戦時日本船名録 凡例
- 1 はじめに
本書は昭和12年7月に勃発した日中戦争から太平洋戦争が終結した昭和20年までの間に実在した20総トン以上の船舶(陸軍所有船及び戦利船を含む)を調査する目的で作成したもので、下記の資料より引用した。なお終戦後は占領軍統治下にあり戦時に準ずるものであるから戦後に進水した船も収録した。
A.日本船名録(逓信省管船局、海務院、運輸通信省海運総局など発行)
昭和12年〜昭和19年版、昭和22年版、昭和26年版
B.海上交通保護用船名簿(海軍省発行)
C.NK資料及びSB資料(戦前船舶研究会調査資料)
D.造船資料(造船18社建造経歴書、造船協会誌自昭和6年1月至昭和14年5月、本邦建造船要目表)
E.戦前船舶各号(戦前船舶研究会発行)
F.海軍徴傭船舶名簿(昭和18年及び昭和19年版、海軍省兵備局)
一般徴傭船配属状況(昭和20年3月1日現在、海軍省軍務局)
G.海軍指定船名簿(昭和27年4月、第二復員局残務整理部)
H.日本海上捕獲審検例集(昭和30年8月出版、捕獲審検例研究会)
I.戦時標準木造船関連雑資料及び第4次陸軍徴傭候補機帆船名簿(昭和19年作成、海運総局船舶局等)
J.建造命令及び実績(海軍艦政本部総務部商船班)
K.国家船舶(C)現況<油槽船を除く>(昭和20年5月15日現在、海運総監部)
L.総頓数五百頓以上の日本船舶に関する調査(昭和10年4月1日現在、作成部署不明)
M.日本汽船名簿−其二(昭和13、15年版、逓信省管船局)<100〜500総トンの汽船名簿>
N.日本帆船名簿(昭和15年度版、逓信省管船局)<100総トン以上の機帆船、帆船名簿>
O.日本汽船名簿−其三(昭和16年度版、海務院)<20〜100総トンの汽船名簿>
資料Aは昭和19年〜21年度版が発行されていないため、この空白を埋めるものとして昭和22年及び昭和26年版に加え、資料Aにない船の信号符字は全て資料Bにより補完した。また昭和26年度版には引揚修理して再就役した船や、陸海軍艦船で民間に払い下げられた船が収録されている。
資料Bは書名に相違して曳船や浚渫船まで収録されており、実質的に資料A昭和18年版の続編である。しかし資料Bには従来の船舶番号に代え海軍独自の「特定番号」としているため、昭和18年以降の新造船で船舶番号不明のものを補うものとして資料Cを使用した。造船所名と竣工日は資料Dによった。資料Mは100〜500総トンの汽船に限定して詳細要目を記したもので、造船所名と航海速力を引用した。
ただし資料Bは100総トン以上で資料Cは大中型船のみであるから、昭和18年以後に建造された100総トン未満の船で戦禍により失われた船は本書に収録されていない。また戦時中に占領地で建造された船(主として小型木造船)は一切これら資料に収録されていない。このほか抑留船や大東亜戦争終結時に南西方面に残存した船に関する事項を資料Eより引用して補完した。これら資料の外に、応急油槽船への改造に関する事項は「日本油槽船列伝」によった。
資料Fで以上の資料に欠落した船名、番号、船種などを補完した。資料GとHは戦利船に関する事項のみを引用し、資料Jは竣工年月日と一部の船名を補完した。資料Iの戦時標準木造船に関するものは貴重な資料ながら船名や番号が未定の計画段階のものが大半であるが、陸軍徴傭船候補名簿からは相当数の船名と番号を補うことができた。
なお日本、朝鮮、台湾及び関東州籍船の外に戦利船(拿捕船、抑留船など)や戦災で沈没したものを引き揚げ修理した引揚船を収録したが、戦時被害記録にある満州国及び中国籍船も戦利船であると見なし船名に「號」を付けて収録した。
- 2 主要引用資料について
(1) 日本船名録
昭和12年度から昭和26年度版より船名、番号、信号符字、総トン数、製造年月、製造地及び所有者を抜粋した。ただし昭和19年度〜昭和21年度版と昭和23年〜昭和25年版は発行されていない。各年度版には前年末日までに登録された船を収録したことになっているが、実際には未収録のまま翌年送りにされたものが多い。特に昭和18年版の発行は昭和19年12月25日に遅れており、このため昭和18年中頃の進水船も収録され、追録にはその後の進水船や所有者変更船も収録されている。
