Water From The Well (DVD)
The Cheiftains


私はトラッドについては疎い。それがイギリスのでもアイルランドのでも。
アイリッシュサウンドというと、エンヤが思い浮かぶ程度だ。(その後ルナサを教えてもらったが)
ましてやチーフタンズは、鉄の目さんのレビューによって名前がかろうじて心に引っ掛かる程度で、何ひとつ知らなかった。

そんな私がチーフタンズのDVDを手に取ったのは、DVDに『アイルランドの伝統音楽を取り上げながら、美しい自然・歴史的な映像が見られる、アイルランドの魅力満載、入門編』と書かれていたからだ。
よぉ〜し、これで一気にアイリッシュを覚えちゃうぞぉ〜〜!!

これには、チーフタンズのメンバーがいろんな人とのコラボレイト作品が収録されている。
フィドルやUilleann Pipes、フルート、ピアノ、Bodhranなどの楽器が、テンポが速く切れ目のないメロディで、踊るように奏でられていく。そのアンサンブルに一糸乱れたところがなく、ただただ見事だ。
それらのどれもが楽くてたまらないといった表情で演奏される。
音楽をやる喜び、みんなでひとつの曲を演奏する楽しさが溢れている。
ヴァン・モリソン、ロス・ロボス(ラ・バンバよねぇ〜)、ルナサのショーン・スミスの妹のコーラ・スミス(美人だぁ〜)など、実にさまざまな人達と共演しているが、それらの人達の個性を殺すことなく、柔軟に取り入れて生き生きと演奏しているのが素晴らしい。

曲間にメンバーひとりひとりのインタビューが織り込まれる。
曲の素晴らしさもさることながら、1番感銘を受けたのがこのインタビュー場面だ。
いろんな言葉に感動した。結成が1962年という、40年間もやってきたグループだからこそ言える言葉である。

@音楽を通して人々を幸せにしたい。音楽が各国を結ぶ掛け橋となれば、世界は違った情勢になるのではないか。
Aいろんな人達と競演したあと、アイルランドの各地を回って関連した人達を訪ねていった。基本に戻るためだ。さまざまな音楽を取り入れると、我々も観衆も今までどういった音楽をやっていたか忘れてしまうので、それを思い出して良かったと思う。
Bメンバーは常に向上心を持っている。それぞれが別々の音楽を吸収してくるので、他のグループなら対立するだろうが、我々は各自の個性を尊重し、受け入れているのでまとまりがある。バンドリーダーであるPaddy Moloneyの決定に従う。
Cいつになっても、うまくなりたいという気持ちがあり、レッスンを受けている。あと20年(80歳?)は音楽を続けたい。

う〜〜ん、私が文字にしてしまうと陳腐だわぁ〜。
私はこれらの言葉にいちいち頷いて涙を流したのだ。
特にB!自分のバレーチームの中での立場に置き換えると、みんなが高い向上心を持ち続け、ひとりの落伍者もなく40年間もグループを継続させるのは並大抵ではないと思う。
それぞれがそれぞれの実力を認め、自分にはない音楽性に敬意を表し、全体として融合させてしまう。。。なんて柔軟なんでしょう!

その他にも、アイルランドの手付かずの平原や川、断崖絶壁などの大自然、美しい街並みが随所に現れ、心が洗われる気がした。人と自然がごく普通に共存している国。。。こんな国だからことできる音楽なのだ!
抜けるような青空、草木の囁きが聞こえるような大草原に木霊する、Moloneyのティン・ホイッスルの響き−小細工なしのそれだけの可憐な音色に魂が揺すぶられた。シンプルでいて心の奥に迫ってくるどこまでも混じりけのない音が、トラッドの原点のような気がした。
さらにメンバーの生い立ちや、自然に気軽に音楽を楽しむ人と交流することがまたさりげないのだけれど感動的だった。各地で音楽を愛する人達との交流を大切にするというメンバー達にとって、いろんな人とのコラボレートは自然なことなのだ。

チーフタンズのDVD“Water From The Well”は、40年という経験に裏打ちされた揺らぐことのない自信と余裕が伝わる、初心者にも優しい素晴らしい作品である。