Six Degrees Of Inner Turbulence
Dream Theater


ドリームシアター5作目のSix Degree Of Innner Turulenceは2枚組である。
前作のMetropolis PT.2: Senes From A Memoryから2年3ヶ月ぶりのオリジナルアルバムである。

1枚目はクールでハードでスピーディーで無機質な音楽をやっている。
しょっぱなからやってくれた。始めに流れてくるノイズは明らかに前作のラストからの延長だろう。
1曲目のGlass Prisonは、1枚目の象徴的な曲で、とにかくスピーディーで重く、密度が濃くて半分を聴いただけでおなかいっぱいになる。ここまでガンガンにやらなくてもいいと思うが、これは彼らの攻撃的で前向きな姿勢を表しているのだ。ここまで音を積み重ねてヘヴィーなドリシアをやっていることは、大いに評価できる。
最初のうちは、アウェイクのようにヘヴィーなアルバムになってしまうのかと心配したが、今となったらGlass Prisonは不可欠だ。ヘヴィーで濃厚で音が凝縮していながらもメロディがしっかりとあり、部分部分ではっとするフレーズの美しさを表現しているのは、唯一この曲だけである。
スピード感があって、ギターのリフが聴く者を圧倒している。
なお、Glass Prisonとは、文字通りガラスの監獄という意味で、抑圧、脅迫観念の溢れる自分を取り囲む環境をGlass Prisonという言葉で表している。

2曲目のBlind Faithは、流れるような曲調で、今までの流れを汲む曲だと思う。
この曲もいいとは思うのだが、1曲目と3曲目に挟まれて影が薄くなっている。

3曲目のMisunderstoodは、新しいドリシアを表現している。
ペトルーシのアコギのようなやさしくゆったりしたギターのイントロがとにかくいい!!このメロディが懐かしいような感情になり、やけに心に深く染み渡ってくるのだ。
そこにからむジェームズ・ラブリエの哀愁も込めた静かな歌声。暗めだが地味ではなく、胸を掻きたててくるような不安感とやさしさの奇妙な一体化。
それが曲を追うごとにドラマティックに盛り上がっていき、ギターの同じリフを繰り返しボーカルはクライマックスを迎える。不協和音や予定不調和を加えながら、リズムもものすごく変化し、音を回し、これでもかというほどのテクニカルさでこれまた圧倒される。1曲の中で、感動したり、酔いしれたり、不安になったり、頷いたりと、たまらなく忙しくてカッコいい曲だ。


このように、メタル的な部分が目立った1枚目だが、2枚目のタイトルナンバーである『Six Degrees Of Inner Turbulence』は組曲仕立てで、プログレ的な曲作りになっている。最初聴いた時は、スティクスのパラダイスシアターを思い出した。
こちらは、6つの精神を病んでいる人々のそれぞれの苦悩を表現している。

私はこの2枚目の方が断然好きである。
それぞれの曲は独立しているが、曲のいたるところで各曲を取り入れ、全体的なまとまり感を演出している。
それらの総括が始めに演奏されるOvertureである。これから始まるAbout To Crash
以下の曲の印象的なフレーズを自然な流れの中で違和感なく取り入れている。これだけがインストゥルメンタルで、導入部分として重要な役目を果たしている。
1枚目から続けて聴くと、そのシンフォニックな音色に居心地の良さと安らぎを感じる。


それぞれの曲解説は長くなるからやめにして、全体的な印象を書いてみたい。
この曲の素晴らしさは、ジョーダン・ルーデスのオーケストラアレンジによるのだろう。
私は彼のキーボードはすごく好きだ。テクニカルで確かな演奏。そしてうねりがあって、細部に凝ったアレンジ。しゃれたセンスは私の好みなのだ。時折混ざっているピアノのソロにはうっとりする。
それからペトルーシのギターだ。About To CrashやGoodnight kissにあるようなメロディアスで繊細で穏やかなギターは、今までのテクニカル重視であったギターとは明らかに違う。人の手によるぬくもりというのか、打ち込みだけでは決して出すことのできない情緒的で感動的な音の連続は、聴く者の五感を刺激し続ける。
ジェームズのボーカルは、時にやさしく、時にせつなく、時に激しくそれぞれの曲を引き立てている。歌いわけがきちんとできている。
マイクとマイヤングのリズムは、少しも乱れることなく確実にむずかしい変拍子を刻んでいる。彼らの働きなしではペトルーシもジョーダンも輝かないだろう。

今まで私は彼らをシンフォロック(ハードロック)だと考えていた。けれど、この構成力、演奏を聴くとプログレにジャンル分けされてしまうだろう。
1枚目をハードでスピーディーなリキテン(Liquid Tension Experiment)的とするのなら、2枚目はまぎれもなくTransatlantic的である。ペトルーシらしいハードなギターもあるが、ゆったりで感情を込めたギターはtransatlanticを意識しているのだろうか。Transatlanticに参加したフラワーキングズのRoine Stoltの良い面を、どうも取り入れている気がしてならない。しかしこの技巧よりもメロディは私にとって歓迎することなのだ!
前作から2年3ヶ月という歳月の間に、各自ソロやプロジェクトに参加したことが、ドリーム・シアターという大いなる母体の新たなる根となり葉となっている。それらが6デグとして結実したのだ。

コンセプトアルバムとしては、メトロポリス Part2の方が上だし好きだが、なじみやすさはこちらが上である。
メトロポリス・・で感じた疲れはない。
メトロポリス・・を分解して、メタル的とプログレ的に分けたようなサウンドだと感じた。
前作であれだけの作品を作り上げながらも、進化を遂げてしまったドリーム・シアター。その才能の深さには測り知れないものがある。