宇和島水産高校実習船と米原潜の衝突事故
日本時間10日午前8時48分(現地時間で9日午後1時48分)、ハワイ・オアフ島沖(ワイキキ南約20km)で、宇和島水産高校・漁業練習船(マグロ延縄実習船)「えひめ丸」と、アメリカ海軍原子力潜水艦SSN772 GREENEVILLE(母港PEARL HARBOR, HI)が衝突、「えひめ丸」は間もなく沈没し、高校生4人を含む9人が行方不明。救助された26人のうち12人が負傷してホノルル市内の病院に運ばれた。
行方不明者の安否が気遣われる。
●マグロ延縄実習船/マグロはえなわじっしゅうせん「えひめ丸」
総トン数 499.00トン、全長 58.18m、登録長50.60m、幅 9.30m、深さ3.90m、主機 1800馬力、補機 600馬力 2台、最大速力 15.05ノット、定員 67名、新来島どっく建造
●SSN772 GREENEVILLE
約20年の長期間に渡り62隻が建造されたSSN688 LOS ANGELES 型潜水艦の一隻。涙滴型から、魚雷型に近い船体となった、第二世代の、量産原子力潜水艦。本艦は、艦首のソナーと、魚雷発射管室の間の隙間に、トマホークVLSを装備しており、また、北極海などの氷壁を破って浮上する必要から、セイルの潜舵を排し、艦首へ取り付けている。サブロック対潜核爆雷の搭載が廃止された。
主機: 原子炉 1基/蒸気タービン 2基 1軸、長さ: 360 feet (109.73m)、幅: 33 feet (10.06m)、排水量: 約6,900t(7010.73 metrictons) 水中、速力: 20kt+、乗員: 13(士官),121(下士官・兵)、主要兵装: トマホークVLS (SSN 719 以降),魚雷発射管×4(トマホークミサイル,Mk48 魚雷).、在籍同型艦 51隻 (建造同型艦総数 62隻)
アメリカ太平洋艦隊司令官のトーマスBファーゴ大将は、原子力潜水艦SSN772 GREENEVILLEは、事故当時、バラストタンクから一気に排水し浮上する「緊急浮上訓練」を行っていたことを明らかにした。
また、該当潜水艦は、当日、市民参加の体験航海的運行のようである。
現段階で軽々しい推論で論ずるべきではないが、潜水艦乗艦者へのサービス的要素や、よもや浮上時に航行する船舶と接触する可能性もあるまいと見積もられている可能性は否めない。
実際、現場海面の映像では、輻輳海域と報道されていながら、潜水艦と救命筏、救助船艇の姿しか見えない情況で、面の中の点でしかない。
潜水艦は、通常、浮上時、ソナー等により、海面上の様子を確認した後、潜望鏡深度へ浮上し、潜望鏡や水上レーダーにより、周囲の情況を確認して、浮上する。
今回、緊急浮上を行ったらしいが、その真意は、定かではない。
また、訓練海域は、海図や水路通報により、制限がされる場合があるが、海上保安庁水路部の談によると、今回そういった制限はされていない様である。
海上自衛隊の観艦式などで、潜水艦浮上潜航する場合、水路通報により制限が公示されると共に、警戒船が配置される。今回、現場海域では、そのような態勢も組まれていない様である。
洋上監視が最大のポイントであるが、海洋の情況により、音波伝播情況が変化する為、困難さは伴う。
パッシブソナーは、航行する艦船の機関やスクリュー音を捉える為、探知に困難さは伴うが、クルスク事件でも勇名を馳せた、アメリカ海軍潜水艦の探知能力との兼ね合いも有る。
また、アクティブソナーによる探査を行うか否かもあるが、直上の死角も考えられる。要は、戦闘情報と、浮上時の監視は、必ずしも一致しない要件である。
現在、一般報道で「ソナー」と表現されているものは、パッシブソナー(水中聴音機)で、相手の音を聴音するものであり、方向は掴めても距離は分からない。また、停船中など静粛船舶に対しては無力である。その意味で、監視にはアクティブソナーが不可欠と思われるが、海上自衛隊OB談を含めて、パッシブソナー(水中聴音機)のみが頼りのようであり、疑問も残る。
もし、「えひめ丸」とその機関が静粛にあたるとすれば、その工業力は諸外国の対潜部隊羨望の的となるだろう。
