韓国の原潜計画

韓国紙、朝鮮日報は2004.1.26付で、同国政府高官の話として、韓国軍当局が日本、中国など周辺国の脅威に対処するため、4000トン級の原子力潜水艦数隻を独自開発し、2012年から実戦配備する計画を秘密裏に検討している、と報じたようだ。

しかしながら、計画は「極秘」であるというから、真相は定かではない。

さて、韓国の原潜計画は、どういう意味があるのだろうか。

現在、韓国海軍は、鋭意拡張に努めている。
駆逐艦の大型化もすすめられ、外洋海軍としての部隊を整備しつつある。

が、韓国海軍の本来の部隊編成はどうあるべきなのだろう。
もちろん、国防方針はかの国が決めるものであり、外野がとやかく言う筋合いのものではないのだが。

韓国における当面の脅威は北朝鮮である。
国境周辺での防備が最重要課題だ。
北朝鮮が外洋海軍を持たない以上、韓国が北に対して外洋海軍を供える必要性は薄い。

韓国海軍の拡張は、日本を見据えたものといって間違いないであろう。
実際、日本と戦うつもりかというと、そうではあるまい。
民族、領土諸問題を抱えるとはいえ、21世紀の今日、戦闘を交えるほどおろかではあるまい。
しかし、隣国日本と、いろいろな面で対等以上の発言力を持ちたいというのも事実であろう。
そのための軍拡は、21世紀の今日、前近代的発想ではあるのだが・・・。

力の上で、日本と対抗しうること。
すなわち、日本にとって脅威たることが、対等以上と考えているようである。

原潜、すなわち、原子力を動力とする潜水艦である。
通常動力型に比べ、長期間の行動が可能とされる。
しかし、問題点も少なくない。

原潜の事故は、常に付きまとっている。
ソ連ロシアの事故が有名だが、アメリカでも起きているし、つい数年前、イギリスでも発生している。

韓国では、現在潜水艦の建造も行っているが、あくまで他国のライセンス生産である。
韓国の造船能力からして、原潜建造が不可能とはいわないが、それほど簡単な道のりでもないだろう。
もちろん、ロシアなどからの技術協力があれば、かなり促進する要素はある。

現在保有する潜水艦は2000トン前後であるが、原潜といえば4000トンは必要で、船体の巨大化に伴う構造上の技術的問題も残る。
水上艦船のように、ブロックを足せば全長が2倍というわけには行かない。

同じアジアのインド海軍でも、原潜保有はかねてからの懸案事項のようだ。
しかし、ロシアからリースしたりと研究は続けられているが、まだ国産は開始されていない。

実際、建造が開始されても、直ちに戦力化できるということは難しいだろう。
乗員の体制も必要だ。
燃料無補給のまま長期間の行動が可能といっても、乗員の生活や、ましてや精神状態、作戦通信が追いつくかどうかは別問題だ。

そもそも、原潜はノイズが大きいとされる。
構造上スチームタービンを駆動するため、電動機による推進よりはるかに雑音レベルが高くなる。

また、行動海域の問題もある。
韓国周辺の大陸棚であれば、どうしても原潜が有利であるという局面は少ない。
太平洋に展開し、長期行動を前提とすれば、その価値も出てこよう。
が、その場合は指揮系統が重要だ。

潜水艦は外が見えない。
潜望鏡深度にあがって目標を確認できても、範囲はわずかなものだ。
もちろん、そうやってゲリラ的な通商破壊活動は脅威ではあるが、数隻という戦力では、たいした効果はないだろう。
もぐったまま何かをするには、衛星などを駆使した全世界的な指揮通信体制が必要だ。

こうして考えると、現時点での原潜計画は、プラモデル艦隊拡張レベルの話に過ぎないようだ。
原潜というステータスシンボルに固執し、その存在を持って戦略的意義をなすという。

しかしながら、戦略的脅威は、周辺国への影響も大きい。
とりわけ、中国はよい反応を示さないだろう。

国防上必要であれば、いずれは保有するだろう。
しかし、その影響で、周辺に軍拡競争が巻き起これば、結果的にマイナスである。
軍拡競争は、競争に勝ったものはおらず、競争に負けるか、あるいは負ける前に決戦に挑み敗退したという例ばかりだ。
相対的に冷戦に勝ったアメリカといえども、国防予算の観点からは決して勝者ではないし、国民は多くのつけを支払っている。

かつて韓国映画で「ユリョン」というものがあった。
極秘計画の原潜の物語である。
原潜は海軍の願望であるかもしれないが、この映画の結末は悲惨なものであった。

現在ロシアでは、冷戦期の大量の原潜が、退役後老朽化して困っている。
原潜は、建造のみではなく、最終処分までトータルで検討された上で建造されなければなるまい。



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新規作成日:2004年1月28日/最終更新日:2004年1月28日