Adagio
Sanctus Ignis


2001年5月発売のフランス出身のAdagioのファーストです。
私の好きなジャンルのど真ん中を突き進むサウンドです。
ネオクラシカルなヘヴィ・メタルをやっているんですが、これがよくあるヘヴィーさとスピードを基調とするバンドじゃないんです。
どちらかというと、クラシックを基調としていると言えばいいのか。。
強いて似ているバンドを探すと、シンフォニーXです。

プログレと呼ぶには、あまりにもサウンドが濃厚で密です。大仰でドラマティックと同時に格調高いです。
そして、それらのクラシックにスピードチューンが完璧にはまっています。
たとえると、
タイム・リクイエムのサウンドに、インギーのギターソロが乗った感じです。
または、インギーの楽曲の中でも、クラシカルフレーバーの強い曲をさらに荘厳にプログレ的にしたというか。。
疾走感あるネオクラ路線で行ったかと思うと、曲間でバッハを思わせる力を抜いたメロディが流れ、そのヴァラエティ豊かな曲作りやセンスに舌を巻いてしまいます。

中心メンバーは、ギタリストの
ステファン・フォルテ
彼はフランス南部のモンペリエの出身で、音楽好きの家庭に育ち、13歳の時にイングウェイ・マルムスティーンを聴いて、大きな衝撃を受けたそうです。その後『CMCN』という音楽学校で理論と実践を身につけた筋金入りです。
それまでのプロとしてのキャリアはなく、これが正真正銘デビュー作です。
いわば新人さんなんですが、こんなにスケールの大きいアルバムを製作してしまうのは信じられません。

参加メンバー
デヴィッド・リードマン(vo) (PINK CREAM69)
フランク・ハーマニー(b)
ダーク・ブルイネンバーグ(dr) (ELEGY)
リチャード・アンダーソン(key) (MAJESTIC、TIME REQUIEM)

ヴォーカルは、とにかくうまいです!!
感情豊かに高らかに歌い上げます。
ドラムスもベースもものすごくうまいのですが、特筆すべきなのがリチャード・アンダーソン!
彼の超絶スピードプレイは、ここでも光っています。タイム・リクイエムで聴けるのと同じ音色のキーボードソロにはにやっとしてしまいます。あまりにもリチャードリチャードしていて。(^^)
ただ、メロディは、作曲者がステファンなので、よりクラシカルでオリジナリティがあります。
セカンドでは、リチャードが脱退してますが、理由ははっきりわかります。だって、リチャードよりもステファンが目立っているんだも〜〜ん。だから、タイム・リクイエムでは、反動でリチャードのキーボードを前面に押し出しているのね!(^^)


そして、それらの超絶ミュージシャンを率いるのが、当時24歳のステファン・フォルテ!!
彼のサウンドは独自でおもしろいです。たとえば、6曲目のインストナンバー「Order Of Enlil」では、教会の鐘の音や男性の低音のコーラスを従えて、オリエンタルなフレーズのギターが縦横無尽に飛び回ります。
メロディアスなパートと、これでもかと早弾きのパートが自然に繋がり、まったく飽きることがありません。早弾きが続くとテクニカルだけどどこか冷たいロックになりがちなのが、荘厳なキーボードに包まれて、作品を宗高に雄大に高めており、同時に人間の手によるぬくもりまでもが与えているかのようです。
テクニカルなのに、温かみがある。この共存は感動的です。

ステファンがインギーを敬愛しているのが、ギターソロを聴いてよくわかります。
8曲目の「Panem et Circences」の2:46〜のギターソロは、まるっきりインギーです。インギーのクラシカルでスローなギターをさらに時代がかった方向へ持っていった感じ。
でも、それをインギーのまねで終わらせずに、彼なりの解釈でステファン流に料理しているのが素晴らしいです。

彼のアレンジ能力の高さがよくわかるのが、9曲目の「移民の歌」
ご存知、ZEPPELINの代表曲です。歌がないせいもあって、原曲をとどめていません。キーも下がっているし。
原曲でロバート・プラントが出だしでシャウトしますが、それをアクセントに効果的に用い、移民の歌らしくしてますが、中身は半分クラシックです。そして、15%初期レインボー。(^^) ZEPがいいとこ10%のインギー15%ってとこかな。
弾けるようなZEPのノリの良さが、すっかり中世的なハーモニックマイナースケールになってオリエンティックなフレーズも飛び出し、重厚で沈み込む荘厳な世界を創り上げています。
私には心地いいんですが、ZEPファンが聴いたらがっくしするだろうなぁ〜。^^;

アルバムが始まった時から、ラプソディばりの宗高な導入で、「これは普通と違う!」と口に出してしまいます。
1曲目の「セカンド・サイト」は、その中でもとっつきやすくて、デビッド・リードマンのハイトーンヴォイスが突き抜けています。ステファンのギターの音色や展開も美しく、全て申し分ない曲です。
この曲が気に入れば、最後まで「Sanctus Ignis」を一気に聴き進めていけるでしょう!!

2曲目の「The Inner Road」は、ヴォーカルが一瞬シンフォニーXのラッセル・アレンかと思ったわ。デヴィッド・リードマンはラッセルの歌い方を意識してるかのようです。

このアルバムのベスト・チューンは3曲目の「In Nomine・・・(名において)」でしょう。オーボエ風な儚げなバロック調イントロに続いて、攻撃的なギターが割り入り、曲は急展開!!
スピードチューンでありながら、メロディがしっかりしており、ネオクラシカルな音階に琴線が触れっぱなしです。
途中高速ギターソロと高速キーボードソロが交互に入り、変化をつけて、作品の完成度を高めています。


ボーナストラックとして、日本向けに「Nozama」と「The Stringless Violin(1999デモ・ヴァージョン)」がついてます。
Nozamaはもろバロック音楽っぽいです。
The Stringless Violinは、4曲目にも収録されてます。7分の大曲ですが、デモバージョンは5分15秒。
ギターソロやキーボードソロの長さが全然違います。
ヴォーカルがないことを引いても、ピアノの導入や変リズム調のリフ・曲調の変化にに、よく練られた形跡が窺えます。このような
アレンジの妙がアダージョの魅力だと強く思います。本編5:31〜のギターソロのドラマティックさは尋常ではありません。
もちろん、しっかりした演奏技術に裏打ちされてこその楽曲です。テクニカルさに驚く以上に楽曲の素晴らしさに驚嘆です。
ちょっと大仰で重苦しい音楽でもかまわない人は、一度聴いてみることをオススメいたします。

まったくノーマークのアダージョでしたが、こんなにレベルが高いとは。
明日発売のセカンドがとっても待ち遠しいです。

2003.7.21