昭和22、26年度版は19年度版以降の建造船を補うためのもので、終戦までに進水した船でありながら初めて明らかになった小型船が多数あり、その数は2千隻を超える。そのほかに約130隻を資料CのSB資料から加えた。
なお、昭和26年版に初めて現れる船(特に製造年月不詳のもの)のなかには陸海軍の残存船があり、船名が変わっているものの旧名は未調査である。
記載内容を各年度版で比較すると、改正か誤記か判然としない相違箇所が非常に多い。この差違の内でトン数は全て列挙したが、製造年月と製造地は最初の記載のままとした。また船名、番号、信号符字で明らかに間違いと判断されるものには削除して正しいと思われるものを残したが、正否を判断できないものは列挙している。 資料BやCの記載事項が資料Aと相違する場合は資料Aを「正」とした。
(2) 海上交通保護用船名簿
海軍が昭和17年度版の日本船名録から100総トン以上の船を抽出し昭和18年7月1日付けで発行したもので、内地籍船のみならず朝鮮、台湾及び関東州籍船も併せて編集したものである。各船には戦時の通話、照合等を簡明正確にするため船名の五十音順に「あ001」などの特定番号を付与し、この数字が299までは500総トン以上、500総トン未満100総トン以上は301以上と区分している。記載内容は信号符字、総トン数、速力、無線、武装、用途(船種)、所属(A,B,C)及び所有者となっている。
最終昭和20年8月1日までに35回の改正が行われているが、それは改正でなく追加であり新規に追加する船のみを印刷し初版本の空白欄に貼り付けている。従って記載内容の訂正や喪失船の抹消などは一切されておらず、最初に引用した日本船名録の誤記もそのままである。ただし計画値で印刷された総トン数などは手書きで訂正しており、本書の引用には手書きのものを使った。
(3) 海軍徴傭船舶名簿
本書は昭和11年から昭和20年初頭ころまでに海軍が徴傭した船舶(戦利船を含む)について、船名、トン数、船種、船主、徴傭及び解傭(または沈没)年月日、用途、配属などを記したもので、印刷発行後も手書きで加筆されている。
- 3 船名
(1) 船名字体の扱い
資料Aの船名漢字は「万」と「萬」や「弁」と「辨」を使い分けているようなので旧字体のままとしたが、壱、弐、参は新字体とした。また判読できない文字は●で置き換え、草書体文字は楷書体に置き換えているが、該当する楷書体文字が判然としないものは?を付した。なお船名は漢字名、草書体名、ひらがな名及びカタカナ名に区分して配列している。
(2) 改名船の措置
昭和9年から22年までの間に船名が変わったものは別船として該当する箇所に配列したが、中には一字違いであったり、名前に付く番号が違うが同一船主であるものは一部(第○○播州丸)を除き同一船であるとした。
改名船は旧船名の下に「→」を入れ新船名を記入し、新船名欄には「ex.」を冠した旧船名を記入した。なお昭和9年以前に改名したものや輸入船の改名は判明したもののみ記入している。
(3) 船名の読み
資料Aの船名は昭和17年度版より新仮名遣いによる読みに改められているが、内地籍船の一部や外地籍船は旧のままとなっている。本書ではこれらを全て新仮名読みで再配列した。
船名は読み方の順に配列しているが読み方不明のものが多く、必ずしも読み順とはなっておらず読み方不明のものは一番最後に配置した。また内地籍船でも外国語読みのものがあるが、これらの船はフリガナを付して難読船名の項に記した。日本の難読船名も同様にしたが読み方不明のものが残っている。
(4) 徴傭時の船名
括弧内の船名は海軍徴傭時に外の同名船を区別するため海軍が使用した船名を示す。
- 4 籍
資料Aでは内地、朝鮮、関東州及び台湾籍船に分けて記載されているが、本書では区分せず同一読み順に配列した。このために「籍」欄を設けて外地籍船はそれぞれ「朝」、「関」、「台」で示し、戦時中に占領地で建造された船は便宜上「占」と記入した。当然ながら昭和22年度以後の資料Aは内地籍船のみである。
なお満州国籍船の中には日本船の信号符字を付与され日本船並の扱いとなっているのがあるが、そうでないものは籍を「満」とした。
