ギリシャ人は航海技術に長けており、本国を離れて地中海沿岸の各地に植民都市を築いた。シチリア島では紀元前8世紀頃から植民都市の建設が始まり、ギリシャ世界の中でも重要な地域として繁栄している。紀元前5世紀には、カルタゴの勢力が拡大してギリシャと地中海の覇権を争うようになり、シチリア島が戦いの舞台となった。4世紀には島の大半を奪われるが、ポエニ戦争によってカルタゴは駆逐され、最終的にはローマの属州シチリアとなっている。

 BC734年頃 シラクサ建設
 BC480年  第一次シチリア戦争、カルタゴとの戦い始まる
 BC397年  シラクサ包囲戦、カルタゴがシチリアの大半を占領
 BC264年  ローマとカルタゴの間でポエニ戦争始まる
 BC146年  カルタゴ滅亡、ローマ領となる

イタリア・シチリア島
 ナクソス
 ナクソスは、紀元前735年に設立された、シチリア島で最も古いギリシャ植民都市。タオルミーナの南にある。紀元前403年、シラクーサに滅ぼされて街が破壊され、その後も再建されることはなかった。タオルミーナの自由時間を利用して、路線バスで訪れた。 遺跡は思ったより広大であったが、礎石がところどころに残るだけなので、かなりの想像力が必要であった。
 
2023.5 ナクソス遺跡 2023.5 最も古い時代の遺構
 タオルミーナ
 タオルミーナは、ナクソスの滅亡後に築かれた、海を見下ろす丘の中腹にある街。アテナイ、カルタゴ、ローマと支配者が変わっても繁栄を続けた。現代には、シチリア島を代表するリゾート地の1つとなっている。私にしては珍しく、海辺でのんびりしようと選んだ所である。
 街の中に遺跡があるので、散歩がてら訪れた。遺跡は紀元前3世紀のもので、劇場以外はほとんど残っていないが、地中海をバックにした丘の上に建つ風景は印象深かった。
 
 1999.7 ギリシャ劇場  1999.7 ギリシャ劇場 
 2023年に、24年ぶりのタオルミーナ訪問。今回も好天に恵まれ、海やエトナ山をバックにした遺跡が素晴らしかった。また、街の中には、前回気づかなかった小さい遺跡がいくつも残っていた。
 
 2023.5 ギリシャ劇場とエトナ山
 
2023.5 オデオン 2023.5 ナウマキア
 シラクーサ(世界遺産)
 シラクーサは、紀元前734年頃に築かれたギリシャの植民都市。紀元前4世紀には、シチリア島のほぼ全域を支配下に治め、シチリア島最大の都市となった。しかし紀元前212年のシラクーサ包囲戦において、アルキメデスの奮闘も及ばず、ローマに敗れている。ローマ時代もシチリア島で最も重要な都市であったが、アラブ勢力の侵攻や大地震などにより衰退した。
 シチリア初訪問時は、タオルミーナの2日目、列車で片道2時間かけて訪れた。遺跡の中心はネアポリスと呼ばれ、駅から歩いて15分程。はじめに古代の石切り場を見た後、ディオニソスの耳と呼ばれる洞窟に行く。ここは牢獄として使われていたらしいが、何もないのであまり面白くない。
 1999.7 ディオニソスの耳
 洞窟を出てさらに進むと、紀元前3世紀のギリシャ時代の劇場とローマ時代の円形闘技場がある。劇場の規模はそれなりに大きいが、特に印象に残るものはなく、タオルミーナやアグリジェントに比べて地味な感じがした。
  1999.7 劇場 1999.7 円形闘技場
 2023年の訪問時は、前回行かれなかった、シラクーサ発祥の地オルティージャ島へ。街並みは中世の雰囲気だが、アポロ神殿など遺跡も残されている。また、街の中心にあるドゥオモはかつてのアテナ神殿で、側面にギリシャ時代の柱を見ることができる。
 なお、ネアポリスにあるギリシャ劇場も久しぶりに訪れたが、イベントのため近代的な椅子が設置されていて、遺跡の雰囲気は無かった。
 
