2004.11国籍不明潜水艦と海上警備行動発令
2004年11月9日政府は、九州近海の日本の領海内で、国籍不明の潜水艦を確認したため、10日朝、海上自衛隊に「海上警備行動」を発令した。
その後12日午前7時すぎ、東シナ海で日本の領空外に設けた防空識別圏(ADIZ)の外に出たため、閣議により「海上警備行動」は解除された。
防衛庁は探知したスクリュー音から中国海軍の「漢(ハン)級」原子力潜水艦とみており、日本政府は中国潜水艦と判断し、中国に対してしかるべく措置を取るという。
さて、実際はどうなのか。
おそらく、いずれ、霧の彼方に消えてしまうだろう。
そもそも、なぜ領海侵犯となったのか。
海洋は、海面によってひとつにつながっているが、国際社会において、領海と公海にわかれる。
が、各国の主張する領海によって海を仕切ってしまうと、船が自由に航行できなくなってしまう。
そのため、船舶には「無害航行権」が与えられている。
これには、水上航行して国籍を明示し、主権国に対して危害を与えることなく通過することが条件になる。
(150年前にペリーが行った江戸湾の測量などは主権侵害もはなはだしい行為なのだ。)
一般に、商船の場合がこれにあたる。
が、軍艦の場合、微妙な部分がある。
ただ、南西諸島など、大陸国の船舶が外洋に出ようとする場合には、どうしても横切る必要が出てくる。
しかしながら、戦争状態でなければ、別段の示威行為がなければ、無害航行権の行使と扱われるのが通である。
では、今回はどうして。
1つには、日本の出方を見るための鞘当行為という見方がある。
が、近く、東南アジアの首脳会議もあり、ようやく回復の兆しを見せ始めた日中首脳レベルにおいて、この時点で、面倒を起こす必要はないだろう。
ただ、大国中国において、現政権の意向が、軍末端まで行き届いているかという問題はある。
原子力潜水艦の威力を示し、外洋海軍の健在を示す意図も言われるが、原子力潜水艦とは言え、漢クラスは30年前の設計の艦で、「古くても元気です」という主張は、海洋力の主張にしては、負け犬の遠吠えに近いものがある。
さて、
16.10.27海上幕僚監部の公表では、沖縄周辺海域において平成16年10月29日(金)〜11月8日(月)「対潜特別訓練」が行われている。
沖縄周辺での実施というのは、日本近海という意味と共に、中国へのプレゼンスでもある。
当然、中国海軍も、関心ある訓練だ。
16.11.8海上幕僚監部の公表では、11月8日(月)午前12時頃、種子島の南東約315q(約170NM)において、中国のダーヂャン級潜水艦救難艦「861」及びトゥーヂョン級航洋曳船「東施830」を確認し、これら2隻は、11月5日に確認して以降、種子島南東海域で変針・変速を繰り返しているという。
一部報道では、通常搭載しているDSRVが見当たらないことから救難任務ではないという。
航行状況の詳細がわからないからなんともいえないが、DSRVが見えないから救難任務ではないというのは確定できない。なぜなら、既に海中に下ろして、捜索活動をしている場合もありうるからだ。
また、対潜特別訓練の海域がわからないのでなんともいえないが、その状況監視のために行動していたということも十分考えられる。
さて、国籍不明の潜水艦であるが。
潜水艦は、さまざまなノイズを発生する。
そして、それは艦によって微妙に違う。
同型艦といえども、個性があるわけだ。
これを音紋と呼んでいる。
冷戦時代、アメリカはソ連潜水艦の音紋を集めていた。
戦闘時に、参考にするためである。
そして、それは現在も続けられており、対象国は全ての国の潜水艦である。
もちろん、自国や同盟国の潜水艦のものも集められている。
指紋照合時には、犯人のみならず、被害者、捜査員もあわせて照合するのと同じ理由だ。
海上自衛隊においても、専用の音響測定艦、「はりま」「ひびき」を持ち、情報収集をしている。
護衛艦や潜水艦のソナーでも同様に情報を集めている。
そして、日米連携のものと、衛星や、その他の情報とあわせて、データベース化されている。
その精度は高いほうが良いが、といって、つまらない事件のために、その能力を明確にしてしまう必要もない。
おそらく、探知当初から、音紋の特定は出来ていたのだろう。
ただ、あくまで的は海中にいて、視認できていない。
国際的に国籍を確定するにはやはり少し距離はある。
ところで、16.10.27海上幕僚監部の公表では、対潜訓練参加部隊等として、海上自衛隊:潜水艦2隻等、米海軍:巡洋艦1隻、駆逐艦2隻、潜水艦3隻、航空機若干等となっている。
海上自衛隊の対潜部隊の主力たる、艦艇(護衛艦)、航空機が明記されていないのだ。
「等」という表記には含みがあるが、それでも、対潜部隊の主力は、参加するなら何らかの明記はあるだろう。
密かに建造していた航空母艦が参加するわけでは無いのだから、別段隠す必要もない。
と、rimpeace 「追跡!在日米軍」のホームページによれば、04.11.9 撮影「ホワイトビーチに大艦隊。日米対潜訓練終わる」の記事に、「海自の艦船の中には、むらさめ型4隻、しらね型1隻などが含まれている。」とある。
写真自体、なかなか鮮やかな情景でもあり、艦艇識別の材料にもなるので解析してみた。
写真左から
1.たかなみ型(or、むらさめ型) /DD112 まきなみ(or、DD103 ゆうだち)
2.あさぎり型 /DD157 さわぎり
3.こんごう型 /DDG173 こんごう
