日本の侵攻能力

自衛隊の増強や、存在自体が、再軍備だとか、侵略戦争の準備とさえ言われる事がある。
確かに、兵器が攻撃を加えれば、多数の死傷者が発生するだろう。
しかし、侵略や、他国への脅威とは、どういう物だろうか。
ここでは、我が国が、仮に、他国へ攻撃を加えるとした場合の、シミュレーションを試みたい。
もちろん、平和憲法下では、その様な事は起こり得ない。
国内世論はもとより、国際的にも孤立する。
そして、いずれ多国籍軍からの制圧も受けるであろう。
当然の事ながら、現在の我が国に、他国を侵してまで得るものは存在しない。
その挙動のみですら、失うものばかりである。
あくまで、物理的能力としての、シミュレーションである。

実際に、自衛隊が動く場合、法的根拠や、諸々の問題が有るのだが、その辺りはここでは触れない。
あくまで、司令官として全権を委ねられた私が、現有戦力を動かす場合としてのシミュレーションである。

そして、その結果は、我が国再軍備や、侵略の序曲というような、意味のない空論に、終止符を打つべき物である。


さて、他国へ脅威を与える軍事行動だが、ゲリラ的に攻撃するなら、既に前世紀に、赤軍派などでも実施しているし、その様なレベルでは、国家組織としての意味がない。
島国を相手に、海上封鎖すると言うのも、単に、相手国から、我が国が同じ手段で脅かされるに過ぎないので、意味がない。
ここでは、最終的に、地上軍による制圧を持って、勝利要素とする場合を考えてみたい。

近代戦闘において、必須条件は、制空権である。
現時点で、空母や制空能力の有る艦載機を持たない我が国にとって、航空自衛隊の制空能力がすべてである。
現時点で、空中給油機を持たない我が国の戦闘機は、基地から概ね半径2000kmが、行動範囲である。
さすれば、おのずと、我が国周辺から、半径2000km先までしか、制空権の確保は難しい。
また、空中給油機が有ったとしても、飛行時間(距離)が延伸されるだけで、弾薬などの補給はできないから、それほど広範囲の制空権を握るのは不可能である。
まして、戦闘を仕掛ける以上、反撃も有るわけで、我が国自体の防空能力を、維持しつつ、攻撃戦力を捻出しなければならない。
その意味で、基地から概ね半径2000kmが、行動範囲での限界である。
対象範囲は、極東/ロシア、朝鮮民主主義人民共和国、大韓民国、中華人民共和国/東岸、中華民国(台湾)、フィリピン/北半分、までである。

イージス艦を前進基地にして、防空拠点にすれば良いのではないか?
確かに、半径100kmの防空拠点にはなり得る。
しかし、あくまで艦艇である。
もし、そのようなベースが存在するなら、相手方としては、思い切り攻撃を加えて取り除くであろう。
400km先からの100を超える同時攻撃が探知できるレーダーと、100km先まで射程のあるミサイル。しかし、搭載しているミサイルは1隻で100発程度である。
すなわち、100を超える攻撃を加えれば、簡単に撃ち尽くすのである。
そしてまた、艦艇である以上、他の手段を用いての、撃沈も目論まれるであろう。
当然、イージス艦1隻ではなく、艦隊を編成して拠点化する所だが、そこまでしても、いずれは弾切れか、沈没し、能力を失う。
まして、半径100km程度では、近隣部隊の防空はできても、攻撃先の制空権確保は、意味が違う。侵攻時の恒久的制空権を握る事はできない。

空母が有れば、どれほど拡大できるのであろうか。
アメリカ海軍の航空母艦の場合、約100機の搭載機により、小規模空軍よりも強大だといわれる。
しかし、5000人もの要員を必要とする艦艇は、おいそれとは整備維持できない。
世界的に見ても、アメリカ以外、満足な保有をしている国はなく、英仏でさえ、国情に合った艦で我慢している。
その意味で、我が国がアメリカと同等の航空母艦を保有する日はほとんど見えない。
フォークランド紛争で、イギリスの軽空母が、なかなかの戦力となったが、これも、相手国(アルゼンチン)本国から戦場が遠距離の為、双方の制空能力に制約が合ったからに他ならない。
その意味では、小規模の母艦の場合、前述のイージス艦の制空能力を上回るものの、基地航空戦力による制空権維持とは、程遠いものである。

開戦する場合、相手国の防衛拠点、とりわけ防空施設をまず破壊する必要が有る。
ここで、アメリカ軍の場合、対レーダーミサイルや、ステルス機などにより、先制を加えるのだが、自衛隊にはそのような装備は存在しない。

SSM1を改良して、トマホークのような運用が不可能でもない。
また、対レーダーミサイルや、ステルス機も装備すれば済むかもしれない。
しかし、今から計画しても、5年以内に戦力化はできないだろう。

また、相手国の防衛拠点は、事前の調査が不可欠である。
偵察衛星を持たない我が国は、アメリカのような詳細情報を得る事は難しい。
情報が少ないという事は、拠点を叩く事が不十分であり、また、必要以上の攻撃努力を強いられる事になる。
弾薬の消費量も大きくなる。
そしてまた、相手方の反撃も有るわけで、航空戦、空中戦は、消耗戦でもある。
航空自衛隊の戦闘機は、総数でも300無い。

攻撃可能範囲内の各国のうち、極東/ロシア、朝鮮民主主義人民共和国、大韓民国、中華人民共和国/東岸、中華民国(台湾)、については、東西対決の延長から、比較的強力な戦力を有している。その意味で、我が国の部隊による、先制制空権確保は、なかなか困難であろう。
また、フィリピンの場合、北半分しか我が航空機が押さえられない以上、かの国の南部の基地は無傷であり、長期的な防衛線が確保されてしまう。

