Flower Kings

 Adam&Eve



2004年7月21日(水)に、スウェーデンのFlower Kings待望の9作目(スタジオ盤)の「Adam&Eve」がリリースされた。
前作「Unfold The Future」から2年ぶりの作品である。
全体的に暗くて重め、おまけにジャズがかってた前作から、いったい彼らに何が起こったのか、一転RockがかってさらにPOPな創りになり、ため息が漏れるほど素晴らしい!!

Adam&Eveは、全10曲。そのうち2曲が20分近くの大曲となっている。
オープニングのLove SupremeとDrivers Seatである。
長い曲でありながら、大きな展開と細かい展開が、計算されて散りばめてあって、まったく飽きさせない。このことだけでも、Flower Kingsの力量の高さを物語っていると思う。

聴けば聴くほど素晴らしい。
躍動するような曲も、胸がかきむしられるようなフレーズも健在である。
彼らは、さらっと聴くと、こむずかしいことをやっている感じはしない。
彼らの類稀なPOPセンスと、耳なじみのいいコーラスワークがそうさせるのだ。
“心地良い”のひとことで片付けることもできるのだが、ちょっとだけ深く聴いてみると、ソルタンの広がりを持ったドラミング、ヨナスのリズムを刻むだけに留まらないメロディアスなベースライン、トマスの軽快さと重厚さを持ち合わせた、それぞれの曲に表情をつけるキーボード、それらのひとつひとつが複雑で、各パート別に聴くのに充分耐えられる。よく練られている。

そして、ロイネ・ストルトのギターだっ!!!!
ああ、なんて素晴らしい。
縦横無尽に駆け巡る。それも、ストレートに弾く箇所があったとしても、音の最後に指を弦の上でスライドさせるのか、必ず弾き放しにしない。うねりのようなものさえ感じる。
チョーキングを相変わらず多用していて、音のつなぎが実に流麗で美しい。今回も洒落たひねりがあって、思いっきり酔わせてくれる。
ギターフレーズはそれこそ多彩で、ロイネ節炸裂!!
泣きもあるし、ヘヴィネスもあるし、フュージョンちっくもあるし、前衛的要素もある。さらに今回は特別にうっとりするようなフレーズが用意されている。
それらを惜しげもなくたっぷりと披露してくれるのだ。
私はロイネのギターはとっても好きで、ロイネが弾きそうなギターフレーズを予測しながら聴いているのだが、その予測がことごとく外れてしまう。それも、想像を遥かに越える良い方法に外れるのだ。
今までに、既にいろんなフレーズを弾いてきたのだが、これだけじゃまだ足りないと言うのか??
しかし、アコギになると、素直に情感や哀愁を込めて淡々と弾く。
このメリハリがたまらない!!今回もロイネの魔力のとりこになってしまいそうだ。

この演奏に、ダニエル、ハッセ、ロイネの3人によるボーカルがからむ。
コーラスも一段と強化されている。
それぞれのボーカリストに微妙な違いがあって、その歌い分けが楽しい。

こんな、個別パートが素晴らしいので、それらの組み合わせとして全体的に聴いてみると、もう「絶品」!(陳腐な表現しか見当たらないのが情けない〜。)
それぞれがそれぞれを邪魔しない。完璧なコンビネーション。音が凝縮されているのにも係わらず、最初に書いたように“耳なじみ”がいいのだ。聴きやすくて心地良い。
具体的に言うと、Drivers Seatに、3身一体どころか5身一体となった演奏が聴かれる。どのパートも、軽くこなしてはいるけれど、リズミカルで高度な演奏だ。けれど、最終的にボーカルのメロディを拾ってしまうので、とってもわかりやすくて心地良い。
これは、高度な次元で高度なセンスと演奏を融合させたからなのだろう。
このさりげなさもFlower Kingsの実力なのだっ!!!


