東武鉄道では、1929年の日光線全通とともに、国鉄と競争するため特急列車の運行が開始された。戦前は特急料金がかからないものであったが、展望車トク500形やクロスシートのデハ10系などが投入されている。戦後の特急列車は進駐軍専用列車が始まりで、1948年8月に一般客が乗れる有料の特急「華厳」「鬼怒」の運行を開始する。当初は戦前の特急車を整備して使用したが、1951年に5700系、さらに1956年には「デラックスロマンスカー」1700系を導入して関東一の特急王国となっていった。

2021.12 100系「スペーシア」:楡木〜東武金崎間
特急車
 デハ10形・トク500形
 デハ10系は、戦前の東武を代表する特急車で、クロスシートにシャンデリア照明、売店つきという豪華車両だった。また、トク500形は1両のみの展望車。いずれも戦後、再整備されて特急運用に就いている。トク500形は早期に消滅、デハ10系も5000系などに更新されて消滅した。
形式 改番後 両数  登場  消滅  備考
デハ10-12形 モハ5440-5446
クハ400-405
16 1935-40 1973.12
デハ1201形 モハ5450-5456
クハ410-414
13 1943-45 1973.12
トク500形 トク500 1 1929 1957.3
 5700系
 戦後間もない時期に登場した、日光線向けの特急車。A・B・Cの3種類の編成があり、A編成は非貫通湘南型、B・C編成は貫通型で、うちC編成は直角カルダン駆動が採用されていた。A編成も1960年には貫通型に改造されている。1991年に運用を離脱、6両はその後しばらく休車扱いだったが、1994年に廃車となった。A編成2両が東武博物館で保存されており、このうちモハ5701は「猫ひげ」と呼ばれた非貫通の姿に復元されている。
    
2015.11 モハ5701:東武博物館 モハ5703:東武博物館
2019.5 クハ703:行田市内
形式 番号 両数  登場  消滅  備考
モハ5700形
クハ700形
5700-5701
700-701
4 1951.9 1994.3 A編成
モハ5710形
クハ710形
5710-5711
710-711
4 1951.9-53.4 1994.3 B編成
モハ5720形
クハ720形
5720-5721
720-721
4 1953.4 1991.10 C編成
 1700系
 5700系に継ぐ日光線向け特急車。外観は貫通型であまり特徴がないが、座席はリクライニングシートで、ビュフェカウンターや売店も設置された。車体は全鋼製で、全長18700mm。東武で初めて平行カルダン駆動が本格採用され、制御は電動カム軸式(MMC)、制動は電磁直通(HSC-D)である。1971〜72年に1720系と同じ車体を新造して、姿を大きく変えている。

 1956.4.1  日光線特急にて営業運転開始
 1959-60  冷房化改造
 1969    B特急となる
 1971.12.12 更新前のさよなら運転
 1971.11-72.3 1720系と同じ車体に更新
 1991     運用終了
1700系 左:登場時、右:前照灯増設後
 形式 番号 両数  登場  消滅  備考
モハ1700形 1701-1708
1711-1714
12 1956.3-57.9 1992.7
 1720系
 一等車なみの座席、ビュッフェ、サロンルームなどを備えた豪華編成として開発されたもので、愛称は「デラックスロマンスカー」。車体は全鋼製の20m級。駆動は中空軸平行カルダン、制御は電動カム軸式(MMC)、制動は電磁直通(HSC-D)である。40年近く活躍し、東武の顔となった。先頭車は東武博物館と岩槻城址公園に、また中間車2両はわたらせ渓谷鉄道神戸駅でレストランとして保存されている。

 1960.10.9 日光線特急にて営業運転開始
 1991.8.31 定期運用終了
 1991.9.8 最後の営業運転
 
1987.8 鬼怒川公園駅
    
2015.11 モハ1721:東武博物館 2019.7 モハ1726:岩槻城址公園
 形式 番号 両数  登場  消滅  備考
モハ1720形 1721-26、31-36、41-46
 、51-56、61-66、71-76
 、81-86
42 1960.9-73.7 1998.1
 1800系(1800型、300・350型)
 伊勢崎線の有料急行「りょうもう」向けに開発されたもの。車体は全鋼製の20m級で、座席は回転クロスシート。駆動は中空軸平行カルダン、制御は8000系で実績のあるバーニア(VMC)、制動は電磁直通(HSC)である。当初は4両編成6本で、増備により最終的には6両編成9本となっている。
 200系登場後は優等運用を終え、2本が日光線の6両編成の急行「きりふり」「ゆのさと」向け300型、2本が4両編成の特急「しもつけ」向け350型、また3本が1800型のまま通勤車に改造されている。1819Fのみはほぼ原形のまま臨時列車等に使用されていたが、2018年5月にさよなら運転をおこなって引退している。