- 5 番号
番号は全船を番号順に並べて検証し誤記を訂正しているが重複した番号が60件残っており、いずれが間違っているのかは外の資料で検証する必要がある。また番号不明の船も多数残っているが、これらの中には進水にまで至らなかった船も多く含まれているようで本来なら削除すべきものである。
- 6 信号符字
国際無線電信電話の呼び出し信号である信号符字は外地籍船を含め「J」で始まる4文字で表されるが、古い船で「J」以外の頭文字となっているのもがある。「J」で始まるものは外地籍船を含め重複の有無を検証したが重複するものが多数あり、海軍艦艇を含めて検証すれば重複するものがさらに増えると思われる。3文字の組み合わせである以上符字数に限界があり、重複するものの中には古い船の符字を再利用したと思われるものもあるが、誤記であるか再利用であるかは今後の調査で明らかにする必要がある。
なお日本船名録の信号符字は登簿初年度から最後まで毎年度記載されているわけでなく、登簿初年度版に欠落が多く、また途中で消えたり中には昭和22年度版になり初めて登場するのもある。本書では一度でも登場した符字が当該船に終始使われたものとしている。
戦後日本に割り当てられた信号の削減に伴い、昭和23年7月1日からJOシリーズが、昭和24年1月1日からJS〜JZシリーズの符字が変更さ、昭和22年版の補遺に変更した符字と船名が記されている(誤記が非常に多い)。本書では昭和26年版に記載されている船の信号符字のみを新符字欄に記載し、22年の船名録にはあるが26年にはない船の符字は省略した。
- 7 総トン数
毎年のようにトン数が変わっているものが多数あり、大半は増加し小型船ではトン数が倍増しているものもある。これらの大半は誤記と思われるものの一概に断定できないので全て併記した。帆船で数字に「k」を付したものは石数を示す。
- 8 船種
資料Aには記載されていないため資料BやLなどの資料にり、小型船は資料M.N.Oより引用したが戦時中の建造船は断片的な資料しかない。なお戦時中に貨物船などが油槽船に改造されているが、就航前に改造されたものは改造後の船種とし就航後ものもは改造前後の船種を併記した。
- 9 区分
資料Aによって記入し、この欄が空白のものは資料Aにないことを示す。帆船から機帆へ変わっている船が多数あるが、技術的・経済的に帆船へ機関を装備することは考えられず、税金対策のため帆船として登録していたものが発覚して改めたとも推定される。
- 10 船質
船体の材質を示す。
- 11 船体寸法
「長」は上甲板梁上にて船首材の前面より船尾材の後面に至る長さを、「幅」は船体最広部にて肋骨の外面より外面に至る長さを、「深」は長さの中央にて竜骨の上面より舷側における上甲板梁の上面に至る深さを示す。数値に「’」を付したものはフィートを、それ以外はメートルである。
就役後に船体寸法が変わることは極めて稀と思われるが、総トン数が大きく変わっているものについて船体寸法を調べると小型船には長さばかりか幅や深さが変わっているものが多数ある。
- 12 機関
主機関の種類、装備数及び推進軸数(プロペラ数)を示す。種類は蒸気往復動機関を「往」、タービン機関は「タ」、焼玉機関やディーゼル機関などの内燃機関は「発」、電動機は「電」とし、「往+タ」などとしたものは組み合わせ機関を示す。種類に続き「×2」などとしたものは装備数を示し無記入は1基である。「/」で区切って続く「双」は2軸推進、「3」や「4」は3軸、4軸推進、無記入または「単」は1軸推進で、「外」は外輪船である。
これらは専ら資料Aから引用したが、これには内燃機関を全て「発」としているため、資料M.N.Oなど外の資料で判明したものに限りディーゼル機関は「デ」、焼玉機関は「焼」とした。
- 13 馬力
主機関の合計馬力を示し専ら資料Aの「公称馬力」を引用したが、資料Dなどにある試運転最大馬力や定格馬力と大差(半分程度)があるものが多く意図的に低くしたように思われる。このため資料Dにあるものは全てこれに置き換え、最大馬力には「m」、計画値には「d」を冠した。この結果、馬力には指示馬力、図示馬力、実馬力、軸馬力などの値が混在しているので参考値にされたい。なお資料Aでは船舶番号47,000前後から以降の船は全て馬力欄が空白となっている。
