米海軍電子偵察機(EP-3)が、中国戦闘機と接触

沖縄・嘉手納基地所属の、米海軍電子偵察機(EP-3)(24人乗り組み)が4月1日午前9時15分ごろ、南シナ海上空を偵察中に、2機の中国軍の戦闘機に進路を阻まれ、1機の中国機が米海軍電子偵察機(EP-3)の機体と接触したため、米軍機は緊急信号を発信しながら海南島に緊急着陸した。
米海軍電子偵察機(EP-3)の損害は軽微で、けが人はいない模様。
米海軍は「接触したのは公海上で領空侵犯にはあたらない」との認識を示しているが、中国機は領空侵犯の疑いで米海軍電子偵察機(EP-3)の進入を阻んだ可能性が高く、米海軍電子偵察機(EP-3)の返還を許すかどうかは不明だ。
また、「米海軍電子偵察機(EP-3)は中国機2機の妨害を受け、うち1機と接触した。接触が、事故か故意かは不明」と話している。

この電子偵察機(EP-3)32号機は、故障がちのトラブルメーカーの機体と言われ、最近もエンジン1基停止と言うトラブルに見舞われている。
また、今回、女性乗員3名が搭乗している模様である。

「水と安全はタダ」と考える、のー天気な方々には、極めて理解しがたい事だが、「ソ連崩壊による緊張緩和」などと言う事は、最大級の危険が多少減っただけで、地球上には、あまたの軍事的緊張は存在する。
「敵を知り、己をしらば、百戦危うからず」の孫子の兵法が示す通り、戦闘は、その最終評価に過ぎず、事前の情報収集が、戦いの趨勢を決定する。
ロシアや中国による、航空機、調査船などによる、我が国領海、領空侵犯は、その現われである。同様に、アメリカや我が自衛隊も、情報収集には余念がない。
今回、中国側が「米国がなぜこれほど中国に近い場所で日常的に偵察活動をしているのか、全く理解できない」と言うのは、あくまで自国中心の論法であり、我が国周辺の中国海洋観測艦の行動を見れば、各国みな同じなのである。
すなわち「如何に相手に見つからずに情報を盗むか」なのである。

電子偵察機(EP-3)は、主として、基地レーダー、艦船通信、その他、各種の電波情報の収集にあたる。
軍事通信は、暗号化されている事は言うまでもないが、それを破るのも情報戦であり、その為には、多くの通信情報を傍受する必要が有る。
相手レーダーの発する電波も、現代の電子戦では如何様な対策も可能だ。
開戦直後に真っ先にレーダー基地は破壊されると言うが、むしろ残存し、電子戦による妨害(1機が百機の編隊に見えたり)を受けるほうが厄介である。

今回の緊急着陸には、幾つかの疑問がある。
緊急着陸を必要とする場合のマニュアルがどうなっているのか。
乗員の安全もさる事ながら、電子偵察機(EP-3)のように、機密度の高い機体の場合、他国に渡る危険をどのように考えているのか。公海上に不時着水し、乗員脱出後、機材破壊、海没と言う事に、なぜしなかったのであろうか。

もし、マニュアルに反して、中国領土に緊急着陸したとあれば、関係者には非常に厳しい処分がなされよう。
ただ、現代、もっとも重要な物は、機械ではなく、情報と言われる。
その意味では、搭載機器(コンピュータ)の、ソフトウェアとデータが、綺麗さっぱり消去されていれば、大して失う物はないと言える。
もちろん、米海軍電子偵察機(EP-3)の機内に装備された機密性の高い機器などは、乗員の手で破壊をされているだろう。
海上自衛隊の艦艇の乗艦見学経験者は、見た事があるかもしれないが、装備されている機器には「整備 ○○、破壊○○」と、担当者が決められていて、艦を放棄する場合、指定された担当者が、破壊して、敵方への流出を防ぐ事になっている。
米海軍乗員も、緊急時にハンマーなどを使って暗号解読機などの機器を破壊したり、データやソフトウェアを抹消するなど機密を保持するよう訓練を受けており、接触から緊急着陸して中国当局者が機内に乗り込んで来るまでの間に、相当の処置をしたと見られるが、時間が限られていたことから、どの程度まで処置できたかは不明である。また、特殊薬品による電子回路基板の破壊が行われたかなどは分かっていない。

もう一つの疑問は、24名と言われる乗員数である。
対潜哨戒型のP3-Cは、乗員12名である。
用途が違うとはいえ、機内にはおびただしい機器が所せましと配置されており、定数限界とも思われるこの人数は、更なる任務が課せられている可能性を示している。

米側は、機材の即時返還を求めているが、これほどの機密度の高い機材であるから、中国側がおいそれと返還する事は考えられない。
かつて函館に着陸した、ソ連のミグ25を、あーだこーだ言いながら、日米が徹底的に解析した事を考えれば、結論は見えている。
ただ、今回の場合、機材の実質的な利用価値と、米中関係の駆け引きから、余談を許さない局面ではある。
すなわち、破壊され尽くした機材は、がらくた同然であり、それよりも、経済支援や、例えば台湾海峡の軍事力バランスへの寄与(台湾への武器供給の制限)が有効でもある。

さて、実際の飛行経路や、接触、着陸に至る情況であるが、台湾軍が監視していた所によると、ロシア製のソブレメンヌイ級ミサイル駆逐艦の行動を偵察していた米機を、追い払おうとした中国機が、空中接触し中国機1機が墜落、残る1機が機銃により威嚇して、強制着陸させた模様である。


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新規作成日:2001年4月3日/最終更新日:2001年4月4日