2023.5 オルティージャ島 2023.5 アポロ神殿
 
2023.5 ドゥオモ広場 右の建物がドゥオモ 2023.5 ドゥオモ側面にある神殿の柱
 ☆世界遺産「シラクサとパンターリカの岩壁墓地遺跡 」 2005年登録
 アグリジェント(世界遺産) 
 アグリジェントはギリシャ時代にシチリアでも最も栄えた街の1つである。今ではシチリア最大の神殿群が残る所で、シチリアで最も期待していた。
 タオルミーナ7時のバスで出発する予定だったが、ホテルが7時以降でないとチェックアウトできず、8時のバスになってしまった。そのために乗換のカターニアで2時間も待つことになって、14時にようやくアグリジェント到着。ホテルを決めて昼食をとったら15時半になった。遺跡で最初に出迎えてくれるのが謎の巨人テラモーネで、迫力あるような愛嬌があるような不思議な像である。これは神殿の柱と考えられていて、復元した姿も見てみたいものである。
 1999.7 ジョーヴェ・オリンピコ(ジュピター)神殿のテラモーネ像
 テラモーネのあるジョーヴェ・オリンピコ神殿は原形をとどめていないが、その奥のディオスクリ神殿は柱の一部や円型の祭壇が残る。想像力をかきたてられるいい雰囲気の遺跡である。
 少し戻って東側に向かうと、紀元前520年頃の、アグリジェントで最も古いエルコーレ神殿がある。太い柱だけが並んでいて、ここの雰囲気もけっこう好きである。 
1999.7 ディオスクリ(カストル・ポルックス)神殿 1999.7 エルコーレ(ヘラクレス)神殿
 すぐ隣にあるコンコルディア神殿は、ほぼ完全な形で残る。紀元前460〜440年頃のもので、アテネのパルテノン神殿によく似ている。中に入れないのが残念である。
 コンコルディア神殿から、はるか遠くの丘の上にもう1つの神殿が見える。紀元前460年頃のジュノーネ神殿で、歩いていくのは少し大変だった。適度に崩れた美しい神殿で、ここからの眺めもよかった。 
1999.7 コンコルディア神殿 1999.7 ジュノーネ(ヘラ)神殿
 2023年の訪問時は、ジュノーネ神殿からスタートする一方通行に変わっていた。神殿それぞれに見応えがあり、2度目でも楽しめる。ただ、ガイドの無駄話が多く、時間切れでディオスクリ神殿がカットされてしまった。
 
2023.5 ジュノーネ(ヘラ)神殿 2023.5 エルコーレ(ヘラクレス)神殿
 ☆世界遺産「アグリジェントの遺跡地域」 1997年登録
 セリヌンテ
 シチリア島南西部の海沿いにある、紀元前7世紀に建設されたギリシャ植民都市。紀元前3世紀に、カルタゴに攻められて滅亡し、廃墟となっている。
 入口近くにあるE神殿は、柱がよく残っていて見応えがある。その奥にあるF神殿とG神殿は、崩れていて瓦礫の山だった。また、少し離れた所にアクロポリスがあり、遠くからでもよく見えていた。
 
2023.5 E神殿 2023.5 E神殿
 
2023.5 F神殿 2023.5 アクロポリス
イタリア・カンパニア州
 パエストゥム(世界遺産) 
 イタリア本土では唯一ともいえるギリシャ遺跡。ギリシャ時代はポセイドニアと呼ばれ、海の交易で栄えた。駅から徒歩10分くらいだが、無人駅で1〜2時間に1本しか停車しない所である。
 遺跡の北側にあるのがケレス神殿で、紀元前6世紀のもの。ここから南へ伸びる聖なる道の左側には、地下神殿があるが、入ることはできなかった。
2019.9 ケレス神殿 2019.9 聖なる道
 遺跡の中央部は、ローマ時代のフォロや闘技場、ギリシャ時代の古代劇場などが入り混じっている。その中に、他では見たことがない不思議な空間があって、看板に公共プールと書いてあったが、何のためのものかわからないかった。 
2019.9 公共プール 2019.9 円形闘技場
2019.9 フォロ 2019.9 古代劇場
 遺跡の南側には、巨大な2つの建物がある。ネプチューン神殿は、上の破風も残っていて、驚くほど保存状態がいい。すぐ隣にあるバジリカは、柱が細くて印象がかなり異なっている。ちょうど夕陽に照らされていい雰囲気だった。 
2019.9 ネプチューン神殿 2019.9 バジリカ

古代ギリシャ −シチリア・イタリア