ヘレニズム時代のトルコは、セレウコス朝シリアとアンティゴノス朝マケドニアの狭間にあたり、ペルガモン王国やカッパドキア、カッパドキアなど群雄割拠の状態になる。しかしローマが徐々に東方へ進出し、紀元前168年にアンティゴノス朝、紀元前133年にはペルガモン王国が滅亡していった。ローマの属州アシアは、現在のトルコのうちエーゲ海沿岸にあたり、ギリシャ・ヘレニズム時代から繁栄した歴史ある都市が多い。

トルコ・エーゲ海地方
 エフェソス遺跡(世界遺産) 
 エフェソスは紀元前6世紀頃からギリシャ人の街として繁栄し、ローマ時代に頂点を迎えた。現在の遺跡のほとんどはローマ時代の2世紀頃のものである。ここはエーゲ海のリゾート地クシャダスに近く、1997年はクシャダスからミニバスで訪問。2024年にも久しぶりに訪れた。
 バス停から歩き始めると、すぐに門のような遺跡が見えてきて期待が高まる。中に入ると、入り口のすぐ脇にあると思った劇場が遠くに見えて、遺跡の規模の大きさを感じた。
1997.7 遺跡入口 1997.7 港の体育場
奥は劇場
 まずは全体を見ようと、劇場の客席を登った。劇場の正面にはハーバーロード(アルカディアネ)と呼ばれる1本の道が伸びていて、その先に緑色の平らな所が見える。これがかつての港で、海岸線が遠ざかったために緑色の海のように見えているのである。思ったよりわかりやすく残っていて、古代の風景を容易に想像できた。2024年の再訪時も、雰囲気は変わっていない。
1997.7 ハーバーロード 2024.5 劇場とハーバーロード
 エフェソスの遺跡でいちばん印象的なのはケルスス図書館で、その高さに圧倒される。ここは規模も立派だが、、1つ1つの装飾はとても繊細で目を見張るものがある。1997年の訪問時は逆光になってしまったので、2024年は順光の朝いちばんに訪問した。
2024.5 ケルスス図書館 
 
1997.7 ケルスス図書館の装飾 1997.7 古代の落書き
2024.5 マゼウスとミトリダテスの門
 ケルスス図書館からさらに奥に進むと、キュレテスロードという緩やかな坂道に出る。この道の両側には、これでもかと遺跡が並んでいて前に進めない。中でも、ひときわ美しいのがハドリアヌス神殿とトラヤヌスの泉で、細い柱やアーチ、美しい装飾など、とても繊細でどこから見ても絵になる。じっくり見たら1日かかりそうな所である。
1997.7 キュレテスロード 1997.7 住居跡
1997.7 ハドリアヌス神殿 2024.5 トラヤヌスの泉
 坂を登りきったあたりにも、ドミティアヌス神殿や音楽堂など見所が集まっている。ほかにも、名前はわからないが見応えのある遺跡がいくつもあって、かなり満足度の高い遺跡である。
2024.5 メミウスの碑 2024.5 ドミティアヌス神殿
2024.5 通り沿いのモザイク 2024.5 トイレ
1997.7 プリタネイオン(市庁舎) 1997.7 音楽堂
 ☆世界遺産「エフェソス」 2015年登録
トルコ・アナトリア地方
 ヒエラポリス(世界遺産)
 パムッカレの石灰棚の上に残る遺跡。紀元前2世紀に建設されたとされ、ヘレニズム期からローマ時代にかけて、温泉保養地として栄えた。遺跡としては有名ではないのであまり期待していなかったが、行ってみると見渡すかぎり遺跡が点在している。基礎だけになってしまったところも多いが、2世紀の劇場や、4世紀後半の教会遺跡マルティリウムなどはよく残っていた。
  1997.7 劇場  1997.7 マルティリウム
  1997.7 ドミティアヌス門  1997.7 北大浴場
 2024年に2度目の訪問。しかし、この時は他の遺跡をたっぷり見た後だったので、ヒエラポリスは見所が限られていて物足りない。さらに途中から大雨になって、印象があまり良くない。
2024.5 ドミティアヌス門
(上部が復元されている)
2024.5 北ビザンツ門
2024.5 アンティークプール 2024.5 プルトニオン
 ☆世界遺産「ヒエラポリス/パムッカレ」 1988年登録
 ラオディキア
 ヒエラポリスから南に僅か12kmのところにある遺跡。パムッカレの石灰棚が見えている。紀元前3世紀のセレウコス朝の時代に建設されたとされるが、ここを有名にしているのはラオディキア教会である。ヨハネが手紙を送った7つの教会の1つで、キリスト教公認後は巡礼地になっていた。2003年から発掘が始まったばかりの遺跡である。
 ヒエラポリスに近いので、ついでに寄ってみようという軽い気持ちで訪れたが、想像以上に広く、そして見所が多い。ラオディキア教会のモザイクも見学できるようになっていた。
2024.5 シリア通り 2024.5 ほとんど発掘されていない劇場
(左上の白い所はパムッカレ石灰棚)
2024.5 ラオディキア教会のモザイク
2024.5 神殿A 2024.5 プロフィオン(記念門)
 最後に街はずれの競技場を見に行こうとしたが、あまりに遠くて断念。代わりにトラヤヌスの泉を見つけた。ここまで来る観光客はほとんどいなかったが、中央の像が復元されるなど最近整備されたばかりのようである。
2024.5 トラヤヌスの泉
 アフロディシアス遺跡(世界遺産) 
 女神アフロディーテの名が付けられた街で、紀元前2世紀頃に建設された。大理石の産地が近かったため、ローマ時代になると大理石彫刻家が集まり、他にはないほど美しい街となっていった。しかし、7世紀の地震で大きな被害を受け、衰退している。
 遺跡に入ると、いきなり無数の顔の彫刻が壁のようになっていて驚かされる。これは、広大なアゴラの柱の上を飾っていた装飾が集められたものである。
2024.5 遺跡入口におかれた彫刻
 遺跡の中を歩くと、最初に見えてくるのがテトラピロン(四面門)。2つの門が背中合わせに並んでいる。ここも彫刻が美しく、青空でないのが残念である。さらに進むと、紀元前2世紀の競技場がある。
2024.5 テトラピロン 東側 2024.5 テトラピロン 西側
2024.5 競技場
 街の名にもなったアフロディーテ神殿は、後に教会に転用されていたが、今も残る列柱は神殿の頃のもののようである。ここでは、アフロディーテの像が発見されている。このあたりには、オデオンのようなブーレテリオン(市議事堂)、浴場など、重要な建物が集中している。
2024.5 アフロディーテ神殿 2024.5 ブーレテリオン
 小さな丘に登ると劇場、そして反対側がアゴラとなる。この広大なアゴラを取り囲む列柱の上に、入口でみた顔の彫刻が飾られていたのである。また、アゴラの東にあるセバステイオンの装飾も美しく残っている。
2024.5 劇場 2024.5 アゴラ
2024.5 セバステイオンの彫刻
 ☆世界遺産「アフロディシアス」 2017年登録

古代ローマ −アシア