ハワイには20隻からの潜水艦が活動しており、真珠湾を出た潜水艦は、必ずどこかで潜航し、また浮上する。そういう意味では、特定海域を、潜水艦浮上海面の指定とし、航行する船舶に注意を呼びかけるなどがあってもおかしくない。
日本周辺には、幾つかの訓練海域が指定されており、訓練時には海上保安庁の水路通報により告示される。
一般に、潜水艦の浮上時の注意義務に付いては、水上側に予知不能と言う事情から、潜水艦側にあり、「えひめ丸」はもらい事故という事になるが、水路通報などの確認情況もあり、最終的な判断は出来ない。
漁業練習船の魚群探知機やソナーを利用して、浮上してくる潜水艦を見張る云々論に付いては、ナンセンスで、空中からの落下物を、対空レーダーを装備してまで守るかと言うのと同じである。
実習生の話では「実習船に2回、ドーンと衝撃を感じ、廊下に出た。船の下の方にディーゼル油があふれていた。船室を出て、デッキに出ると、潜水艦が急上昇するのが見えた。船が沈没したのはその2、3分後だった」、現地から学校に入った連絡によると「実習船は衝突後、5〜10分で沈没した。救命ボートをはずそうとしたが、船が沈みかけておりはずせなかった。しかし、海中に落ちたボートが自動的に開いたため、甲板にいた生徒や乗組員らは乗り込んだ」とあり、まさに轟沈状態である。
米政府は直ちに謝罪表明すると共に、在日大使館を通じて外務省に、実習船の事故で乗員の家族らが現地入りする場合は、渡航費、宿泊費、食費を負担すると連絡してきたようだ。
また、潜水艦長の即時更迭も行われており、異例とも言える対応がなされている。一般に、事故原因調査が進んでから行われるものである。
この背景には、先日の、在日米軍海兵隊司令官のメール発言に続く不祥事で、日米関係の支障を恐れると共に、実習船と言う、学生に被害が及んだと言う観点からの配慮と思われる。(子供を大切にするアメリカではスクールバスを追いぬくと交通違反になったりする)
沿岸警備隊撮影の映像によると、SSN772 GREENEVILLEのセイル左横に、約5メートルの数本の傷痕があり、また、艦尾潜舵の塗装などが激しく剥げており「えひめ丸」との衝突の巣ざましさを物語っている。
今回、潜水艦に大した損害がない上、漁業練習船が沈没したと言う事で、潜水艦の怠慢を言う声も多いのだが、浮上時の衝突に付いては、もし、大型艦に接触した場合、潜水艦自体に損害が大きく、あるいは沈没する危険を孕んでおり、自艦の為にも安全確認は必須課題で、事実確認が待たれる。
不沈の声も高かった大型潜水艦クルスクと言えども、沈没して間もないのである。
愛媛県立宇和島水産高は11日、えひめ丸が出港してからの航路を公開した。えひめ丸は1月10日、神奈川県三崎港を出港。同21日から2月1日まで、太平洋中央の好漁場でマグロ漁の実習をした。ホノルル寄港は3月8日の予定だったが、空調設備の故障のため、7日に臨時入港。出港後の10日、事故に遭っている。
SSN772 GREENEVILLEが、衝突後、救助活動を行わなかったと言う報道が多数を占めているが、詳細は確認できていない。
潜水艦は、甲板面積も小さく、もともと、積極的な救助活動には向いてはいない。作業等に使う小型のゴムボートは搭載されてはいるが、水中抵抗を減らす為、艦外装備はしておらず、艦内より持ち出し展開するだけでも大変な作業である。
今回の事故では、太平洋艦隊が説明しているように、波が高く前後の脱出ハッチを開けられない状態であったとすれば、潜水艦へ救助を求めて泳ぎ着く人の収容程度しか術はなかった可能性もある。
実際、報道される映像では、天候も悪く、潜水艦の甲板を波が洗う情況で、甲板上のハッチを開けての活動は、潜水艦自体の沈没のリスクを伴うものである。
沿岸警備隊の救難活動が、1時間後から開始されたとされ、遅いとされているが、ホノルル港から現場海域までは、10浬程度あり、救助活動の遅延の真偽のほどは定かではない。
「えひめ丸」船長の見解と、アメリカ海軍などの発表は、必ずしも一致しないのだが、被害者側の感覚との温度差以前に、論点の一致をさせないと、正しい判断は出来ない。
