神へと至る道



Chapter V  〜邂逅の時〜





それは終わりの始まり。
対峙する者達が放つ一手は、双方が予期し得なかった形で、運命の扉をこじ開けることになる。

それは邂逅。
あるいは、身を焦がすほどに渇望したもの。
あるいは、自身の罪の象徴。
何よりも望んでいたそれは、しかし考えうる限り最悪の形で訪れる。

けれど、舞台の上に立つ者達の中で、訪れるその事態を知る者はいない。
今はまだ、誰も。










「でもこれ、絶対に罠だよね?」
「えぇ。ですが、私達にはこの誘いに乗る以外、打てる手はありません」





「“あの女”だけは僕がやる。これだけは絶対に譲れないからな」
「わかってるさ。僕らも君の望みを邪魔したいわけじゃない。ただ、無理はしないでくれ、というだけだよ」





「でも、わたしだって戦える。あの人を守りたい気持ちは、わたしも同じだよ」
「それでも駄目だ。自分の体のことは、自分が一番知ってるはずだろう? 君が優先すべきは、何よりもまず自分の命を守ることだ」





「うっさんくさいよなぁ、これ。大体、どうして俺達のことを知ってるんだか」
「だけど逆に、それを理解してるからこその内容でしょ? だったら、むしろチャンスと考えるべきじゃないかしら」





「全ては神器を手に入れるための作戦、だろう?」
「違うよ、誰も死なせない為の作戦さ。神器の奪取は二の次だ、少なくとも僕にとってはね」





「とうとう彼らが直接激突する時がきたわけですか。リーダーはどう見ます?」
「さぁ、どうでしょうか。ただ、個人的には、神翼が負けるというのは考え難いですね」





「会いたかったぜ、二人だけってのが気に入らないけどな。まぁ、後のことは後で考えりゃいいか」
「私達は会いたくありませんでしたが……仕方ないんでしょうね」





「あなた、まさか……」
「この時をずっと待ってたぜ。僕がお前よりも上だって、それを証明できるこの時を!」





「残ったのはお前一人か……まぁ都合がいいと言えば都合がいい」
「喜ぶべきなのかな、悲しむべきなのかな……悩む時間くらい、くれたっていいのに」





「あの人の為にも、わたしがここで止めてみせる……っ」
「ここから一歩も進めないのなら、私がやるしかないよ」





「初めまして。まずはお礼を言わないといけないよね、あの子を治してくれて、ありがとう」
「……初めまして、か。いや、きっとそれが正しいんだろうな」










舞台を彩る役者達の想いが集約し、たった一つの結末へと、彼らの物語を導いてゆく。
それが希望となるのか、それとも絶望となるのか。
全ては彼らの意思と行動に委ねられている。
願わくばそれが、誰の心にも優しきものであることを。















Chapter W  〜人に非ざるもの〜





何時でもない時間。
何処でもない場所。
存在しない物。
あり得ない手段。
与えられた生命。










「静か過ぎるな……よくない兆候だ」



「約束は、これで果たしましたよ? しかし、まさか本当に全て揃えるとは、夢にも思っていませんでしたが」



「親父と一緒にすんなよ、どう考えても俺の方が上だろ?」



「私達の選択、正しかったのかな?」



「ま、普通の人からすれば、取るに足らない些細な疑問だよ、きっと」



「規格外、なんて言葉すら陳腐に聞こえますね、ここでは」



「何でもできるが故に、何もできない」



「人は人だ、どれ程の力を得ても、如何なる知恵を得ても、何をしても、変わらず」



「まさしく天上の会話だわ」



「可能性を望むことくらいは、許されたようだ」



「やるしかないだろ? 出し惜しみはなしだ」



「誤るな、そして何より躊躇うな。さもなくば、全てを失うことになる」





世界を垣間見た龍は、運命の楔をその身に打ち込まれる。

やがて来る選択の時を予め知ることは、幸福なのだろうか? それとも不幸なのだろうか。

けれど、既に賽は投げられているのだ。

訪れる瞬間に絶望しないよう、今はただ祈ろう。

崩壊の調べは、もう前奏を終えてしまっているのだから。















Chapter X  〜失ったもの、残ったもの〜





それは侵略なのか。
あるいは進化なのか。
それとも滅びなのか。

悲痛の叫びは空に消え、怨嗟の声は大地に呑まれ、苦渋の色は海に散る。
静かに、染み入るように進行する事態。
人に突きつけられた選択。
抗うもよし、屈するもよし。
人に出来ることなど、どうせ限られているのだから。

始まりは小さな好奇心。
そこに狂気と力が混じり合い、一つの悲劇が訪れた。
そこで上がった産声を聞く者がいれば、全ては変わっていたかもしれない。

世界はただ、あるがままで其処にあった。
人の思惑も、混乱も、悲劇も、喜劇も、一切関係なく。
ただ、其処にあり続けていた。










「無理をした反動でしょう。いつ回復するかもわかりませんし、しばらく大人しくしていないといけませんね」



「何てこと……急がないと手遅れになる!」



「あの人に連絡がつかないのはいつものことだけど、約束を破るってのはおかしいわね」



「キミ、すごくいいよ。うん、決めた。絶対キミをボクの物にする」



「完全に見誤ってましたね。この状況……引っ繰り返せるかどうか」



「正直に言う……俺は、怖い」



「結局、あっちは当てにできないってわけ?」



「今が選択の時……なのか?」



「最優先事項は、目標の完全破壊よ。ここからの行動は、全てその為に実践すること。いいわね?」



「戦いなんて嫌だよ、この力は、皆を守るためのものなんだから。だけど、戦うことでしか救うことができないのなら……躊躇っちゃいけないと思うんだ」



「よう、助太刀に来たぜ」



「そっか、作ればいいんだ」



「成長……している?」



「人は神にはなれない。だけど、悪魔にはなれるのかもしれないわね」



「これで終わり?」



「……化物、か」



「あの子だけは……あの子だけは……」



「望んじゃいけないことなんてないよ。人間なんだもの」



「まだ俺は、何も失ってない。それが気になるんだ」










例えば荒れ狂う暴風雨が去り、雲間から日が差し込んできたとして。
果たしてそれが、何を保障してくれるだろうか。

明けない夜が無いのと同様に、嵐がなくなることもない。
人の世から争いがなくならないことも、また然り。
もし争いから完全に解放される時がくるとすれば、それは……















〜 The time will soon come 〜


















後書き



まずはお詫びの言葉を。

長い間投稿が途絶えておりまして、本当に申し訳ありません。

私生活の都合でなかなか自由な時間が取れず、ここまで何も出来ないままでした。

とはいうものの、未だに多忙は変わらず、執筆にまとまった時間を必要とすることもあり、連載の続きを投稿はできず……

ですので、掲示板などで応援の声を下さる方へのせめてものお礼になれば、と今回のモノを書き上げました。

見ての通り、予告編です。

第三章以降のストーリーについて、断片的に書き連ねてみました。

勘のいい人なら、ここからほとんど読み取れてしまうかもしれませんが……

ともあれ、少しでも溜飲を下げていただければ幸いです。



さて、いつ再開できるのかについては、今もって何とも言えない状況です。

そもそも、ある程度書き進んでからしか投稿できない性質ですので尚更。

気長にお待ち頂ければありがたいところです。

それでは、今回はこの辺で。