ところで、タイトルの「Adam&Eve」には、どんな意味が込められているのだろう??
自分なりに考えてみた。
Adam&Eveは人類創生、人類の始まりであることから、フラキンの原点回帰。
デビューの頃のような、意欲と自信に満ちているのではないだろうか?
作風も、初期に戻って、シンプルさもヘヴィネスも取り入れてあるかのようだ。
Flower King(花神)が作り給うた、AdamとEve。
その対比は、男と女の他に、粗野と上品、ヘヴィネスと繊細さ、原初的と未来的等、ありとあらゆる要素を封じ込めてあるといった意味合いがあるのだろう。
そういったメッセージを、どうも私たちに発信しているように思えてならない。


各曲の感想

1 Love Supreme 詩に“Dream it up, Dream it up”とあるそのままに、夢見心地になれる曲。
さらに詩を読むと、“unfold”と“future”が離れて配置されている。Dream Theaterのように前作からの流れはあるのか?(前作は聴き込んでいないので、誰か助けて。。^^;)

ボーカリストのハッセは、表情が豊かでとにかくうまい。ソルタンのドラムスはマイク・ポートノイのように、プログレバンドとは思えないくらいにダイナミックでパワフルだ。
コーラスワークが分厚くて、フラキンサウンドに温かさを与えている。
20分弱の大作だが、ロイネのジャジーあり、ブルースあり、フュージョンあり、もちろんハード・ロックありのギターが飽きさせない。スライドギターを効果的に使っている。そして全体ではカラフルなプログレになっている。
こんなにいろんなことをやっていても、ひとつの形にまとめられるのは、フラキンくらいのものだろう。実に安定感がある。
エンディングの、きらびやかで余韻があり、しかもほっとした感じがいかにもフラキンである。大曲の大団円にふさわしい。
2 Cosmic Circus 懐かしさを含んだ曲。特にサビの♪Cosmic Circus Now〜 Ha〜〜 の余韻があるのが最高に素敵。胸を掻きむしられるようにせつなくなる。
古き良き時代の感触がある。Styxの「Pieces Of Eight」にあるトミー・ショウ作“Sing For The Day”のような。。Cosmic Circusはそれをよりプログレ風に進化させている。ヴァイオリンがさりげなく使われている部分がいい。
3 Babylon 短いインストナンバー。
けれどここでのロイネは、自由奔放、リラックスしてギターを奏でている。
トマスのキャメル風のキーボード&泣きのギターで、至上の美しさ!!コンパクトにまとめられている。
4 A Vampires View 暗い沈みこむようなインストから始まって、甘く危険なダニエルの囁き。感情たっぷりに表現している。
鐘の音やオーケストレーションによって、中世時代に迷い込んだような錯覚を与える。

格調高いピアノと、突然掻き鳴らすギターは、聴く者をどこへ連れて行ってくれるのか予測をつけさせないだろう。
効果音を入れて臨場感を出す箇所で、FlowerPowerを思い出した。
5 Days Gone By A Vampires Viewから続くピアノだけによる作品。
エピローグのように、儚げに優しく、疲れを癒すように静かに奏でているが、不安感、絶望感は拭いきれないといった印象を持つ。
幽艶である。
6 Adam&Eve 反論されるのを承知で書くと、最初の部分はコード進行にクリムゾンの“レッド”を感じた。単に不協和音が似てるってことだが。。あとインプロを取り入れたところも似ている。
曲はヘヴィーである。ロイネはここで低音を生かしたリフを弾く。
うねりのあるリズムは、原始太古のようなパワーを生み出す。
曲調はさまざま、静と動が当たり前のように使われている。構築してきた様式美を壊すかのように、ここでは暴力的、攻撃的、前衛的、自虐的である。
美しいフレーズも弾くが、長くは続かない。何よりも、最初に書いたようにインプロの自由気ままさがあり、いい意味でごった煮的である。
7 Starlight Man Adam&Eveの中では比較的仕掛けの少ない作りとなっている。
その前の曲がやたらと凝縮されていたので、こういうPOPセンスのある力を抜いたシンプルな曲もいいね。
ウェストコーストの風に吹かれているような気分だ。
8 Timelines ギターとキーボードの華やかな洪水から一転、ロイネのアコギによる、これまたシンプルな曲。
哀愁さえ漂うメロディには、ロイネの声がよく似合う。
1:55からのサビは、1曲目のLove Supremeの13分後半くらいのサビとよく似ている。ちょっとゴスペルがかっていて、ピンク・フロイドの『狂気』のようだ。もしかしたら、この2曲は裏表一体となっているのかも知れない。
詩も、Love Supremeは、これから起こり得る未来への期待や希望があるが、Timelinesには人生へは過剰期待しないとか、あきらめ感があって、反対の内容が記されている。

