日本では、1612年にキリスト教に対する禁教令が発令され、これが250年間にわたって続いた。しかしその間もキリシタンは信仰を守り、幕末の信徒発見につながる。世界的にも稀なカトリック布教の歴史を物語る遺産として、長崎・天草の教会等が、2018年に日本で22番目の世界遺産として登録された。なお、当初は「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」として2016年の登録を目指していたが、ICOMOSから、テーマを禁教令時代に特化すべきという指摘を受けた。当然ながら教会は禁教令時代が終わってから建てられているので、「教会」ではなくそれを含む「集落」に構成資産が見直された。このため、教会以外に特筆すべきものがないような集落が世界遺産になるという不思議な状況が生じてしまっている。最終的な構成資産は12件である。

南島原市
 1.原城跡
 1637年、島原の乱で一揆軍3.万7千人が立て籠もった悲劇の城。江戸幕府によるキリシタンの大弾圧を示す所である。小高い丘にあり思ったより広いが、それほど防御しやすいようには見えなかった。
2008.3 原城
平戸市
 2.平戸島の聖地と集落 −安満岳 
 3.平戸島の聖地と集落 −中江ノ島
 どちらも、平戸島における潜伏キリシタンの聖地。安満岳は標高534mの山で、山頂に石祠がある。中江ノ島はお水取りが行われる無人島である。
天草市
 4.天草の崎津集落
 唯一の天草地方の構成遺産で、潜伏キリシタンが信仰を守り続けた集落の1つとして世界遺産に登録された。ここの教会はコンクリート製の部分と木造の部分があり、中は畳敷きである。
長崎市
 5.外海の出津集落
 西彼杵半島の西岸で、今も交通不便な外海は、潜伏キリシタンが信仰を守り続けた場所の1つであり、出津と大野の集落が世界遺産に登録された。出津には、マルク・マリー・ド・ロ神父が建てた出津教会堂や、救護院がある。手前の道の駅から集落の全景を見ることができる。
2016.1 出津集落 2016.1 出津教会堂(重文) 
 6.外海の大野集落
 出津の少し北にある集落で、ここにある教会堂もマルク・マリー・ド・ロ神父が建てたもの。石積みの壁と茅葺き屋根が印象的である。事前連絡をしていなかったが、管理の人がいたので中を見ることができた。
2016.1 大野教会堂(重文)
 12.大浦天主堂 
 大浦天主堂は、1864年に建築された日本最古の木造ゴシック建築で、国宝。初訪問は1989年で、その後も外観を見ることはあったが、2016年に27年ぶりで入場した。
2016.1 大浦天主堂(国宝)
佐世保市
 7.黒島の集落  
 現在は人口500人に満たない島だが、江戸時代には弾圧を逃れた潜伏キリシタンが多く移住した。ここにある黒島天主堂は、煉瓦造りの本格的なもので、重要文化財に指定されている。
小値賀町
 8.野崎島の集落跡  
 野崎島も潜伏キリシタンが移り住んだ島であるが、現在は無人島になった。旧野首教会がかつての信仰を伝えている。
新上五島町
 9.頭ヶ島の集落
 上五島は教会建築の父ともいわれる鉄川与助が生まれた地で、頭ヶ島、青砂ヶ浦、大曽など代表的な教会はすべて与助の手による。中でも頭ヶ島天主堂は、日本では珍しい石造りの教会として知られている。
2009.5 頭ヶ島天主堂(重文) 2009.5 頭ヶ島天主堂内部
五島市
 10.久賀島の集落  
 ここにある旧五輪教会堂は、大浦天主堂に次いで古い木造教会。新聖堂が建てられたため、今は教会としての役割を終え、保存公開されている。
 11.奈留島の江上集落
 重要文化財の江上天主堂がある集落。集落自体の景観はかなり損なわれてしまったため、「集落」が世界遺産に登録されたにもかかわらず、重要文化的景観などの指定が行われていない。
登録されなかった資産
 構成資産は、2009年の学術会議では29件が選定されたが、正式な推薦時までに14に絞られた。さらにICOMOSの勧告を受けて、日野江城跡と田平天主堂が除外されている。以下は29件の中に含まれていたものである。 
2009.5 堂崎天主堂 2009.5 青砂ヶ浦天主堂(重文)
2009.5 大曽教会

長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産