現在のアルジェリア・モロッコは、ローマ時代初めにはヌミディア王国やマウリタニア王国が栄え、後にローマ帝国の属州となっている。歴史の表舞台にはほとんど登場しないが、北方民族ヴァンダル人などの異民族侵入後は砂に埋もれて忘れ去られていたため、驚くほど保存状態のいい遺跡がいくつも残っている。
 なお、現在のモーリタニアは、建国時の支配者が古代マウリタニアの人々(ムーア人)の末裔を名乗ったというだけで、地理的にも民族的にも関係がない。

アルジェリア・バトナ県
 ティムガッド遺跡(世界遺産) 
 ローマ時代の名はタムガディ。2世紀トラヤヌス帝の時代に、退役軍人のための入植地として建設された。5世紀に北方民族が侵入し、その後砂に埋もれていたため保存状態がよく、アフリカのポンペイと呼ばれている。
 アルジェリアは観光客の受け入れを再開してからまだ半年で、移動には軍の警護がつくため、警護の交代で待たされて時間がかかる。とくにこの遺跡のあるバトナ県は要人が多く警備がきびしいという話だったので、到着時間が気になったが、幸い昼過ぎには到着した。遺跡はカルドー(南北大通り)とデクマノス(東西大通り)が現役の道のようにはっきりしていて、はるか先の方まで続いている。都市の一部でなく全てが昔のまま残されているという感じである。
2006.5  デクマヌス(東西大通り)と
トラヤヌス帝の凱旋門
2006.5
 劇場の上に登ると、360度遺跡全体が見渡せる。碁盤の目のように正確につくられた街並み、建ち並ぶ柱や壁、どちらを見ても息を飲むほどの美しさで、こんな素晴らしい遺跡は他にないと思う。ローマ遺跡は砂漠に多いが、ここは山に囲まれた緑の高原というのも気持ちいい。気分は古代にタイムスリップしたかのようである。
2006.5 劇場より遺跡全景
2006.5 劇場よりフォーラム 2006.5 劇場よりカピトリウム神殿
 時代を超えてきたような遺跡なので、浴場やトイレなど古代の生活の跡もそのまま残っている。トイレは公園のベンチのようでおかしかった。
2006.5 浴場 2006.5 トイレ
 西側のエリアは、トラヤヌス帝の凱旋門やカピトリウム神殿など、絵になる建物が残る。ちょうど陽が傾いてきて、ますます美しい姿になってきた。この遺跡の印象は、すべてのローマ遺跡の中でも1・2を争う高さだと思う。2時間以上かけてたっぷり歩いたが、それでもあっという間だった。
2006.5  トラヤヌス帝の凱旋門 2006.5 カピトリウム神殿
2006.5  カピトリウム神殿より劇場方面 2006.5 遺跡西側より
 ☆世界遺産「ティムガッド」 1982年登録
 ランバエシス遺跡
 ティムガッドのすぐ近くで、ローマ軍が駐屯した第一幕舎が残る遺跡。訪れるまでは名前も知らないところであったが、遺跡を取り囲むように咲く赤いポピーの絨毯が遺跡以上に印象に残った。
2006.5 第一幕舎跡 2006.5 第一幕舎前のアーチ
アルジェリア・セティフ県
 ジェミラ遺跡(世界遺産)
 ローマ時代の名はクイクル。もとは要塞であった所が1世紀ネルヴァ帝の時代に殖民都市に昇格した。現在の名は、7世紀に廃墟となった街を見たアラブ人がジェミラ(美しい)と言ったことによるらしい。もと要塞だけあって、遺跡までは麓からかなり山を登っていった。お昼頃到着して、昼食、博物館見学のあと遺跡観光になった。
 入口には、キリスト教地区と呼ばれる所があって、中には美しいモザイクが残る。大浴場や円形劇場もあるが、ほとんど見ずに通過した。
2006.5 キリスト教地区 2006.5 キリスト教地区洗礼所のモザイク
2006.5 大浴場 2006.5 円形劇場
 円形劇場の先から、いよいよ遺跡の全景が見えてくる。地形の制約上、南北にとても細長く傾斜もついており、他のローマ都市にはない繊細な印象を受けた。山に囲まれた壮大な遺跡は確かに美しいが、ティムガッドを見た後なので少し物足りなく感じる。天気が悪く、ほとんど日が射さなかったことも影響しているかもしれない。
2006.5 新しいフォーラムの上より遺跡全景
右がセプティミウス・セウェルス神殿
2006.5 セプティミウス・セウェルス神殿 2006.5 カラカラ帝の凱旋門
 坂の下の方にも、神殿や市場などが並ぶ。市場は物売りの台までが残っていて、脚の装飾がかわいかった。
2006.5 カルド(南北の大通り) 2006.5 旧フォーラムより
手前がビーナス神殿、奥左にセプティミウス・セウェルス神殿
2006.5 コシニウス市場 2006.5 市場の物売り台
 ☆世界遺産「ジェミラ」 1982年登録
アルジェリア・ティパサ県
 ティパサ遺跡(世界遺産)
 カルタゴの時代から街のあったところで、1世紀以降ローマ都市として栄えた。現在は周辺が都市化したことにより、大半が土の下に埋もれている。遺跡の規模は大きいとはいえず、見どころといえるような建物もほとんどないので、よく世界遺産に登録されたと思ってしまうところだった。
2006.5 円型闘技場 2006.5 神殿?
 この遺跡最大の特徴は青い地中海をバックにしている所だが、天気が悪く空も海も青くなかったので、魅力半減である。海の近くまで来たらフリータイムになったので、少し先の丘の上まで行ってみたが、ガイドブックも案内板もないため何の跡かまったくわからなかった。
2006.5 2006.5
2006.5 2006.5
 ☆世界遺産「ティパサ」 1982年登録
モロッコ
 ヴォルビリス遺跡(世界遺産)
 ヴォルビリスの歴史は、ローマ以前の紀元前1世紀、マウリタニア王国のユバ2世が都をおいたことに始まる。ローマ時代にも属州マウリタニアの重要都市として栄えたが、ヴァンダル人の侵入後は忘れられていった。
 バジリカ礼拝堂やカラカラ帝の凱旋門などの見どころは、遺跡の中央付近に集まっている。残っている建物は少ないが、やはりローマの列柱は美しいと感じた。
2016.9 バジリカ礼拝堂 2016.9 カラカラ帝の凱旋門
2016.9 キャピトル 2016.9 ガリエヌス帝の浴場
 ヴォルビリス遺跡のもう1つの楽しみは、あちこちの住居に残るモザイクである。ただ、観光客としては青空の下でモザイクを堪能できて嬉しいが、せっかくの美しいモザイクが傷まないか心配になってしまう。
2016.9 オルフェウスの家 2016.9 デザルターの家
2016.9 騎士の家 2016.9 ヘラクレス功業の家
 ☆世界遺産「ヴォルビリスの古代遺跡」 1997年登録

古代ローマ −マウリタニア