4.むらさめ型(or、たかなみ型) /DD103 ゆうだち(or、DD112 まきなみ)
5.しらね型 /DDH144 くらま
6.たちかぜ型 /DDG170 さわかぜ
4.アーレイバーク型
と推定できる。
左は型名、/右は中でも推定艦名
これが全参加艦艇だとして、これ以外に沖縄海域に海自艦艇がおらず、ここから2隻が潜水艦を追っかけたとしたら
4.(か1.)がゆうだち
5.がくらま
とかなり確定する。
さて、この海上自衛隊艦艇だが、佐世保をベースとしている第二護衛隊群のうち、第6護衛隊を除いた6隻に奇妙に符合する。
対潜訓練に、世界屈指の海上自衛隊護衛艦部隊が参加するのは至極当然であり、混成部隊ではなく、ある程度の部隊単位で参加するほうが、訓練成果は良いのだが、6隻もの参加を、潜水艦2隻「等」とするだろうか。
また、地方限定の訓練ではないから、かならずしも、沖縄に近い佐世保の艦ばかりが訓練に参加するのも不自然ではある。
また、世間では、潜水艦が領海侵犯をした以降をテーマにしているのだが、そもそも潜航中の潜水艦が、領海侵犯するなどということは、それなりに対処していなければわかりようがない。
防空に関しては、レーダーで見ているが、こと、海洋に関して言えば、いちいち全ての船舶を監視できるわけがない。
ましてや、潜航中の潜水艦は、なかなか難しい。
それに対して、海上自衛隊では、P3Cなどにより、平素から洋上監視を行っている。
これにより、ある程度の周辺海域での動きは察知できている。
もちろん、海上警備行動が発令される以前では、一般的哨戒行動に限られる。
対潜哨戒としては、P3C機体尾部にあるMAD(磁気探査機)により、広域哨戒をかける。
また、国籍不明の潜水艦が、中国のものだとした場合、日米対潜訓練の偵察に来ていたと考えるのに、それほどの抵抗はない。
ただ、この場合、冷戦時代に米ソ潜水艦の鞘当合戦の中、実際に接触事故を起こしたという事件もあるように、何らかの圧力もかけられていたことが推測される。
もちろん、わが国の艦艇がそのようなことは出来ないから、アメリカの艦艇ということであるが。
なぜ、領海侵犯となったのか。
いくつかの要素が考えられる。
海中にいるから、ばれないと考えていたこともあるかもしれない。
そもそも日本は、侵犯に対する対抗措置が甘いことで有名で、ここ数年の不審船事件の対処は、工作船をして、まさかの驚きを与えたほどだ。
逆に、航法装置が古く、自艦の正確な位置が特定できていないために、誤って領海を航行してしまったことも考えられる。
あるいは、追い立てられて、慌ててしまったのかもしれない。
ただ、この場合、訓練自体は追い立てるべき部隊は既に沖縄ホワイトビーチに戻っているので、時間的差異が残る。
潜水艦は、潜航中の外部との通信は極めて限られる。
甲板に出て携帯電話でもなどということはありえない。
ただ、かつてのように、海中は電波通信がまったく不可能ということはない。
ある程度上昇すれば、長波通信も可能だし、通信アンテナを海面上に上げれば、潜航中でも通信が可能だ。速度を落としてと言うのは、こういう場合に行う。
これに対しては、電波情報収集という対抗策が用意されている。
航空自衛隊のE767が支援に出ていたようで、他国からのスクランブルに供えてということだが、他国戦闘機の飛来は、南西諸島のレーダーサイトでも十分見えるし、実際に飛んできたら、E767がついていようがいまいが、P3Cが危険なのは言うまでもない。
むしろ、E767は、電子情報収集のために飛んでいたとみるべきだ。
海上自衛隊にも、EP3という機体があるが、5機しかいないものの岩国基地の所属であり、何らかの支援に動いている可能性もある。
海上警備行動についての報道では、追尾の方法が、ソノブイやディッピングソナーによる、パッシブ(聴音)型が強調されている。
が、潜水艦は、20ktで航行したとしても、24時間たてば、480浬、約1000km航行する。
ソノブイは使い捨てで、本来は、海底に潜むものをあぶりだすためのものだ。
位置を特定するために使用するというのは正しいが、それは攻撃するために、魚雷や爆弾の目標位置を正確に出したいためのもので、追跡のために使い続けることは、極めて無駄である。
航路を正確にプロットして切る区する意味も必要性もないだろう。
連続航行している場合、MADによって追跡すれば事足りる。
また、護衛艦が現場に到着したならば、ソナー探信を定期的に続けていれば、見失うことも内。
もちろん、実践訓練や、報道的プレゼンスとして行うことにも意味はあるだろう。
同時に、実践的データとして、更なる音紋などの情報を採取していることも考えられる。
以上は全て、当方の推測に基づいている。
真実はひとつだが、その真実がそのまま見えたほうが幸せかどうかは別問題だ。
また、政治、外交は、腹芸、騙しあいだ。
中国政府関係者が「私は知らない」という。
ホントに聞いていないのかどうかは別にして、「事実を否定」したわけではないところがミソだ。
後になって、「私は知らなかったが、別の人は知っていた」といえば、いくらでもつくろえるわけだ。
もちろん、突っ込むサイドは「わかる物を出させる」べきではある。
かの潜水艦が、地上の状況を知っているのかどうかわからないが、いずれはいずこかの港に戻るだろう。
あるいは、原子力潜水艦の能力を発揮して、ほとぼりが冷めるまで潜航したままなのだろうか。
新規作成日:2004年11月12日/最終更新日:2004年11月12日