例えば「救助開始が1時間後」についても、「現場で手を差し伸べるまでに1時間」なのか、「救難信号発信から出動まで何分」なのかは、同一情報でも、意味が変わってしまう。
事故の状況を推測すると
潜水艦の左舷前方より「えひめ丸」が直進接近し、潜水艦の急速浮上時に左舷セイル後方と「えひめ丸」の船尾付近が接触。その後、潜水艦の船尾潜舵と「えひめ丸」(の船底か)が再び接触。「えひめ丸」は、機関室などに大量の浸水を伴い、電気系統がダウンし、直ちに沈没した。「えひめ丸」の救命筏は、乗員が操作する間もなく、船が沈没した後、自動的に展開した。
2/12昼のTBS福留さんの番組の模型が、先の「クルスク」を使用しているのは、ちと何だかなぁ。
その後の調査で、民間人が操舵などにあたっていた事に関して、批判が上がっているが、事故と言う結末に対して、心情的な問題は有るのだが、船舶の場合、内部規定を例外とすれば、航海士官の指揮下であれば、泥酔者でも子供でも、操船が可能ではあり、今回の事故直接の原因とは思えない。
YomiuriWeekly からの取材時の概要より
●アメリカの潜水艦事情
アメリカ海軍には、現在約80隻の潜水艦があります。
このうち、今回事故を起こした艦は、原子力攻撃型潜水艦(Attack Submarine)と言われるもので、本来の任務は、敵潜水艦や艦船の監視、攻撃、です。
冷戦時代は、ソ連の原子力戦略ミサイル潜水艦(Ballistic Missile Submarines)−タイフーン型やデルタ型など−を、ソ連の基地出港から追尾したり、海峡や港湾で待機し、監視したり、アメリカの原子力戦略ミサイル潜水艦(Ballistic Missile Submarines)や、航空母艦がパトロールに出動する際、護衛に付いたりしていました。
潜水艦は、捜すのが困難である為、出港時から追跡していれば、所在を常に把握できると言う事です。その為、高性能な、多数の潜水艦を必要としました。高性能とは、静かで相手に見つからず、かつ、相手を確実に探知・攻撃できるものです。
冷戦終結後は、ソ連海軍の脅威が減少したものの、民族紛争や、地域紛争の脅威が増大した為、新たな任務が付与されています。一つには、特殊部隊を隠密裏に輸送し上陸させたりするものです。大国の脅威がなくなったとは言え、北朝鮮など、脅威は存在しています。
潜水艦は、元来、その存在を秘匿する事が最大の効果でもあります。どこに居るか判らないと言う事が、敵に対して、最大の脅威となります。
真っ黒に塗った船体、外から見て、番号も名前も見えないと言う事は、それだけ、わかりにくくしているのです。
アメリカの潜水艦が約80隻あるとは言え、太平洋と大西洋に半分づつで約40隻。整備・休養・訓練中が半数となると、太平洋艦隊で作戦可能な数は、たった20隻程度になります。太平洋、インド洋と言う、広大な海洋を担当範囲とするには、とても多い数とは言えません。従って、訓練は過酷を極め、また、常に作戦中の意識が求められます。
●今回の事故の背景
・ハワイ近海は、日本の漁業実習場となっている。
ハワイ近海は、漁場として豊かである。
ハワイ近海は、東南アジアに比べ、海賊などの危険がない
ホノルルに近く、トラブル時、急病人など、安心である。
などの理由から、日本の水産高校など、多数の実習船が、行っている。
・ハワイ真珠湾は、太平洋戦争直前以来、アメリカ海軍太平洋艦隊の根拠地となっている。
太平洋のほぼ中央に位置し、軍港として最適である。
その意味で、双方の艦船が、行き交う輻輳海域となっている。
●緊急浮上時の技術的事情
潜水艦の浮上は、
一般の浮上と、緊急時の浮上とに別れる。
潜水艦は、潜航時に、艦内のバラスとタンクに注水し、予備浮力を減少させ、艦の重量を大きくして潜没する。
浮上時は、これと逆に、艦内のバラスとタンクより排水し、浮力を増大させ、艦の重量を軽くして浮上する。
緊急浮上は、潜水艦に被害が発生した時など、急いで浮上する必要がある場合に行われる。
通常の浮上時と同様。艦内のバラスとタンクより排水し、浮力を増大させ、艦の重量を軽くして浮上すると共に、潜舵とトリムタンクを駆使して、海面へ向け斜めに前進しながら浮上する。ちょうど、鯨のジャンプのように。
