現在のリビア西部は、ローマ以前からレプティス、サブラタ、オエアのフェニキア3大植民都市を中心に栄え、トリポリタニアと呼ばれた。そして紀元前146年のカルタゴ滅亡後はローマの属州アフリカとなってさらに繁栄し、193年にレプティス出身のセプティミウス・セウェルスがローマ皇帝となったことで頂点に達する。当時のこのあたりは豊な穀倉地帯であり、セウェルスが故郷で大規模な公共工事を次々と行ったこともあって、本国をしのぐほどの大都市が誕生したのである。その後5世紀のバンダル人、7世紀のアラブ侵入などによって破壊され衰退するが、砂漠に埋もれていたために保存状態のいい遺跡が数多く残っている。

リビア・トリポリタニア地方
 レプティス・マグナ遺跡(世界遺産) 
 レプティスはトリポリの東120km、セプティミウス・セウェルス皇帝の出身地であり、凱旋門やバジリカなど大規模な造営工事が行われ繁栄を極めた。しかし365年の大地震で壊滅し、5世紀以降のヴァンダル人の侵入によってとどめを刺され、砂に埋もれていった。今日ではおそらくローマ世界最大の遺跡で、リビアの旅一番の目玉である。
 トリポリからの日帰りで、見る時間はたっぷりあるかと思ったが、寄り道もあって到着はお昼近くになってしまい気を揉む。昼食前に、まず少し離れた円形闘技場・戦車競技場と港を見学した。円型闘技場の保存状態の良さは恐ろしいほどだが、この遺跡では当たり前のように感じてしまう。
2003.9 円形闘技場 2003.9 港と灯台
 昼食が1時間以上かかり、ようやくメインの観光かと思ったら先に博物館へ。遺跡を歩き始めたのは夕方の16時で、空も白くなって相当に不満である。
 最初はハンティング・バスで、珍しいフレスコ画が見られる。普段は中に入れないと言っていたので、ここだけはラッキーだった。
2003.9 ハンティング・バス 2003.9 ハンティング・バスの壁画
 やっと遺跡の核心部に入って、まずは劇場。アフリカ大陸2番目という規模や舞台の保存状態の良さも素晴らしいが、上に登ると海の方まで見渡せるのがよかった。
 
2003.9 劇場
 遺跡の中は、市場、凱旋門、オールド・フォーラムなど、どちらを見ても見所満載である。保存状態が良すぎて遺跡全体を眺めることはできないが、本当に当時の街を歩いているようで感動的である。とくに八角形と円型を組み合わせた市場はどこから見ても絵になる所だった。
2003.9 劇場より
中央に市場、右にセウェルスのバジリカ
2003.9 市場
2003.9 ティベリウス帝の凱旋門とトラヤヌス帝の凱旋門 2003.9 オールドフォーラム
左からリベル・パテル神殿、アウグストゥス神殿、ヘラクレス神殿
 バジリカはキリスト教会の建築様式の1つとして知られるが、本来は裁判や集会に使われた長方形のホールのこと。教会に改築されたものが多いので名前がそのまま残ったのである。ここのバジリカは壁がほとんど残っていて、その高さに圧倒される。大理石の柱に刻まれた彫刻も見応えがある。
2003.9 セウェルス帝のバジリカ側廊と列柱 2003.9 セウェルス帝のバジリカ
 バジリカの隣はセウェルス帝のフォーラム。ここには、おそらくこの遺跡の写真でいちばんよく登場する「海の精」の彫刻があるところである。全体はとても広く、柱が散乱して資材置き場のような所だった。
2003.9 セウェルス帝のフォーラム 2003.9 フォーラムの海の精
 入口の近くに戻ってくると、ハドリアヌスの浴場がある。ここもローマ世界で1・2を争うほど保存状態のいい浴場で、それぞれの部屋の特徴が感じられる。とくにスタドリウムは浴槽の下の火をたく空間がよくわかった。
2003.9 脱衣所よりハドリアヌス帝の浴場全景 2003.9 スタドリウム(熱気浴室)
 予想通り時間がなくなり、フリータイムは10分程。走っても遠くまでは見きれない。後ろ髪を引かれる思いで、夕陽があたるセウェルス帝の凱旋門をみながら外に出た。時間はちょうど入ってから3時間後の19時。ここは5〜6時間必要な所のようである。
2003.9 ニンファエウム 2003.9 セウェルス帝の凱旋門
 ☆世界遺産「レプティス・マグナの古代遺跡」 1982年登録
 サブラタ遺跡(世界遺産)
 トリポリの西70kmにあり、紀元前12世紀頃のフェニキア人の街が起源とされる。ローマ帝国時代に大きく繁栄するが、365年の大地震で壊滅したのはレプティスと同じである。ビザンチン時代に一部が再建されたので、教会の遺跡もみられる。
 入口を入ると、まずベスの霊廟が見える。このあたりはフェニキア時代のままといわれる最も古いエリアである。しかし「先に見えている海と柱が気になって、すぐ通り過ぎた。
 
2003.9 ベスの霊廟
 ビザンチン時代の城壁を超えると、もう遺跡の中心部である。本当に海沿いにあるため海によって遺跡が少しずつ侵食されているほどで、地中海をバックに列柱がならぶ風景はパルミラにならぶ美しさであった。規模ではレプティスに負けるが、帰国した後はここの風景が一番目に浮かぶ。
  2003.9 南のフォーラムの神殿 2003.9 リーベル・パテルの神殿
 
2003.9 元老院
 海沿いを歩いていくと、柱は少なくなるがトイレや浴場などいろいろな遺跡が現れる。そしていちばん奥には、また柱が印象的なイシス神殿が現れ、撮影ポイントには困らない。
  2003.9 トイレ 2003.9 キリスト教会より
  2003.9 オケアノスの浴場 2003.9 イシス神殿
 劇場は戦前のイタリア植民地時代に、ムッソリーニが力を誇示するため無理やり修復したとのことで、一部新しい材質のものも使われているが、当時の規模がわかるという意味ではありがたかった。
  2003.9 劇場 2003.9  劇場
 ☆世界遺産「サブラタの古代遺跡」 1982年登録
 オエア(トリポリ)
 オエアも古代のトリポリタニアの1都市であるが、現在のリビアの首都トリポリ市街にあたるため遺跡はほとんど残っていない。旧市街の入り口に、近代的な建物に囲まれて門が建っていた。
  2003.9 アウレリウス門

古代ローマ −アフリカ