と、この段階で、既に、制圧勝利の光が見えていないのだが・・・。
ま、それでは話しがここまでで終ってしまうので、我が方に都合よく、相手の反撃もそこそこに、防空拠点の撃破が進行したとしよう。
とはいえ、無傷で完了する事はありえない。
若干の損害は当然で、撃ち漏らしも当然残る。

さて、ここで、海上自衛隊の方だが。
水上艦艇や、潜水艦により、相手国艦艇の封鎖、制圧が任務とされるであろう。
世界有数の艦艇部隊を有する海上自衛隊にとって、艦艇部隊の行動範囲において、向かう所敵無しといっても過言ではあるまい。

戦闘を始める以上、相手方が反撃する。とりわけ、シーレーンを脅かす事が有効であり、潜水艦を中心として、活動が開始されるであろう。
対する海上自衛隊は、本来の防衛任務たる、管轄海域の海上防衛と、シーレーン確保に活躍する事になる。

1つ問題が有る。
相手国の核戦力と、弾道ミサイルなどによる、反撃である。
核兵器は、抑止力的色彩が強くなっており、使用した場合、その後の国際的影響を考えると、簡単に使用されるものではない。
しかし、侵攻してくる敵に対し、使用を躊躇う必要性もある意味薄く、反撃の大義名分ではある。
侵攻する場合、これを事前に叩けるか、或いはリスクを織り込むか、重要な課題である。
もちろん、我が国への打撃を考慮の上で侵攻する必要性はさらさら無いわけで、それが抑止力の具現化でも有るわけである。
ここでは、この問題を無視して、侵攻が可能かどうかのみ、探求を続ける。

相手国を制圧する為には、最終的に、地上軍がこれを成す事になる。
さて、では陸上自衛隊を差し向けよう。
ここで問題なのは、我が国が島国であると言う事である。
戦車橋や、架柱橋、浮橋といえども、海峡までは渡せない。
すなわち、駐屯地から、陸上自衛隊独力により、目的の所へ侵攻できないのである。

先ずは、重要拠点を押さえる為に、空挺部隊の派遣が行われる。
輸送手段の、航空自衛隊のC130は、3600km、C1は、1300kmしか、航続力が無い。
行動半径は、この1/2以下であるから、制空範囲以内の拠点しか、降下戦が行えないわけである。
また、空挺団は、1000名程度であるから、1つ前後の拠点を、速やかに制圧できるに足る程度の所にしか使えない。
直ちに後続部隊が応援できるか、相手の防御が軽微な所しか対象にできない。
他国のような、空挺師団程度の規模があれば別だが、陸上自衛隊は、旅団扱いの空挺団、それも一般の国では、連隊といっても過言ではない人数である。

さて、では、陸上自衛隊の本隊を、続々と派遣し、制圧してみよう。
輸送手段は、海上自衛隊の輸送艦である。
その、海上自衛隊の輸送艦であるが、艦型そのものは、両用戦作戦用の艦型ではあるが、その総輸送量は、1個師団の1/2を輸送するものである。
もちろん、戦闘兵器を優先して輸送する事もできるが、あくまで1個師団内である。
それでは、民間の貨物船を徴用しよう。
しかし、かつてのような、戦時徴用体制は全く無い。
策定には何年もかかる。無理に使えば、国内経済を破壊する。
いやいや、自衛隊自体の必要物資すら、国内流通体制に依存している。
また、民間輸送能力も、戦闘地域への地上軍運搬には、元来、無縁である。

敵前上陸作戦は、リスクが大きい。
最近では、アメリカの海兵隊でも、実施を嫌がる。

攻者3倍の原則というものがある。
攻撃側は、防衛側の3倍の戦力を以って当たらなければ、勝利できないというものである。
もちろん、中世頃からいわれた事で、最近では、地上軍同士がぶつかり合う以前に、航空戦力などによる、殲滅が実施されるので、地上軍は、最後の押えという位置づけになっている。

前提となるのは、相手の防衛能力を、如何に叩けるかという事である。
しかしながら、あくまで守る側は、本土祖国を枕に戦っているし、
攻める我が方は、遠征軍である。
どちらが補給に優れているかは言うまでもない。

その意味で、我が方に、十分な、事前殲滅能力はなかろう。
備蓄している弾薬が、最大効果を上げたとしても、とても何個師団もの戦力を破壊し尽くすほどの能力とはなり得ない。

その状態で、1個師団程度が、のこのこやっていったら・・・。
もちろん、我が国の港から、上陸地点までの、一両日の航海、そして上陸に際して、猛烈なる反撃があるだろう。
そしてまた、運良く無傷で、全戦力を揚陸したとしても、敵地における、僅か1個師団である。
餌食といっても良いのではなかろうか。

さて、もう、この先、考えるまでも無く、侵攻作戦の、制圧勝利というものは、見えてこない。

これは、我が国の自衛隊の能力が、不足若しくは、無力で有ると言う事なのだろうか。
侵攻を前提とすればまさにそのとおりだ。
しかし、21世紀を迎え、文明国が、侵略戦闘を開始する事はありえない。

まして、自衛隊は、専守防衛。
守りにこそ、最大の能力を発揮する。

戦争は、プラモデルを広場に持ちよってぶつけ合うものではない。
装備品の数や質を単純に比較しても意味が無いのである。
その用途、実際の運用を勘案し、始めて戦力として計算が可能である。

その意味で、単なるカタログ値による、脅威論は、意味が無い事なのである。

ソ連軍侵攻のシミュレーション


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新規作成日:2001年11月30日/最終更新日:2001年11月30日