇尾にリングボルトに取り付けたものをスターンペインター(トモモヤイ)と呼びます。
- 防舷物(フェンダー / Fender):革帆布あるいは綱をもって杓子形に作った物で、艇の舷側を保護します。
- 防衛物(マウジング / Mousing):機動艇の周囲に巡らした一種の防舷物です。
- 爪竿(ボートフック / Boat hook)両爪または片爪の金具をとりつけた木竿で長短2種類があります。
- 爪竿索(ボートフックランヤード / Boat hook lanyard):ボートフックが折損したとき、金具を使わないために小策の一端を爪に結止し、
他端は柄に沿わせておよそ3分の1の所で結止します。
- 水樽(ブレーカー / Breaker):飲料水を入れる樽で、これを載せる台を水樽台と呼びます。
- あかくみ(ペラー / Bailer):ビルジをくみ出すものです。
- 天幕(オーニング / Awning):帆布製の日よけです。
- 天幕柱(オーニングスタンション / Awning stanchion):オーニング展帳用の柱で前後部に1本ずつあります。
- さ架(ランバーアイアン / Lumber iron):マスト、セール、予備かいなどを架するためにガンネルにとりつける又状の金具で、各舷にそれぞれ2本あります。
- 道板(ショアーボード / Shore board):さん橋,海岸などに達着のとき陸岸との交通に用いる木板をいいます。
- いかり(アンカー / Anchor):ストック・アンカーを用いることが多いです。
- いかり索(アンカーケイブル / Anchor cable):マニラ・ロープまたは合繊ロープを用います。
- 艇具袋(ボートバック / Boat bag):諸用具を収める帆布製の袋です。
- 旗竿(フラッグスタッフ / Flag staff):艇首および艇尾用があります。
号令及び漕ぎ方
- 両舷(右舷、左舷)かい用意:ポペットを抜き、1、2番は艇の中央に置かれているオールを持ち上げ、ローロックにオールをはめる。3〜12番はブレードをガンネルに持ち上げ、1本ずつ船尾の方にずらし、船尾から順に各自のローロックにオールをはめる。
- 両舷(右舷、左舷)かい備え:オールの被巻をローロックの位置まで送り出し、ブレードを水平に備えてガンネルと同じ高さに保つ。
- 両舷(右舷、左舷)前用意(あと用意):両手でオールをしっかり持ち、背中を曲げないで上体を前方に曲げ、両ひじを十分に伸ばす。両足はストレッチャーまたはスウォートにおく。ブレードはほとんど水面に接触しようとする位置にしておく。ブレードと水面との角度に気をつけ、目はブレードをみておく。
- 前へ(後ろへ):ここで、初めてオールを水面につけて漕ぐ。「用意」の姿勢からグリップを少し上げ、ブレードの約4分の3を水中に入れ、両ひじを出来るだけ曲げないで水を直角にかくように後方に引く。1,2という号令を掛けながら、この動作を繰り返すのが「前へ」の漕ぎ方です。
- 両舷(右舷、左舷)かい上げ:一時、漕ぐのを中止しようとするときの号令で、「かい備え」の姿勢をとる。
- 両舷(右舷、左舷)かい停め:艇の行きあしを停めようとするときに命ずるもので、ブレードを水中に対し直角につけて艇の行きあしを停める。
- 両舷(右舷、左舷)かい流せ:オールをローロックからはずし、ブレードを平らにして抵抗を少なくする。
- かい組め:対舷クルーのグリップをロア・ブレスト・バンド上に静かに置き、ブレードを水平にしておく。
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- かい立て:オールのグリップを下にして垂直にたてる。ブレードを船首尾線に沿わせる。
- かい納め:1、2番は艇の中央にブレードが艇尾となるように静かにオールをたおしオールを納める。3〜12番はブレードが艇首となるように両舷側に艇尾の人から順に静かにオールをたおしオールを納める。
- ポペットはめ:ポペットをローロックにはめる。
- ペインター離せ・ペインタ送れ
ペインタロープを離す。又は、ペインタロープを艇内から岸壁(他船)へ渡す。
- 防舷物入れ・防舷物出せ:防舷物を握って艇内へ取り入れる。又は、防舷物を艇の外側に出す。
- おもて離せ・とも離せ:ペインタロープを解き放し、ボートフックの爪のない方で艇首(艇尾)を岸壁から離す。
- 番替え:漕ぐ場所を変える。
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参考
救命艇/救命筏
搭載艇
新規作成日:2003年6月9日/最終更新日:2003年6月9日