コンピュータのトラブルで漂流したアメリカのイージス巡洋艦 の考察

以前「アメリカのイージス巡洋艦が、WindowsNTのトラブルで漂流」と言う話を聞きまして、 「イージス巡洋艦が、パソコンなんかに頼っているの?、しかも漂流?」なんて思っていましたが、世界の艦船3月号に、関連する記事が掲載され、状況がつかめました。が、実状は、少々異なる印象のものです。

事は、アメリカ海軍の、ハイテク化による省力化計画の「スマートシップ計画」として、実験中の、イージス巡洋艦「ヨークタウン」で、1997年7月に発生したものです。
−実戦配備中/作戦行動中の艦艇でのトラブルではない事が、重要なポイントです−
「世界の艦船」誌によると、「乗員が1台のコンピュータのリモート・データベース・マネージャに、誤った数字を入力し、結果、このソフトウェアは、ゼロで割り算する事に成ったが、言うまでもなく答えは無限大なので、コンピュータは際限無く計算を続けて、バッファが溢れかえってハングアップしてしまい、結果、主機が停止し、全艦が機能停止することになった」とあります。

まあ、概略は、「実用試験中の艦艇で、コンピュータでトラブルが発生し、機関停止により漂流した」と言う事なのですが、私も一応コンピュータのSEなので、ほじくってみたいと思います。
尚、原発表は、米海軍のはずですから英文であり、世界の艦船記載の内容は、米海軍発表の段階から、こういう内容となっていたのか、翻訳の段階で、このように成ったのか、文章表現の脚色なのかはわかりません。

さて、SEとしてこだわる点としては、「ゼロで割り算する事に成ったが、言うまでもなく答えは無限大なので、コンピュータは際限無く計算を続けて、バッファが溢れかえってハングアップしてしまい」の部分ですが、通常コンピュータは「ゼロで割り算する事に成った」段階で「ゼロ除算例外」が発生し、少なくとも該当プログラムは停止します。Windowsであれば、「×」印とメッセージが表示され、停止状態になります。従って「コンピュータは際限無く計算を続けて、バッファが溢れかえってハングアップしてしまい」と言う事はありません。
ただ、該当ソフトウェアの構造や、関連するコンピュータとの連携の関係から、不都合が生じ、あるいはリトライを繰り返したり、エラーログを際限なく出力したため「バッファが溢れかえってハングアップしてしまい」と言う事は考えられます。
ま、細かい内容は、現場のシステムを検査しないとわからないわけですから、あえて追求するほどの内容でも有りませんが、ちと、SEとして拘ってみました。

さて、ここで、使われているOSが、WindowsNTで有った事から、トラブルの原因は「WindowsNT」で有るかのような話を耳にするが、これには異論がある。
他のOSで有れば回避できたかどうかは疑わしい。もちろん、OSによっては、1つのソフトの例外により、コンピュータ自体が停止などの影響の有無は存在する。
が、むしろ「乗員が1台のコンピュータのリモート・データベース・マネージャに、誤った数字を入力し」たことをガードできなかったソフトウェアに問題がある。
そのソフトウェアが「WindowsNT」で有れば、確かに「トラブルの原因」で有るが・・・。
ソフトウェアとして開発する場合、色々な形のテストを行う。その基本とも言える入力チェックの問題がまず想像できる。入力値そのものの妥当性、有効範囲のチェックは、言うまでもない事で有り、早い話が、極めてお粗末な部分が有ったわけだ。
もっとも、単一項目のチェックだけで防げた問題か、複数の項目を使用した上での、演算途上に偶然生起したトラブルかの問題が有るから、あまり単純に非難はできない。
また、1台コンピュータの障害により、他への影響がどのくらいの範囲に及ぶのかを評価する事も、必要な事だ。
こういった複合要素を検査するのが、初期の検査をクリアし、段階を経て行われる、各種試験、そして総合評価段階で有る。
従って、初期段階の検査に引っ掛からない部分の問題だとすれば、今回のトラブルは、むしろ、有効な評価結果で有る。
もちろん、評価項目に従って発生していれば、最高だが、偶然発覚したとすれば、関係者としては、ちと恥ずかしい物で有ろう。
さて、問題は、こういった「試験段階でのトラブル」を見て、「システムの欠陥」と認識してしまう、社会風潮で有る。
日本でも「原子力実験船むつ」が、その試験航海のおりに、放射能漏れを起こし、その後の去就に惨澹たる結果を及ぼしたが、これも、実際は「評価としてこういった部分を確認し克服する」為の道だったので有る。
まあ、核アレルギーの国民性も有るのだろうが、「評価途上の事象」を受け止められないと言う事は、かえって「事象を隠蔽」し、内部処理を誘発する要因と言う面も否めない。
また、今回の事件の場合、「実験途上の」と言うよりも、「最新のイージス巡洋艦」と言う事が強調されており、これも事実認識の妨げとなっている。



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新規作成日:1999年1月26日/最終更新日:1999年1月27日