これらの機械的操作は、故障でもない限り、別段の問題は考えられない。
問題は、洋上の障害物の探知である。
潜水艦は、海中では、音が頼りである。
ソナーと呼ばれるものには、2種類ある。
パッシブソナー(水中聴音機)は、相手の音を聴音するものであり、方向は掴めても距離は分からない。また、停船中など静粛船舶に対しては無力である。
アクティブソナーは、レーダーのように、こちらから発信し、目標から跳ね返ってくる音を頼りに距離、方向を掴む。原理はやまびこのようなもの。
潜水艦は、自分の存在を出来る限り隠したい事情から、パッシブソナー(水中聴音機)に全力を期待する。アクティブソナーは攻撃時の最終確認程度にしか使用しない。
しかし、パッシブソナー(水中聴音機)は、音を聞くのであるから、雑音(波の音など)からの妨げとの戦いでもある。ロサンゼルス級潜水艦には、約10名のソナー要員が居て、訓練を積み、あらゆる音を判別できるように訓練している。クルスク事故でも、その能力の高さが証明されたばかりでもある。しかし、あくまで、音を聞くのであるから、絶対と言う事は困難である。今回、艦艇に比べれば小型で、民間用とは言え静粛性にも富む高性能エンジン、スクリュー、更には、正面より航行して来ると言う条件が重なった為か、正確な判定は出来なかった様である。
アクティブソナーはパッシブソナー(水中聴音機)より、遥かに正確に、相手の距離、方向を掴む事が可能である。しかし、アクティブソナーの使用は、ひそむべき潜水艦が、みずから所在を明かす結果にもなり、潜水艦としては、使用は局限している。
もちろん、今回のような、平時の、訓練などの場合、安全確認の為に使用しても良さそうなものだが・・・。
実際、10年前の潜水艦浮上時の事故の際、アメリカ国家安全運輸委員会が、アクティブソナー使用を勧告しているが、アメリカ海軍はこれを受け入れなかった。
理由は、アメリカ海軍がアクティブソナーの性能を隠したい為である。昔の戦争は、単に弾の打ち合いで、先に多く撃ち、当てたほうが勝ちであったが、現在は、ミサイル戦、電子戦と言われる。レーダーなどでは、妨害電波により、レーダー能力を無力化するECM、それに対抗するECCMがある。ミサイルなど、妨害により、いくらでもよけられてしまう。ソナーも同様で、音波の性質を把握すれば、いくらでも対策が取れる。その意味で、がんがんアクティブソナーを使っていれば、実際の戦闘時には、とっくに見破られていて、無力となっているのである。
クルスクの事故の時も、米英の潜水艦などが張り付いていたが、そのようにして、あらゆる情報を取得し、戦時に備えているのである。当然、ハワイ周辺など、他国の潜水艦が張り付き、情報収集にあたっていると考えて差し支えない。
情報収集は、単に、目で見たり、通信を聞いたりするだけではなく、このように、レーダー、ソナーの能力を調べたり、更には、航行する艦船の音を録音分析する事も含まれる。
●疑問点
個人的に疑問なのは、今になって始めて「輻輳海域」と騒いでいる事。
それほど危険なら、実習船側にも、何らかの警戒態勢が求められてしかるべきである。潜水艦浮上そのものは判らなくても、救難準備をして航行するなど、待機は可能である。
また、ハワイ沖では、初めての事故である事。それほど危険と言う認識は誰もしていなかったのではなかろうか。
真珠湾を出た潜水艦は、必ずどこかで潜航し、また浮上する。そういう意味では、特定海域を、潜水艦浮上海面の指定とし、海図に表示し、航行する船舶に注意を呼びかけるなどがあってもおかしくない。
日本周辺には、幾つかの訓練海域が指定されており、訓練時には海上保安庁の水路通報により告示される。
人工衛星の落下海域などの警報と同様である。
愛媛県立宇和島水産高等学校ホームページ
USS GREENEVILLE (SSN-772)
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新規作成日:2001年2月11日/最終更新日:2001年2月20日
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