- 14 速力
専ら資料Dより引用し、これらに含まれないものを資料Bで補った。但し資料L、M、Nにあるものは全てその値に置き換えた。数値は最大速力を示し、「d」を冠したものは計画値を、「k」は航海速力を示す。但し戦時標準船の大多数は速力試験を省いているので、「d」を冠していなくても計画値である。
- 15 製造年月
専ら資料Aによるが全て進水年月で年月の区切りを「/」とした。このため資料Dで判明したものは全て竣工年月日とし年月日の区切りを「・」とした。資料Aの年月にも誤記が多く、中には大正と昭和が入れ違っているものもあり、本書でも誤記が残っている可能性がある。
- 16 製造所/地
資料Aは製造地(市町村名)のみを示しており、資料D、M、N、Oにより判明したものは製造地に建造造船所名を加えた。しかし町村名には所在地が判らないものが多いために都道府県名を冠したが、資料Aの地名には市町村名でなく府県名が混在しているようで、「新潟・新潟」や「福岡・福岡」のように県名と市名が同一のもの中には「新潟市」や「福岡市」を示さないものがある可能性がある。また社名や個人経営者名の多くが途中で変わっているため、変更時期が明らかな社名は製造年月当時のものを原則としたが、個人経営や中小造船所は製造時期と社名が一致していない。
昭和18年度版には未登録船として154隻の戦利船の船名と信号符字が記載されており、これらは(戦利船)として示す。ただし、このうちの7隻(明和、泰山、鎮江、福山、正氣、江寧、春祥)は昭和17〜18年度版に登録済みで番号が付与されているが、このほかの資料により(戦利船)としたものもある。
- 17 船籍港
資料Aにのみ記載されているもので、内地籍船であっても占領地である上海や青島籍船がある。昭和12年頃までは東日本を船籍とする船は極めて少ないが、その後漁船の増加に伴い全国的に広がっている。船籍港は周知の地名を除き都道府県名と港名の組み合わせであるが、「東京・岡田」「京都・府中」のように地図でも容易に探せない地名が多数あり、誤記も多いと思われるが明白なもの以外は訂正していない。また「船籍」は「船籍港」でなく「船籍地」のようで、札幌、岐阜、金沢、山口のような内陸地を船籍とするものもある。
- 18 所有者
所有者については社名変更や個人名の変更は列挙したが、「伊東」と「伊藤」のように個人名が一字違っているような、いずれが誤記か判断できないものは最初の記載のままとした。また「保証責任田子村水産信用販売購買利用組合」のように長文のものは「田子村水産」などと略記した。会社名に付く「株式会社」「有限会社」などは全て省いたが、省略すると個人名の「姓」と誤解されるものには鰍ニか(合)を付した。なお所有者と運行者が違う船が多数あることに留意する必要がある。
日本船名録昭和18年と22年度版の間での所有者変更を補うものとして資料Gを使用した(但し100総トン以上)。 なお戦利船などについては軍より運航委託を受けた会社名を示す。
- 19 資料
船名、番号及び信号符字の出所を示すもので、数字のみのものは資料Aの掲載年度を示す。同一数字が重複しているものは昭和17年、昭和18年度版の追録第1〜3にあるものを示す。但し重複して掲載されているものもある。また昭和22年度版には戦災や海難で既に失われた船も記載されており、これらは補遺(2)抹消登録未済船舶表と補遺(3)抹消登録船舶表に示されている。本書ではこれら抹消船舶を斜体文字にした。
資料Bによる船は「KH」、資料Cによる船は「NK」又は「SB」、資料Dにしか出てこない船は「ZS」、また資料Eよるものは「SS」に掲載号数を付し、資料Fは「KT」(但し昭和20年版は番号等不明が多いのでKT20)、資料Gは「KSS」、資料Hは「NKH」、資料Iは「SM」、資料Jは「KM」、資料Kは「KG]とした。その他の公刊資料によるものは「PD」とした。
新規作成日:2004年12月15日/最終更新日:2004年12月15日