母が死んだ。
異種族同士の戦いから人々を護るために。
大陸を護るために。
――――愛しき息子を護るために。
数年が経ち。
その息子も大きく成長し、護りたいと思うようになった。
戦う術を持たぬ人々を。
嘗て、自らの両親がそうしていたように。
そして彼は戦い始めた。
異種族と、人々に害を成す者たちと。
いつしか人々も戦う術を身に付け、共に戦場に立つようになった。
そこで彼らが見たのは、圧倒的な力で敵を屠っていく青年の姿。
その姿を頼もしく思い、また同時に恐怖を覚えた。
――――強い。彼と一緒なら、奴らを追い返せる!!
――――強すぎる。『あれ』が我らに牙を剥いたら……
そして人々は、青年と共に異種族を退けることに成功する。
異種族はそれを恨みに思った、同胞を殺した者達を憎んだ。
再び彼らは現れた。
その標的を人間に変えて。
人々も必死に応戦した。
そこには、あの青年の姿もあった。
人々は勝利する。
幾千もの犠牲を伴って。
気付けば、彼ら人同士が争う世になっていた。
国同士の戦争。
野心という欲望渦巻くこの世界で。
青年は戦い続けた。
人々を護るために人々を殺した。
百の人間を護るために一人の人間を殺した。
幾億の人々を護るために幾千もの人々を殺した。
しかし………
戦争は終わらなかった。
そこへ異種族の襲撃。
かつての結束を失い、自らの欲望しか見えていない人間に敵うはずも無く。
人は、敗北した。
異種族に統治されることとなった大陸、そして人々。
何故、という思いは尽きない。
あの時、皆で向かっていたら、という後悔は尽きることなく。
しかし、その統治もたった数十年で終わりを迎える。
異種族……
――――魔族と敵対する、魔族に対して行われた神族の進攻。
これにより人々は光明を見出した。
直ちに神族の進行に合わせた一斉蜂起を計画。
これにより、人と神族、二つの勢力を相手にすることとなった魔族は、止むを得ず大陸から撤退。
人々は再び大陸を手にすることとなる。
しかし今度は神族との戦争が待ち受けていた。
神族の目的は魔族の撤退と………
――――大陸の確保。
人を対魔族の先兵にしようとしたのだ。
魔族と同じように……
故に、人々は戦った。
自分達を守るために。
そこには、あの結束が蘇っていた。
青年もまた戦っていた。
幾度となく絶望を味わおうとも、戦い続けた。
そして見事に神族に勝利、大陸から退けることに成功する。
此処まではいい。
これだけならまだ、結束を取り戻した人々の美しい戦物語として成立したのかもしれない。
人は愚かだった。
異種族を退けたことで安心しきったこともあるのだろう。
再び人は分裂する。
一部は新たな国の建国さえ始めた。
そしてまた争う。
青年は思う。
人は愚かだと。
それでも、あの日に誓った想いを棄てることなど出来ない。
彼もまた、戦いに身を投じた。
そして繰り返す異種族の襲撃、撃退。
これでは埒が明かないと判断した青年は、今度は戦争そのものを無くそうと考えた。
彼がそう考えたその日から、戦場を駆ける黒き災害の姿は消え去った。
各地を精力的に回った。
村を見つけては人々に自分が知る限りの歴史を教え、子供達には簡単な学問を教えもした。
ただひたすら歩き続けた。
国を訪ね、村を訪ねては知識を広める、そしてまた旅を続ける、そんな日々。
彼にはもう一つの名が付いた。
かつて戦場を駆けていた頃は、止めることのできぬ災害、『天災』と、呼ばれていた。
そして新たについた名。
ただひたすら人々に学問を教える姿は『賢者』、と。
恐れられ、敬われる。そんな相反した二つの姿を持つ青年は、ただ大陸中を歩き続けた。
そしてある時代、異種族との戦いが伝説と呼ばれるようになるほど時が経った頃。
反乱が起きた。
それは帝国に対する不満から。
始まる人と人との殺し合い。
また人々が減ってゆく。
そのことに心を痛めた青年が一人。
物語は、雪降る地へ向かうこの青年から始まる。
「もう少し、ですね?」
「ああ」
その名を相沢祐一といった。
〜それは、ただ己のために〜
あとがき
はじめまして紅い蝶と申します。
この度「Mercenary Room」に投稿させて頂けることになりました。
ちなみにクロスになる予定です。
クロスする作品は kanon ONE AIR 月姫 ケルト神話です。
まだ予定ですので増えるかも。
一部戦記物となります。
なので長くなるかもしれませんが、お付き合い下さい。
拙い文章ですが、読んでいただければ幸いです。