ボフォース対潜ロケット弾は時代遅れの兵器か

ボフォース対潜ロケット弾といえば、海上自衛隊の対潜兵器の一時代をなした武器である。
訓練展示などでも、その発射シーンは、人気を博している。

最近どこかの雑誌に「ボフォース対潜ロケット弾は時代遅れの兵器だ」という記事があったようで、いくつか問い合わせが来た。

確かに、海上自衛隊では、装備体系がそれを物語っている、かに見える。
搭載護衛艦も、いしかり、ゆうばり、ゆうべつの3艦であり、艦載の対潜兵器はASROCが当たり前の時代となった。
ボフォース対潜ロケット弾は、射程約2000mの対潜前投兵器で、短魚雷のような誘導方式でもなく、ASROCのような長射程でもない。
その意味では、ボフォース対潜ロケット弾は、前時代の武器という側面は否定できない。

しかし、兵器の装備体系というのは、戦略戦術に応じたものであるべきで、国情に合わないものでは意味がない。
わが国では、海上交通路確保が第一であり、他国の艦艇は、日本とは離れた海外から洋上に展開してくる。
その意味で、海上自衛隊の場合、沖合いでの対潜戦闘を前提とすれば、長射程かつ誘導方式の兵器のほうが有効であることは言うまでもない。
が、それをして「時代遅れ」と決め付けてしまうのは早計だ。

対潜兵器の誘導方式には、ソナーが重要な役割を持っている。
すなわち、潜水艦の発するノイズ(エンジン音、スクリュー音)を捕らえて誘導されるものが第一だ。
この場合、潜水艦が、機関、推進器を停止し、無音状態を作ってしまえば、誘導できなくなってしまう。
「ならばアクティブソナーで探索しながら誘導する方式でやればよいではないか。」実戦では、当然試みる方法だ。
が、外洋で、潜水艦が海中に浮かんでいる場合にはそれも簡単だが、海底に潜み、それも沿岸海域の場合、アクティブソナーでの探索は簡単なものではなくなる。
この場合、「追跡してきたのであれば、大体の場所はわかっているんだから、そこらあたりにボコボコ打ち込めばよいだろう」というのもひとつである。
が、対潜魚雷は一本数千万円から億単位の価格である。
こんなものを、確証もなく何本も打ち込むわけにも行かない。

ここで有効となるのが、旧式兵器といわれる爆雷だ。
爆雷は無誘導で、基本的に調定深度で、もしくは接触して爆発する。
誘導魚雷のように、デコイで騙されることはない。
しかも爆雷は、一個何百万円もはしないから、気軽にボコボコ落とせる。
ロシアや北欧各国で、いまだに爆雷投下軌条を装備している艦艇が多いのは、こういった事情に由来している。
しかも、P-3Cから対潜爆弾を投下することは、現代の海上自衛隊でも作戦のひとつになっている。
その意味で、単なる爆雷よりも、遠距離から攻撃できるボフォース対潜ロケット弾は、極めて有効な対潜兵器であることは現代でも変らない。

海上自衛隊の場合、シーレーン防衛を含めた外洋を護衛艦が担当し、沿岸海域を駆潜艇が担当していた。
が、兵器価格の高価格化による予算の事情から、艦艇機能の集約化が求められてきた事情がある。
いしかり、ゆうばり、ゆうべつの3艦は、DE型護衛艦を称しているが、元来は駆潜艇の代替を目的としたPCEとされる沿岸用艦艇であった。
が、設計途上、各種要求から大型化し、その大きさからDE型護衛艦を称することになった経緯がある。
その意味で、沿岸海域での対潜作戦として、ボフォース対潜ロケット弾が旧式の認識があったわけでは更々ない。
ただ、DE型護衛艦を称した、いしかり、ゆうばり、ゆうべつの3艦は、DE型護衛艦の割には機能不足で、次のあぶくま型に発展する段階で、外洋型を前提とし、ASROC搭載となった。
そしてまた、通称八八艦隊による護衛艦の整備方針や、艦載ヘリコプターの事情から、外洋大型化が進み、作戦海域の中心が進出することから、ボフォース対潜ロケット弾の装備が行われなくなったという経緯がある。
艦載兵器は、プラモデルのように、単に船体上に載せてあればよいわけではなく、装置そのものの制御機構から、弾庫、攻撃管制機能を持たなければならない。
その意味では、余り多くの種類を搭載することは、艦の機能を複雑化する観点から好ましくない。
対潜兵器として、ASROCと短魚雷発射管に集約することは、理にかなっているともいえる。
そしてまた、艦載ヘリコプターの搭載が当たり前となっていれば、ヘリから対潜爆弾を投下する方式も取れるわけで、ボフォース対潜ロケット弾に比べて効率は悪いにせよ、機能がないわけでもないといえる。

ボフォース対潜ロケット弾は時代遅れの兵器か?
海上自衛隊の装備体系の中で言えば過去のものになりつつある。
しかし、世の中のあまたの作戦の選択肢の中で言えば、決して過去のものにはなっていない。
重要なことは、ボフォース対潜ロケット弾は、現在もなお生産されているということが、需要を物語っている。

地上軍での白兵戦では、最終的に「腕力」がものをいう。
いかに兵器の近代化が進んだといえ、それは兵器体系の範囲が広がっただけで、その一部が決して無力化したことを示していないということを忘れてはならない。

企業会計の透明性やコンプライアンスが叫ばれ、会計報告の重要性が高まった今日でさえ、金庫の札束を持ち帰る「横領」を防ぐことはできないのである。


ロシア海軍を筆頭に、艦上に各種兵器をならべた艦容は、重厚さを示し、砲艦外交としては絶大な威力を持っている。
自動化のセンサーゆえ空砲が撃てない速射砲、高性能自動化ゆえに迫力ある浮上が見せられない潜水艦、兵器は見世物ではないのだが、高性能と、インパクトは別のものだ。




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新規作成日:2006年11月11日/最終更新日:2006年11月11日