曲は、私がフラキンの好きなところ。。。静と動の対比、メロディ展開の多さ、エレクトリック・ギターとアコースティック・ギターの両方を使って、これでもかとギターの音色の美しさを味わい尽くさせてくれるところ、変リズムの多用、叙情性などを、この曲1曲で表現してしまった感がある。
地味かもしれないが、大好きな曲になった。
9 Drivers Seat イントロの広がり感が、彼らの“やる気”と“本気”を感じさせる。
曲はコンパクトでなく、同じメロディの反復がある。かといってダラダラしているのでなく、聴き易さを求めているものと思われる。ロイネのギターならずっとやってほしい。
途中で切れるので、前半部分と後半部分があるようだ。
前半は歌メロ主体。POPな部分とシンプルなRock部分も顔を出し、幸せな気分になれる。
後半初めの方では、まるでLED ZEPPELINのようなメロディのあるリフが聴ける。ホントにロイネは何でもやってしまう。

アルバム全体を通して、中身凝縮な曲があれば、それほどでもない曲もある。Drivers Seatは後者のタイプだ。その分ゆったりと腰を据えて聴くことができる。
な、なんと17分35秒あたりで、ルネッサンスさえ感じてしまった。わずか10秒くらいだが、コーラスとヨナス・ラインゴールドのベースが“オーシャン・ジプシー”を思わせる。フラキンを聴いてルネを感じたのは初めてだ。
10 The Blade Of Cain 直訳すれば、アダムとイヴの長男である「『カイン』の剣」ってことになる。
神に愛されたくても愛されず、その神が愛した弟のアベルを殺したカイン。凶器がBladeだったのか?
兄弟殺しの罪で楽園を追放され、異国の地で子孫を増やし続けた。そういった背景の、生きていくことの無常さを訴えているかのような哀愁たっぷりのギターが美しい。
しかし、人間はどんなに絶望感と挫折感があろうとも、したたかに生き抜くことができるとも捉えられる。

曲は、5曲目のDays Gone Byがピアノによる癒しだったのと良い対比をなし、ギターでゆったりとあらゆるものを覆いつくしているようだ。すべてを受け入れてくれる容量の大きさがある。
ロイネのギターは派手さを抑え目にして、ひたすら心地良さを追求しているようだ。よく泣いている。
最後に「♪Love Supreme」と歌っているのが聴き取れる。1曲目に戻ってしまうのか?人々は綿々と同じことを繰り返すと、一種のアイロニーや自戒の念を込めて表現しているのだろうか?
詩がブックレットに書かれていないのが残念である。


全体的には、穏やかでメロディアスなEveパートと、攻撃的で緊迫感のあるAdamパートがあるように感じる。
Eveパート・・・・1、2、3、7
Adamパート・・・・・4、5、6、8
両方のミックス・・・・・9、10
それらの、どちらも良い

これまでのアルバムの中でも、バラエティの豊かさは1,2位を争うだろう。
聴き易さと複雑さの両方をクリアした、ナイスなアルバムである。