 1969.9.20 急行「りょうもう」にて営業運転開始
 1991.7.21 300・350型が急行「きりふり」「しもつけ」等にて営業運転開始
 1998.3.31 1800系の急行「りょうもう」運用終了
 2001.4   4両編成の通勤車に改造(1811、12、15F)
 2006.3.18 「きりふり」「しもつけ」が特急となる
 2006.7.3  1800系通勤車の運用終了
 2017.4.20 300型の運用終了
 2018.5.20 1819Fの最後の営業運転
 2022.3.6  350型の定期運用終了
    
2018.4 1800系:鐘ヶ淵駅 2018.6 350型:下今市駅
 形式 番号 両数  登場  消滅  備考
クハ1810、1840形
モハ1820、1830
 、1850、1860形
1811-1819F 54 1969.8-79.3 2018.7
クハ300形
モハ300形
301-302F 12 1991.3-92.8 2017.10 1818・17F改造
クハ350形
モハ350形
351-353F 12 1991.6 1823・26F改造
 100系
 日光線特急の1700・1720系を置き換えるために登場したもので、愛称は「スペーシア」。6両編成9本が製造された。車体はアルミニウム合金の20m級。座席は回転リクライニングシートで、サービスカウンターやビュッフェも設置された。駆動はTDカルダン、制御はVVVFインバータ(GTO素子)、制動は電気指令式(HRDA-2)である。
 当初はオレンジ帯で統一されていたが、2011年から始まったリニューアル後は「雅」「粋」「サニーコーラルオレンジ」の3色に分かれた。さらに2015年には日光東照宮400年式年大祭に合わせて、2本が「日光詣」カラーに変更されている。

 1990.6.1 特急「スペーシア」にて営業運転開始
 2011.12-12.9 リニューアル工事(雅・粋・サニーコーラルオレンジとなる)
 2015.4.18  「日光詣」特別塗装車登場
 
2021.10 「登場時」(リバイバル):板倉東洋大前〜柳生間
 
2016.12 「粋」:大袋駅 2021.12 「雅」:楡木〜東武金崎間
   
2018.5 「日光詣」:新白岡駅  2019.8 サニーコーラルオレンジ
:下今市〜明神間
 形式 番号 両数  登場  消滅  備考
モハ100形 101-109F 54 1990.3-91.7
 200系(200型・250型)
 伊勢崎線急行の1800系を置き換えるために登場したもの。車体は全鋼製の20m級。200型は1700・1720系の機器を流用した改造名義で、東武唯一の界磁添加励磁制御。駆動は中空軸平行カルダン、制動は電磁直通(HSC-DR)。250型は完全な新造で、駆動はTDカルダン、制御はVVVFインバータ(IGBT素子)、制動は電気指令式(HRDA-2)となった。200系の登場により、「りょうもう」は特急に格上げされた。

 1991.2.1 急行「りょうもう」にて営業運転開始
 1999.3  特急「りょうもう」となる
   
2017.5 200系:谷塚駅 2018.4 250系:鐘ヶ淵駅 
 形式 番号 両数  登場  消滅  備考
モハ200形 201-209F 54 1990.11-98.1
モハ250形 251F 6 1998.2
 500系
 3両編成を基本とし、柔軟な特急運用を目的として開発されたもので、愛称は「リバティ」。車体はアルミニウム合金で、川崎重工業のefACE。駆動はTDカルダン、制御はVVVFインバータ(IGBT素子)で、車両情報制御装置T-TICSが導入されている。

 2017.4.21 特急「リバティ」にて営業運転開始
2017.5 谷塚駅
 形式 番号 両数  登場  消滅  備考
モハ500形
サハ500形
501-516F 51 2016.12-22.1
SL「大樹」
 C11形
 東武鉄道では51年ぶりとなるSLを運行するため、JR北海道で2014年に運用を終了していたC11-207を借り受けたもの。東武博物館が保有という形をとっている。SL「大樹」として、鬼怒川線で2017年8月に営業を開始している。2020年12月からは、元真岡鐵道のC11-325も運用を開始した。
 
2018.6 下今市駅  2018.6 下今市駅
 DE10形
 SL「大樹」の後補機として、JR東日本から譲り受けたもの。東武としては初めてのディーゼル機関車である。
2018.6 下今市駅
 形式 番号 両数  登場  消滅  備考
DE10形 1099 2 2017.5 JR東日本より
 14系
 SL「大樹」の客車で、JR四国から譲り受けた。通常はSLとDLに挟まれているため、後部が見られるのは入換の時だけである。
2018.6 下今市駅
 形式 番号 両数  登場  消滅  備考
14系 オハ14-1
スハフ14-1・5
オハフ15-1
5 2017.5 JR四国より
オハ14-505 2019.2 JR北海道より
形式別車両数
種類 形式 1940 1954 1964 1972 1981 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015 2020
EC デハ10形 16 27 25 23
トク500形 1 1
5700系 12 12 12 12 12 12
1700系 12 12 12 12 12
1720系 18 36 42 42 42 18
1800系 24 48 48 54 30 30 18 6 6
300・350型 24 24 24 24 24 12
100系 12 54 54 54 54 54 54
  200系 36 60 60 60 60 60
  500系 24
SL C11形 1
DL DE10形 1
PC 14系 5

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